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ZONE-ZERO

ガン種中心二次創作サイト簡易版。アスキラ中心です。

キミと生きる時間のなかで

2007-10-29 17:47:05 | 戦後アスキラ
 忘れられない思い出が、ある。

 コペルニクスは、桜の咲き始めの季節だった。
 父の命令で、母と移住した。
 しばらくして、母が「友達が近所に住んでいた」と大喜びで帰ってきた。
 母の友人といえば研究者仲間かと思ったが、そうではなく今は専業主婦だという。
 そこに自分と同い年の息子がいるらしいから会いに行こう という話には、正直戸惑った。
 同年代の子供とは、話をしたことがない。
 父の仕事の関係でのパーティではいつも大人の相手ばかりしてきたから、同年代の子供にどう接していいかわからなかった。
 無理やり連れて行かれたのは、本当に徒歩数分の一軒屋。
 『Yamato』という表札からして、日系。
 日系人にはあまり会ったことがない。
 チャイムを鳴らすと出てきたのは、ふんわりとした雰囲気の女性。
 玄関先できゃあきゃあと盛り上がり、母は思い出したように
「うちの息子。アスランよ」
 と紹介してくれた。
 すると女性は「ちょっと待って」と奥に声をかける。
 「はーい」と元気のいい返事が聞えてきて(少々舌ったらず)、出てきたのは
「うちの息子。キラ、ご挨拶は?」
 母親のの足に隠れるようにして出てきたのは
「キラ・ヤマト・・・です」
 すみれ色の瞳の・・・・・オンナノコ?

 コーディネイターは、脳の発達が早い。
 ゆえに言語の発達も早いはずで、キラはコーディネイターで、しかも自分より半年近く早く生まれているというから、もっと言語が発達していてもおかしくないはずなのに
「えーと、あしゅらん?」
「違う。アスラン」
「んー?」
 リビングで隣同士お菓子を摘んで、何度レクチャーしても、キラはうまく名前を発音してくれなかった。
「おともだち?」
「・・・まぁ、そうなる、かな?」
「おともだち、いや?」
「嫌じゃないよ。ただ、慣れてないだけ」
「?」
「あー・・・わかんないならいいよ」
 投げやりになっていなかったかと言われれば、否定はできない。
 なし崩しに、俺たちは友達になった。

 数年経てば「友達」兼「幼馴染」。
 そうしていつからか、括りは「親友」になった。
 キラは人見知りをする子で、俺もあまり徒党を組むのがキライで、自然と会話は二人でするものになった。
 とはいえあたりさわりのない程度にクラスメイトとは会話をするし、ときには女の子から手紙をもらったりした。
 そのたびにキラは不機嫌になり、その機嫌取りが大変だったのは忘れたくても忘れられない記憶の一つだ。
 やさしくしてやれば喜び、甘やかせば甘えてくる。
 いつしかキラは俺に依存ともいえるような頼り方をするようになっていったが、それは嫌ではなかった。
 むしろ嬉しい。
 なにかしてやるとはにかんだ笑顔で「ありがとう」と照れたように言う。
 その顔が、大好きだった。

 別れの時。
 最後に見たのは、涙ではなく、なにかもの言いたげな目。
 でもキラの口からは、なんの言葉も出なかった。
 あのときキラは、何を語ろうとしたのだろう。

「キーラぁ」
「んー?」
 つらつらそんなことを思い出していたら、ベッドサイドの時計が日付の変更を知らせた。
「日付変わったよ」
「あ、じゃあ乾杯しよう!」
 人の膝を枕にしてテレビを観ていたキラが、がばりと身体を起こす。
 俺たちは大人になった。
 まだ子供の年で人を殺し、キラとも殺しあった。
 何度も何度もすれ違った。
 すれ違って、喧嘩して、それでも一度もキラのことを嫌いだと思うことはなかった。
 むしろそのたび愛しくなっていって。
「シャンパンとワイン、どっちがいい?」
「赤? 白?」
「赤」
「じゃ、それ」
 はーい と、今ではしっかりとした活舌で返事をして、キラは乾杯の支度をする。
「僕開けるの苦手」
「貸して」
 キラからワインの瓶を受け取れば、俺の好きな銘柄。
「キラ、これ苦手なんじゃないのか?」
「いいの。アスランのお祝いなんだから」
 子供の頃はほとんど同じものを食べていたけれど、成長すれば味覚も差が出る。
 特にキラは、好き嫌いが激しい。
「明日どっか行く?」
「デートしたいのか?」
「プレゼントは明日の朝渡すけど。アスランなにかしたいことある?」
 グラスの端を合わせて、一口飲んで
「キラと一日いちゃいちゃしたい」
 正直に言うと、キラは真っ赤になって「ばか!」とそっぽを向いた。
 昔なら「一日いちゃいちゃ」というとべったりくっついて行動するだけだった。
 それが別の意味になったのは、俺たちが大人になったから?
「キーラ。俺、誕生日」
 にじり寄って耳元に囁くと、ますますキラが赤くなる。ああ、耳まで赤い。
「・・・いちゃいちゃ、だけ・・・ね?」
「それはどうかな」
「なんで!」
「それは俺が大人になったから」
 しれっと返すと、キラはこちらを伺うように振り向いて
「・・・大人っていうか、やりたい盛りの学生みたい・・・」
 言うようになったな、こいつ。
「大人になったっていうなら、もうちょっと自重しようよ」
「まだ枯れてないもので」
「アスラーン」
 ワインを継ぎ足して、つまみのチーズを口に放り込んで
「で? 覚悟は?」
 意地悪く訊けば
「・・・イヤじゃない」
 わかりきった返答。
「キラも若いな」
「人を年寄り呼ばわりしないでよ! 同い年じゃん!」
「普段半年の差を強調してるの誰だ?」
「うー」
 いつまでも子供っぽいキラも、かわいいのだけど。
「せっかくバースディ休暇取ったんだ。めいっぱい有効に使おう」
 自分のグラスをテーブルに置いて、キラのグラスも奪い取って
「大人の楽しみ方でさ」
 まだ赤い顔をしたキラの唇を、そっと塞いだ。


 おまけ
 
「ブルーチーズ不味いー!!」
「なんで嫌いなものを用意するんだよ!」
「うぇ、キモチワル・・・」
「酒弱いんだから無理して飲むな!」
「ちょ、無理・・・」
「キラ! 吐くなら洗面所かトイレ!」
「うー・・・・」



というわけで、アスランBDでーす!
最近放置気味ですいません・・・。
なんか不幸な主人公役の子とお馬鹿な主人公の子、そして赤の人と黒の人に萌えが爆発してまして(人、それを浮気という)
でもアスランのことは忘れてないよ! 愛は不滅だよ! たぶん!(ぇ
おまけでキラさまがゲロってるのは別にわんこそば180杯を見た後書いたからってわけじゃない。決して! ええ、決して!!


おかえり。

2007-09-04 18:03:33 | 戦後アスキラ
 最近のアスランは、ちょっと説教くさい。
「キラ! 使ったカップは流しに持っていけって言ってるだろ!」
 掃除のために僕の部屋に入ったアスランが、発見したマグカップを持って怒鳴ってくる。
「ごめん。忘れてた」
「何度目だ」
 ぶつぶつ言いながら、台所でカップを洗うアスラン。
 こういう説教が、最近増えている。

「軍服そのまま放っておくな。読んだ本放置するな。ゲームは2時間。にんじん残すな」
 あとなんだっけ と指折り数えて、うんざりした。
「つうか、最後のふたつって子供に言うことじゃないですか?」
「だよね!?」
「つまりキラさんはガキレベルだと」
「怒るよ、シン」
 執務室の机に、キラは大きなため息と共に突っ伏す。
「ほんと、口うるさいんだよ」
「まぁ、ミネルバにいるときもうるさい人ではありましたよ。俺もよく軍服の襟閉めろって言われてました」
「それは僕も言いたいんだけど?」
「会議とかのときはちゃんとしてるからいいじゃないですか」
 まぁ見てるのは僕だけだからいいけど とキラは身体を起こしてシンに買ってきてもらった紙パックのジュースをストローで吸い上げる。
 堅苦しいなかにいると、時折こういうチープなものが恋しくなる。
「で、喧嘩したんですか?」
「現在進行形」
「またですか・・・」
 シンは内心、うんざりする。
「もう、別れたほうがいいのかなぁ」
「はぁ!?」
 突然なにを言い出すのか。
「あんたら一緒にいなかったら世界がおかしなほうに進みますよ!」
「僕らの関係って、世界レベルなんだ?」
「あんたらが仲良くしてるからプラントとオーブも仲良くやってるんですよ」
「それって重いなぁ」
 やばい、重症だ。
「キラさんって、かなりアスランさんに依存してますよね」
「依存?」
「要するに、アスランさんに甘えてるんですよね、それって」
 そうかなぁ と、キラはすこし考えた。

