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ZONE-ZERO

ガン種中心二次創作サイト簡易版。アスキラ中心です。

HappyBirthday. (Dイザです)

2007-03-29 21:10:06 | Dイザ
「貴様は明日休みだ」
 イザークの言葉に耳を疑った。
 ここんとこ激務続きでまともな休みを貰った覚えがない。最後に一日休暇を貰ったのは約二ヶ月前。
 軍に労働基準法はない・・・らしい。
 休みだ と思って溜まった洗濯物と格闘していたら携帯がなって、部下から「すぐに来てください」と泣きつかれること・・・数えたくない。
「緊急招集もなしだ。貴様への連絡は一切禁止してある」
「・・・なんで?」
「ついでに言うなら俺も休みにした」
「は!?」
 イザークが休む!? この仕事の鬼が!?
「持ち帰りの仕事もない。俺への連絡はすべてシホにまわすように言っておいた。完全なオフだ」
 手元の書類にサインを入れながら、イザークはなんでもないことのように続ける。
「明後日は激務になるだろうが、そこは覚悟しておけ」
「だから、なんでまた」
 いきなり休みだなんて。
 明日の分は明日やれば、明後日普通に業務ができるじゃないか。
 そう言いかけた俺に、イザークはきつい目をさらに吊り上げて睨んできて、
「貴様は明日誕生日だろうが!!」
「・・・・・・・・あ!?」
 誓って言うが、ボケはきていない。
 最近本当に忙しくて、その日の仕事に追われすぎて、日にち感覚がまったくなかったのだ。
 そういえばさっき見た報告書に、3月28日と書かれていた。
 明日は3月29日。
 俺の誕生日だ。
「そういうわけだ。誕生日くらい、仕事を忘れてもいいだろう」
「で? それにイザークもつきあってくれるんだ?」
 にや として言うと、今度こそ殺意の篭った目を向けられて
「貴様の誕生日に俺がいなかったら話にならんだろう!!!」
 と惚気を絶叫された。
 あーあ、この声、廊下まで筒抜けだろうな。

 プラントの制御システムが正常に作動してくれているおかげで、俺たちは無事3月29日の朝を迎えた。
 ふつうに「おはよう」と声をかけたら、イザークはちょっと躊躇った後に「おはよう」と小声で返してくれた。
 同居している間で朝の挨拶は普通だと思うが、これがまた、同居を始めて半年、イザークが返事をしてくれたのは初めてだったりする。
 どうやら今日は完全に俺にサービスしてくれるらしい。
「卵、目玉焼き? スクランブル?」
「オムレツがいい」
「・・・へーい」
 横柄な態度は変えないわけね。
 顔を洗ってついでに洗濯機のスイッチを入れて、キッチンでオムレツを作る。
 同居を始めて半年。イザークは家事をしたことがない。
 お互い裕福な環境で育ったせいで家事なんてやったことはないだろうと思われがちだが、俺はこれでもきれい好きだ。
 アカデミーにいたころヒステリーを起こしては部屋を散らかすイザークの後始末をさせられていたし、実家にいる間も自分の部屋は自分で掃除していた。
 自分の部屋を掃除していた理由は簡単。自分のテリトリーに家政婦を入れたくなかったからだ。
 しかも実家の俺の部屋は俺の趣味で和室なのに、最初の家政婦は「畳」の扱いを知らず、掃除機なんかかけやがった。
 あれには溜まらず父に直訴してその家政婦を解雇させて、以来新しい家政婦が来ても自分の部屋は自分で掃除することにした。
 畳はホウキで掃除するものだと決まってるだろう。常識だ。
 料理は必要に迫られて覚えた。イザークに作らせると材料がもったいないどころかかわいそうだからだ。・・・材料が。
 プレーンオムレツを皿に移しながら苦い思い出に浸っていたら、イザークがコンロに寄ってきた。
「なに?」
「コーヒーを淹れる」
「紅茶じゃなく?」
「貴様はコーヒーのほうが好きだろう」
 ああ、そういうやさしさね。
 じゃあ、とケトルで湯を沸かすイザークに、一つの筒を渡した。
「なんだ」
「俺、コーヒーより緑茶が好きなんだけど?」
「パンに緑茶か」
「いーじゃん。淹れてくれる?」
 憮然とした顔をして、イザークが茶筒を受け取る。
「大丈夫。最高級玉露なんかじゃなくて、普通のやつだから。普通に淹れてくれればいいよ」
 そう言うとイザークはおとなしく食器棚の隅から急須を取り出した。淹れてくれるらしい。
 ああ、すばらしきかな誕生日。
 イザークがこんなに素直になるなら、毎日誕生日でもいいよ。
 たった80日で寿命がきても、もうそれでもいいよ。平均寿命で言ったらあと60回くらいなんだけど。
「メシ食って洗濯終わったら、散歩行こうぜ」
「散歩?」
 真剣にお茶を淹れるイザークに、ダイニングテーブルに着きながら、提案してみる。
「近所の公園、桜が咲き始めてるんだ」
「早くないか?」
「今年はなんかやたらあったかいからねー」
「気候システムがイカれたか?」
「単に「地球っぽく」ってことだろ?」
 地球でも今年は各地で「暖冬」だったらしい。
 おかげで春がくるのが早く、プラントもそれに合わせたように三月中旬ごろからやたら温かくなりはじめた。
「プラントの気候は北半球に合わせてあるからな。そのせいっしょ」
 セットしていないせいで垂れ下がった前髪をくしゃりとかき上げると、お茶を淹れてきたイザークがぶすっとした顔をして
「・・・ほかには」
 と訊いてきた。
「ちょっと公園でのんびりして、ああそうだ、おまえが観たいって言ってた映画でも行く?」
 チケット取ってないけど、なんとかなるっしょ と言うと、イザークの顔がほころんだ。
「・・・行く」
「ん、じゃ、いただきます」
 ぱん と手を合わせてから食事を始めるのは俺の流儀。
 イザークはそれを見て
「いただく」
 と言って、初めて手を合わせた。
 すばらしきかな誕生日。

