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ZONE-ZERO

ガン種中心二次創作サイト簡易版。アスキラ中心です。

さよなら。

2007-09-30 20:48:12 | その他
シンアスっぽいアスシンっぽいアスキラです。(なにそれ・・・)
シンアス真ん中バースディです。

「アンタっていつから隊長のこと好きなんですか?」

 仕事でザフト本部に来て、シンを見つけた。
 シンでも通せる話だったので頼もうと思ったら、
「いーけど代わりに昼飯奢ってください」
 といつもながら拗ねているのか甘えているのかわからない口調で強請られた。
 ちょうど昼時だったので「じゃあキラも誘って」と言いかけたら
「あの人抜きで」
 と頑として譲らない。
 これはなにかあるな と思って承諾して、この言葉だ。
 意図がつかめず、アスランは困惑した。
「いつから・・・?」
「好きだって自覚したの。いつですか? 幼馴染なんですよね?」
 彼がこういう色恋沙汰に触れようとするのは、珍しいことだ。
「昔から大事だとは思ってたけど・・・本当に自覚したのは戦後だな」
「ほんとうにって?」
「なんとなく・・・、好きだな、と思うときはあったんだが・・・」
 それで? とシンの眼差しが促す。
「その、同性だろう? いろいろ足掻いて・・・」
「認めたくなかったんですか?」
「まぁ、そうなるかな」
 ふぅん とシンはアスランの奢りのハンバーグを口に放り込む。
 ナイフとフォークは苦手らしく、シンは割り箸を愛用している。
「認めたくなかったのに、なんで認めたんですか?」
「キラはもう、俺の一部になっていたから」
「一部?」
「心臓だよ」
 意味がわからない と、シンが首を傾げる。
「俺を動かすものが、キラだったんだ。考えてみたら、いつだってそうだった。キラのために、キラが喜ぶようにって、そればかりだったんだ」
「末期ですね」
「そうだな」
 アスランは自嘲的に笑って、目の前のスープにスプーンを差し入れた。
「キラは、ずっとそれを知ってて、俺が覚悟するのを待っていてくれたんだ」
「は?」
「言われたよ。「アスランは僕がいなきゃ生きていけない人だよね」って・・・」
「うっわ、自意識過剰」
「過剰じゃないよ。事実だ。キラは俺より俺のことをよくわかってるんだ」
「アンタ、鈍いしね」
「そうだな」
 行儀悪く箸についたソースを舐めるシンを叱りもせず、アスランはスープを口に含む。
「アンタ、クリーム系って好きでしたっけ?」
「え?」
「いや、ミネルバに乗ってるとき、あんま飲んでるの見なかった気が・・・」
「ああ」
 アスランは自分で注文したかぼちゃのスープに視線を落とす。
「キラが好きで、家でもよく作ってやるから・・・」
 癖になったんだな。
 そう言うと、シンはすこし不機嫌な顔をする。
 気に障ることでも言っただろうか。
「隊長の、どこが好きなんですか?」
「どこっていうのはないな」
「え?」
「生きて、笑って、俺の傍にいて。そうして、幸せでいてくれたら」
 それが一番いい。
「そう思ってるだけで、キラのここが、とか、こうだからっていうのはないんだ」
「あえて言うなら?」
「・・・自由なところかな」
 俺にはないものだから。

 彼を「自由」と表現するなら、彼の機体の名はおあつらえ向きすぎるだろう。
 そして、アスランの機体の名も、彼を現している。
 「JUSTICE」。
 正義だけでなく、「正直」や「公正」を表す言葉だが、時に「罰」という意味でも使われる言葉だ。
 そこについでに「鈍感」も加えてやりたいくらいだ。
「隊長って、アスランさんのどこが好きなんですか?」
 昼食を終えて仕事に戻ったシンは、キラにも同じ質問を投げかけた。
「え?」
「アスランさんの、どこが好きなんですか」
「どこって・・・」
 うーん と、キラは手を止めて考える。
 質問に乗じてサボる気だな と感づいたけれど、シンは問いの答えを待つ。
「きれいなところ、かな?」
「顔ですか」
「顔じゃなくて」
 顔も好きだけどさ とキラは真面目に答える。
「けっこう汚いこともしてきたみたいなんだけど、一番大事な部分が汚れないんだよね、アスランって」
「アンタは?」
「僕はほら、打算的でしょ?」
 納得してしまう。
「アスランはそういう、損得じゃなくて、なにが一番大事かってことで動くでしょ?」
 時々自己完結しすぎてから回るけど と、キラは笑って
「そういうところがね、好き」
 きっぱりと、まっすぐな瞳で。
「だって、普通皆自分の利益になることしかしないじゃない」
 みんな自分が一番かわいいんだもん。
「でもアスランは、そういうところがないんだ」
 裏を返せば、自分を大事にしていないってことだけど。
「やさしいんだ」
 
 一緒の艦に乗っているときは、いつも怒られていた。
 先走りすぎだの、殺しすぎだの、態度が悪いだの。
 先走りを怒るのは、死なないようにするためで。
 殺しすぎを怒るのは、人の恨みを買わないようにするためで。
 態度が悪いことを怒るのは、人当たりを悪くしないためで。
 いつだって。
 シンが傷つかなくていいように。
 叱ってくれた人。
 やさしすぎて、いつも自分ばかり傷ついて。
 それでも、「これでいいんだ。おまえが無事でよかった」と言ってくれて。
 そのやさしさが。
 いつだって。

「俺、アスランさんのこと、好きだったんですよ」
 深夜に電話をかけてそう言ったら、アスランは黙って聴いてくれた。
「好きだから、甘えてたんです」
 夜の夜中に電話して、「明日に響くぞ」なんて叱ってくれない。
 ただ、黙って聴いてくれる。 
 そのやさしさが。
「ほんとうは俺、キラさんの立場になりたかった」
 あなたの一部になりたかった。
 あなたの中心になりたかった。
「ほんとうは、キラさんがうらやましかったんです」
 自覚がなくても、あなたの中心にいるのが、誰だか自分は知っていた。
 その瞳が、誰を見ているのか知っていた。
「好きだったんです。すごく」
「・・・過去形なのか?」
 そこで初めて、アスランが言葉を発した。
 低くて、すこし掠れていて、抑え目の声。
「昔好きで、今は?」
 今は?
「今って。ルナいるし・・・」
「彼女は彼女だろう。そうじゃなくて、今俺はおまえの中でどうなってるんだ?」
 どうって?
 だってアンタ、キラさんのもので。
 自分にはいま、立派な彼女がいて。
 それで、「過去の話です」でいいんじゃないの?
「べつに・・・」
「どうでもいい存在になったか?」
「どうでもよくなんて・・・!」
「俺は、少しでもおまえの中にいるか?」
 すこしどころか。
「・・・いつでも、アンタが目標です」
「ならよかった」
 ふっと、笑った気配がした。
「嫌われたり、どうでもいい存在になるのが、一番怖いからな」
「怖い?」
「ああ、怖いよ」
「俺、キラさんじゃないよ?」
「おまえでも。嫌われるのは、怖いよ」
「どうして」
「・・・大事な人だと、俺は思ってるから」
 じゃあな と、一方的に電話を切られた。
 規則的な音が鳴るだけの携帯電話を耳に当てたまま、言葉を反芻する。
 大事な、人?
 元部下じゃなくて?
 生意気な後輩じゃなくて?
 一人の人として、見てくれてる?
「・・・・卑怯だろ、それ・・・」
 折りたたみ式の電話をそのままベッドに投げつけて
 膝を抱えて、シンは泣いた。
 初恋は、相手が死んだ。
 二度目の恋は、
 今、失恋した。