「キラ。風呂」
「んー」
「キーラ」
「もうちょっと・・・」
「ああもう!」
 ブチッ!!
「あー!!」
 真っ暗になった画面に齧りついて、キラは絶叫した。
「何度言えばわかるんだ!」
「だからって電源切ることないじゃない! 僕のいままでの苦労どうしてくれるのさ!」
「知るか!」
「開き直る!? 信じらんない!」
 吠え付いても、アスランは電源プラグをぷらぷらさせながらそっぽを向いている。
「最近アスラン、性格悪い」
「キラは子供っぽいな」
 むっ とした空気が流れて。
「家出するよ」
「すれば?」
「馬鹿!」
 ガン! とコントローラーを容赦なくフローリングに叩きつけて、キラは自室に飛び込んだ。
「おまえ! フローリングに傷ついたぞ!?」
「知らない!」
「知らないですむか!」
 追いかけてきたアスランに目もくれず、キラはぎゅうぎゅうと鞄に着替えを押し込んで
「ばいばい!」
 言い捨てて、本当に家出した。

 ぴーんぽーん。
 駆け込み寺は、いつものごとくイザークの家。
 オートロックで部屋を呼び出すと、いつもどおりディアッカが出て
「悪い。おまえ、うち出入り禁止」
「はぁ!? なにそれ!」
「タレコミ有」
 アスランだ。
 先を越された。大方電話で「キラを泊めるな」とでも言って、行く手を阻んでいるのだ。
「メンドクサイのカンベンなんだ。悪いな」
 今うちの家主、ぴりぴりしてっから というディアッカの言葉で、そういえば近いうちに連合との会談があるのだと思い出す。
「わかった。ありがと」
 鞄を抱えて、車に戻る。
 念のため携帯でシンに連絡を入れたら
「俺んとこにも連絡ありました。キラさんを泊めるなって」
 やっぱり。やることが姑息なのだ。
「元上司と現上司、どっちに従う?」
「つうかホテルとかに行きましょうよ・・・」
「じゃあラクスのところに行ってやる」
「待った待った! それマジにこじれるから! わかりました! 一晩だけですよ!?」
 勝った。
 ラクスはただの友達だから本当に行ってもかまわないのだけど、仮にも相手は女の子。しかも評議会議長だ。
 うっかりマスコミに見つかれば大変な騒ぎになるし、第一アスランの逆鱗に触れること間違いなしだ。
 そうなってはもう後には戻れない。
 

「すいません。現隊長には逆らえませんでした・・・」
 キラは来るなり「お風呂貸して」と言って今はバスルームだ。
 一応、事の次第をアスランに報告すると、電話の向うから盛大なため息が返ってきた。
「悪いな。明日には連れ戻すから・・・」
「とっとと仲直りしてくださいよ」
「それがなぁ・・・」
 難しいんだ とアスランはぼやく。
 いつもどおりアンタがキラさんをべたべたに甘やかせばいい話じゃん と思うのだが。
「すこし、キラを自立させたくて・・・」
「なんかあるんですか?」
「キラにはまだ黙っていてくれ」
「はぁ」
 曖昧な返事をすると、アスランはぼそぼそと説明をしてくれた。 

「お風呂ありがとー」
「どういたしまして」
 暢気に出てきたキラに、シンは複雑な表情を向けた。
 言ったほうがいいのかな。でも口止めされたしな。
「シン。言いたいことは言ったほうがいいよ」
「・・・・・・」
 この嘘がつけない性格が恨めしい。
「本人から聞いたほうがいいと思うんですけど」
「いいよ。なに?」
「アスランさん、オーブに帰るって」
「・・・・・・・え?」
 きょとん とキラが目を丸くする。
「出張、とか?」
「長期で」
「なにそれ! 聞いてないよ!?」
「言い出しにくかったんでしょ!?」
「そんな大事なこと・・・! なんで!」
「だってアンタ泣くでしょう!」
 そんなこと、いきなり言われても困る。
 長期ってどれくらい。
 なんで。
 いつ行っていつ帰るの。
「だから! ああもう! 泣かないでくださいよ!」
「混乱してるの! ちょ、僕の電話とって!」
「はい」
 ぐしぐしと涙を拭って、キラは差し出された電話でアスランを呼び出す。
 長いコール。
「・・・もう家出は終わりか?」
「オーブに帰るってなんで」
「・・・シンは本当に俺の言うことは聞かないな・・・」
「いいから。なんで。いつからいつまで」
「落ち着け」
 シンに渡されたティッシュの箱から多めに取って、涙を拭う。
「滞在手続きの更新なんだ」
「え?」
「オーブが用意した軍人用官舎に住んでいればいらないことなんだけど、俺は勝手にマンション買ったから、手続きが必要なんだよ」
「軍人なのに?」
「プラントはそうなんだ」
 知らなかった。
「で、ちょっと時間がかかるから、その間キラが一人でもきちんと生活できるようにと思って、つい」
 口うるさく言ってしまった。
「いつから行くの」
「来週」
「いつまで」
「一ヶ月くらいかな」
「なんでそんなにかかるの!?」
「あっちでの仕事もあるし、プラントはもともとビザが取りにくい国なんだよ」
 だからって。
「ごめん。少しだけ、がまんしてくれないか」
 わかってる。一緒に居るために、アスランはオーブに戻って手続きをするんだ。
 わかってるけど。
「子ども扱いヤダ」
「うん。ちょっと、うるさすぎたな、俺」
「アスランに甘えたいだけだもん」
「・・・うん」
「一人になったらちゃんとできる」
「そうだな」
「だから」
「帰っておいで」
 うんって頷いて。
 シンにごめんねって言ったら「いーから早く帰れ」って呆れた顔で言われて。
 着てきた服に着替えて、鞄を掴んでシンのアパートを出た。
 そこに
「おかえり」
 路上駐車の車によりかかったアスランがいて。
「ただいま」
 ごめんなさいのかわりに、思い切り抱きついた。

 翌週、アスランはオーブに一時帰国した。
 わがまま言って見送りに行ったら、方やオーブの軍服、方やザフトの軍服で、それはもう目立って。
 護衛でついてきたシンに「すっげぇはずかしい」と言われてしまった。
 それでも。
 人目につかないところで、シンに見張りまでしてもらって、軽くキスをして。
 アスランはシャトルに乗って地球に行ってしまった。

「フリーダムでついていけばよかった・・・」
「冗談でも言うな」
 三日もすれば、キラは根を上げた。
 イザークが苦い顔をする。
「その辛気臭い顔をなんとかしろ」
「だって」
「だって言うな。今からオーブとの会談なんだ。アスハ首長に会えるだろう」
「んー・・・」
 カガリに会うのが嫌なわけじゃない。
 アスランに会えないのが不満なだけだ。
 宇宙港の長い廊下を歩きながら、キラは大きなため息をついた。
「軍服を着ているときは胸を張れ。背筋を伸ばせ。毅然としていろ」
「今日からイザークのあだ名は『料理店』」
「誰が注文が多いか」
 VIP専用口の前で、出迎え。
 シャトルはとうに到着していて、そろそろカガリに姿が見えるはずだ。
 今日はマスコミも少ない。
「キラ!」
 明るい声がしたと思ったら
「カガリ・・・。仮にも首長なんだから、走らないで・・・」
「似たもの姉弟だな」
 がばり と抱きつかれて、隣から『料理店』の皮肉が聞えた。
「だっておまえ! 最近オーブに帰ってこないし!」
「ごめん、忙しくて」
「わかってる。その辛気臭い顔の理由もな」
「う・・・」
「そろそろ出てくるぞ」
 なにが?
 カガリを抱きとめたまま、視線をゲートの先に向ければ
「なんで!!」
「耳元で叫ぶな!」
「だって! なんでいるの!?」
「・・・仕事だって・・・」
 気恥ずかしそうなアスランがいた。
「だってビザは!?」
「公務だから、必要ないんだ」
「詐欺だー!!」
 僕の落ち込んだ気持ち返してよ! と叫んでも、アスランは苦笑いをするだけで。
 カガリに至っては「いい仕事するだろう、私」と勝ち誇っている。
「とりあえず会談がある2日間は、帰れるよ」
「え、護衛は?」
「それはキサカさんがやってくれる」
 いつまでもキラに抱きついているカガリを無理やり引き剥がして
「ただいま」
 そう、耳元で囁いてくれた。
「・・・おかえり」 
 

