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ZONE-ZERO

ガン種中心二次創作サイト簡易版。アスキラ中心です。

さよなら。

2007-09-30 20:48:12 | その他
シンアスっぽいアスシンっぽいアスキラです。(なにそれ・・・)
シンアス真ん中バースディです。

「アンタっていつから隊長のこと好きなんですか?」

 仕事でザフト本部に来て、シンを見つけた。
 シンでも通せる話だったので頼もうと思ったら、
「いーけど代わりに昼飯奢ってください」
 といつもながら拗ねているのか甘えているのかわからない口調で強請られた。
 ちょうど昼時だったので「じゃあキラも誘って」と言いかけたら
「あの人抜きで」
 と頑として譲らない。
 これはなにかあるな と思って承諾して、この言葉だ。
 意図がつかめず、アスランは困惑した。
「いつから・・・?」
「好きだって自覚したの。いつですか? 幼馴染なんですよね?」
 彼がこういう色恋沙汰に触れようとするのは、珍しいことだ。
「昔から大事だとは思ってたけど・・・本当に自覚したのは戦後だな」
「ほんとうにって?」
「なんとなく・・・、好きだな、と思うときはあったんだが・・・」
 それで? とシンの眼差しが促す。
「その、同性だろう? いろいろ足掻いて・・・」
「認めたくなかったんですか?」
「まぁ、そうなるかな」
 ふぅん とシンはアスランの奢りのハンバーグを口に放り込む。
 ナイフとフォークは苦手らしく、シンは割り箸を愛用している。
「認めたくなかったのに、なんで認めたんですか?」
「キラはもう、俺の一部になっていたから」
「一部?」
「心臓だよ」
 意味がわからない と、シンが首を傾げる。
「俺を動かすものが、キラだったんだ。考えてみたら、いつだってそうだった。キラのために、キラが喜ぶようにって、そればかりだったんだ」
「末期ですね」
「そうだな」
 アスランは自嘲的に笑って、目の前のスープにスプーンを差し入れた。
「キラは、ずっとそれを知ってて、俺が覚悟するのを待っていてくれたんだ」
「は?」
「言われたよ。「アスランは僕がいなきゃ生きていけない人だよね」って・・・」
「うっわ、自意識過剰」
「過剰じゃないよ。事実だ。キラは俺より俺のことをよくわかってるんだ」
「アンタ、鈍いしね」
「そうだな」
 行儀悪く箸についたソースを舐めるシンを叱りもせず、アスランはスープを口に含む。
「アンタ、クリーム系って好きでしたっけ?」
「え?」
「いや、ミネルバに乗ってるとき、あんま飲んでるの見なかった気が・・・」
「ああ」
 アスランは自分で注文したかぼちゃのスープに視線を落とす。
「キラが好きで、家でもよく作ってやるから・・・」
 癖になったんだな。
 そう言うと、シンはすこし不機嫌な顔をする。
 気に障ることでも言っただろうか。
「隊長の、どこが好きなんですか?」
「どこっていうのはないな」
「え?」
「生きて、笑って、俺の傍にいて。そうして、幸せでいてくれたら」
 それが一番いい。
「そう思ってるだけで、キラのここが、とか、こうだからっていうのはないんだ」
「あえて言うなら?」
「・・・自由なところかな」
 俺にはないものだから。

 彼を「自由」と表現するなら、彼の機体の名はおあつらえ向きすぎるだろう。
 そして、アスランの機体の名も、彼を現している。
 「JUSTICE」。
 正義だけでなく、「正直」や「公正」を表す言葉だが、時に「罰」という意味でも使われる言葉だ。
 そこについでに「鈍感」も加えてやりたいくらいだ。
「隊長って、アスランさんのどこが好きなんですか?」
 昼食を終えて仕事に戻ったシンは、キラにも同じ質問を投げかけた。
「え?」
「アスランさんの、どこが好きなんですか」
「どこって・・・」
 うーん と、キラは手を止めて考える。
 質問に乗じてサボる気だな と感づいたけれど、シンは問いの答えを待つ。
「きれいなところ、かな?」
「顔ですか」
「顔じゃなくて」
 顔も好きだけどさ とキラは真面目に答える。
「けっこう汚いこともしてきたみたいなんだけど、一番大事な部分が汚れないんだよね、アスランって」
「アンタは?」
「僕はほら、打算的でしょ?」
 納得してしまう。
「アスランはそういう、損得じゃなくて、なにが一番大事かってことで動くでしょ?」
 時々自己完結しすぎてから回るけど と、キラは笑って
「そういうところがね、好き」
 きっぱりと、まっすぐな瞳で。
「だって、普通皆自分の利益になることしかしないじゃない」
 みんな自分が一番かわいいんだもん。
「でもアスランは、そういうところがないんだ」
 裏を返せば、自分を大事にしていないってことだけど。
「やさしいんだ」
 
 一緒の艦に乗っているときは、いつも怒られていた。
 先走りすぎだの、殺しすぎだの、態度が悪いだの。
 先走りを怒るのは、死なないようにするためで。
 殺しすぎを怒るのは、人の恨みを買わないようにするためで。
 態度が悪いことを怒るのは、人当たりを悪くしないためで。
 いつだって。
 シンが傷つかなくていいように。
 叱ってくれた人。
 やさしすぎて、いつも自分ばかり傷ついて。
 それでも、「これでいいんだ。おまえが無事でよかった」と言ってくれて。
 そのやさしさが。
 いつだって。