 ちなみに。
 夜はイザークが予約を入れていた店に食事にに行った。
 和食屋(居酒屋なんかじゃなくて、懐石)の個室で酒なんか呑んで、ちょっとほろ酔いなイザークが照れくさそうに包みを取り出した。
「受け取れ」
 誕生日プレゼント。
 嬉しくなって丁寧にラッピングを剥がすと、長方形の桐箱が出てきた。
 蓋を開けると、中身は扇子。
「日本舞踊が好きなんだろう?」
 好きっていうか、特技っていうか、趣味っていうか。まぁ、好きで長年続けてたんだけど、最近ご無沙汰だ。
「今度舞って見せろ」
 了解の変わりに笑って見せて、開いてみる。
 白地に桜があしらわれた、大人しいものだった。
「なんかきらきらしてるんだけど?」
「銀糸が織り込まれている」
 ちょっと待って。それ、すげぇ金かかってない?
「いいの? 貰っちゃって」
「貴様がいらんと言うならそれは明日には焼却処分だ」
「ありがたくいただきます」
 恭しく頭を下げて、へへっ と笑ってそれを眺める。
「貴様は見た目が派手だからな。せめて大人しく風流なものをと思ったら、いいタイミングで桜が咲いた」
 慣れない日本酒に口をつけながらイザークが言う。
「俺が春生まれだから桜?」
「ああ」
「で、イザークのものだから銀?」
 調子に乗って訊いたら、かっとイザークの顔が赤く染まった。
 酒のせいじゃない。
 照れてる。
 ああもう、かわいいなぁ。
「ありがと」
「・・・ああ」
 個室ってのを逆手に取ってここで押し倒そうかとも思ったけど、理性をかき集めてやめた。明日怒られるのは嫌だ。
「もう一個、ほしいのあるんだけど」
「なんだ」
「イザーク」
 ぴた。
 止まったのはイザークじゃない。空気。
「帰ったら、イザークくれない?」
 にこにこ笑って言うと、イザークは銚子を置いて立ち上がった。
「帰るぞ」
「・・・は?」
「時間がない。帰るぞ」
 時計を見ると、午後10時過ぎ。
 ここから自宅まで、車を飛ばして15分。
 一時間半くらいかぁ。堪能できるかなぁ。
 そんな心配をしながら、とっとと退散するイザークの後を追った。    
   





Dさま、お誕生日おめでとう!!(忘れかけてました、ごめんなさい)

声が届く距離

2007-03-24 18:31:46 | アスキラ
「おまえ、死ぬぞ」
「ふぇ?」
 アスランの呟きに、眠りに付く寸前だったキラが気の抜けた声を上げた。
 アスランがAAに来て、キラの言うままにアスランとキラは同じ部屋を使うことになった。
 シフトで動いているAAで、数少ないパイロットであるアスランとキラは当然シフトが被っていない。
 アスランが仕事を終えて部屋に戻ると、入れ替わりにキラが仕事に就く。
 一日1時間、一緒に居られればいいほうだ。
 だから、今まで気づかなかった。
 キラが、食事をしていない事実に。