最近サボりがちだったので・・・。
というかあまりアスキラしてなかった気がするので・・・。
どうしてもイザークが書きたい病。



smoker

2007-05-29 20:24:13 | 戦後アスキラ
「苦い」
 キスをして唇を離すと、キラがそんなことを呟いた。
 初夏に想いが通じて、それでも遠距離恋愛で、3日間、やっとでもぎ取った夏休み。
 互いに日にちをあわせて申請すれば、それは上のほうで話が通じてしまったらしく。
 大量の「課題」と称された仕事と共に「これを上げたら夏休み」との辞令を受けた。
 残業、持ち帰り、徹夜を繰り返して仕事を仕上げ。
 どうやらこちらはあっさり申請が通ったらしいキラを宇宙港まで迎えに行った。
 キラは里帰りを兼ねている。
 キラの実家は、今は孤児院だ。子供の多いところでは休めないだろうと自分の部屋に泊まらせる旨をキラのお母さんに伝えたら
「あら、仲のいいこと」
 と含みのある笑いで返された。バレている。
 これはキラと一緒にご挨拶にいくべきだと思っている。
 オーブの中心都市の一角。2LDKの賃貸マンション。それが今の俺の部屋。
 一人暮らしで個室が二つも必要だったのは、一つを作業部屋にしたかったからだ。仕事は主にリビングでやる。
 趣味のマイクロユニット製作は、細かい部品を多く扱う。広い部屋だと転がっていけばもう見つからない。
 そのため、狭い個室が必要だったのだ。
 キラが来る前に、部屋の掃除はした。
 消臭剤でヤバい臭いも消した。が。
「苦いよ」
 しかめっ面で、キラが離れる。
 湯上りの火照った身体をバスローブで包んだだけの無防備な姿に、理性を飛ばしたのが失敗だった。
「それに、なんか臭い」
「汗じゃないか?」
「じゃなくて・・・」
 誤魔化すのは無駄らしい。
 普段はぼんやりしているキラだが、こういうことには聡い。
「なにしてたの」
 ソファの端まで逃げて、クッションを抱きかかえて睨みつけるその姿が、男の征服欲を掻き立てるものだと教える必要がありそうだ。
「アスラン」
 じっと睨みつけるキラに、降参する。
「これだ」
 ポケットに仕舞いこんでいたものを、テーブルに投げた。
「煙草・・・」
 煙草、ライター、携帯灰皿。
 普段部屋で使っている灰皿は、収納の奥深くに隠してある。
「吸うんだ、アスラン」
「まぁ、たまに」
「どれくらい?」
「一日一箱も吸わないよ」
 ふぅん と呟いて、キラは珍しそうに煙草とジッポライターを手にとって眺める。
「いつから?」
 この質問は、正直して欲しくなかった。
「・・・14、13の終わりかな?」
「違法じゃん」
 プラントでは16、オーブでは18からが合法だ。
「そんなだから、期待したほど背が伸びなかったんだよ」
「かもな」
「ついでにお酒も呑むし」
「あれも14くらいからかな」
「・・・プラントで何があったの」
 14の年には、キラと離れてプラントにいた。
 父は変わらず仕事人間で家に帰らず、母もたまにしか帰らなかった。
 月にいるときとそれは変わらなかったが、なによりキラがいないことが大きかった。
「ちょっと、反抗期でさ」
「AAにいるとき、吸ってなかったじゃん」
「手に入らなかっただけ」
 軍艦内では基本的に禁煙だ。おまけに補給のときに嗜好品が手に入る確立は少ない。
 上手くやるやつは上手く手に入れるが、そこまで執着はなかった。
「オーブに一緒にいるときも吸ってなかったし」
「首長の護衛が暢気に煙草吸ってるわけにはいかないだろ」
 これは嘘だ。
 ただキラが傍にいれば、会うことが可能なら、煙草や酒などが必要なかった。
 ストレスが溜まらないからだ。
「で、今は手に入るし、護衛の仕事も少ないから吸ってる と」
「・・・あぁ」
 職務上、カガリが公の場に立つときは護衛として傍に立つが、日がな一日一緒と言うわけではない。
 カガリにはそれなりに腕の立つオーブの軍人をつけ、普段の仕事はオーブ軍MS隊隊長。
 一度執務室に入ってしまえば、終業までその部屋で過ごすことが多い。
 加えて、キラは遠く離れたプラントだ。
 ストレスも溜まる。
「隠しててごめん。キラ、嫌がると思ってさ」
「そりゃ、煙草は好きじゃないけどさぁ」
 のんびり答えて、煙草のパッケージに書かれているタール値を見て「げ」と顔を顰めた。
「18ミリ!? なにこれ、強すぎ!」
「タールなんかわかるのか?」
 キラと煙草。どうやっても結びつかない。
「ディアッカがたまに隠れて吸って、イザークに怒られて、最近やめたよ」
 へぇ。そういえばあいつも喫煙者だったな。
「同居する条件で、煙草を一切やめることって言われたんだって」
「同居?」
「うん。ずっと近所に住んでて、ディアッカがイザークの部屋に泊まりこむことが多くて、不経済だし無駄だからって」
 一緒に住むことにしたんだって とキラは至って暢気だ。
 ディアッカ。男を上げたなぁ。
 一緒に住むということは、イザークを完全に落としたわけだ。
「イザーク名義のマンションに、ディアッカが居候っていうか、家政婦みたいな感じで住んでるよ」
 前言撤回。ディアッカ、駄目なやつだ。
「で、なんで吸い始めたの?」
 キラが話を戻す。
 本気で聞き出すつもりらしく、クッションを抱えたまま身を乗り出して訊いて来る。
「あー・・・。ストレス、かな」
「ストレス?」
「キラがいなくて、プラントで一人でさ。結構悪い場所とかにも出入りしてたから」
「議員の息子がそんなんでいいの」
「放蕩息子やってたんだよ」
 親の手前法学関係のカレッジに籍を置いてはいたが、興味も湧かず、出席することは少なかった。
 ただ街中をふらつき、適当な店に入り、煙草を覚え、酒を呑み。
「ってことは、その頃オトコノコ卒業か」
 ぶっ と、何かを吹きかけた。
「・・・キラ?」
「だっておかしいと思ってたんだ。13までアスランが女の子と一緒にいるところみたことなかったし、
再会してからもカガリに手を出したカンジはないし、ラクスとはそんなんじゃないってラクスが否定するし」
 ラクス、何を話した。
「なのに・・・初めてのとき、やけに慣れてたし」
 キラの顔が赤く染まる。
 ああ、かわいいなぁ。
「絶対経験積んでると思ってさ」
 あー と、言葉に詰まる。
 できれば触れて欲しくない過去だ。
「耳年増であそこまでできないと思う」
 視線を泳がせる俺に、キラが追い討ちをかける。
「僕は全部アスランに話したよ」
 キラのそういう経験は、過去に流れで聞き出した。
 たった一人。AAに同乗していた、「フレイ」という女の子。
 聞いた時は内心激昂した。
 キラを誘うなんて と。
 今思えば随分な棚上げだ。
「いつ。誰と。何人」
 ずい と身体を寄せてくるキラに、降参とばかりにホールドアップした。
「わかった。全部話す」
 初めては14の時。
 立ち寄った酒場で、年上の女を引っ掛けた。
 気に入ったのは目。キラによく似た、紫の目だった。それだけは酒場の薄暗い照明でもよくわかった。
 適当に話して、ホテルに連れ込んだ。顔はまぁ、かわいいほうだったと思う。それが大した遊び人で、あれこれ仕込んでくれた。
 別に残念でもないが、今はもう名前も覚えていない。
 その後は簡単だ。
 街や酒場で気に入った女に声をかけたりかけられたり。
 選ぶ基準は目と髪。
 紫の瞳か、栗色の髪か。それだけだった。
 名前も聞かず行為に及ぶことは当たり前だった。
 15でザフトの養成アカデミーに入ったが、時々寮を抜け出して女遊びを続けた。
 そのときつるんでいたのが、同室のラスティや先輩のミゲルだ。時々ディアッカも一緒だったが、
やつとはまだ波長が合わなかったので別行動をすることが多かった。
 そして16でキラと再会。
 補給や報告などでプラントに帰ることはあったが、不思議と女遊びをする気にはなれなかった。
 そうやって自然と足を洗い、同時にキラへの想いを自覚していった。
 完全に自覚したのは、一度目の終戦後。
 同性 という背徳感から、キラによく似た面持ちのカガリに逃げたりもした。
 だがそれも失敗に終わった。どうやっても彼女は「友人」でしかなかった。
 キラへの想いが募ったのは二度目の戦争中。
 いつもキラのことを考えていることに気づき、これはもう逃げられないのだと思った。
 人間の身体の7割が水分でできていると言うが、俺の9割以上はキラでできている。そう言っても過言ではない。
 だからザフトから逃げた。
 身の危険を感じたこともあったが、なにより。
 キラの存在が大きすぎた。
 そうしてAAに逃げおおせて、キラの背を守り、生き延び、気がつけば離れることになっていた。
 13のときのようにヤケを起こしかけたが、もうそこまで子供ではなかった。
 女に逃げることもせず、カガリに逃げることもできず、ただキラへ手を伸ばした。
 その手を、キラは取ってくれた。
 そうして今がある。