「俺、アスランさんのこと、好きだったんですよ」
 深夜に電話をかけてそう言ったら、アスランは黙って聴いてくれた。
「好きだから、甘えてたんです」
 夜の夜中に電話して、「明日に響くぞ」なんて叱ってくれない。
 ただ、黙って聴いてくれる。 
 そのやさしさが。
「ほんとうは俺、キラさんの立場になりたかった」
 あなたの一部になりたかった。
 あなたの中心になりたかった。
「ほんとうは、キラさんがうらやましかったんです」
 自覚がなくても、あなたの中心にいるのが、誰だか自分は知っていた。
 その瞳が、誰を見ているのか知っていた。
「好きだったんです。すごく」
「・・・過去形なのか?」
 そこで初めて、アスランが言葉を発した。
 低くて、すこし掠れていて、抑え目の声。
「昔好きで、今は?」
 今は?
「今って。ルナいるし・・・」
「彼女は彼女だろう。そうじゃなくて、今俺はおまえの中でどうなってるんだ?」
 どうって?
 だってアンタ、キラさんのもので。
 自分にはいま、立派な彼女がいて。
 それで、「過去の話です」でいいんじゃないの?
「べつに・・・」
「どうでもいい存在になったか?」
「どうでもよくなんて・・・!」
「俺は、少しでもおまえの中にいるか?」
 すこしどころか。
「・・・いつでも、アンタが目標です」
「ならよかった」
 ふっと、笑った気配がした。
「嫌われたり、どうでもいい存在になるのが、一番怖いからな」
「怖い?」
「ああ、怖いよ」
「俺、キラさんじゃないよ?」
「おまえでも。嫌われるのは、怖いよ」
「どうして」
「・・・大事な人だと、俺は思ってるから」
 じゃあな と、一方的に電話を切られた。
 規則的な音が鳴るだけの携帯電話を耳に当てたまま、言葉を反芻する。
 大事な、人?
 元部下じゃなくて?
 生意気な後輩じゃなくて?
 一人の人として、見てくれてる?
「・・・・卑怯だろ、それ・・・」
 折りたたみ式の電話をそのままベッドに投げつけて
 膝を抱えて、シンは泣いた。
 初恋は、相手が死んだ。
 二度目の恋は、
 今、失恋した。

「・・・・シンから?」
「起こしたか?」
 寝ていたはずのキラが、隣から押さえ気味の声を発した。
 シーツの下に隠れた身体は、何も纏っていない状態だ。
「ひどいよね。散々僕のこと愛してるなんて言っておいて、シンには「大事」だなんて」
「嫉妬か?」
「ちょっとね」
 機嫌取りに髪を撫でてやると、キラは気持ちよさそうに目を細める。
「で? シンはなんて?」
「ああ・・・」
 電話をサイドテーブルに置いて、ベッドにもぐりこんで
「俺のこと、好きだったって」
「過去形なんだ」
「どうだろうな」
「やだなぁ、シンがライバルなんて」
 ぎゅう と、キラが甘えて抱きついてくる。
「ライバルには、ならないよ」
「そうなの?」
「・・・愛してるよ、キラ」 
 
 ゴメン なんて言わないよ。
 だってきみはそれを望んでいないから。
 そう言ったらまた、拗ねるだろうか?
 なぁ、シン。      



永遠の眠り姫。

2007-09-19 19:52:35 | アスキラ
 アスランは、僕に甘い。
 やさしいとかそういうレベルではなく、「甘い」んだ。
 それは昔から、まだ僕らが小さな子供だったころからの習慣みたいなもので、
 アスランが甘やかして、僕が甘えて。
 そうやって互いの信頼や感情や、いろんなものを確かめ合ってきた。
 だから、これはその延長。
 僕がアスランを信じていて、アスランも僕を信じてるって、確かめる作業。
 意味なんて、絶対にない。
 少なくとも、アスランのほうには、あるはずないんだ。

 夜中のAAの一室。
 僕とアスランの二人部屋。
 今日の夜待機はムゥさんで、めずらしく二人一緒に眠ることができた。
 交代でシャワーを浴びて、髪を乾かしあったりして軽くじゃれて。
 「おやすみ」って言い合って、それぞれのベッドに潜る。
 それで眠ればいいんだろうけど、僕はただじっと、暗い部屋の中で隣のベッドに視線を送り続けていた。
 背を向けたアスラン。
 五分もそれを続ければ、ごそりとアスランが動いて
「・・・どうした?」
 視線に気づいて、声をかけてくれる。
「眠れない?」
「・・・うん」
 仕方ないな って、いつもどおりに軽くため息をついて、ベッドの半分を開けてくれる。
 僕はそれに誘われるように自分のベッドから飛び降りて、アスランの隣に潜り込む。
「狭いな」
「くっつけばいいじゃん」
「くっついても、俺は結構ぎりぎりなんだけど?」
「僕は平気だもん」
 甘えるようにしがみつけば、アスランも腕枕をしてくれて、空いた方の腕でしっかりと抱き寄せてくれる。
 言っておくけど、僕らは別に恋人じゃない。
 親友。ただ、それだけで。
「アスラン」
「はいはい」
 おやすみのキスまでくれる。
 ほっぺたや額じゃなく、ちゃんと唇に。
 軽く触れ合うだけのキスに不満を訴えれば、もっと深く。
 そうして、泥沼に嵌っていって。
「まったく・・・。明日に響く・・・」
「その気満々のくせに」
「誰のせいだ」
 いつからだろう。
 たしかに子供の頃一緒にお風呂に入ったりはしたけれど。
 いつからだろう。
 アスランが、僕を抱いて。
 僕が、アスランを受け入れるようになったのは。

 行為の間は、言葉なんかない。
 囁くような愛はないし、必要ない。
 ただ、互いの乱れた呼吸や、上がった体温を感じて。
 汗ばんだ肌を重ねて、息ができなくなるくらいキスを重ねて。
 体中にたまった何かを、吐き出しあうだけ。
 ただ、そんな関係。
 愛なんて
 あるわけ無いと、思ってたのに。