「なに、まだ時間じゃないでしょ・・・?」
「一通り終わったからちょっとだけ戻ってきた。おまえ、死にたいのか?」
「はぁ?」
 アスランの神妙な顔に、キラは思考をめぐらせた。
 最近特に死を覚悟するような瞬間はなかったはずだが。
「フラガさんに言われて気が付いた。おまえ、食べてないだろう」
「・・・ああ」
 キラの表情が一瞬にして消えた。
 触れてほしくなかった話だ。
 アスランは気づいていないみたいだから、ほかの人も気づいていないと思っていたのに。
 フラガの勘のよさを久々に呪った。
「最近おまえが食堂に来なくなったって。いろんな人に訊いたら、最近食堂に来てないって言うじゃないか」
「・・・べつに」
「風邪引いたりしてるわけじゃないんだろう?」
 キラが身体を預けているベッドに、アスランが座る。
 さらりと髪を撫でられて。
「顔色はずっと悪かったけど・・・ほんと、痩せたんじゃないか?」
「ちょっと、食欲なくて」
「いつから」
 射抜くような目が、怖い。
「ちょっと前」
「具体的に」
 叱るような声に諦めて、キラは嘆息した。
「この艦に乗ったときから、あの時まで食べられなくて。あの後ちょっと食べ始めたんだけど、最近また」
 あの時 が指すのは、あの二人の死闘だとわかった。
 あれからそんなに時は経っていない。
 食べていた期間を逆算して、戦争が始まった時期と照らし合わせて、アスランは唖然とした。
「おまえ・・・! ちょ、身体見せろ!」
「うわ! アスランのえっち!」
「冗談言ってる場合か!」
 キラをベッドに押し倒して着ているシャツを捲り上げて、今度こそ言葉を失った。
 痩せすぎた身体。
 浮いた骨。
 筋肉の衰えた腹。
 正常な16歳男子の身体ではない。
「なんで今まで気づかなかったんだ・・・」
 アスランは頭を抱えた。
 身体のラインが出るパイロットスーツを着ていても気づかないくらい、自分に余裕がなかったことに心底腹が立った。
 あれだけ軍で鍛えた精神はどこにいった。
「最近いつ食べた?」
「うー・・・あ、昨日、栄養パック飲んだ」
「その前」
「・・・その、二日前? サンドイッチふたつ」
 そこで訊くのはやめた。
 これ以上は聞くに堪えない。キラも思い出せないだろう。
「こんな身体で・・・。貧血とかは?」
「時々眩暈がする、かな。あとはわりと平気」
 コーディネイターって丈夫だね とキラはなんでもないことのように笑った。
 精神が疲弊してくると、過剰に栄養を摂取するパターンと、その逆がある。
 栄養を過剰摂取するのは、まぁこんな状況だ。多少消費できる。
 だがキラの場合は逆だ。
 それは単純に健康の問題だけではない。
 この場合、生死に関わる。
 もし戦闘時に貧血で気を失いでもしたら?
「ほかに症状は・・・?」
 まさかと思いつつ、訊いてみる。
「ほか?」
「食事のほかに、ひどく落ち込むとか、眠れないとか・・・」
 死にたくなる とか。
「あ、不眠症、ってやつ、かな?」
 最悪のパターンではない。
 だが、最良でもない。
「寝てない? 睡眠時間は?」
「寝つきが悪くて、寝ても細切れ。目が覚めちゃうんだ」
 睡眠不足は集中力低下の要因になる。
 軍でもストレスがかかる戦場での注意事項として習ったことだ。
 「十分な栄養と睡眠が、命を繋ぐなによりの糧だ」と。
「・・・ちょっと待ってろ」
「アスラン?」
「待ってろ!」
 強い語調で言われて、すっかり萎縮したキラはただ一人部屋に残された。

 ストレスのかかる環境での精神的病気の症例は、アカデミーで習った。
 常識的な話が多かったが、「心の弱さが人を殺す」という教官の言葉が気にかかってまじめに話を聞いた。
 イザークやディアッカは馬鹿にしていた話だったが、アスランはその通りだと思ったのだ。
 人の弱さが、この状況を招いたのだと、今でも思う。
 争いなど、殺し合いなど、弱い人間のすることだ。
「すいません、すこし、お借りしてもいいですか?」
 厨房に立っていた男性に声をかけると、気さくに「腹でも減ったか?」と彼は笑った。
「成長期は食べて寝るのが一番だからな。この状況じゃ、『腹が減っては戦はできぬ』のほうだけどな!」
 ずきり と、胸が痛んだ。
 違う。キラに戦いを強いるために食べさせるんじゃない。
 生きるためだ。
 この世界を、生き抜くためだ。
 そう、自分に言い聞かせて、気が付いた。
 キラは心の底で、『戦えない状態になればいい』と思っていたら?