「・・・僕のせい?」
 そう話すと、キラはしょぼんとクッションに顔を埋めた。
「どうしてキラのせいになるんだ」
「だって。僕がいなかったから。僕が、すぐにアスランを選ばなかったから・・・」
「子供だったんだ。13の子が、親のもとを離れて暮らせるほどプラントは甘い国じゃない」
 キラは第一世代。プラントに来ることは、すなわち親の元を離れることになる。
 説得すればザラ家に迎え入れることも可能だったかもしれないが、その橋は危険すぎた。
「戦争中も、それどころじゃなかった。その後も、おまえは傷つきすぎた」
 兵士として訓練を受けていないキラが、前線に立ち、たった一人で母艦を守る。
 その重圧は、自分にはわからない重さだ。
 実際キラは終戦後、抜け殻のように心を閉ざして笑わなくなった。
 他人のことを想う余裕はなかったはずだ。
「でも、戦争終わってすぐ、オーブに帰ってれば・・・」
「ラクスを守れるのはおまえしかいなかった。俺は・・・二度もザフトを裏切ってる。帰れるわけがない」
 ラクスはプラントを裏切り、第3勢力の総大将として戦地に立った。
 その後プラント最高評議会に迎え入れられたが、ミーアの一件もあってその地位を確立するのに時間が掛かった。
 誰かが、守らなければならなかった。
 彼女が、心を許せる存在が必要だった。
「誰のせいでもない。俺の弱さだ」
「じゃあなんで今も吸ってるの」
 話が煙草に戻る。
「僕がそばにいれば煙草はいらないって言った。でも、今口の中が苦いってことは、僕がお風呂に入ってる間に吸ったんでしょ?」
 それって
「・・・僕、邪魔?」
「違う!」
 キラの言葉に、思わず声を荒げた。
 キラの肩が、びくり と跳ねる。
「違う。ただ・・・」
「・・・なに」
 恐る恐る上げられた視線に、眩暈がした。
 その顔が、その目が。
 どれだけ俺の理性を狂わせるのか。
 自覚しろ。
「・・・んっ」
 キラの手からクッションを奪って放り、無理に身体を引き寄せて唇を塞ぐ。
 逃げかけた身体を強く抱き寄せて、歯列を割って舌を差し込むと、抱いた身体が強張る。
「んん・・・」
 肩を押しのけようとする手に、力がない。
 そういう適度な抵抗は、男を誘うものだと、教えなければいけない。
「あ、す・・・」
 軽く唇を離して酸素を補給して、さらに塞ぐ。
 今度は抵抗はない。
 舌がしびれるほど口付けをして、キラの身体から完全に力が抜けたところで唇を離した。
 かくり と、キラが身体を預けてくる。
「こういうことになるから、気を静めてたんだ・・・」
 荒い呼吸で言えば、なんのことかとキラが視線を向けてくる。
「仕事で疲れたあとにシャトルに乗ってきたキラに、無理をさせたくなくて。今日は我慢しようと思ってたんだ」
 セックスは全身運動だ。
 男女でも疲労するそれは、男同士ならなおさら。
 おまけにキラは受け止める側で肉体的苦痛も大きいし、なにより久しぶりだ。前にキラの誕生日にして以来、こういうことをする暇はなかった。
 今夜はただ甘えあうだけですませて、求め合うことは明日に見送ろうと思っていたのに。
「・・・我慢、するの?」
 できるの? と、キラが訊く。
 それは、たいした誘い文句だった。
「どこで覚えたんだ、そんな台詞・・・」
 俺意外に言うなよ。
 そう言って、もう一度唇を塞ぐ。
 ああ、そうか。
 煙草を吸っていたのは、ただ口寂しかっただけか。
 キラの唇は、ひどく甘い。
 あの苦さは、代替品には、もうならないと確信した。 

雨降って。

2007-05-25 18:27:42 | 戦後アスキラ
「アスランの嘘つき! だいっきらい!」
 バン! と激しい音を立てて、キラは部屋から飛び出した。
 秋の終わり。
 寒い夜だった。

 事の発端は食事にあった。
 アスランとキラが同居を始めて、食事当番は器用なアスランが担当した。
 腕前は上昇の一途。
 それまで不摂生極まりない食生活を送っていたキラは、その食事の栄養管理、キラの好みに合わせた味付けに誤魔化され、今日の今日まで気づかなかった。
 食卓に、魚が上がることがないことに。
 昔からアスランは魚が苦手だった。
 少量なら食べるのだが、率先して口にすることはない。
 子供の頃から幾度となく一緒に食事をしたが、アスランが魚に手をつけたところをあまり見たことがない。
 AAに乗っているときもそうだった。
 食事は全員同じものが出される。
 鮮度が問われる魚が出されることは少なかったが、補給の後などにはごく稀にメニューに上がる。
 その度アスランは食堂を避けて通っていた。
 おかしい と思ったのは、つい最近になってだ。
 ふと魚が恋しくなったキラが、アスランに興味本位で訊いてみた。
「どうして魚食べないの?」
 職場の食堂などで魚を摂っていたが、家で焼き魚を食べたくなったキラがそう訊くと、アスランは顔をしかめて
「青魚アレルギーなんだ」
 その一言でキラが爆発したのだ。
 アスランもキラもコーディネイターだ。
 それすなわち、人間のいいように遺伝子を弄られた存在であるということ。
 アレルギー遺伝子を持つコーディネイターなど、ほぼゼロと言っていい。
 ごく稀にコーディネイトミスなどでアレルギーを持つコーディネイターがいるが、アスランは何といってもあのパトリック・ザラの息子だ。
 プラント最高評議会議員の第一子をコーディネイトミスする遺伝子工学者など、どこにいるのか。
 そういった理由で口論になり、とうとうキラの口から飛び出したのが冒頭の台詞となる。
 飛び出したはいいが、キラが所持しているのは車の鍵と携帯電話と、咄嗟に掴み取ったアスランの財布だった。
「さむいー」
 夜風に晒されて肌寒さを覚え、とりあえず駐車場の車に飛び乗って暖房をつける。
 どうしようかな と思案する。
 手にしていたアスランの財布の中身を見てみた。
 経済は共通させているが、私費もそれなりにある。財布にはそれなりの額の現金と、クレジットカードなどが数枚。
「こうなりゃヤケだ」
 携帯電話で部下を呼び出す。
 今日は休みで、恋人とデートだと言っていた。
 どうせだ、ルナマリアも巻き込んでしまえ。
『もしもーし?』
 電話の向こうで、不機嫌な声がする。
「シン? ちょっとルナに代わってくれる?」
『は? なら最初っからルナにかけてくださいよ』
 上司に対しても不機嫌を隠さない部下を、窘める気はない。
『代わりました。どうしたんですか?』
 もう一人の部下が電話口に出る。
「あのさぁ、おいしいお寿司食べたくない?」
『はい?』
「高い、シンじゃとても連れて行ってくれないような、高級店のお寿司。奢るよ」
『ほんとですか!? シンもいいんですか!?』
「うん。えーとね、セントラル通りの、暖簾の掛かったお寿司屋、わかる?」
『今からですか?』
「時間ない?」
『大丈夫です、行きます!』
 電話の奥で、シンの「は!?」という声が聞こえた。
「じゃ、お店の前でー」
 そう言って、通話を切ると共に、電源も切った。
 さぁ、後に引けなくなってきた。