「・・・・シンから?」
「起こしたか?」
 寝ていたはずのキラが、隣から押さえ気味の声を発した。
 シーツの下に隠れた身体は、何も纏っていない状態だ。
「ひどいよね。散々僕のこと愛してるなんて言っておいて、シンには「大事」だなんて」
「嫉妬か?」
「ちょっとね」
 機嫌取りに髪を撫でてやると、キラは気持ちよさそうに目を細める。
「で? シンはなんて?」
「ああ・・・」
 電話をサイドテーブルに置いて、ベッドにもぐりこんで
「俺のこと、好きだったって」
「過去形なんだ」
「どうだろうな」
「やだなぁ、シンがライバルなんて」
 ぎゅう と、キラが甘えて抱きついてくる。
「ライバルには、ならないよ」
「そうなの?」
「・・・愛してるよ、キラ」 
 
 ゴメン なんて言わないよ。
 だってきみはそれを望んでいないから。
 そう言ったらまた、拗ねるだろうか?
 なぁ、シン。      



ぼや記。

2007-09-04 19:14:32 | その他
予告です。
アスランとシンの真ん中バースディイベントに行けないので
このサイトでお祝いしたいと思います。(どんだけ行きたかったの)

9月30日。

シンアスのような、アスシンのようなものを上げます。

でも実態はアスキラです!
あら?
全然お祝いになってないわ、これ・・・。
ほんでアスランバースディの準備を始めなければいけません。
早めに・・・なにか気愛の入ったものを・・・。
ネタ切れ中なので、いっそのこと! と、リクエストとかも受け付けようかと思ってます。
拍手で一言でいいので、よろしくお願いしますー。
もうこの際、18禁とか気にしませんので(笑)
普通に書きますので。

いつか僕らは。

2007-09-01 17:33:38 | その他
「バースディ休暇?」
 八月中旬のある日。
 シンから提出された二枚の書類に、キラは嫌な顔をした。

 「常日頃、プラントのために汗を流してくださっている軍人の方々が、お誕生日くらいお休みしても罰は当たらないのでは?」
 プラント最高評議会議長、ラクス・クラインの一言で決まった制度が、「バースディ休暇」だ。
 大きな会社などではあるらしいが、軍で採用するのはザフトが初らしい。
 加えて
 「一人でお休みしてもつまりませんもの」
 という理由で、パートナーがザフト軍人である場合はパートナーの休暇も許可されている。
 ちょっとおきらくな制度だ。

「あー、そっか。シン9月1日だっけ?」
「ハイ」
「で、ルナマリアも休暇申請って・・・」
「恋人でも上司公認なら許可出るんですよね」
 キラは言い返せない。
 常日頃から「早く結婚しちゃえば?」なんて言っている以上、ここで「公認してないよ」なんて言えるはずがない。
「二人が休んだら、僕一人で仕事になっちゃう」
「諦めてください」
 ヤマト隊の構成員は三人だ。
 そのうちの二人が休めば、結果的に隊長一人で仕事をすることになる。
「僕も休んじゃおうかなぁ」
「イザークさんがそれは許可しないそうです」
 先手を打たれた。
 イザークも先日バースディ休暇を取った一人だ。当然、ディアッカも一緒に。
 それは許可せざるを得ないだろう。
 曰く、「上が取らない休暇を下が取れるか」で、模範演技だと言い張るのだが。
「9月1日かぁ。一応通常業務予定だね」
「ルナがそこは調整してくれましたから」
 キラのスケジュールは、ルナマリアが管理している。
 今もキラの代理であちこち走り回っているはずだ。
 その彼女に休暇をあげないのは、上司としてどうか。
「・・・わかった。許可します」
「やった!」
 キラは二枚の申請書にサインを入れて、ばさり とファイルに投げ込んだ。
 ちきしょう。いいな。

 休暇 と言っても一日だけなので、旅行に行ったりはできない。
 デートでもする? と提案したら
「アンタの家に行きたい」
 とルナマリアが言い出した。
 反論する理由もないので、そういう予定にして、前日夜中に大掃除をした。
 
「はいこれ、メイリンから」
 午前中からやってきたルナマリアは、いきなり小さな包みを差し出した。
「サンキュ。どーぞ」
 どーぞ なんて招いたりするけれど、ルナマリアはこの部屋の鍵を持っている。いまさらだ。
 民間のアパート。1K。
 軍の官舎に住んでいた時代もあったけれど、一日中軍人の顔を見るのが嫌でこの部屋を借りた。
 申請すれば上官用官舎にも移れるらしいが、あそこはどうも敷居が高い。
 必要最低限 と思ったら、この部屋になった。
「あいかわらず、なんにもないわね」
「掃除したんだよ」
「ふーん? 見られちゃマズイものでも置いてたの?」
 買い物袋を提げてキッチンに行くルナマリアの一言に、「色気ねぇ」とため息を吐く。
 別に色気がない付き合いではない。
 だけど思い返せば「付き合おう」だとか「好きだ」とか告白して付き合い始めたわけではない。
 いつから付き合ってるの? なんてキラに訊かれて、返答に困ったこともある。
 なしくずし。
 そんな感じなのだ。
「ケーキ買って来たから、夜食べよ」
「手作りじゃないし・・・」
「だってこの部屋オーブンないし。昨日作ってる暇なかったんだもの」
 昨日もルナマリアは今日の休暇のために走り回っていた。
 たしかに暇はなかっただろうし、この部屋にオーブンはない。あるのは安物の電子レンジだけだ。
「いまどきオーブン一体型じゃないなんて。どこで見つけたのよ、こんな骨董品」
「え、アカデミーの先輩に貰った」
「呆れた。買いなさいよ、それくらい」
 ぶつぶつ言いながら、ルナマリアは冷蔵庫を開けて
「やだ。このコンビニ弁当、いつのよ?」
「あー、四日前?」
「捨てるわよ!」
 これだから男の一人暮らしって と文句を言いつつ、今夜の食材を冷蔵庫に詰めていく。
 どうやら今夜はご馳走らしい。
「さてと。どうしよっか」
「え、なんかあるからウチなんじゃねぇの?」
「ないわよ」
 ただなんとなく。
 きっぱりとした一言は、いっそ清清しい。
「時間あるし、夜まで待とうと思ったけど、いっか」
 なにやら勝手に決めてしまったらしいルナマリアは、バッグの中を漁って
「はい、お誕生日おめでとう」
 と少し大きめの箱を取り出した。
 どうりで鞄が大きいと思っていたら、これが入っていたのか。
「サンキュー。開けていい?」
「どうぞ」
 わくわくと包みを開けて
「うぉ!」
 本気で驚いた。
「シンってばバイクに乗るとき軽装すぎるんだもの。事故ったら怪我するわよ」
 ライダースジャケット。
 本皮。
 値が張りすぎるのと、自分には似合わない気がして手を出せずにいたものだ。
「いいの?」
「これから着るにはいい季節よね」
 にこにことルナマリアは笑う。
 思わず立ち上がって着てみて、そのサイズのジャスト感に
「・・・どっからサイズ・・・」
「アンタの軍服のサイズ更新申請したの誰かしら?」
 言われてみれば。
 シンは戦後、めきめきと成長した。
 気がつけばキラを追い越し、アスランも追い越し、今ではイザークに並ぶほどだ。
 日系にしては伸びたほうだと思う。
「マジうれしい! サンキュ!」
「メイリンからのも開けたら?」
 ああそうだ と一応ジャケットを脱いでハンガーに掛けて、メイリンからの包みも開けてみる。
 出てきたのは、人気のデジカメ。
 メッセージカードに
『思い出大好きなシンへ。お姉ちゃんとの思い出も撮ってよね』
 なんて書かれていた。
 その下に
『おかえし3倍忘れずにね☆』
 バレンタインじゃねぇんだから と思いつつ、ありがたく貰うことにする。
「んじゃ、記念に一枚」
 と不意打ちでルナマリアに向けてフラッシュを焚いたら、怒られた。

 誕生日は、母さんが作ったご馳走とケーキ。
 父さんからのプレゼントと、マユからのバースディソング。
 年の数だけろうそくを立てて。
 ひとつ大人になったね って笑ってもらって。

 大人になるって、どういうこと?