 10分程度で、アスランは部屋に戻ってきた。
「なに、それ?」
「ホットミルク。砂糖多め。胃が弱ってるだろうから、いきなり重いものは無理だろう?」
 差し出されたカップを眺めて、キラは「うーん」と唸る。
「いいから。ほら」
 突き出されたそれを嫌々受け取って、ベッドの上で行儀悪く胡坐をかいた。
 諦めるしかないか。
 アスランは見張るように、ベッドサイドに立ったままだ。
 ふー と息で熱を飛ばして、一口舐める。
 甘い味が口の中に広がる。
「あんまり熱くしてないから。飲んで」
 横から言われて、また一つため息を落としてごくりと飲む。
 猫舌のキラに合わせたように、少し温めのミルク。
「アスランが作った?」
「ああ。仕事してる人の邪魔をするわけにはいかないだろ?」
「そっか。じゃ、全部飲む」
 え? と訊き返すアスランを無視して、キラは勢いよくカップの中身を飲み干した。
「ごちそうさま」
「そんなに一気に飲んで大丈夫か?」
「へーき。ありがと」
 カップを返すと、アスランが躊躇いがちにそれを受け取る。
 気が済んで仕事に戻ってくれると思ったら、アスランはカップをデスクに置いてまたベッドサイドに戻ってきた。
「今度はなに?」
「眠れないなら、睡眠剤使うか?」
 心底心配しています と顔に書いてある。
 わかりやすいなぁ と笑って、キラは後ろに倒れた。
 頭を枕が受け止めてくれる。
「あれ、嫌い。起きたときの頭痛ひどいんだ」
「キラ、寝つきはよかったのにな」
「だねぇ」
 アスランがベッドの端に腰掛けて、スプリングの悪いベッドが軋む。
「ほかに、隠してることは?」
「ないよ。ほんと、この二つだけ」
 真摯な瞳に、キラもまじめに返す。
 自覚しているのがこれだけなのは本当だ。
 無自覚で、ほかに何かあるかもしれないけれど。
「・・・今の状況、嫌か?」
「?」
 アスランの独白のような呟きに、キラは訊き返すことを躊躇った。
「戦うこと、争うこと、殺しあうこと。限られた空間での、限られた人間だけでの生活。強制される仕事」
 アスランの手のひらが、キラの頬を撫でていく。
「大人ばかりの空間。慣れないモビルスーツ。ぐるぐる変わる土地と環境」
 手のひらが髪に触れて、そのまま梳いていく。
「誹謗、中傷、殺したのに褒められて、傷つけられたら死んでしまう状況」
 キラの前髪を指で掬い上げて、はっきりとした視界にアスランの瞳だけが明るく映った。
「怖いか?」
 見抜かれた。
 慌てて目をそらしたけれど、アスランの瞳はまだキラを見つめたままだ。
「怖い、なんて、言ってられないじゃない・・・」
「キラはもともと民間人だ。俺とは違って、訓練されてない。戦闘能力も、精神も肉体も」
「でも、やらなきゃ」
「嫌なら逃がしてやる」
 アスランの言葉に身体が震えた。
 恐る恐る、アスランの表情を伺った。
「キラがどうしても嫌だ、耐えられないって言うなら、俺がどうにでもしてやる」
 深い碧が、細められて。
「答えて。嫌、か?」
 どう答えていいのかわからなかった。
 嫌なものは嫌だ。もともと望んで戦争に参加したわけじゃない。
 でも、ここに戻ると決めたのも自分で。
 戦うと決めたのは自分で。
 いまさら。
「怖いなら、泣いていいよ」
 ぴくりと、肩が揺れた。
「俺はもう、そういう感覚が麻痺したけど・・・。キラは、残ってるだろう?」
 そんなもの、無いほうが今は楽で。
 失くしたフリをしているのに。
「残ってるほうが正しいんだ。怖かったら泣いていい。嫌だって叫んでいい」
 アスランの身体がゆっくりとキラの半身を包んで。
「言って、キラ。思ってること全部」
 箍が外れたように、涙が零れた。
「怖い、よ」
 震える両手を持ち上げて、アスランの背に縋った。
「怖いよ、嫌だよ、逃げたいよ」
「・・・うん」
「ほんとは、ここに戻ってくるの、嫌、で」
「・・・うん」
 ぎゅっと、アスランが強く抱きしめてくれる。
 安心して涙が止まらない。
「でも、僕がもどってこなきゃ、みんな死んじゃって」
「・・・うん」
「守らなきゃいけなくて」
 うん、と、アスランは頷く。
「なのに誰も、守ってくれなくて・・・」
 頭をアスランの肩に押し付けて、キラは声を絞り出す。
「アスランが来てくれるまで、ぼく、ひとりぼっちだった・・・」
 ああ、だからか。
 シフトを分けたせいで、生活がまるで逆な二人だ。
 別の部屋にしたほうが互いに気にせずすむと、艦長であるマリューは最初、アスランの部屋を別に用意してくれたのだ。
 だが、キラが嫌がった。
 パイロット同士、話すことも多いし、空間を共有することで相手の空気を読みやすくなるんだ と。
 もっともな話だ。
 だが、アスランとキラだ。
 互いの呼吸など知り尽くしていて、よく考えればいまさらな理由だった。
 少し考えればすぐわかることだった。
 キラはいつだって、アスランに助けを求めていたのだ。
「気づかなくて、ごめん・・・」
 強くキラの頭を抱きこんでやると、キラはびくりと身体を跳ねさせて、堰を切ったように声を上げて泣き始めた。
 こんなに強く、自分を求めてくれていたのに。
 こんなに近くにいたのに。
 気づかなくて、ごめん。