 フリーダムのシートに身を沈めて、深くため息をついた。
 きっともうすぐ、この戦争は終わる。
 終わったら、僕らはどうなる?
 いつまでもAAにいられるわけじゃない。
 いつまでも互いの背を守りあえるわけじゃない。
 いつまでも、甘えていられるわけがない。
 終わったら
 僕はひとりになる。
 たぶんじゃなくて、絶対に。
「キラ」
 不意に声をかけられて、反射的に顔を上げた。
 目の前にアスランがいるのにも気がつかなかった。
「なに?」
「・・・調子、悪いのか?」
「なんで?」
「ぼーっとしてた」
「あ、ごめん。考え事」
 なに? と訊き返すと、アスランは疑うような目をして
「俺の機体、すこしOS弄っておいてくれないか?」
「どうしたの?」
「いや、時々、おまえの動きについていけないから。反応速度を上げておいて欲しいんだ」
「・・・それって」
「おまえのせいじゃないよ。俺が、鈍いだけだから」
 センサーの反応、改良しておいてくれ。
 そう言って、アスランは仕事に戻っていく。
 どうしよう。
 とりあえずフリーダムから降りて、ジャスティスに乗ってみる。
 機体のOSは前に弄ったんだけど・・・。
 アスランの機体の反応速度は、コーディネイターが乗るにしても上げすぎなくらいあらゆる設定を上げている。
 アスランの要望ではあったのだけど、それが「おまえに合わせるためだ」と言われて、すこし戸惑った。
 僕のフリーダムは、そんなにセンサーの反応を上げていない。
 センサーに頼りすぎると、勘が鈍くなる。それはパイロットとして致命的だ。
 同じだと思っていたアスランが、どんどん遠くなる。
 アスランは「普通」のコーディネイターで、僕は「特別」なコーディネイター。 
 そういう部分が、こういうとき、顕著になる。
 正直、イヤだ。
 アスランとは、いつまでも同じでありたいのに。
 対等でいたいのに。
 キィボードの上に乗せた指が、重かった。

 スクランブルがかかれば、どんな作業をしていても中断して、ロッカールームに走る。
「先行くぞ!」
 ロッカールームの近くにいたらしいムゥさんは先に着替えていて、僕らも追いかけるように着替える。
 着難いパイロットスーツにも慣れた。
 背中合わせに、アスランが着替える音。
 赤いパイロットスーツ。
「・・・どうした?」
「あ、ううん」
 やっぱり視線に気づいたアスランが、振り向いて僕の顔色を伺う。
 なんでだろう。
「なんで、気づくの?」
「え?」
「センサーの反応上げなきゃ僕の動きについて来れないとか言ってるくせに、なんで僕の視線には気づくの?」
 こんなときになに言ってるんだ って言いたげな顔が
「簡単だ」
「なに」
「おまえの視線なんか、身体が覚えてる」
 長いときをかけて。
「おまえのして欲しいことも、して欲しくないことも、全部」
「・・・全部?」
「ああ」
 パイロットスーツの首元を調整して
「わかってる。全部」
 身体ごと振り向いて、そっとキスをくれた。
「わかってるから。これが終わって、おまえがどうしたいのかも」
 これってなに?
 この戦闘のこと?
 このキスのこと?
 それとも、この戦争のこと?
「行くぞ」
 腕を引かれて、僕は問いかけることに失敗した。

 戦闘が終われば、ドッグは慌しい。
 修理と、次の戦闘に備えての整備で、あちこち人が怒鳴ったり走ったり。
 そんな中を潜り抜けてシャワールームに行くと、遅れてきたアスランが
「調整、ありがとな」
 と声をかけてきた。
「あ、よかった?」
「うん。前より動きやすい」
 ってことは、完全じゃない。
 あれでめいっぱいなんだけどなぁ。
 ばさりとパイロットスーツを脱ぎ捨ててブースに入ると、
「ちょ、なに!?」
 無理やりアスランも同じブースに入ってきた。
 べつに他のブースがいっぱいってわけじゃない。
 ほかに誰か・・・たとえばムゥさんとかが入ってこない確証はない。
 こんなところを見られたら、言い訳できないのに。
「キス、したいなと思って」
「部屋ですればいいじゃない」
「今すぐ」
 キスだけね?
 そう言ってはみたけれど、それが聞き入れられるわけはなかった。 

「や、あすら・・・」
「いや?」
「部屋、帰ってから・・・」
「我慢できない」
 往生際悪く逃げようとする僕をアスランは強引に捕まえて、
「ひゃっ!」
「暴れると落ちるぞ」
 両足を抱え上げて、そのまま強引に侵入してきて。
 僕を侵す。
 身体中、心の奥底まで。
 アスランの欲望で満たしていく。
 いつからだろう。
 それが、快感になってしまったのは。

 熱が
 身体中に染み渡るあの瞬間がすき
 アスランの何かが僕のなかに入ってきて
 僕をすきなように蹂躙して
 アスランが
 僕で気持ちよくなって
 一言、「ごめん」とだけ言って
 熱を吐き出すあの瞬間の顔
 どれだけの人が知っているかわからないけど
 少なくともカガリやラクスは知らないはずの顔
 僕だけのアスラン
 そう思っただけで
 身体中が熱くなる
 吐き出した後はいつも気まずそうな、申し訳なさそうな顔をするけれど
 僕は「いいよ」って言って笑うだけ
 遠慮して外になんか出して欲しくない
 僕の中に
 ありったけのアスランの熱を出して欲しい

 そう思うのは、いけないこと?

「これで、終わりにしよう」
 アスランがそんなことを言い出したのは、戦争が「終結」というかたちになったとき。
 救援やなにやらであわただしくしていたのが一段落したときだった。
「・・・いきなり、なに?」
 裸のまま、押し倒された格好で、僕に跨るアスランに訊いた。
「カガリの、護衛に就こうと思うんだ」
「・・・それで?」
「頻繁には会えなくなる」
「・・・だから?」
「キラは、お母さんのところに行くんだろう?」
「うん。ラクスも一緒に」
「だったら、もうこういうことはできなくなる」
 どうして という言葉は飲み込んだ。すこし考えればわかること。
 場所がないんだ。
「・・・僕に飽きた?」
「違う」
「カガリに本気になった?」
「・・・・」
「・・・そっか」
 なにも言わないアスランを押しのけて、僕は床に放られたアンダーを拾い上げた。
「・・・キラ」
「なに?」
「俺はおまえが怖いよ」
 背中で聞いたその一言で、なにかが凍りついた。
 そうか。
 だからカガリなんだ。
 キミは臆病者だから、自分より強い人が怖いから。
 僕を抱くことで、僕に勝った気になって
 自分より弱い、「守ってあげられる」カガリのところに行くんだね。
 正直
「見損なった」
 僕はきっちり軍服を着こんで、そのまま部屋を出た。
 アスランの顔なんか、見たくなかった。
 弱音を吐くアスランなんか、みたくなかった。