 19歳になった。
 世間では立派に大人の年だけれど、シンはいまだに周囲から子供扱いをされる。
 周りにいる人たちが皆立派すぎて、シンは追いつけないでいる。
 追いかけて追いかけて、でも先を行かれていつも悔しくて。
 軍で後輩もたくさん出来たし、MS小隊を任されているし、時々アカデミーの訓練講師をすることだってある。
 若すぎる後輩たちに「アスカさん」と尊敬の眼差しで見られることに、違和感を感じて。
 「シン」と気安く呼び捨てされて安心して。

 大人ってなんだよ って、最近思う。

「俺ってガキじゃん・・・」
「あら、やっと自覚した?」
 ソファのない部屋で、ラグを敷いただけの床にぺったり座ったルナマリアに、耳掻きなんかしてもらって。
 それが幸せだと感じるなんて。
「ちょっと動かないでね」
「もうちょい、下」
「ここ?」
「あ、そこ」
 軽く痒いところを掻かれて、全身から力が抜ける。
 犬猫じゃあるまいし。
「ルナぁ」
「なに?」
「結婚しよ」
 がりっ。
「いっ・・・つ!!!」
「アンタ、なに・・・」
「謝れ! まず謝れ!!」
「あ、ごめん」
 飛び起きて耳を押さえて、涙目になりながら、
「嫌かよ」
「嫌っていうか、アンタ、なんかあるんじゃなかったっけ?」
「なんか?」
「ディアッカさんが言ってた」
 ああ、「ルナより上に行くまでは」ってやつか。
 痛みの引いた耳から手を離して、うーん とシンは天井を仰いで。
「なんか無理な気がしてさぁ」
「平和な現状じゃ無理でしょうね」
「でも戦争はもうカンベンだし」
「そうね」
「つうかこのままほっといたら他のヤツに攫われそうな気がして」
「それはないわよ」
「なんで」
「言わせないでよ」
 ルナマリアの顔が、ちょっと赤くなる。
 あ、かわいい。
「よし、指輪買いに行こう」
「ちょっと!」
「あれ、親に挨拶が先だっけ」
「ちょっと落ち着きなさい!」
 立ち上がろうとする手をぐいぐい引っ張られて、シンは仕方なくルナマリアの隣に座る。
「なに焦ってるの?」
「オトナになったから」
「なにそれ」
「オトナだから、けじめつけようと思って」
「あのねぇ・・・」
 アタタ と、ルナマリアは米神を押さえる。
「義務感とか勢いだけで言われて、頷けるわけないでしょ?」
「だってさぁ・・・」
 ぶう と、シンは膝を抱えてしまう。
 175センチを超えた男が小さくなっている姿は、正直笑える。
「アンタなんか、全然オトナじゃないわよ」
「19だし」
「年じゃなくてね」
 よしよし とシンの髪を撫でてやると、駄々っ子甘えっ子モードのシンはこてんとルナマリアの膝に頭を預ける。
 こういう仕草が、子供だというのに。
「俺もなんか守るもの欲しい」
「守るもの?」
「アスランさんと隊長とか、イザークさんとディアッカさんとかみたいに」
 守りあう人がほしい。
「私はそうじゃないの?」
「なんか、不安定じゃん? 恋人って」
 あのねぇ と、ルナマリアは嘆息して
「隊長たちもイザークさんたちも、認められてるものなんてないわよ?」
 婚姻統制の敷かれたプラントで、認められないまま互いの手を選んだ人たち。
 その絆の強さは、たしかにうらやましいけれど。
「焦らなくていいのよ。身長が一気に伸びたみたいに、心もそのうち成長するから」
「成長痛痛かった。あれはもうヤダ」
「あー、アンタひどかったものね」
 遅い成長期を迎えたシンは、それはもう大変だった。
 骨という骨、関節という関節が痛み、歩くのも苦痛の日々。
 夜中に激痛が走って思わず叫びながら飛び起きたこともある。
「オトナになるのって、楽じゃねぇ」
「そうね」
 ほんと、オトナってなんだよ。
 大きくなっても、大人じゃないじゃん。

 そのまま眠ってしまったシンの頭を床に降ろして、ベッドから降ろした毛布をかけてやる。
 大きな身体。
 知り合った頃も付き合い始めた頃も、自分とたいして変わらなかったのに。
 いつの間に、こんなに。
「大きくなっちゃって」
 母親のような台詞だな と、ルナマリアは自分で思う。
 いつか、家族になれればと思う。 
 だけど、それはシンがほんとうに大人になってから。
「しっかり揉まれて、頑丈になってよね」
 今日みたいに、泣き言でプロポーズなんて冗談じゃない。
 弱い男に興味ないわよ と暢気な寝顔を突付いて。
 ふと窓の外を見れば、人工とは思えないほど突き抜けた青だった。


久々の更新でございます・・・!!
おめでとうシンちゃん! 大人になってねシンちゃん! 
シンとルナの会話が好きなんです。
「シンだけノーマルカプなんですか?」というご質問をいただきましたので、
次回は思い切ってシンアスにでも挑戦しようかと・・・!!(あーあ、言っちゃったよ・・・)





ジュール長官の長い一日。(後)

2007-08-13 20:03:11 | その他
 ゲームセンターであれこれ熱中して、クレーンゲームで取った小さなストラップをディアッカへの土産にすることにした。
 なんだかんだ言って仲いいなぁ と、シンは思う。
 人気マスコットキャラクターの着いたストラップを、ディアッカが携帯電話に着けているところを想像して、少し笑う。
「次はどこに行く」
「そーですねー。夕飯には早いし、ちょっとその辺ブラつきますか」
 そう言って入ったのは、大安売りのドラッグストア。
 通路まではみ出た商品と、監視カメラの死角の多さに、イザークは呆れ気味だ。
「こんなに売れるのか?」
「売れちゃうんです」
 廉価版の化粧品の投売りに群がる女性陣。
 ヘアワックスを吟味する若い男たち。
 消耗品をわずかでも安く買おうとする熟年女性。
 胃薬のドリンクを買ってその場で飲んでしまうサラリーマン。
 無法地帯に、イザークは人酔いした。