 泣きつかれたのか気を失うように寝込んだキラをベッドに寝かせて、アスランは嘆息した。
 戦場にあと何人、こんな人がいるのだろう。
 キラのように一人で艦を守った者は少ない。守ろうとして、皆死んでいった。
 生き残ることがこんなにも辛い世界に、はたして守る価値はあるのだろうか。
 キラの頬に残った涙を指で拭ってやって、思案する。
 違う。今の世界に価値がないから、変えたいんだ。
 だから戦うことを選んだ。
 だから力を身につけた。
 だから心を殺した。
 だから、人を殺した?
 矛盾が渦巻いて、思考の穴に嵌った。
 自分の行いすべてが矛盾している。
「ん・・・」
 キラが縋るようにアスランに擦り寄ってくる。
 その髪を飽きることなく、アスランは撫でた。
 この命を守るために、戦ってきた。
 守ろうとして、殺そうとして、そして今度こそ守ろうと思って。
「俺の世界の中心、かな」
 こいつは。
「今度は、今度こそ・・・」
 守って見せるから。
 おまえと、おまえの望む世界を。
 だから。
「生きような、一緒に」
 アスランの囁きに、キラが笑った気がした。
 どんなことをしても。
 この手がどんなに汚れても。
 大丈夫だよ。
 ずっと一緒だよ。
「俺も、一緒に汚れるから」
 キラのために。
 断罪のように、アスランは目を閉じた。      
       

病んでるキラさまと、闇んでるアスラン。  

Make love, not war!

2007-03-16 19:35:17 | アスキラ
古い本に載っていた。
 
『Make love, not war!』

 大昔の戦中の標語だったらしい。
 すごいことを言った人もいたものだ。
 キラとキスしている間にそんなことを思い出した俺は、かなりこの戦争で心を病んだらしい。
 激しく同感だ。
 たった一人の人を愛して、愛されるだけで人はこんなにも優しい気持ちになれる。
「なに、考えてるの・・・?」
 キスの隙間でキラが訊いてきた。
「難しい顔してる」
「世界中の人が恋人をつくれば、戦争なんかなくなるのに、って思って」
 そう返して唇を啄ばめば、キラはうーんと唸った。
「無理なんじゃないかなぁ」
「どうして?」
 唇を離して、こつんと額を合わせる。
 至近距離で眼が合う。キラの、薄い紫の瞳。アメジスト。
「だって、そもそも人口が違うよ」
 言われてみればそうだ。
 コーディネイトで子供の性別を決められるようになった今でも、なぜか人口は男のほうが多い。
 同性同士でこんなことをしている自分たちは、この際棚上げして考えを巡らせた。
 いまどき同性同士は珍しくもないけれど、それでも少数派だ。・・・軍では多かったが。
 ああ、嫌な過去をいくつか思い出した。
「それに、好きになった人が自分を好きになってくれる確率なんて低すぎない?」
 キラの声に現実に戻る。
 そうかなぁ と思った。
 自分はずっとキラだけが好きだったから、一般的な片想いというやつがわからない。
「好きになった人が好きになってくれるのは、奇跡だってどこかに書いてあった」
「奇跡?」
「そう。限りなくゼロに近い確立なんだって」
 肩に乗せられていたキラの両手がするりと伸びて、背に回った。
 まるで自分のものだというように抱きこんでくる。
 キラのものなのだけど。
「じゃぁ俺たちは、奇跡的に想いが通じ合ったってこと?」
「僕たちは違うよ」
「どうして」
「僕たちは、運命」
 運命論なんて信じない。
「必然、だろ?」
 そう返したらキラは笑って
「そうかも」
 と言った。
 