 アスランは昔から僕のヒーローだった。
 勉強ができて、運動ができて、なんでもそつなくこなすアスランは僕の憧れだった。
 人望があってあれこれ頼まれることは多いくせに、僕が一言言えばそれを全部断ってすべての時間を僕にくれた。
 僕だけのアスランだった。
 いつでも、頼りになる「親友」だったのに。

「怖い。そう、怖いと、アスランは言ったのですか」
「臆病なんだ。プライド高いだけなんだ。自分より上の人間を削除して、弱い人だけ周りに置いてヒーローになりたいだけなんだよ」
 ぶすくれた僕に、ラクスは苦笑しながら紅茶を淹れてくれる。
「そうですわね。アスランはとっても臆病な方」
「見損なったよ」
「でも、人は総じて臆病ではありませんか?」
「?」
「好きな人には、嫌われたくなくて、怖いものですもの」
「・・・・え?」
「この世で一番怖いものは、自分の一番大切な人」
 食堂の安い紅茶で口を湿らせて、ラクスは続ける。
「好きだから嫌われたくない。完璧な自分を見て欲しい。それはいつしか恐怖に変わっていく」
 ・・・好き?
「確かなものがないから、なまじキラは強すぎますから」
 強い?
 誰が?
「アスランには、想像できなかったんでしょうね。今のキラが」
 こんなに、強くなったキラが。
 でも とラクスは続ける。
「キラも、実はとっても弱い方」
「言ってること違うよ」
「戦う力はあっても、本当に向き合いたい方と向き合うことのできない、勇気のない方」
 真っ直ぐに、僕を見つめて
「弱虫同士ですわね」
 鈴が鳴るような声で言って、花のように笑った。

 僕は弱虫な子供だった。
 甘ったれで、アスランがいなきゃなんにもできない子だった。
 いまでも変わらない。
 アスランがいなきゃ
 泣くことも、できないなんて。

 ほんとうにほしかったのはなんだったのか、考えた。
 考えるまでもなかった。
 ずっと欲しかったのは、アスランの熱なんかじゃなくて
 ずっとずっと
 こころが
 ほしかったんだ。

「あのさぁ!」
 ドアが開いた瞬間に怒鳴って、アスランはびっくりした顔をしていた。
「なんか勘違いしてない!?」
「・・・なにを」
 静かな声。
 ドアが閉まって、薄暗い部屋で。
「僕、強くなんかないんだけど」
「・・・・」
「全然、めちゃくちゃ弱くって、甘ったれのままなんだけど」
 アスランは何も言わない。
「いまだに怖いことだらけだし、アスランいなきゃなんにもできないし、好き嫌い多いし」
「それでも・・・」
「戦闘能力なんか、戦争が終わったら関係ないよ」
 ぐっと、アスランが言葉に詰まった。
「第一強いのはMSに乗ったときだけで、肉弾戦とかてんで駄目だし、いまだに銃もうまく使えないし」
 ベッドに座り込んだままのアスランを睨みつけて
「アスランがいなきゃイヤだ」
「・・・キラ」
「いやだ。絶対いやだ。僕から離れちゃいやだ」
「キラ」
「いやだってば!」
 力いっぱい怒鳴りつけて
「・・・ひとりにしないでよ」
 そう言った瞬間に、自然に、涙が零れた。
「もうやだ。ひとりはやだ。アスランがいなきゃいやだ」
 子供みたいに「いやだ」って言い続けて
「とおくにいかないで・・・」
 ずるりと膝の力が抜けて、僕はドアに背を預けてへたりこんでしまった。
 反射的に、アスランが駆け寄ってくる。
「キラ・・・」
「離れる気なら、触んないで」
 伸ばされた手を、振り払って
「僕だけを選ぶなら、触って」
 なにもかもに。
 膝を抱えて、俯いて。
 いつまでも触れない、ただその場に膝をつくだけのアスランに、また絶望して。
「・・・もう、やだ」
 口をついて出たのが、そんな言葉ばかり。
「なんで、こんな・・・」
 こんなことになったんだろう。
 なんでアスランのことなんか好きになったんだろう。
 馬鹿じゃないの、僕。
 こんな優柔不断な、臆病な男を好きになって。
 なんになるの。
 生産性のない愛なんて。
 宇宙のごみになっちゃえばいいのに。
 戦争の残骸と一緒に、燃え尽きちゃえばいいのに。
 燃えるだけ燃えて、いつまでたってもなくならない。
 隕石になって、僕と一緒に地球に落ちていく。
 こんなに傷だらけになっても
 なんで心は死なないんだろう。
「キラ・・・」
 アスランは、触れてくれない。
「ごめんな」
 聞きたくない。
「ほんと、ごめん」
 謝罪なんて。
「おまえを傷つけたいわけじゃないんだ」
 釈明なんて。
「幸せになってほしいだけなんだ」
「だったら・・・!」
「俺といても、おまえは幸せになれないよ」
「なんでわかるの!? なんで僕の幸せをアスランが決めるの!?」
 わけわかんない! とまた泣いて。
「俺は、おまえがそばにいると、俺でいられなくなる」
 なにそれ。
「弱くなるんだ。おまえに依存して、俺自身がだめになる。そんなのじゃ、おまえのそばにはいられない」
「なんで」
「つり合わない」
 まただ。
 強いとか、弱いとか。
 意味わかんないよ。
 どうどう巡りの会話に、疲れる。
「おまえが、自分のことを弱いって言うなら、なおさらだ」
 泣き続ける僕に、アスランは触れないまま
「強くなって、おまえを守れるくらいになって、必ず迎えにいくから。その間に、おまえが誰かを選んだら、俺は身を引くけど・・・」
 はっきりしない物言いで
「でも、俺が納得できるくらい強くなれて、そのときおまえがまだひとりだったら・・・」
 そこで言葉が区切られて
「必ず、そのときは攫いにいくよ」
 ちゅっ と、髪にキスをくれて
「待たなくていい。俺のわがままで、ふりまわしてごめんな」
 ひとつの呪いを残した。