 単純に、シンに電話をしたのは思い付きだ。
 ルナマリアに代わらせたのは計算。
 ルナマリアはノリがいいし、人付き合いもいい。おまけにシンはこの年上の恋人にてんで弱っちかったりする。
 シンを動かすには、ルマナリアを誘導するに限るのだ。
 暖簾の下で待ち合わせて合流すると、まずキラは薄着でるあることをルナマリアに叱られた。
 そしてシンに「その格好でこの店ですか?」と怪訝な目を向けられた。
 たしかにキラは普段着だ。
 シンとルナマリアはデートということでそれなりの格好はしている。
 浮くかな とは思ったが、ここは一度来たことがある。
 あの時もイザークとディアッカと一緒に軍服で入って、かなり浮いた。それを思えばかわいいものだろう。
 暖簾を潜ると、店主がキラを見て「ああ」という顔をした。
「らっしゃい」
「好きなもの好きなだけ食べていいよ」
 カウンターに陣取って、思い思いに注文する。
 キラはアスランへの嫌がらせに、青魚やイクラばかりを注文した。
 アスランとは絶対に食べられないものを。

 三人が満腹になるまで食べれば、大した金額になった。
 キラは隊長なので、いい年収がある。しかし と思う金額。
 シンはふと不安になって会計をするキラの財布を見た。
 あれ。
 いつもキラが使っている財布ではない。
 というか、あれはキラの恋人のものではなかったか?
 嫌がらせ いや、腹いせか? と思いながら、「会計よろしく」と言い残して機嫌のいいルナマリアと外に出た。
 ルナマリアとシンのデートの夕食は、ルナマリアの手料理、もしくはファミレスや目に付いたカフェだ。
 学生じゃあるまいし とキラに笑われたが、気取った店より自分たちらしいとシンは思っていた。
 が、ルナマリアの機嫌の善さに、時にはこういう気取ったことも必要なのだとシンは学習した。
「ごちそうさまでした」
「ありがとうございました」
 ぺこん と二人で頭を下げると、キラはニコニコ笑って
「こっちこそ、デート邪魔してごめんね。じゃ、この後は二人でごゆっくりー」
「ってアンタ! ちゃんと帰るんですか!?」
 気まずくなる前に とさっさと車に向かうキラを、シンは思わず引き止めた。
「どうせ喧嘩でもしたんでしょう!?」
 ぎく とキラの顔に出る。
 自分のことを棚上げしてしまうが、この人はポーカーフェイスを学んだほうがいい。
「イザークのところにでもいこっかな・・・」
「またアンタはー!」
「いーじゃん! だってムカつくんだもん!」
「ムカつきゃ胃薬でも飲んで抑えてください! 食いすぎです!」
「じゃなくて!」
 有料駐車場のど真ん中で、ぎゃんぎゃんと声を張り上げると、ルナマリアが二人の間に立った。
「ストーップ」
 割って入って、ルナマリアはシンをちらりと見る。
 ルナマリアに頭が上がらないシンは言葉に詰まり、すごすごと自分の車に乗ってしまった。
「・・・ルナ、すごいなぁ・・・」
「喧嘩したときはもっとすごいですけどね」
 ふふ とルナマリアが笑う。
 快活な少女は、凛々しい大人の女性になっていた。
「こじらせないでくださいね」
「風邪は引いてないよ?」
「じゃなくて、喧嘩」
 あー とキラは人工の空を仰ぐ。
「じゃ、ごちそうさまでした」
 くすくす笑って、ルナマリアはシンの車の助手席に納まる。
 そしてドアを閉めてシンと二、三言交わして、シンの車が発進する。
 それを見送って、「仲いいなぁ」とキラは呟いた。
 