『Make love, not war!』
 軍で言い寄ってきた男たちが、あのとき心の安らぎを自分に求めていたんじゃないか なんて考えは捨てておいた。
 求められても困る。
 そうか。こういう気持ちがあるから世界中の人たちが恋人を作ることは難しいのか。
 それでも。
 誰かを愛していたら、誰かを傷つけることがこんなに苦しいことだとわかるのに。
 自分が、キラに教えてもらったように。
 早く、世界中の人が気づけばいい。
 そう、願った。
  




『Make love, not war!』
意味がわからない人は辞書を引こう。

For Dearest-Athrun

2007-03-15 17:42:04 | アスキラ


 パソコンが「ピッ」とメールの着信を知らせた。
 差出人は登録されていない。
 不審に思って、画面を呼び出す。
 知らないドメイン。・・・というか、こんなドメイン存在しただろうか?
 しばらく考えて、ファイルを開いてみる。

 『アスランへ』

 キラだ と確信した。
 手紙を郵送して、そろそろ届いた頃だと思っていた。
 執務室の中に居た数人の部下を下がらせて、人払いを頼む。
 ドアが閉まったのを確認してから、メールを開いた。

 『手紙読みました。ありがとう。
 残念ながらうちには便箋なんてものはないし、郵送だと時間が掛かってしまうのでメールにします。
 アスランはハッキングのこととか心配していたみたいなので、防止プログラムを組み込んだアドレスを作ってみました。
 正真正銘、アスランしか知らないアドレスだよ。』

 くすりと笑ってしまう。
 便箋を買いに行く手間を惜しんでドメインを作ってしまうあたりがキラだ。
 きっといくつもの中継点を通過して届くのだろう。

 『キミの気持ちはよくわかりました。
 なので今度は僕の気持ちを書きます。
 僕もアスランが好きです。ずっとずっと、思い出せないくらい子供の頃からずっと好きだった。』

 画面をスクロールする手が震えた。

 『こちらに来てくれるのは嬉しい。僕も会いたいし、今度こそずっと一緒にいたい。』
 
 ああ、自分の気持ちはきちんと伝わったらしい。
 安堵感が過ぎる。

 『でも現実問題、気になることがあります。
 キミは今オーブ国籍でしょう? プラントでの永住権を取るのは難しいんじゃないかな。
 それに仕事は? ザフトにはもう戻れないだろうし、僕が仕事してキミが主婦、なんていうのは絶対反対。』

 キラはプラントに行って、すこししっかりしたようだ。
 きちんと未来を見据えている。
 その成長が嬉しい。

 『そういう問題を全部解決して、それで僕が納得できたら。
 今度こそ一緒に暮らそうよ。
 僕は今官舎にいるからさすがにここでは無理だけど、キミがくるというならマンションでも一戸建てでも用意できるよ。
 僕だって高給取りですから。』

 えっへん とキラが胸を張ったのが見える。

 『ラクスのことは大丈夫。
 周りは付き合ってるって思ってるみたいだけど、キミとカガリがそうなように、僕と彼女も友達で、盟友みたいなものです。
 一番大切な女性だとは思うけど、これは恋じゃない。』
 
 心配していたことを先回りされた。
 手紙ではあえて触れなかった話題だ。

 『キミがこちらに来ると言えば、彼女はきっと喜んで協力してくれるよ。
 もちろん、イザークもディアッカも、それからシンもルナマリアも。
 当然僕もできる限りのことをします。
 キミは自分のことは自分だけでなんとかしようとする癖があるけど、ここは皆を頼っていいと思うんだ。』

 独りよがりだ と言われた気がした。
 確かにそうだ。
 自分のことは自分だけでなんとかしようとして、今までなんどもから回りをした。

 『僕からラクスに少しお願いをしてみようと思います。
 永住権は無理かもしれないけど、まして国籍を戻すなんて無理かもしれないけど。
 それでも、一緒に暮らせたらそれでいい。
 僕がオーブに行ければいいんだろうけど、今はまだできないから。
 だって、カガリは大丈夫でも、ラクスはまだ心配だもの。僕は心配性なんだ。』