 そんなこと言われて
 僕がほかの誰かを選ぶと思ってるの
 選べると思ってるの
 馬鹿じゃないの
 そんなこと言われたら
 僕は死ぬまで
 ひとりきりだ

「愛してるよ」
 
 100年の眠りにつきたい。
 きっとキミが誇れるくらい強くなるには、それくらいの時間が必要だろうから。
 はやく
 この呪いを解いてよ  



お久しぶりの更新です・・・。
なんかドロ沼アスキラが書きたくなりました・・・。
アスランは優柔不断野郎だと言い張ります。

ぼや記。

2007-09-04 19:14:32 | その他
予告です。
アスランとシンの真ん中バースディイベントに行けないので
このサイトでお祝いしたいと思います。(どんだけ行きたかったの)

9月30日。

シンアスのような、アスシンのようなものを上げます。

でも実態はアスキラです!
あら?
全然お祝いになってないわ、これ・・・。
ほんでアスランバースディの準備を始めなければいけません。
早めに・・・なにか気愛の入ったものを・・・。
ネタ切れ中なので、いっそのこと! と、リクエストとかも受け付けようかと思ってます。
拍手で一言でいいので、よろしくお願いしますー。
もうこの際、18禁とか気にしませんので(笑)
普通に書きますので。

おかえり。

2007-09-04 18:03:33 | 戦後アスキラ
 最近のアスランは、ちょっと説教くさい。
「キラ! 使ったカップは流しに持っていけって言ってるだろ!」
 掃除のために僕の部屋に入ったアスランが、発見したマグカップを持って怒鳴ってくる。
「ごめん。忘れてた」
「何度目だ」
 ぶつぶつ言いながら、台所でカップを洗うアスラン。
 こういう説教が、最近増えている。

「軍服そのまま放っておくな。読んだ本放置するな。ゲームは2時間。にんじん残すな」
 あとなんだっけ と指折り数えて、うんざりした。
「つうか、最後のふたつって子供に言うことじゃないですか?」
「だよね!?」
「つまりキラさんはガキレベルだと」
「怒るよ、シン」
 執務室の机に、キラは大きなため息と共に突っ伏す。
「ほんと、口うるさいんだよ」
「まぁ、ミネルバにいるときもうるさい人ではありましたよ。俺もよく軍服の襟閉めろって言われてました」
「それは僕も言いたいんだけど?」
「会議とかのときはちゃんとしてるからいいじゃないですか」
 まぁ見てるのは僕だけだからいいけど とキラは身体を起こしてシンに買ってきてもらった紙パックのジュースをストローで吸い上げる。
 堅苦しいなかにいると、時折こういうチープなものが恋しくなる。
「で、喧嘩したんですか?」
「現在進行形」
「またですか・・・」
 シンは内心、うんざりする。
「もう、別れたほうがいいのかなぁ」
「はぁ!?」
 突然なにを言い出すのか。
「あんたら一緒にいなかったら世界がおかしなほうに進みますよ!」
「僕らの関係って、世界レベルなんだ?」
「あんたらが仲良くしてるからプラントとオーブも仲良くやってるんですよ」
「それって重いなぁ」
 やばい、重症だ。
「キラさんって、かなりアスランさんに依存してますよね」
「依存?」
「要するに、アスランさんに甘えてるんですよね、それって」
 そうかなぁ と、キラはすこし考えた。

「キラ。風呂」
「んー」
「キーラ」
「もうちょっと・・・」
「ああもう!」
 ブチッ!!
「あー!!」
 真っ暗になった画面に齧りついて、キラは絶叫した。
「何度言えばわかるんだ!」
「だからって電源切ることないじゃない! 僕のいままでの苦労どうしてくれるのさ!」
「知るか!」
「開き直る!? 信じらんない!」
 吠え付いても、アスランは電源プラグをぷらぷらさせながらそっぽを向いている。
「最近アスラン、性格悪い」
「キラは子供っぽいな」
 むっ とした空気が流れて。
「家出するよ」
「すれば?」
「馬鹿!」
 ガン! とコントローラーを容赦なくフローリングに叩きつけて、キラは自室に飛び込んだ。
「おまえ! フローリングに傷ついたぞ!?」
「知らない!」
「知らないですむか!」
 追いかけてきたアスランに目もくれず、キラはぎゅうぎゅうと鞄に着替えを押し込んで
「ばいばい!」
 言い捨てて、本当に家出した。

 ぴーんぽーん。
 駆け込み寺は、いつものごとくイザークの家。
 オートロックで部屋を呼び出すと、いつもどおりディアッカが出て
「悪い。おまえ、うち出入り禁止」
「はぁ!? なにそれ!」
「タレコミ有」
 アスランだ。
 先を越された。大方電話で「キラを泊めるな」とでも言って、行く手を阻んでいるのだ。
「メンドクサイのカンベンなんだ。悪いな」
 今うちの家主、ぴりぴりしてっから というディアッカの言葉で、そういえば近いうちに連合との会談があるのだと思い出す。
「わかった。ありがと」
 鞄を抱えて、車に戻る。
 念のため携帯でシンに連絡を入れたら
「俺んとこにも連絡ありました。キラさんを泊めるなって」
 やっぱり。やることが姑息なのだ。
「元上司と現上司、どっちに従う?」
「つうかホテルとかに行きましょうよ・・・」
「じゃあラクスのところに行ってやる」
「待った待った! それマジにこじれるから! わかりました! 一晩だけですよ!?」
 勝った。
 ラクスはただの友達だから本当に行ってもかまわないのだけど、仮にも相手は女の子。しかも評議会議長だ。
 うっかりマスコミに見つかれば大変な騒ぎになるし、第一アスランの逆鱗に触れること間違いなしだ。
 そうなってはもう後には戻れない。
 