「庶民ってのは、いかに人の群れの中で勝ち抜くかの勝負なんです」
「厳しい世界だな・・・」
 自動販売機で買ったペットボトルのジュースを片手に、道端の植え込みの隅に座って休憩。
 その間も、何人か携帯電話のカメラでイザークの写真を撮ったりするものもいて、そのたびシンは
「お触りだけはご遠慮くださーい」
 と通行人に声をかける。
 このプラントで、イザークを知らないものはいない。
 まるで芸能人の警護でもしている気分になる。
 わらわら人が集まるたびに、シンは神経を研ぎ澄ませる。
 その雑踏の中に、わずかでも殺気が紛れていないか確認する。
 シンの着ているジャケットの下には、いつでも撃てる状態の銃がホルスターに納まっている。
 昨日のうちに、イザークの権限で持ち出し許可を貰った護身用だ。
 休日に銃の重みを感じながら庶民ツアー。
 不毛極まりないが、それでもこの人の世間知らずさには我慢できなかったのだ。
「そんなに緊張しなくてかまわん」
「・・・え?」
「俺でも護身くらいできる」
 不意にかけられた声に、シンは我にかえる。
 ああ、そういえばこの人もザフトのエースだった。
 記録を見たが、射撃やその他の成績はシンより上だ。
「庶民はそんな目をしないだろう」
「目?」
「目が軍人だったぞ。そんな目をしていては目立たないものも目立つ」
 アンタに言われたくないなぁ と思いつつ、確かにその通りなので
「ハイ」
 とだけ返事しておいた。
 そのときだ。
「誰かその男捕まえてー!」
 雑踏に、女性の悲鳴が響く。
「ひったくりー!」
 反射的に持っていたペットボトルを投げ捨てて、走り出したのは、イザークだった。
 シンも慌てて追いかけるが、速い。
 足には自信があるのに、見失わないように追いかけるのが精一杯だ。
「撃つなよ!」
「撃ちませんよ!」
 前からかけられた命令に、シンは声を張り上げる。
 逃げる男に徐々に追いつき。
 伸ばしたイザークの手が、男の襟を捕まえて
「ぐっ!」
 思いっきり引っ張って足を止めさせ、無駄のない動きで腕を締め上げた。
「俺の前で窃盗とはいい度胸だ」
 息切れもしていないイザークは、思い切り男の腕を締め上げる。
「いてててて!」
「イザークさん! 折れるから!」
 慌ててストップをかけて、一息置いてから、シンは携帯電話で警察に通報する。
 後から追いついてきた女性がシンからバッグを受け取り
「まぁ!」
 とイザークを見て声を上げる。
 ぺこぺこ頭を下げる女性に「そんなに気にしないでください」とシンが声をかけている間に、警察が到着。
 こちらもイザークを見て恐縮している。
「対応の早さは認めるが、基本警備に穴があるようだな。上に言っておく」
 イザークはさっさと男を警察に引き渡し
「行くぞ」
 とシンに向かって言い捨てて、その場から立ち去る。
 ハイ と返事をして、去り際
「あの人が普通に歩いたこと、内緒にしてくださいね」
 と女性に言ったら、女性は一瞬ぽかんとして
「いい人がいてラッキーだったわ。ありがとう」
 と笑ってくれた。

「最近はプラントも治安が悪いな」
「そっすね。結構ナチュラル入ってきてるし、戦後で気が抜けてる人も多いし」
「警備体制を見直そう」
「つうか仕事の話やめましょうよ」
 元の場所に戻って、放り捨てたボトルを拾った。
 この国はポイ捨てにもうるさい。見つかれば罰金だ。
「でもオーブよりは治安いいですよ」
「そうなのか?」
 中身の流れたボトルを近くにあったコンビニのゴミ箱に捨てた。
「オーブはナチュラルもコーディネイターもごっちゃだし、犯罪とかもプラントよりずっと多いです。その分警察も多いですけど」
「そういえばオーブ出身だったな」
「ハイ」
 15で国を捨てた。
 家族を守ってくれなかった国に未練はなかった。
 誰も待っていない国に、帰ろうとも思わない。
「オーブの街もこんな感じか?」
 なんとなく雑踏の中を歩きながら、イザークが訊いてくる。
「オーブの街、歩いたことないんですか?」
「任務で一度だけだ」
 あの時はアスランもディアッカも、今は亡きニコルも一緒だった。
 けれど任務中で、街中を眺める気にもなれなかった。
「オーブはもうちょっと道が広いです。街中は人多いけど、すこし抜けるとすぐ田舎です」
「田舎?」
「漁港があったり、田園風景広がってたり」
 シンは割と街中に住んでいたので、休日に家族でよく田舎のほうに出かけていた。
 新鮮な魚介を食べに行ったり、山の中のバンガローを借りてキャンプをしたり。
「プラントみたいに、どこまで行っても都会ってわけじゃないんですよね」
 そこがいいんだけど。
 シンがそう話すと、イザークはふむ と何か考えて
「自然が少ないか?」
「少なくはないですけど、こう、ぎゅっと集まってる場所はないですね、この国」
 山だの田園だのは、プラントにはない。
 田畑はそれ専門のコロニーにある。
 その中の一つで起きたのが、「血のバレンタイン」だ。
 人が住むところと、物資を作るところ。それが別れすぎていて、プラント本国はどこか落ち着ける場所がない。
「山とまでは言わないけど、公園とか、そういうの作ったほうがいいんじゃないかな」
 だってこの国、みんな疲れて見える。
 シンの言葉は、イザークの中に強く残った。

 締めはファミレスで夕食。
 イザークはドリンクバーに興味をそそられていた。
 自分で淹れたコーヒーを飲んでみて
「ドリップしてあるんだな」
 と感心する。
 メニューの多さにも驚いていた。
 シンはステーキ丼、イザークは「当店自慢!」と書かれていた鍋焼きうどん。
 じつはこの人、かなり日本文化オタクだな とシンは心の底で思う。
 程なくして運ばれてきた食事を胃にいれると、イザークが
「今日は色々勉強になった。ここは俺が支払う」
 と言ってくれたので、甘えることにする。
 支払いのときにその安さに、イザークは
「元は取れているのか?」
 と心配していたのが、何故だか笑えた。

 きちんとイザークを自宅の玄関先まで送ると、ディアッカが出た。
「オカエリ」
「今帰った」
 やっぱ夫婦だ。
 シンはその一言を飲み込んだ。
「上がってくか? 茶淹れるぜ」
「や、いいです。土産話たっぷり聞いてあげてください」
「・・・りょーかい」
 おつかれさん とディアッカが玄関を閉めたところで、シンの長い一日は終わった。


「庶民ツアー?」
「そ。シンがイザークに庶民のいろはを教えるの」
 深夜のファミリーレストランの一角。
 ドリンクバーの安いコーヒーを飲みながら、アスランは「なんだそれ」と聞き返す。
「イザーク根っからのおぼっちゃんだからね。シンがキレちゃって」
 チョコレートパフェを突付きながら、キラは楽しそうに語る。
「庶民の生活を教え込むんだ! って、今日デートしてたはずだよ」
「・・・庶民の生活、ねぇ・・・」
 そんなことも知らないのか、あいつ。
「アスランは子供の頃から僕と遊び歩いたし、今も時々庶民的なことするよね」
「深夜にファミレスに来たり、コンビニのおでん買ってみたりな」
「そうそう」
 ふふ と笑って、キラは長いスプーンでアイスクリームをすくって
「一口どうぞ」
 アスランの口先に差し出す。
「どうも」
 アスランも、なんでもないようにそれを口に含んで
「あ、キラがいつも買ってるメーカーのアイスだ」
「そんなことわかるの?」
「わかるよ」
「自分は食べないじゃない」
「キスしたときに味がわかる」
「・・・それ、誘ってるの?」
「そう。だから早く食え。溶けるぞ」
 そんな言葉を聞いて。
 キラは「明日の報告が楽しみだな」なんていいながら。
 急いでパフェを食べ始めた。


二日続けて更新です。
シンメインの話のはずが、最後はアスキラになりました。
あれ、おかしいな・・・。



ジュールさまの長い一日(前)

2007-08-12 20:11:58 | その他
「何をしている、小僧」
 昼下がりのザフト本部の休憩所。
 そこでささやかな昼食をとっていたシンは、思わず麺を吹きかけた。
 立っていたのは、ザフト統括、イザーク・ジュール。
 銀髪に白い肌に白い軍服。
 この人、このまま夜道歩いてたら完全に幽霊扱いだよな とシンは心の底で思う。
「なにって、昼飯です」
「こんなところでか」
「食堂いっぱいだったんです」
 売店で買ったカップラーメンが、今日のシンの昼食だ。外まで買いに行っている時間はない。
 伸びるし と啜った麺を、イザークはものめずらしそうに見て
「一口くれ」
「はぁ?」
 何を言い出すかと思えば。
「味が気になる。一口くれ」
「味って、これくらい食ったことあるでしょーが」
「いや無い」
 は?
 シンが食べているそれは、普通のどこにでもあるカップラーメンだ。
 かなり昔から売られているらしいそれは、現代人なら一度は口にした味だろう。
「これ、食ったことないんですか?」
「カップラーメンそのものを食ったことがない」
 しれっとしたイザークの言葉に、シンは絶句する。
 住む世界が違う。