 ずっとオーブのために働いてきたカガリと違って、ラクスは一度プラントを裏切った人間だ。
 いまだ政府で反対派も少なくない。
 
 『どうにかします。だからキミも、どうにかしてください。
 伊達にザフトのエースやってたわけじゃないんだから、顔は広いんでしょう?』

 こんな物言いはキラらしい。

 『打開策が浮かんで、結果が出たら返事をください。
 とりあえず仕事のことだけはなんとかすること。
 こっちに住めるかどうかは、僕がラクスとイザークに相談します。』

 イザークに借りを作ってしまうな と思った。
 いや、彼にはもういくつも借りを作ってしまっているけど。

 『大好き。会いたい。傍にいたい。
 これが僕の気持ちです。
 これ以上は会ってから言いたい。
 だから、早くなんとかしてね。』

 わかったよ とモニターを指でつついた。
 拗ねたキラの顔が目に浮かんだ。
 最後の一文は、キラらしい一言だった。

 『僕はキミのものだし、キミは昔から僕だけのものだって信じてる。
 もう余所見しちゃ駄目だよ。』

 なんてわがままな一言。
 キラはいつだって、自分を見つめて、許してくれていたのだ。
 こんなふがいない自分を。

 『じゃあね。おやすみなさい。』

 時計を見ると、プラントは深夜の時間帯だった。
 早く寝ないと明日辛いぞ とメールを保存しようとして気づいた。
 下の方にまだなにか書いてある。
 スクロールすると

 『この回線はあまり頻繁には使えません。
 容量が大きくなっちゃうと気づかれちゃうから。
 できればこのメールも別メディアに保存とかして、消してください。
 僕の首がかかってるんで、よろしく。』

 またヤバい橋を渡ったのか・・・。
 おそらくザフトのマザーでも使っているのだろう。
 あそこはセキュリティが厳しすぎるから、横から割り込んで第三者にこのメールを見られる可能性は低い。
 ・・・とはいえ。
「あのマザーに侵入できるのはお前くらいだろう・・・」
 頭を抱えた。
 胸はキラへの気持ちでいっぱいだから、心配とか叱責の念はない。
「とりあえず、返事は携帯かな」
 時差を考えれば、今はやめておいたほうがいいだろう。
 仕事はとっくに手配済みだと言えばなんと言うだろうか。
 あのエリカ・シモンズの紹介で機械工学関係の仕事を手配してもらった。
 当分は機械いじりだけで生計をまかなえる筈だ。
 趣味に走るな と怒られるだろうか?
 でもあの仕事は戦争とはまったく無関係の、むしろ人が豊かに暮らすためのプロジェクトだから、安心してくれるかもしれない。
 ひとつため息を落として、今度は通信を開いた。
「ああ、カガリか? 今キラから返事が来たよ」
 盟友への報告だけは、忘れるわけにはいかなかった。
 
  


 「キラのお返事」です。うちのキラさまちょっと現実的。

For Dearest-Kira

2007-03-15 17:40:34 | アスキラ

 手紙を書いた。
 メールが主流の昨今、手書きの手紙は珍しい。
 メールだといつでも読める。言ってしまえば仕事中でも。
 自分の想いをそんな手軽に読んでほしくなかった。
 パソコンの画面で書くと何度も書きなおせる。
 たしかにそれがメリットかもしれないけど、ただ想ったことを書くのに書き直しなんてしたくない。
 手紙を書くために、今は希少な便箋と封筒を買った。
 昔から愛用のペンを握った。
 深夜に書いた手紙は出すものではない とどこかで聞いたけど、そんな時間しか空かなかった。
 真っ暗な部屋の中で、デスクのライトだけを頼りに、一通の手紙を書いた。


 仕事が立て込んで帰宅は深夜になった。
 軍の上官用宿舎までシンが送ってくれて、エントランスで別れて流れで郵便受けを見る。
 覗き込んだそこに、白いなにか。
 いまどき郵送でダイレクトメールか。
 古風なことする会社もあったもんだなぁ と思いながら開けてみると、なんの変哲もない白い封筒が一枚。
 会社名などの印刷もない。
 宛名は間違いなく自分。しかもこの字はよく知っている。
 不審に思って裏を見ると。
 『Athrun Zala』
 それだけで心臓が跳ねた。
 慌てて部屋に戻ってリビングのソファに膝を揃えて座って、恐る恐る開けてみた。
 便箋が一枚。
 折りたたまれたそれをそっとあけると、桜柄の紙に文字が並べられていた。
 子供の頃、何度も見た字だ。
 アスランらしい、丁寧な文字だった。