「すいません。現隊長には逆らえませんでした・・・」
 キラは来るなり「お風呂貸して」と言って今はバスルームだ。
 一応、事の次第をアスランに報告すると、電話の向うから盛大なため息が返ってきた。
「悪いな。明日には連れ戻すから・・・」
「とっとと仲直りしてくださいよ」
「それがなぁ・・・」
 難しいんだ とアスランはぼやく。
 いつもどおりアンタがキラさんをべたべたに甘やかせばいい話じゃん と思うのだが。
「すこし、キラを自立させたくて・・・」
「なんかあるんですか?」
「キラにはまだ黙っていてくれ」
「はぁ」
 曖昧な返事をすると、アスランはぼそぼそと説明をしてくれた。 

「お風呂ありがとー」
「どういたしまして」
 暢気に出てきたキラに、シンは複雑な表情を向けた。
 言ったほうがいいのかな。でも口止めされたしな。
「シン。言いたいことは言ったほうがいいよ」
「・・・・・・」
 この嘘がつけない性格が恨めしい。
「本人から聞いたほうがいいと思うんですけど」
「いいよ。なに?」
「アスランさん、オーブに帰るって」
「・・・・・・・え?」
 きょとん とキラが目を丸くする。
「出張、とか?」
「長期で」
「なにそれ! 聞いてないよ!?」
「言い出しにくかったんでしょ!?」
「そんな大事なこと・・・! なんで!」
「だってアンタ泣くでしょう!」
 そんなこと、いきなり言われても困る。
 長期ってどれくらい。
 なんで。
 いつ行っていつ帰るの。
「だから! ああもう! 泣かないでくださいよ!」
「混乱してるの! ちょ、僕の電話とって!」
「はい」
 ぐしぐしと涙を拭って、キラは差し出された電話でアスランを呼び出す。
 長いコール。
「・・・もう家出は終わりか?」
「オーブに帰るってなんで」
「・・・シンは本当に俺の言うことは聞かないな・・・」
「いいから。なんで。いつからいつまで」
「落ち着け」
 シンに渡されたティッシュの箱から多めに取って、涙を拭う。
「滞在手続きの更新なんだ」
「え?」
「オーブが用意した軍人用官舎に住んでいればいらないことなんだけど、俺は勝手にマンション買ったから、手続きが必要なんだよ」
「軍人なのに?」
「プラントはそうなんだ」
 知らなかった。
「で、ちょっと時間がかかるから、その間キラが一人でもきちんと生活できるようにと思って、つい」
 口うるさく言ってしまった。
「いつから行くの」
「来週」
「いつまで」
「一ヶ月くらいかな」
「なんでそんなにかかるの!?」
「あっちでの仕事もあるし、プラントはもともとビザが取りにくい国なんだよ」
 だからって。
「ごめん。少しだけ、がまんしてくれないか」
 わかってる。一緒に居るために、アスランはオーブに戻って手続きをするんだ。
 わかってるけど。
「子ども扱いヤダ」
「うん。ちょっと、うるさすぎたな、俺」
「アスランに甘えたいだけだもん」
「・・・うん」
「一人になったらちゃんとできる」
「そうだな」
「だから」
「帰っておいで」
 うんって頷いて。
 シンにごめんねって言ったら「いーから早く帰れ」って呆れた顔で言われて。
 着てきた服に着替えて、鞄を掴んでシンのアパートを出た。
 そこに
「おかえり」
 路上駐車の車によりかかったアスランがいて。
「ただいま」
 ごめんなさいのかわりに、思い切り抱きついた。

 翌週、アスランはオーブに一時帰国した。
 わがまま言って見送りに行ったら、方やオーブの軍服、方やザフトの軍服で、それはもう目立って。
 護衛でついてきたシンに「すっげぇはずかしい」と言われてしまった。
 それでも。
 人目につかないところで、シンに見張りまでしてもらって、軽くキスをして。
 アスランはシャトルに乗って地球に行ってしまった。

「フリーダムでついていけばよかった・・・」
「冗談でも言うな」
 三日もすれば、キラは根を上げた。
 イザークが苦い顔をする。
「その辛気臭い顔をなんとかしろ」
「だって」
「だって言うな。今からオーブとの会談なんだ。アスハ首長に会えるだろう」
「んー・・・」
 カガリに会うのが嫌なわけじゃない。
 アスランに会えないのが不満なだけだ。
 宇宙港の長い廊下を歩きながら、キラは大きなため息をついた。
「軍服を着ているときは胸を張れ。背筋を伸ばせ。毅然としていろ」
「今日からイザークのあだ名は『料理店』」
「誰が注文が多いか」
 VIP専用口の前で、出迎え。
 シャトルはとうに到着していて、そろそろカガリに姿が見えるはずだ。
 今日はマスコミも少ない。
「キラ!」
 明るい声がしたと思ったら
「カガリ・・・。仮にも首長なんだから、走らないで・・・」
「似たもの姉弟だな」
 がばり と抱きつかれて、隣から『料理店』の皮肉が聞えた。
「だっておまえ! 最近オーブに帰ってこないし!」
「ごめん、忙しくて」
「わかってる。その辛気臭い顔の理由もな」
「う・・・」
「そろそろ出てくるぞ」
 なにが?
 カガリを抱きとめたまま、視線をゲートの先に向ければ
「なんで!!」
「耳元で叫ぶな!」
「だって! なんでいるの!?」
「・・・仕事だって・・・」
 気恥ずかしそうなアスランがいた。
「だってビザは!?」
「公務だから、必要ないんだ」
「詐欺だー!!」
 僕の落ち込んだ気持ち返してよ! と叫んでも、アスランは苦笑いをするだけで。
 カガリに至っては「いい仕事するだろう、私」と勝ち誇っている。
「とりあえず会談がある2日間は、帰れるよ」
「え、護衛は?」
「それはキサカさんがやってくれる」
 いつまでもキラに抱きついているカガリを無理やり引き剥がして
「ただいま」
 そう、耳元で囁いてくれた。
「・・・おかえり」 
 