 言うなればイザークは「おぼっちゃま」だ。
 政治家の家に生まれ、軍に入り、あれよあれよという間に軍の統括。
 エリート中のエリートだ。
 エリートといえばアスランやディアッカもそうなのだけど、アスランは子供の頃キラと食べたらしいし、ディアッカとは先日新作ラーメンについて議論したばかりだ。
 そういえばディアッカはどこに行ったのだろう。
「えーと、一口なら」
「悪いな」
 どかりとシンの横に座って、イザークはカップと箸を受け取る。
 少し匂いを嗅いで、スープを一口。その後麺を租借して
「・・・意外と食えるな」
 食えなければシンは食ってない。
「えーと、もしかして、庶民系の味って知らないんですか?」
「ファーストフードは行ったことがないな。ラーメンは一度だけだ」
 なんだそれ。
「コンビニ弁当とか」
「あれは一度食ったが、炭水化物に偏りすぎたもので好ましくない」
「回転寿司とか・・・」
「寿司が回るのか? どうやって」
 うわ、駄目だこの人。
「念のため訊きますけど、カラオケとかゲーセンに行ったことは・・・?」
「映画館なら何度もあるぞ。歌はあまり歌わんな。ゲームはチェスならするぞ」
「アンタさては激安スーパーで「価格破壊だ!」とか言う人種ですか・・・?」
「屋台の衛生面も気になるな」
 真面目なイザークに、シンはキレた。  

「ちょっとディアッカさん! イザークさんにどんな教育してんですか!」
「はぁ?」
 いいタイミングでやってきたディアッカの胸倉を掴んで、シンは吠えた。
 黒の胸倉を掴むなんて、赤がやると不敬罪なのだけど、この際気にしていられない。
「インスタントラーメンもファーストフードも食ったことがなくて、カラオケもゲーセンも知らない人間ってどうですか!」
 シンの訴えに、ディアッカはふとベンチに座ったイザークを見る。
 手にカップラーメンと箸。
 ああ と論旨を了解する。
「悪い。こいつ、おぼっちゃん育ちだから」
「貴様も人のことは言えんだろう」
「俺は好奇心旺盛なもので」
 ほら離せ とシンの手を外して、イザークの手にあるカップをじろじろ見て
「あー、これなぁ。俺は味噌味の方が好きなんだけど」
「邪道っすよ。王道はこれですよ」
「そっかなぁ。あ、おまえポテトチップは塩味派?」
「そこはコンソメ派です」
「ひねくれてんなぁ」
「俺にわからん話をするな!」
 イザークはおぼっちゃんだから、話がわからない。
「ダイエットコーラは邪道だよな」
「ですね。地球とか月とかプラントでコンビニのおにぎりの味が微妙に違うの知ってます?」
「マジで! あ、酢昆布食う?」
「なんでそんなもん・・・」
「禁煙のお供」
「普通ガムじゃないですか?」
「キシリトールガムのあのスースー感がなぁ・・・」
「だから俺にわからん話をするな!」
 キレるイザークがおもしろくて、そのまま30分、庶民トークを繰り広げてしまった。  

「庶民味?」
 昼休みの後の仕事に遅刻したことを、上司のキラにこっぴどく怒られた。
 事の次第を話せば、キラは「なにそれ」と馬鹿にした顔をする。
 自分だって庶民出身のくせに。
「カップラーメンが事の発端です。異常ですよ。食ったことないなんて」
「駄菓子の成分知ったら梃でも食べないよね、イザークって」
「身体に悪いものって美味いですよね」
「だねぇ」
 どっさり溜まった書類を整理しながら、ここでも庶民トークだ。
「そういえば最近ファーストフードって行ってないなぁ。コンビにはよく行くんだけど」
「コンビニの麺類、値段一緒なのに年々サイズが小さくなってるのムカつく」
「だねぇ。ドラッグストアのあのごちゃっと感も懐かしいなぁ」
「屋台の綿菓子食いてぇー」
 仕事はしながら、この会話だ。
 話だけ聞いたら、それこそお菓子でも摘みながらジュースでも飲んでいるのではないかというくらい、堕落した口調。
 手だけは高速で動いているが。
「次の休みは自堕落しようかなぁ」
「旦那が許さないんじゃないですか」
「アスランもけっこうああいうの好きだよ。手軽だし」
「え、食うんですかあの人」
「子供の頃はよく一緒に食べたよ」
 そこまで言って、ふとキラの手が止まって
「イザークに体験学習させてあげたら?」
「は?」
 何気ない一言が、大事の元になった。 

「貴重な休暇にすまんな」
「いーえ。とことん庶民の生活を教えてあげます」
 数日後の午前10時。
 待ち合わせた駅前で、シンは鼻息荒く宣言する。
 シンは一人で来たが、イザークはディアッカの護衛付きだ。
 ザフトの長官になにかあっては困る。一人歩きは禁物なのだ。
「つーわけで、ディアッカさんは帰ってください」
「俺はハブかよ」
「経験してる人は体験学習の必要ありませんから」
 キラの提案はこうだ。
 ザフトの統括といえば、雲の上の人。
 国を守るその人が、一般市民の生活を知らなくてどうする。
 国民のことを知ってこそ上に立つものの意識が高まるものではないのか。
 国への愛着が湧くのではないか。
 言い分はもっともだが、要するにおもしろがっているのだ。
 そしてイザークはその言葉にまんまと頷いた。
 それだったら最高評議会議員全員でツアーを組まなくてはいけないのではないか?
 そういう疑問は、ぐっと喉の奥に飲み込んだ。
「えーと、とりあえずカラオケ行きましょう。今日休日だから混むし」
「歌か」
「大昔の軍歌とか歌わないでくださいね」
 行ったカラオケで2時間。
 イザークは意外と歌が上手くて、つい採点システムで勝負を挑んで、シンはあっさり負けた。
 
 そのあとはファーストフードで昼食。
 そこでイザークは驚いた。
「なんだこの混雑ぶりは」
 休日の昼時、どこのファーストフードも大盛況だ。
「この混雑にコツがあります」
「コツ?」
「普通ファーストフードって、作り置きなんですよ。早く出すために」
「ほう」
「でも混んでると作り置きができなくて、作りたてが食えるんです。ポテトとか味違いますよ」
 そう説明して、シンはどんどん列の中に入っていく。
「えーと、どれにします?」
「種類が多いな」
「俺的に一番好きなのはこれなんですけど」
 シンが指したのは、メニューの中で一番ボリュームがあるもの。パティが3枚入っていて、食べ応え十分だ。
「同じものでいい」
「後で泣きますよ」
 ふふん とシンは勝利を感じて、そのセットを二つ注文した。
 席は禁煙席。というか、今日は休日なので全席禁煙だ。
 目の前のハンバーガーに、イザークは困惑する。
 背の高いハンバーガーに、ポテトにジュース。
 この背の高い食い物を、フォークもナイフもなしでどうしろと。
「だから言ったじゃないですか。あ、言っておきますけど、一口で上から下まで一気は常人じゃ無理ですからね」
「どうするんだ」
「こうするんです」
 言って、シンはハンバーガーをラッピングの上からすこし押しつぶした。
「パンを潰すんです。肉は潰さない程度に。肉潰したらソースはみ出て悲惨ですよ」
「・・・難しいな」
 シンの裏技をイザークは真似してみて。
 見事にソースとマヨネーズをはみ出した。