 『キラへ。
 これが届くまでに通信もしているだろうけど、面と向かって声に出すことはたぶんできないと思うので、手紙を書きます。
 キラにはメールのほうがいいんだろうけど、キラみたいに手癖の悪いやつに見られたら困るから。』

 そんな出出し。
 手癖が悪い とは、おそらく自分の趣味について言っているのだろう。
 電子化が進んだ昨今、個人宛のメールが第三者に見られてしまうのはよくあることだ。
 たとえば、ハッキングとか。

 『気持ちがハッキリしたし、情勢も落ち着いてきたので、ずっと言えずにいたことを書きます。』

 彼がここまで遠まわしに言葉を紡ぐのは珍しいことだった。
 普段は要点だけわかりやすく言ってくれる彼らしくない。
 ふとその続きに眼を落として、心臓が止まるかと思った。

 『キラが好きです。』

 冗談でここまで手の込んだことをするような人ではない。

 『戦中は自分の気持ちに自信が持てなかったし、あんな状態だから言うのを躊躇っていました。
 でも今はお互い平和に暮らしているし、平和になって本当に自分に必要なのはキラだと思ったから。』

 メールでもそうだが、彼は文章になると言葉が丁寧になる。

 『どうしても、気持ちを伝えたかった。
 信じられないかもしれないけど、わかってほしい。好きだ。』

 目頭が熱い。
 ぐっと息を止めることでそれを堪えた。

 『今、そちらに行けるように調整中です。オーブ軍は辞めます。』
 
 眼を疑った。

 『カガリも首長として安定してきたし、軍もフラガさんが居れば大丈夫だから。
 俺がやるべきこと、できることはもうここにはないんだと思います。
 どうしても、今すぐキラのもとに行きたい。
 その枷になるから、軍は辞めます。誰がなんと言おうとも。』

 たしかにカガリはオーブの首長として地位を確立した。
 昔は反対派が多かったが、今では信奉者も多い。
 フラガが事実上責任者になった今、オーブ軍も安泰だろう。

 『と言っても、キラの気持ちを無視するつもりはありません。
 キラが嫌だ、オーブに居ろと言うなら、このまま軍に居るつもりです。
 重いこと言ってごめん。
 でも、俺の人生で一番大切なのはキラだから、キラが望んでくれるならすぐに傍に行くし、
 嫌だと言えばここに居るつもりです。無理強いはしない。自由に選んで。』

 言ったことをフォローしているあたり、アスランはやっぱり言葉が下手だと思う。

 『返事はいつでもいいです。
 気持ちが固まったら言ってください。それまでは変わらずここにいるから。
 カガリにはもう言ってあります。
 キラの気持ちを最優先してくれるそうです。やっぱり彼女とは恋人とか友人というより、盟友といった感じです。』

 カガリのことを理由にする手は、先に塞がれてしまった。

 『お願いだから、他人を理由に拒否するのだけはやめてほしい。』

 気持ちを読まれた気がした。

 『周りのことなんか気にせず、正直な、キラの率直な想いが聞きたいです。』

 ぐっと胸が痛んだ。
 いつもそうだ。
 自分は周りに責任を押し付けて逃げてばかりだ。
 彼はそんなところまでわかっている。
 あたりまえだ。
 何年一緒に居た?
 子供の頃からの癖なんて、彼はとっくにお見通しだ。
 騙せない。隠せない。

 『好きだよ、キラ。今すぐ会いたい。
 キラが選んでくれたら、俺はもうキラだけのものだから。』
 
 それは甘美な誘惑の言葉だった。

 『その代わり、キラも俺だけのものになる。そのことだけは、わかっていて。』

 なんて優しい、独占欲。

 『突然こんな手紙を出してごめん。それじゃ、また。』

 文末を結んだのは、少し荒い、緊張した字だった。

 『Dearest Kira.
From Athrun』

 最愛のキラへ。
 
 返事がしたい。
 そう思った。
 でもこの部屋には便箋なんてない。
 彼のように、ぶっつけ本番で文字を書くなんてできない。
 第一ここ最近署名以外にペンを握っていない。下手な字は見られたくない。
 そう思って、立ち上がった。
 自分らしく。
 伝えればいい。
 なんど書き直しても。
 想ったことを、自分のつたない文章で伝えられれば。
 声に出しては、まだ言えないけれど。
 キラは仕事部屋に駆け出した。
 



 第一弾。アスからキラへ甘い言葉。甘すぎて砂糖吐きそうです。