最近サボりがちだったので・・・。
というかあまりアスキラしてなかった気がするので・・・。
どうしてもイザークが書きたい病。



いつか僕らは。

2007-09-01 17:33:38 | その他
「バースディ休暇?」
 八月中旬のある日。
 シンから提出された二枚の書類に、キラは嫌な顔をした。

 「常日頃、プラントのために汗を流してくださっている軍人の方々が、お誕生日くらいお休みしても罰は当たらないのでは?」
 プラント最高評議会議長、ラクス・クラインの一言で決まった制度が、「バースディ休暇」だ。
 大きな会社などではあるらしいが、軍で採用するのはザフトが初らしい。
 加えて
 「一人でお休みしてもつまりませんもの」
 という理由で、パートナーがザフト軍人である場合はパートナーの休暇も許可されている。
 ちょっとおきらくな制度だ。

「あー、そっか。シン9月1日だっけ?」
「ハイ」
「で、ルナマリアも休暇申請って・・・」
「恋人でも上司公認なら許可出るんですよね」
 キラは言い返せない。
 常日頃から「早く結婚しちゃえば?」なんて言っている以上、ここで「公認してないよ」なんて言えるはずがない。
「二人が休んだら、僕一人で仕事になっちゃう」
「諦めてください」
 ヤマト隊の構成員は三人だ。
 そのうちの二人が休めば、結果的に隊長一人で仕事をすることになる。
「僕も休んじゃおうかなぁ」
「イザークさんがそれは許可しないそうです」
 先手を打たれた。
 イザークも先日バースディ休暇を取った一人だ。当然、ディアッカも一緒に。
 それは許可せざるを得ないだろう。
 曰く、「上が取らない休暇を下が取れるか」で、模範演技だと言い張るのだが。
「9月1日かぁ。一応通常業務予定だね」
「ルナがそこは調整してくれましたから」
 キラのスケジュールは、ルナマリアが管理している。
 今もキラの代理であちこち走り回っているはずだ。
 その彼女に休暇をあげないのは、上司としてどうか。
「・・・わかった。許可します」
「やった!」
 キラは二枚の申請書にサインを入れて、ばさり とファイルに投げ込んだ。
 ちきしょう。いいな。

 休暇 と言っても一日だけなので、旅行に行ったりはできない。
 デートでもする? と提案したら
「アンタの家に行きたい」
 とルナマリアが言い出した。
 反論する理由もないので、そういう予定にして、前日夜中に大掃除をした。
 
「はいこれ、メイリンから」
 午前中からやってきたルナマリアは、いきなり小さな包みを差し出した。
「サンキュ。どーぞ」
 どーぞ なんて招いたりするけれど、ルナマリアはこの部屋の鍵を持っている。いまさらだ。
 民間のアパート。1K。
 軍の官舎に住んでいた時代もあったけれど、一日中軍人の顔を見るのが嫌でこの部屋を借りた。
 申請すれば上官用官舎にも移れるらしいが、あそこはどうも敷居が高い。
 必要最低限 と思ったら、この部屋になった。
「あいかわらず、なんにもないわね」
「掃除したんだよ」
「ふーん? 見られちゃマズイものでも置いてたの?」
 買い物袋を提げてキッチンに行くルナマリアの一言に、「色気ねぇ」とため息を吐く。
 別に色気がない付き合いではない。
 だけど思い返せば「付き合おう」だとか「好きだ」とか告白して付き合い始めたわけではない。
 いつから付き合ってるの? なんてキラに訊かれて、返答に困ったこともある。
 なしくずし。
 そんな感じなのだ。
「ケーキ買って来たから、夜食べよ」
「手作りじゃないし・・・」
「だってこの部屋オーブンないし。昨日作ってる暇なかったんだもの」
 昨日もルナマリアは今日の休暇のために走り回っていた。
 たしかに暇はなかっただろうし、この部屋にオーブンはない。あるのは安物の電子レンジだけだ。
「いまどきオーブン一体型じゃないなんて。どこで見つけたのよ、こんな骨董品」
「え、アカデミーの先輩に貰った」
「呆れた。買いなさいよ、それくらい」
 ぶつぶつ言いながら、ルナマリアは冷蔵庫を開けて
「やだ。このコンビニ弁当、いつのよ?」
「あー、四日前?」
「捨てるわよ!」
 これだから男の一人暮らしって と文句を言いつつ、今夜の食材を冷蔵庫に詰めていく。
 どうやら今夜はご馳走らしい。
「さてと。どうしよっか」
「え、なんかあるからウチなんじゃねぇの?」
「ないわよ」
 ただなんとなく。
 きっぱりとした一言は、いっそ清清しい。
「時間あるし、夜まで待とうと思ったけど、いっか」
 なにやら勝手に決めてしまったらしいルナマリアは、バッグの中を漁って
「はい、お誕生日おめでとう」
 と少し大きめの箱を取り出した。
 どうりで鞄が大きいと思っていたら、これが入っていたのか。
「サンキュー。開けていい?」
「どうぞ」
 わくわくと包みを開けて
「うぉ!」
 本気で驚いた。
「シンってばバイクに乗るとき軽装すぎるんだもの。事故ったら怪我するわよ」
 ライダースジャケット。
 本皮。
 値が張りすぎるのと、自分には似合わない気がして手を出せずにいたものだ。
「いいの?」
「これから着るにはいい季節よね」
 にこにことルナマリアは笑う。
 思わず立ち上がって着てみて、そのサイズのジャスト感に
「・・・どっからサイズ・・・」
「アンタの軍服のサイズ更新申請したの誰かしら?」
 言われてみれば。
 シンは戦後、めきめきと成長した。
 気がつけばキラを追い越し、アスランも追い越し、今ではイザークに並ぶほどだ。
 日系にしては伸びたほうだと思う。
「マジうれしい! サンキュ!」
「メイリンからのも開けたら?」
 ああそうだ と一応ジャケットを脱いでハンガーに掛けて、メイリンからの包みも開けてみる。
 出てきたのは、人気のデジカメ。
 メッセージカードに
『思い出大好きなシンへ。お姉ちゃんとの思い出も撮ってよね』
 なんて書かれていた。
 その下に
『おかえし3倍忘れずにね☆』
 バレンタインじゃねぇんだから と思いつつ、ありがたく貰うことにする。
「んじゃ、記念に一枚」
 と不意打ちでルナマリアに向けてフラッシュを焚いたら、怒られた。

 誕生日は、母さんが作ったご馳走とケーキ。
 父さんからのプレゼントと、マユからのバースディソング。
 年の数だけろうそくを立てて。
 ひとつ大人になったね って笑ってもらって。

 大人になるって、どういうこと?