 正直少し胃もたれがする。
 ボリュームたっぷりのハンバーガーを平らげたのは、「出されたものは全部食べる」という教え込まれたマナーのせいだ。
「腹いっぱいになったし、ちょっと腹ごなししますか」
「今度はどこだ」
 行った先は、ゲームセンター。
 若者が群がり、人気ゲームに熱中している。
 その中の一人の女の子が、イザークを見て「きゃっ」と声を上げた。
 ここにきてイザークの正体がバレたらしい。
 変装でもさせるべきだったかな とシンはちょっと反省する。
「射撃ゲームか」
「この銃で、画面に出てきた敵兵を撃つんです」
「好戦的なゲームだな。精神教育上どうなんだ」
「そこはメーカーに言ってください」
 はい とおもちゃの銃を渡される。
「銃を的になる敵兵に向けたら、自動でロックされます。MSのシュミレーションと射撃訓練が一緒になってると思ってください」
「わかった」
「みんな見てますよ、ジュール長官」
 シンとイザークの周りに、わらわらと人が集まる。
 コインを入れて、スタートさせる。
 それはもう見事としか言いようのない射撃で。
 イザークは店のレコードを更新してしまった。


間が空いてすいません。
以前書いたものがそのまんまだったので、サルベージ。
・・・ほんとすいません・・・。



イノチの衝動。

2007-08-04 18:31:47 | その他
 携帯電話が着信を知らせる。
 何事だ と起き上がって携帯電話の発信者表示を見て、一つため息。
 時計を見れば、深夜2時。
「・・・どうしたの?」
 通話ボタンを押して静かな声を送れば、聞えてきたのは
「ルナ・・・」
 すすり泣きの声。
 ああ、まただ。

 ルナマリアの「彼氏」は、ちょっとどころかかなり子供っぽい。
 もう18になろうとしているのに、いつも落ち着きがなくて、荒っぽくて。
 こうして時々、泣きながら電話をしてくる。
「また怖い夢?」
「・・・ん」
「どんな夢?」
「レイ・・・」
 ああ、あれか。
 最初にシンがこの夢を見たのは、戦後すぐだった。
 戦死した親友が、時折夢に出るのだという。
 現実には違うのだけど、夢の中でその親友は、シンの目の前で殺されるらしい。
 白い悪魔に。
「今から行くから。少し待って」
「時間・・・」
「エレカで行くから大丈夫よ。私だって赤なんだし」
 でも女だし とぶつぶつ言うシンに
「待ってて」
 とだけ言い捨てて、通話を切る。
 手早く着替えて、ついでに軍服も持って部屋を出る。
 同じタイミングで、隣の部屋のドアが開いた。
「なーに。またー?」
「うん。行ってくる」
 メイリンの呆れた顔に、ルナマリアは苦笑いしかできない。
 メイリンはシンの友達ではあるけれど、「絶対彼氏にしたくない」部類らしい。
 曰く、「だってシンだもん」。
「仕事にそのまま行くから」
「またママに言い訳しなきゃいけないのー?」
 実家暮らしはここが面倒くさい。
 年頃の女の子が深夜に彼氏の家に行く。その言い訳をしてくれているのが、妹だ。
「ごめん。今度ランチ奢るからさ」
「欲しいものがあってー」
「・・・なによ」
「香水」
 また高い報酬だ。
「わーかったわよ。しっかり言い訳しておいてよね」
「了解です、ホーク小隊長!」
 ぴっ とザフト式の敬礼をする妹の頭を軽く小突いて、ルナマリアは音もなく家を出た。
 軍の訓練を、こんなことで生かすなんて。

 今日電話があるのではないか という予感はしていた。
 きっかけがあったからだ。
 日付で言えば昨日、来客があった。
 オーブ軍総督、ムゥ・ラ・フラガ。
 シンの親友であったレイの遺伝子の元になった人の、息子だという。
 そして、シンの想い人であった「ステラ」を、戦場に送り込んだ人。
 元は連合の兵士であったが、先の大戦で記憶を失い、連合に操られていたのだという。
 レイがクローンだという話は、AAで聞いた。
 終戦後保護されたAAで、治療を受けながらシンがぽつりぽつりと話してくれた。
 その後現れたフラガへのシンの怒りは、救援から戻ってきたアスランが力ずくで押さえつけるまで止まらなかった。
「約束したじゃないか!」
 シンは何度も叫びながら、泣いていた。
 フラガは言い訳のひとつもせずに、ただ黙ってシンの決して弱くはない拳を受け続けていた。

 そういう人が、仕事とはいえシンの目の前に現れるのは、正直ルナマリアとしては心中穏やかではない。
 さすがにもう叫んだり拳を振り上げたりはしなくなったが、それでも瞳に憎悪を宿す姿は、見ていられない。

「シン?」
 エレカを飛ばして、シンが借りているアパートの部屋の鍵を、貰った合鍵で開ける。
 ドアの隙間から声をかけると、
「・・・っ」
 怯えた子供が、飛びついてきた。
 ああもう と呆れながら
「大丈夫。もう、大丈夫だから」
 ほんとうに手がかかる男だけど。
 しょうがないじゃない。
 
 翌日仕事に二人で行くと、上司であるキラに
「シン、目が腫れててみっともない」
 と辛辣な一言をもらった。
 もともと赤い瞳が、腫れてたしかにみっともない。
「・・・すいません」
「まぁいいや。今日は通常業務だし」
 やれやれ とキラはデスクに着いて
「そうだ。いいもの見せてあげる」
 カバンを探って、一枚の写真を取り出した。
「赤ん坊?」
「双子ちゃんなんだよー」
 受け取ったシンと写真を見れば、金髪の赤ん坊が二人、寄り添って眠っている。
「右がオトコノコ、左がオンナノコ」
「誰の子供なんですか?」
 自然に聞けば
「ムゥさんだよ」
 地雷。
 かっ とシンの怒りに火が着くのを隣で感じた。
 今にも写真を破り捨てようとするシンに、もう一枚、キラが差し出す。
「こっちが起きてるとき」
 怒りを抑えようとして動けないシンの代わりに受け取って、
「ちょ、シン」
 思わず、シンの腕を掴む。
 ぱっちりと開かれた、双子の瞳の色。
「これ・・・」
 男の子のほうはアイスブルー、女の子のほうはシンより幾分か紫がかった赤。
「男の子がレイ、女の子はステラ」
 キラの言葉に、シンがばっ と顔を上げた。
「コーディネイトしてないから、完全なナチュラルなんだけどね。どういうわけかそういう色の眼で」
 ムゥさんが勢いで名付けちゃったんだって。
「レイ・・・ステラ・・・?」
「うん」
 いい名前だよね。
 キラはあどけない顔で言う。
 シンの瞳は、もう決壊寸前で。
「今度会いに行こうよ」
「・・・はい」
 ぐしっ と袖で涙を拭うシンに、ルナマリアはそっとハンカチを差し出した。


前にブログでぼやいたネタをサルベージ。
・・・イザークB.Dまで時間があるもので・・・。




公園通り(シン日常編)