 キラにはプラントに住む友人が少ない。
 ラクスの家に行けば歓迎してもらえるのだろうが、生憎彼女は公務でプラントを離れている。
 主人の留守に押しかけるのも無礼だろう。
 そうなると、キラには行く場所が一箇所しかなかった。
『どした?』
 アプリリウス市中心部の、高級マンション。
 その最上階メゾネットタイプの部屋をエントランスのインターホンで呼び出すと、気さくな声が返ってきた。
「さむいー。とにかく入れてー」
『あー、待て待て』 
 そう言ってディアッカはエントランスのロックを外してくれる。
 ドアが閉まらないうちに飛び込んで、エレベーターに乗り込む。
 最上階のボタンを押すと、エレベータが部屋の前まで運んでくれる。
 この最上階丸ごと、イザークとディアッカの自宅なのだというから贅沢な話だ。
「こんばんはー」
「おう。どしたよ」
 出たのはディアッカ。キラの数少ない友人だ。
「家出してきた」
「ハァ!?」
 呆然とするディアッカを放って靴を脱いで(ディアッカの主義にイザークが「効率がいい」と賛同したらしい)部屋に上がると、リビングでイザークが読書中だった。
「こんばんにゃ」
 おどけてみたが、返答はない。
「無駄無駄。あーなったら聞こえてても返事しねぇよ」
 座れば? と言われて、イザークの真正面に座ってみたが、視線がこちらに向くことはない。
「酒呑めねぇんだっけ。オレンジジュースでいいか?」
「ありがと」
 差し出されたグラスを受け取ると、ディアッカはコーヒーの香りが立つカップを持ってイザークの隣に座る。
 イザークは変わらず無反応。
「ほんで? 喧嘩?」
「嘘つきなんだ」
 はい? とディアッカが聞き返す。
 100%のオレンジジュースを一口飲んで、キラは愚痴をぶちまけた。
「だって青魚アレルギーってなにさ? コーディネイターだよ? アレルギー? あるわけないじゃん! 大嘘じゃん!」
「つまりおまえは魚が食いたいと」
「もう食べてきた。シンとルナと、アスランのお金で」
「おー、やるね」
「こないだ連れて行ってもらった店で」
 ぶっ と、ディアッカがコーヒーを吹く。
「待て。どんだけ食った?」
「三人でお腹いっぱい」
 うーわー とディアッカが頭を抱えた。
「アスラン・・・。かわいそうに・・・」
「かわいそうじゃないよ! だって嘘つきだよ!?」
「嘘じゃないぞ」
 吠え立てるキラの声を抑えたのは、今だ本から視線を上げないイザークだった。
 思わずキラも叫ぶのをやめる。
「アレルギーというのは、本当だと思うぞ」
「アスランの肩持つの!?」
「俺は事実しか言わん」
 パタン と本を閉じて、イザークはディアッカを一瞥する。
 はいはい とディアッカが腰を上げて、キッチンに消えていく。
 「俺にもコーヒー」という合図だったらしい。
「事実を教えてやろう」
 しばらくしてカップを持ってきたディアッカからそれを受け取り、なぜか自信たっぷりでイザークは話し始めた。
「俺たちがアカデミーから一緒だということは知っているな?」
「うん」
「アカデミーは全寮制だ。食事も一斉に摂る」
「知ってる」
「入隊してからも同じ隊だったから、およそ一年と少し、ヤツと同じ釜の飯を食った俺の観察だ」
 そこでコーヒーを飲んで、イザークは顔をしかめる。
「誰が貴様仕様のコーヒーが飲みたいと言った」
「だって淹れなおすのめんどくせぇし」
 チッ と舌打ちして、イザークは続ける。
「伝説があってな」
「あー、あれね」
 ディアッカが笑いを噛み殺す。
「アカデミーの食事は、残すことが許されん。入学当初、アスランが青魚を食べた翌日土気色の顔で訓練を受け、次から青魚がメニューに上がる日は食事に出てこなくなった」
「・・・え?」
「好き嫌いの問題ではないのはこれだけでわかるだろう」
「だって、コーディネイターだよ?」
「完璧ではない」
 うっそぉ とキラが声を上げると同時に、インターホンが鳴った。
「はいよ」
 素早くディアッカが対応する。
 カメラの映像は、キラの角度からは確認できない。
「来てる。上がれよ」
「迎えか」
「っそ」
 げっ とキラが逃げ腰になる。
 イザークの話を全て信じたわけではない。
 だが、万が一それが真実だとしたら。
「・・・嘘つきって言っちゃった・・・」
「あれが嘘をつける人種か」
 諦めろ とイザークは冷ややかな言葉を吐き出してコーヒーを啜る。
 どうしよう とキラが慌てている間に、玄関のインターホンが鳴った。
「旦那登場」
 先に玄関で待機していたディアッカが、アスランを伴ってリビングに戻ってきた。
「キラ! 心配したんだぞ!」
「ううー」
「携帯のGPSも電源切ってるし、IDも持ち歩かないで・・・!」
「まぁ落ち着けって」
 逃げるキラを追い詰めるアスランに、ディアッカが見かねてストップをかけた。
「説明してやれよ。話してないんだろ?」
 そう言われて、アスランは捕まえていたキラの手を放した。
「・・・ディアッカ。パソコンを借りられるか?」
「おう」
 簡潔に返答して、ディアッカは自室に向かう。
 そこから一台の携帯端末を持ってきた。
「これでいいか?」
「十分だ」
 薦めもないままにソファに腰掛けて、端末を立ち上げる。
 そしてジャケットのポケットから、一枚のディスクを取り出して端末に読み込ませた。
「・・・何のデータ?」
 思わずにじり寄ったキラに、アスランは苦い顔をして
「俺の生態データ」
 と返す。
 ぴくり とイザークが反応し、ディアッカに至っては大笑いし始めた。
「物的証拠ね! おまえらしー!」
 ぎゃはは! と笑いながらディアッカもアスランの後ろからモニターを覗き込む。
「・・・わからん。イザーク」
「・・・・」
 遺伝子配列データを理解できないディアッカが呼ぶと、イザークは渋々腰を上げてキラの後ろからそれを覗き込んだ。
「・・・ほう」
「わかんない」
 イザークにはわかったようだが、遺伝子のことなど幼年学校で習った程度のキラには理解できない。
「えーと、これだ」
 アスランが別のファイルを開くと、身長や体重、視力や聴力などの数字化されたデータが出てきた。
「アカデミーの入学時のやつだから、かなり古いんだけど・・・」
 たしかに表示されている身長が、いまよりかなり低い。
 そのままスクロールして、一番下の「attention」と赤文字で書かれたところを示した。
「これ」
「アニサキス症?」
「アレルギーの一種だよ」
「魚などの体内に寄生する虫を取り込んでしまっておこる、蕁麻疹や嘔吐などを伴う症状 だったか」
「よく知ってるな」
 イザークの解説も、よくわからない。
「虫?」
「寄生虫。でも、俺の場合虫がいなくても症状が起こる。そういうのを、アニサキス症って言うんだ」
 要は青魚アレルギー とアスランが説明する。
「だって! 評議会議員の息子のコーディネイトだよ!?」
 ありえない! とキラが抗議すると、イザークは「ああ」と何か思い出したようだった。
「だから、コーディネイトミスはありえるんだって」
「ミスではないかもしれんぞ」
「え?」
 イザークの言葉に、アスランとキラが振り返る。
「母上に聞いた話だがな」
 イザークの母親は、元評議会議員で、「ザラ派」と呼ばれるアスランの父の一派だった。
 親交もそれなりにあったと聞く。
「ザラ議員との会食で魚料理を出すと、必ず破談する という暗黙の了解があったそうだ」
「・・・は?」
「離れて暮らしていたとはいえ、親子だろう。貴様、父親と魚を食った覚えはあるか?」
「・・・言われてみれば・・・ない」
 アスランは数少ない父親との食事を思い出すが、そのどれもが肉料理だったことに思い当たった。
「建前・・・言い訳に使われたな」
「言い訳?」
「自分の魚嫌いを、息子のアレルギーを使って言い訳したかったんだろう」
 その言葉にキラはぽかんとし、アスランは頭を抱えた。
 ディアッカに至っては・・・その辺で腹を抱えて笑っている。
「そんなの! 可能なの!?」
「俺たちが生まれた時代なら、十分可能だ」
「子供に最初からハンディ背負わせる親がいるの!?」
「あの人ならありえる・・・」
 騒ぎ立てるキラの横で、アスランが心底呆れた声で呟いた。
「プライド高い人だから・・・」
「だって、それなら赤身の魚ならいいんでしょ!?」
「だから、青魚嫌いだったんだろう」
 イザークは堪えきれなくなった笑いを零す。
「貴様も完全ではなかったか」
「あたりまえだ、人間だぞ」
「なるほどな」
 イザークは満足したように元の場所にもどり、冷めてしまったコーヒーを飲んだ。
「俺だけではなかったか」
「なに?」
 独り言のようなイザークの呟きに、アスランが反応する。
「イザークもアレルギーあるの?」
 キラの純粋な疑問に、イザークはふむ と考え
「アルビノ という言葉がわかるか?」
 と切り出す。
「あれだろ、遺伝子異変で色素が薄い動物とか」
「俺もその一種だ」
「だっておまえ、エザリアさんそっくりじゃないか」
 アスランの知る、イザークの母親。
 最高評議会元議員で、イザークそっくりな容姿だったはずだ。
 銀髪で肌は白く、瞳も薄いブルーで。
「母上は先天的に目が弱い」
「え?」
 空気が変わったことを悟り、ディアッカが笑うのをやめてイザークの隣に座った。
「いーのかよ、言って」
「かまわん。いまさらどうこうなるわけではない」
 小声でやり取りをして
「その視力の弱さを、俺をコーディネイトするときにカバーしようとしたらしいが、うまくいかなくてな」
「イザーク、目、悪いの?」
「視力はそこらのナチュラルよりはいい。コーディネイターでは弱いほうだがな」
「3.0だっけ?」
「そんなものだ」
 ディアッカは知っていたらしい。
「マサイ族に負けてるぞ、イザーク」
「先住民族と一緒にするな」
 むっ と、イザークの眉間に皺が寄る。
「さっきのように長時間本を読んだり細かいものをみるとな、乱視 と言われる状態になる」
「パイロットにしたら、致命的だぞ?」
「センサーとモニターがある」
「そんな目で前線にいたのか・・・」
 ディアッカが心配するはずだ とアスランは背もたれに身体を預けた。
「一時的なもので、アカデミー入学の際は症状がでなかったから、入れた。遺伝子検査では危険だと言われたがな」
「危ないやつだな・・・」
 アスランが前髪をかきあげる。
「欠陥品なのはおまえだけではないということだ」
「安心したよ、心底」
「・・・ディアッカは?」
 キラがふと、ディアッカを見た。
 見た目では健康そうに見えるが。
「あ、俺? 俺は異常なし」
 けろり と言った後
「でも、ミスっちゃミスだな」
 え? とキラとアスランはディアッカを見る。
「俺の目。ほんとはもっときれいな紫だったはずなんだよ」
 ちょうどキラみたいに とディアッカはキラを見る。
「でも紫ってのはコーディネイトし難い色でさ。今でも希望の声は多いんだけど、失敗例も多い」
 俺の目、ちょっと赤いだろ?
 そう言うディアッカの目をよく見れば、たしかに赤味の強い紫。
 これくらいなら成功と言えるな と笑って
「まぁ、完全なやつなんかいないって話よ」
 あっさりと話を終わらせるディアッカに、キラは一人沈んだ。
 『完全なるコーディネイター』
 そう言われた過去が、ふと蘇って。
「・・・僕、そんなのない」
 言うと、
「いや、目に見えてあるぞ」
 ディアッカが切り捨てた。
「なに!? どこ!?」
 身を乗り出して訊くと、ディアッカはちらりとイザークと視線を合わせて
「まずチビ」
 ズバリ と言葉の刃を振り下ろした。
「おまえ、ハタチ超えたコーディネイターの男がその身長はないだろー」
「偏見だよ!」
「いや、実際同じアジア系のシンもでかくなったし」
「アスラン!」
「好き嫌いは俺より多いし」
「にんじんピーマン、葱にあとなんだっけ?」
「コーヒーもブラックで飲めないんだったか」
「子供味覚なんだ」
「そういうんじゃなくてさー!!」
「体脂肪少なくて風邪引きやすいくせに薄着で飛び出すし、注意力散漫だし」
「熱しやすく冷めやすい?」
「おまけに語学力が極めて低い」
「虐めだー!!」
 アスラン、ディアッカ、イザークの言葉の応酬に、キラが吠えた。
「だから、完璧じゃないんだって」
 それを押さえるように、アスランがキラの頭を撫でた。
「シンだって落ち着きがないし、ルナマリアは・・・あれ、欠点が思いつかないな・・・」
「女は欠点隠すからなー」
「キラより完璧なコーディネイターなんか、ゴロゴロいるよ」
 たとえばラクスとか。
 そう言うアスランに、キラはぴたりと動きを止めた。
「・・・ごめんなさい」
「なにが?」
「嘘つきって言っちゃって・・・」
「いいよ、隠してた俺が悪い」
「あ、そうだ! 僕、アスランのお金つかっちゃった!」
「ああ、シンに聞いた」
 へ? とキラが間の抜けた声を上げる。
「電話貰ったんだ。寿司奢ってもらって、帰るの渋ってたって。ここじゃないかって」
「ごめん、返す・・・」
「いいよ、あれくらい」
 あの店で三人分食べればどれくらいになるか想像はつく。
 が、今回の話の密度からすれば相応の値段だとアスランは思う。
「イザークの弱点は聞けたし」
「おい」
「まだ後ろめたい?」
 イザークのツッコミは聞かないふりをする。
 アスランの問いに、キラはこくん と頷く。
「よし、じゃあ、今日はサービスしてもらおうかな」
「へ?」
 すくっ と立ち上がるアスランに腕を引かれて
「世話になったな。お礼は後日。ああ、そのディスクはコピーだから好きに処分してくれ。くれぐれもバラまくなよ」
「おー。おつかれ」
 ディアッカに見送られ、キラはわけのわからないまま部屋を後にする。
「さ、さーびす?」
「まずは風呂で身体洗ってもらおうか」
「えええええ!?」
 にやり と笑うアスラン。
 その端正な顔を、キラは心底怖いと思った。