 19歳になった。
 世間では立派に大人の年だけれど、シンはいまだに周囲から子供扱いをされる。
 周りにいる人たちが皆立派すぎて、シンは追いつけないでいる。
 追いかけて追いかけて、でも先を行かれていつも悔しくて。
 軍で後輩もたくさん出来たし、MS小隊を任されているし、時々アカデミーの訓練講師をすることだってある。
 若すぎる後輩たちに「アスカさん」と尊敬の眼差しで見られることに、違和感を感じて。
 「シン」と気安く呼び捨てされて安心して。

 大人ってなんだよ って、最近思う。

「俺ってガキじゃん・・・」
「あら、やっと自覚した?」
 ソファのない部屋で、ラグを敷いただけの床にぺったり座ったルナマリアに、耳掻きなんかしてもらって。
 それが幸せだと感じるなんて。
「ちょっと動かないでね」
「もうちょい、下」
「ここ?」
「あ、そこ」
 軽く痒いところを掻かれて、全身から力が抜ける。
 犬猫じゃあるまいし。
「ルナぁ」
「なに?」
「結婚しよ」
 がりっ。
「いっ・・・つ!!!」
「アンタ、なに・・・」
「謝れ! まず謝れ!!」
「あ、ごめん」
 飛び起きて耳を押さえて、涙目になりながら、
「嫌かよ」
「嫌っていうか、アンタ、なんかあるんじゃなかったっけ?」
「なんか?」
「ディアッカさんが言ってた」
 ああ、「ルナより上に行くまでは」ってやつか。
 痛みの引いた耳から手を離して、うーん とシンは天井を仰いで。
「なんか無理な気がしてさぁ」
「平和な現状じゃ無理でしょうね」
「でも戦争はもうカンベンだし」
「そうね」
「つうかこのままほっといたら他のヤツに攫われそうな気がして」
「それはないわよ」
「なんで」
「言わせないでよ」
 ルナマリアの顔が、ちょっと赤くなる。
 あ、かわいい。
「よし、指輪買いに行こう」
「ちょっと!」
「あれ、親に挨拶が先だっけ」
「ちょっと落ち着きなさい!」
 立ち上がろうとする手をぐいぐい引っ張られて、シンは仕方なくルナマリアの隣に座る。
「なに焦ってるの?」
「オトナになったから」
「なにそれ」
「オトナだから、けじめつけようと思って」
「あのねぇ・・・」
 アタタ と、ルナマリアは米神を押さえる。
「義務感とか勢いだけで言われて、頷けるわけないでしょ?」
「だってさぁ・・・」
 ぶう と、シンは膝を抱えてしまう。
 175センチを超えた男が小さくなっている姿は、正直笑える。
「アンタなんか、全然オトナじゃないわよ」
「19だし」
「年じゃなくてね」
 よしよし とシンの髪を撫でてやると、駄々っ子甘えっ子モードのシンはこてんとルナマリアの膝に頭を預ける。
 こういう仕草が、子供だというのに。
「俺もなんか守るもの欲しい」
「守るもの?」
「アスランさんと隊長とか、イザークさんとディアッカさんとかみたいに」
 守りあう人がほしい。
「私はそうじゃないの?」
「なんか、不安定じゃん? 恋人って」
 あのねぇ と、ルナマリアは嘆息して
「隊長たちもイザークさんたちも、認められてるものなんてないわよ?」
 婚姻統制の敷かれたプラントで、認められないまま互いの手を選んだ人たち。
 その絆の強さは、たしかにうらやましいけれど。
「焦らなくていいのよ。身長が一気に伸びたみたいに、心もそのうち成長するから」
「成長痛痛かった。あれはもうヤダ」
「あー、アンタひどかったものね」
 遅い成長期を迎えたシンは、それはもう大変だった。
 骨という骨、関節という関節が痛み、歩くのも苦痛の日々。
 夜中に激痛が走って思わず叫びながら飛び起きたこともある。
「オトナになるのって、楽じゃねぇ」
「そうね」
 ほんと、オトナってなんだよ。
 大きくなっても、大人じゃないじゃん。

 そのまま眠ってしまったシンの頭を床に降ろして、ベッドから降ろした毛布をかけてやる。
 大きな身体。
 知り合った頃も付き合い始めた頃も、自分とたいして変わらなかったのに。
 いつの間に、こんなに。
「大きくなっちゃって」
 母親のような台詞だな と、ルナマリアは自分で思う。
 いつか、家族になれればと思う。 
 だけど、それはシンがほんとうに大人になってから。
「しっかり揉まれて、頑丈になってよね」
 今日みたいに、泣き言でプロポーズなんて冗談じゃない。
 弱い男に興味ないわよ と暢気な寝顔を突付いて。
 ふと窓の外を見れば、人工とは思えないほど突き抜けた青だった。


久々の更新でございます・・・!!
おめでとうシンちゃん! 大人になってねシンちゃん! 
シンとルナの会話が好きなんです。
「シンだけノーマルカプなんですか?」というご質問をいただきましたので、
次回は思い切ってシンアスにでも挑戦しようかと・・・!!(あーあ、言っちゃったよ・・・)