2007-05-21 17:31:43 | その他
 最近しみじみ思う。
 「普通が一番」。
 俺はまだ18で、この年で変化を嫌うのは年寄りくさいかもしれないけど、最近本当にそう思う。
 15で家族を亡くして天涯孤独になった。
 16で初めて人を殺した。
 17で生きることの大切さを知った。
 激動の3年間。
 その後は平和な毎日が続いている。
 俺はザフトに残ったのはいいけど、あれこれ問題があってフェイスの資格を剥奪された。
 それにもう執着はなかったから、あっさり返した。
 その後、今までザフトのMSを倒しまくってた人がザフト軍人、それも白(隊長。俺より偉い)になった。
「部下? じゃあ、シンくん」
 その人の実にあっさりとした一言で、俺の新しい上司が決まった。
 仕事は主に隊長が嫌がった仕事の後始末。
 嫌いな書類整理とかさせられて、ひと段落して休憩を入れていたら
「新型組みあがったって。見に行く?」
 って隊長に誘われて開発部の格納庫に行ったら
「じゃあ、これね」
 って俺のパイロットスーツを渡されてテストパイロットさせられたり。
 しかも相手が隊長で、
「僕、出力70%でやるから。それで負けたら今日はシンの奢りー」
 なんて言われて意地で本気で戦って(当然実弾は使わない)、予測数値異常の性能引き出したにも関わらず負けてイタリアンフルコース奢らされたり。
 最近想いが通じたらしい隊長とその恋人(俺の元隊長)が喧嘩したときとか双方の愚痴を聞かされたり。
 まぁ、遠距離だから仲直りが難しいのはわかるんだけどさ。最後にはのろけになるのはやめてほしい。
 朝決まった時間に隊長を迎えに行って、一緒に仕事して、たまに夕飯一緒に食って、送って俺の仕事はやっと終わる。
 朝から晩まで隊長と一緒で、時々隊長の恋人に嫉妬を向けられるくらい一緒に居る。
 だから今日みたいにたまの休みになると、一気に気が抜ける。
 いつもよりかなり遅い時間に起きてみて。
 とりあえず洗濯機のスイッチを入れて、昨夜買っておいたパンとインスタントコーヒーで食事を済ませる。
 それから洗濯物を干して、最近買ったばかりのバイクで出かけてみる。
 これは三代目。
 アカデミーに入ってすぐ、車とバイクの免許を別カリキュラムで取らされた。
 アカデミーに居る間も給料は出て、それを貯めこんでいたもので卒業と同時に400ccの小さなバイクを買った。
 戦後それはごたごたあってなくなってしまったので、二代目は思い切って750cc。
 こいつもいいやつだったんだけど、最近の俺は遅めの成長期に入ったらしく
「なんか最近、そのバイク小さく見えるのよね」
 とルナマリアに言われて買い替えに踏み切った。
 気がつけば俺の身長は175センチを超えていた。
 戦後軍服のサイズ更新は2回やった。
 それでここまででかくなればバランスも取れるだろうと、今度は1100ccのバイクを買った。
 バイク屋の親父に「兄ちゃんの細腕じゃ支えられないんじゃないかー?」とかからかわれたけど(実際転げて起こせないバイクには乗ってはいけない)、
そこは軍人を舐めてはいけない。俺だって伊達で赤服は着ていない。
 まぁ、白を着ているうちの隊長は軍人としての訓練をなにも受けていないそうだから、こいつは支えられないだろうけど。
 そうして手に入れた新車に跨って、この間18の誕生日に隊長に
「僕の部下がノーヘルで走って捕まったり、転んで頭かち割ったなんて恥ずかしいからね」
 と皮肉付きで貰った新しいフルフェイスのヘルメットを被る。
 貰ったヘルメットは赤を貴重にしたデザインで、俺好みでカッコイイ。
 バイクのエンジンのかかりもいい。
 思いっきり飛ばしたい気分で出発したはいいけど、プラントはどこまで行っても都会。車が多くて飛ばせない。
 ああ、いっそ長期休暇とか取って地球まで走りに行こうかな。
 そんなことを思いながら走って、昼時に目に付いた定食屋で、隣に座ってるガタイのいい親父たちに負けないくらい食って。
 ふらりと本屋に立ち寄ってみた。
 ヘルメットを抱えたまま雑誌を見る。
 軍事関係の雑誌を見てしまうのは、もう職業病だ。
 あ、ストライクフリーダムとインフィニットジャスティスが載ってる。
 ぺらぺらとページを捲ると、でかい写真(戦中の戦闘シーン)と、隅っこに「推定」と書かれたスペックが。
 ・・・これはちょっと無理あるんじゃねぇ?
 たしかにこの二機は非公式で、有名ではあるけど詳しい数値を軍は公表していない。(っていうかできるわけない)
 だからどこぞの軍事マニアとかが出した数字なんだろうけど。
 この出力じゃあのパワーは出せないし、このエネルギー数値だとあれだけバンバン撃ってたらすぐにエネルギー切れだ。
 まぁ、どれだけ撃ちまくってたかなんて、現場をみていなければわからないだろうけど。
 おもしろくなって「明日隊長と見て笑おう」と購入を決める。
 ついでに漫画を久しぶりに読もうと店内を歩いていたら、思いがけない人たちに出くわした。
 ザフトMS隊総括、イザーク・ジュールと、その副官、ディアッカ・エルスマン。
「お、シンじゃん」
 ディアッカさんとはよく話をする。
 上司の悪口だったり、バイクの話だったりで、意外と気が合う。
「ちわ。買い物ですか?」
 外なので敬礼はナシだ。
「そー。うちの仕事の鬼がやっと休んでくれてさ。なのにいきなり本屋に行きたいとか言い出して。これで4件目」
 うんざり とした顔をしたディアッカさんの手には、分厚い本が積み重なっている。
「これで終わりだ」
 その上にさらに二冊、ぽん とイザークさんが載せた。
「・・・月刊MS? そんなもの読まなくてもデータはあるだろう」
 俺が持っていた雑誌を見て、イザークさんが眉間に皺を寄せた。
「あ、ちょっとおもしろいんすよ、これ」
 そう言って、さっきまで見ていたページを開いて見せてみる。
 するとみるみるイザークさんは不機嫌顔になっていった。
「ディアッカ。どういうことだ」
「・・・MS管理部に取材依頼が殺到して。正確な数値なんか出せねぇから、適当にごまかしとけって言ったんだけど」
「誤魔化すにしても、もっと上手くできないのか」
「やったの俺じゃねぇし・・・」
 二人とも今では管理職だけど、元は前線で活躍したれっきとしたMSパイロットだ。
 数字の違和感にはすぐ気づく。
「あいつに、もっと誤魔化せる数値を出せと言っておけ。それをザフト公式として公表する」
「わかりましたー」
 ばさり とまだ買ってもいない雑誌を放り投げられる。
 隣りあわせでレジを済ませると、イザークさんはとんでもない額を払っていた。
 本屋でこんな金、払うなよ・・・。
 何故か一緒に本屋を出て、ディアッカさんにバイクの自慢なんかしてみたり。
「おー、いいじゃん!」
「思い切りましたよー」
「1100ね。シンには妥当じゃねぇ?」
「1900のバルカンに乗ってる人に言われるとムカつくー!」
 ディアッカさんは身長が180あるので、しかも足が長いので、でかくてどっしりしたバイクが異様に似合う。
 うらやましい。俺もそんな大人になりたい。
「いいって。おまえくらいの年はこれくらいでバンバン走ってるほうが似合うよ」
 じゃ、うるさいのが待ってるから と、ディアッカさんは荷物を抱えて車のほうに行って帰ってしまった。
 時刻は夕時。
 ルナマリアは今日は早上がりだって言ってたなぁ。
 ぼんやり思って、バイクを飛ばして帰る。
 干しっぱなしにしていた洗濯物を取り込んで、畳むのは後にして、ヘルメットを片付けて、車のキーを握る。
 もう一回駐車場に行って、いつもの車(隊長を迎えに行くのもこれ)(白のスポーツワゴン)に乗り込んで。
 休みだというのに、軍本部に向かった。
 私服でも、IDさえあればゲートは潜れる。
 ルナマリアはいつもエレカで通勤しているから、いきなり迎えに来ても問題ない。
 出入り口で張っていると(さすがに私服は目立つ)、30分も待たないうちにルナマリアが降りてきた。
「おつかれ」
「シン? 休みじゃなかったの?」
 驚いた顔をして、一緒にいた同僚に挨拶して駆け寄ってくる、年上の彼女。
「早上がりって言ってたから、迎えに来た。メシいこーよ」
「この格好で?」
 そういうルナは軍服だ。
 俺と隊長も軍服で食事には行くけれど、男と女、しかも男が私服で女が軍服は目立つ。
 うーん。どっかないかなぁ。
 悩んでいると、ルナマリアはぷっと吹き出して
「手料理、食べたいんじゃないの?」
 下から覗き込んでくるのは反則だ。
「・・・オネガイシマス」
「はいはい」
 負けてうな垂れる俺の頭をよしよしと撫でて、ルナは笑っていた。 
 ルナは料理上手なほうじゃないけど、そこそこ上手い。なにより手作り。
 手料理に飢えている俺には、最高のご馳走だ。
 できた彼女で、幸せです。
 そうしてルナの手料理で締める、俺の休日。
 平凡な日々。
 それがすごく幸せなんだってことに、俺は最近気づいた。
 すこし大人になった気分だった。