地、固まる? という話。
「ザラは青魚アレルギー!」と言い張るために書いたのですが、イクラについてのフォローができませんでした。

アスキラ100の質問(51~100)

2007-05-23 17:31:51 | 戦後アスキラ
51から。
そういう話。

51 貴方は受け? 攻め?
 「俺が下だったら笑えないな」
 「僕だって男なのにねぇ」
52 どうしてそう決まったの?
 「経験値」
 「押し倒されました」
53 その状態に満足してる?
 「してます」
 「するしかないっていうか、想像できないっていうか・・・」
54 初エッチはどこで?
 「プラントのキラの部屋で」
 「一応寝室でした」
55 その時の感想を・・・・
 「キラの身体を気遣って一回で止められたのは奇跡だと今でも思う」
 「あー・・・覚えてない」
 「覚えてろよ」
 「それどころじゃなかったんだよ」
56 その時、相手はどんな様子でした?
 「かわいかった」
 「怖かった」
57 初夜の朝、最初の言葉は?
 「朝は普通だったよな」
 「おはよって」
58 エッチは週に何回くらいする?
 「毎日でもいいんだけど、それはキラの身体に大きな負担をかけるので」
 「週一でいいよ! 十分だよ!」
 「実際は週2、3程度です」
59 理想は週に何回?
 「だから毎日でも」
 「週一!! もしくはそれ以下!」
 「俺に死ねと?」
 「それくらいじゃ死なないよ!!」
60 どんなエッチなの?
 「どんな・・・。普通じゃないか?」
 「男同士って時点で十分変態っぽいしね」
61 自分が一番感じるのはどこ?
 「男の沽券にかかわるのでノーコメントで」
 「卑怯だ!」
 「キラが答えたら答える」
 「・・・耳、と、首」
 「俺はわき腹」
62 相手が一番感じているのはどこ?
 「耳とか首は実際弱いな。あとは太ももの内側とか」
 「どこが弱いのかいまだにわかんない」
63 エッチの時の相手を一言で言うと?
 「かわいい」
 「変態」
 「へん・・・!」
 「やらしいこと言いすぎ。やりすぎ。強要しないで」
64 エッチははっきり言って好き? 嫌い?
 「キラとするのは好きだな」
 「ほかの人は?」
 「べつに。今はやる気しないな。キラは好き?」
 「・・・たまになら」
65 普段どんなシチュエーションでエッチするの?
 「普通に、寝室で」
 「嘘じゃん! お風呂とかに入ってきて無理やりするじゃん! リビングとかで襲ってくるじゃん!」
 「あー・・・」
66 やってみたいシチュエーションは?(場所、時間、コスチューム等)
 「正直青姦に興味が」
 「やったら殺してやる」
 「ラブホとか」
 「絶対行かない」
67 シャワーはエッチの前? 後?
 「両方」
 「汗臭いのなんて冗談じゃないよ」
68 エッチの時の二人の約束ってある?
 「本気で嫌がることはしない」
 「お風呂とか明るいところとかやめてっていってるじゃん」
 「いや、あれは「嫌よ嫌よも好きのうち」っぽい」
 「!!!!」
69 相手以外とエッチしたことはある?
 「あります」
 「一応あります」
70 「心が得られないなら身体だけでも」という考えについて。賛成? 反対?
 「キラに限定するなら、反対。キラの全部が手に入らないと納得できない」
 「アスランに限らなくても反対。いいもんじゃないよ、あれ。後味悪い」
71 相手が悪者に強姦されてしまいました! どうする?
 「悪者・・・。悪者、ねぇ・・・」(笑いを噛み殺す)
 「アスランなら蹴り一発で相手死ぬし」(必死に笑いを堪えている)
 「俺なら・・・そうだな、自分の血の海に沈んでもなお生きながらえる苦しみを味あわせてやるな」
72 エッチの前と後、より恥ずかしいのはどっち?
 「べつに恥ずかしくない」
 「後。最中なに言ったか思い出したりすると恥ずかしい」
73 親友が「今夜だけ、寂しいから・・・」とエッチを求めてきました。どうする?
 「っていうか」
 「親友が相手だし」
 「なぁ?」
74 自分はエッチが巧いと思う?
 「どうなのかな」
 「ほとんど素人なので」
75 相手はエッチが巧い?
 「ああ、最近上達してきたな。力の抜き方とか」
 「アスラン巧すぎるよ。達人だよ」
76 エッチ中に相手に言ってほしい言葉は?
 「・・・言っていいのか?」
 「やめて!! 言わないで!!」
 「キラはなにかある?」
 「ないないないない! はい、次!!」
77 エッチ中に相手が見せる顔で好きな顔はどんなの?
 「べたべたのぐたぐたになってる顔が」
 「!!!」
 「そういうときにこう、力ない感じで笑われると・・・クる」
 「!!!!!」
 「キラは?」
 「・・・・・言っていいの」
 「どうぞ?」
 「我慢してる顔」
 「!!!!」
78 恋人以外ともエッチしてもいいと思う?
 「駄目だな」
 「だよねぇ」
79 SMとかに興味はある?
 「あー・・・」
 「ないです。はい次」
 「なくも・・・」
 「ハイ、次!!」
80 突然相手が身体を求めてこなくなったらどうする?
 「求められたことがほとんどないな」
 「疲れてるのかなー とか」
81 強姦をどう思いますか?
 「あれはやった犯人には男として機能しなくなるとかそういう罰を与えたほうがいいと思うんだ」
 「やっちゃだめだよね」
82 エッチでツライのは何?
 「こらえ性がないんだよな、俺」
 「え、早くないじゃん」
 「じゃなくて、がっつくって言うか」
 「ああー・・・。僕は入ってくるときのカンジがいまだに・・・」
 「キツイ?」
 「どうしてもねぇ。そういうふうにできてないし」
83 今までエッチした場所で一番スリリングだったのはどこ?
 「キラの執務室」
 「シンも一応鍵持ってるっていうのに・・・」
84 受けの側からエッチに誘ったことはある?
 「えーと、ある、かな」
 「あれ、誘ったうちにはいる?」
 「十分」
85 その時の攻めの反応は?
 「据え膳食わねば男の恥。いい言葉だよな」
 「や、それ、本来違う意味で使われたのが曲解されたんだと思うよ?」
86 攻めが強姦したことはある?
 「押し倒しはしたけど」
 「一応了承はしたし」
87 その時の受けの反応は?
 「っていうか常に俺が押し倒してるから」
 「諦めてるっていうかね」
88 「エッチの相手にするなら・・・」という理想像はある?
 「キラ」
 「これって一般論で? だったらかわいい、できれば胸の大きい子」
 「巨乳好き?」
 「っていうか、女の子らしい体つきが好き。気持ちいいじゃん」
 「俺、貧乳派なんだ」
 「へー・・・」
89 相手は理想にかなってる?
 「適ってます」
 「まぁ、こういう意味でなら、アスラン意外考えられないし。適ってる?」
90 エッチに小道具を使う?
 「最近ローション使うな。あれは小道具か?」 
 「違うと思う」
91 貴方の「はじめて」は何歳の時?
 「14です」
 「16」
92 それは今の相手?
 「初めてでキラっていうのは、こう・・・情けない部分を思いっきり見せそうで嫌だな」
 「違うんだよねぇ、お互い」
93 どこにキスされるのが一番好き?
 「唇」
 「唇」
94 どこにキスするのが一番好き?
 「全部」
 「ほっぺた、とか、米神とか」
95 エッチ中に相手が一番喜ぶことは何?
 「名前呼ぶこと」
 「好きって言うと反応するよね」
96 エッチの時、何を考えてる?
 「キラのこと」
 「考えてる余裕ない」
97 一晩に何回くらいやる?
 「理想は5回とかしたいんだけど」
 「や、それ、死ぬし」
 「キラの翌日の体調を考えて、平均2、3回」
98 エッチの時、服は自分で脱ぐ? 脱がせてもらう?
 「あ、脱がせてほしいな」
 「やだ。脱がされます」
99 貴方にとってエッチとは? 
 「本能というか、愛情表現というか」
 「それ全然意味違うよ。なんだろ・・・甘え?」
100 相手に一言どうぞ
 「という話をしたらその気になった。帰るぞ」
 「え? ちょっと!? まだ昼間なんだけど!?」
 「カーテン閉めればいいだろ」
 「やだ! アスランー!?」