シンちゃんには普通の生活送ってほしいです。
シンが乗ってるバイクはZZR1100。これは通常仕様だと1100にはレッドはないのですが、そこは特注ということで。
車はレガシィ・ツーリングワゴン。
趣味ですがなにか。 
  

学園アスキラ番外(ラスティの場合)

2007-05-12 21:06:43 | その他
 俺の親友は、ちょっと変わっている。
 親友の名前は、アスラン・ザラ。
 成績優秀、眉目秀麗、その上家は大手貿易企業の社長家系。
 小学校で同じクラスになって、その見た目を気に入って俺から声をかけた。 
 まぁ、平たく言えばナンパに近い。
 そのまま近所の中学に上がって、あいつは格調高い私立の寮にでも入るのかと思っていたら、
「近いし。入れるから」
 という理由(俺と一緒)で近所の進学率の高い公立高校に進学した。
 中学のときに一緒に生徒会なんかやっていて、そのときの会長だったミゲルがこの高校にいて、
その人柄(やけにウケがいい)(おまけに面倒見もいい)のせいで生徒会長になっていて、俺とアスランは揃って生徒会に勧誘された。
 俺はもう事務関係に飽きていたし、趣味でやってるバンドが忙しくなってきたのでそれを理由に断ったが。アスランは
「ああ、わかりました」
 の一言で生徒会入り。
 ミゲルの卒業とともに、アスランはちゃっかり会長の椅子に座っていた。
 前記の褒め言葉に「生徒会長」を加えれば、もう見るからに「優等生」をイメージしがちだが、こいつがちょっと違う。
 女遊びは激しいし(自分からは手を出さない。女のほうから寄って来るのがムカつく)、酒は呑むし、実は喫煙者。
 酒と煙草はバレないようにやっているが、女遊びは有名だ。
 なのに信奉者が多いから、不思議なヤツ。
「アースラーン」
 学校の廊下でその親友を見つけて、大きな声で呼んでみた。
 こんな風にフランクにアスランを呼べる人間は少ないので、ちょっと自慢だったりする。
「・・・おはよう、ラスティ」
 寝不足な顔が振り向いた。
「なによ、受験勉強疲れ?」
 最近親に反抗して志望大学を変えたアスラン。
 会長職を退き、それでも毎日生徒会室に通って後任の会長を甲斐甲斐しく世話するヤツ。
 勉強時間は限られているはずだ。
「いや・・・。ネットで戦闘機の構造を調べていたら、朝になってて・・・」
 もう一回言う。こいつは変だ。
「気にならないか? あれだけ精密で洗練されてて、銃器を積んでいるのにあのスピード。どうなってるのか、気になって・・・」
「いや、俺、その趣味わかんねぇし」
 両手を挙げて降参をすると、アスランは「誰もわかってくれないんだよなぁ」と儚げに呟いた。わかってたまるか、そんな趣味。
「おまえさ、今度の土曜、夜空いてる?」
 受験生に訊くことではないのは重々承知しているが、相手はアスランだ。かまうことはない。
「土曜? キラと水族館に行くんだ」
 あーそーですか。デートですか。
 キラ というのは、アスランの後任の生徒会長で、アスランの非公式の恋人だ。
 俺は別に男同士に偏見はないし、なにより先日紹介されたキラが意外とカワイイヤツだったので親友としても祝福している。
 つうか、デートで水族館って、中学生かオマエら。
「夜7時からさ、ライヴあるんだよ。対バンで出番はトップだから、メシ食って帰る前に寄っていかねぇ?」
 3バンド出るライヴでトップということは、まぁ、人気の問題とかあるんだけど。
 高校生がやってるバンドがあのライヴハウスで、しかもこの対バンというのは少し誇れる。
 後に続くのは、インディースでCD出してて、全国ツアーとかやるようなバンドだ。
 客もそこそこ入るだろう。
「出番は45分くらい。チケット二枚でハイ、5000円ジャスト!」
 要は押し売りだ。
 ノルマがあるんだ、仕方ない。
 ピラ っと出したチケットを睨んで、アスランは黙る。
「おーい? とうとう小遣い止められて金欠かー?」
 そんなわけないよな。水族館行くくらいなんだから。
「・・・あんな治安の悪いところにキラを連れて行けと?」
 うわぁ、怖ぇ。この低い声、いい声なんだけどマジ怖ぇ。
「煙草臭くて暗くて、酒を飲んだやつらが騒ぎ立てる、聴力を低下させるだけの場所にキラを連れて行けと?」
 わぁー・・・。不機嫌MAXだよ。俺ってタイミング悪ぃー。
「頼むよー。ノルマこなせないと次呼んでもらえねぇんだ」
「おまえが一時的に組んでるバンドなんか知るか」
「一時的って! そりゃ、そのうち解散とかあるかもだけど!」
「一度おまえのバンドを見たけど・・・」
 前に一度、アスランにはライヴに来てもらった。
 あのときよりでかいハコなんだけどな。
「素人見解で言わせてもらうけど、おまえ、仲間を選んだらどうだ?」
「あ?」
 はー とアスランはため息を吐いて。
「おまえにはもっと上手いヤツと組んだほうが、将来性が見えてくる。つり合う仲間を早く見つけろ」
 俺を褒めてるらしい。
 え? 俺のギター、上手いって言った? コイツ。
「で、もっと綺麗で治安のいい、ホールとかでやるようになったら呼んでくれ」
 そしたらキラと行くよ。
 そう言って、アスランはさっさと教室に入ってしまった。
 俺はただ、チケットを握って廊下に立ちすくんだ。
 あのアスランに褒められた。
 付き纏って苦節11年ちょっと。
 初めてのこと。
 俺はうれしくなって、今組んでいるバンドを抜けることを決意した。
 もうすぐ音楽学校に進学する俺。
 そこでいいやつらを見つけよう。
 アスランが自慢できる恋人をみつけたみたいに。
 俺も、一生かけて歩いていける仲間を見つけよう。
 何度でも言う。
 俺の親友、アスラン・ザラは、ちょっと変だけど、いいやつだ。  


はじめましてラスティさん。
あんな少ない台詞ではこれが限界でした。
イイヤツなんだけどな! おもしろそうなヤツなんだけどな!
ラスティさんが出るライヴハウスは、池袋のあそことか、高田馬場のあそことか、目黒のあそことかのイメージ(V系じゃん)