ザラさんやっぱり変態くさい・・・。

アスキラで100の質問(1~50)

2007-05-22 18:24:09 | 戦後アスキラ
がんばってみましたが、さすが同じもの見て同じもの食って育っただけあって、思考が似すぎですこいつら。
先に答えてるのがアス、後に続くのがキラですー。

1 あなたの名前を教えてください
 「アスラン・ザラ」
 「キラ・ヤマト」
2 年齢は?
 「この間20歳になりました」
 「20歳」
3 性別は?
 「男」
 「同じく」
4 貴方の性格は?
 「・・・割と冷静、かな」
 「天然ってよく言われる。ねぇ、これ、何のインタビュー?」
 「さぁ。でも全部答えるまで部屋から出るなってラクスが」
 「ふぅん?」
5 相手の性格は? 
 「おっとりしてる。でも、怒ると怖いよな」
 「アスランは冷静なんじゃなくて天然。結構ボケてるよね」
 「人を年寄り呼ばわりするな」
6 二人の出会いはいつ?どこで?
 「4歳だっけ? 月で」
 「母親同士が友達で、同い年の子供がいるからって引き合わされたんだよね」
7 相手の第一印象は?
 「かわいい女の子だなぁー って」
 「きれいな女の子だなぁー って」
8 相手のどんなところが好き?
 「かわいいところ。顔も性格も」
 「どこ・・・。考えたことないなぁ」
 「今考えろよ」
 「じゃ、目と声」
9 相手のどんなところが嫌い?
 「体調悪いことを隠そうとしたり、強がるところ。直せ」
 「記念日とか、忙しさにかまけて忘れるところ。直して」
 「・・・(言い返せない)」
 「・・・(言い返せない)」
10 貴方と相手の相性はいいと思う?
 「いいと思ってる」
 「悪かったらここまで一緒にいないよね」
11 相手のことを何で呼んでる?
 「キラ」
 「アスラン。たまにアス」
12 相手に何て呼ばれたい?
 「人前じゃ呼んでくれないから、アスって呼ばれると嬉しいな」
 「そう?」
 「二人っきりで甘えるときだけアスって呼ぶよな」
 「(自覚がない)僕はー・・・キラでいい」
13 相手を動物に例えたら何?
 「猫」
 「猫科の大型動物」
14 相手にプレゼントをあげるとしたら何をあげる?
 「マイクロユニットはトリィあげたし・・・」
 「あ、新しい枕ほしい!」
 「枕?」
 「うん。いまのやつ、高すぎて寝にくい」
 「じゃ、今度買ってやる」 
 「僕はー・・・アスラン、その時計、似合ってない」
 「これか? オーブ軍支給のやつなんだけど」
 「似合ってないから、こんど買ってあげる」
15 プレゼントをもらうとしたら何がほしい?
 「時計をくれるそうなので」
 「枕を買ってくれるそうなので」
16 相手に対して不満はある?それはどんなこと?
 「さっきも言ったけど、体調不良を隠すところ」
 「大事なこと忘れるところ」
 「・・・(言い返せない)」
 「・・・(言い返せない)」
17 貴方の癖って何?
 「気がつくと機械弄ってたり、構築式考えてたり」
 「気が散りやすいんだよねぇ・・・」(要は仕事をサボる)
18 相手の癖って何?
 「車の中とか、リビングでよく居眠りしてるよな」
 「アスランはよく僕の髪触ってたりするよね」
19 相手のすること(癖など)でされて嫌なことは?
 「浮気チェック。する気ないしありえないから。疑うな」
 「だってアスランモテるんだもん。僕は人前でイチャつこうとするところ」
 「そんな癖あるか?」
 「外で手繋ごうとしたり、肩組もうとしたり」
 「・・・(無自覚)」
20 貴方のすること(癖など)で相手が怒ることは何?
 「カーテン開けたまましようとすると・・・」
 「アスラン! 僕はよく、食事を抜いて怒られます」
21 二人はどこまでの関係?
 「ABCで言うとZまで」
 「・・・・・・」
22 二人の初デートはどこ?
 「子供の頃から一緒だからなぁ。あれか? 6歳のとき二人だけで行った遊園地」
 「あとで母さんにめちゃくちゃ怒られたよね」
 「付き合い始めてからは・・・どこだ?」
 「あんまり休み被らないからねぇ」
23 その時の二人の雰囲気は?
 「子供の頃なら、楽しかったな」
 「食べる直前にアイス落っことして泣いた記憶がある」
 「そのあと俺と半分こしたろ」
 「そこまでは覚えてない」
24 その時どこまで進んだ?
 「子供の頃だぞ?」
 「手繋いだだけ」
 「お化け屋敷で泣きつかれて抱きつかれたな」
25 よく行くデートスポットは?
 「最近なら、キラの趣味でカフェ巡り」
 「その後ジャンク屋巡りになるけどね」
26 相手の誕生日。どう演出する?
 「普通にケーキ買ったり、ちょっと豪華な食事に行ったり・・・」
 「でっかいホールケーキ買います」
 「キラが食べたいだけだろ」
 「うん」
27 告白はどちらから?
 「俺から」
 「・・・・(色々思い出した)」
28 相手のことを、どれくらい好き?
 「測れるものなのか?」
 「重さで言ったら、AAくらいは軽く」
 「浮くのか。そして潜るのか」
 「バレルロールもするよ」
 「でもまぁ、AAは浮沈艦って言われてるからいいか」
29 では、愛してる?
 「はい」
 「・・・はい」
30 言われると弱い相手の一言は?
 「甘えられると弱いんだよなぁ・・・」
 「愛してるって言われるとなんでも許しちゃうんだよねぇ・・・」
31 相手に浮気の疑惑が! どうする?
 「裏を取って、追求して、認めればそのとき考える」
 「問答無用で相手を抹殺」
 「・・・おい」
 「大丈夫、うまくやるから」
 「待て待て待て」
32 浮気を許せる?
 「許せないけど、キラだからありえない」
 「許しません。アスランボケっとしてるから、かわいい女の子にかどわかされそうで怖い」
 「かど・・・!」
33 相手がデートに1時間遅れた! どうする?
 「携帯に連絡して、事故とかに巻き込まれてないか確認します」
 「普通に待ちます」
34 相手の身体の一部で一番好きなのはどこ?
 「目」
 「目」
35 相手の色っぽい仕種ってどんなの?
 「俺に髪を乾かしてもらってるときの仕草がかわいい」
 「どんな?」
 「俯いて、俺の服ぎゅーっと握ってるだろ」
 「あー・・・。僕は髪かき上げる時の仕草とか好き」
 「乙女だなぁ」
 「うるさいな」
36 二人でいてドキっとするのはどんな時?
 「風呂上りと、うたた寝してるときの寝顔」
 「急に抱き寄せられるとドキっとする」
37 相手に嘘をつける? 嘘はうまい?
 「まぁ、それなりに」
 「嘘、下手なんだよねぇ・・・」
38何をしている時が一番幸せ?
 「キラがそばにいて、お互い無防備なときが幸せです」
 「寝てるとき」
39 ケンカをしたことがある?
 「あるな」
 「あるねぇ」
40 どんなケンカをするの?
 「にんじん残すなとか、髪乾かさずに寝るな とか」
 「説教じゃん」
41 どうやって仲直りするの?
 「大概俺が妥協するよな」
 「アスラン、僕にはてんで弱いんだもん」
42 生まれ変わっても恋人になりたい?
 「無宗教なので、輪廻転生は信じてません」
 「生まれ変わっても見た目も中身も名前もアスランなら」
43 「愛されているなぁ」と感じるのはどんな時?
 「いつでも」
 「いつも」
44 「もしかして愛されていないんじゃ・・・」と感じるのはどんな時?
 「ないな」
 「あ、この間香水の臭いさせて帰ったとき、「あー。終わった」って思った」
 「あれはちゃんと説明しただろ」
 「でも思ったんだもん」
45 貴方の愛の表現方法はどんなの?
 「俺のすべてで」
 「甘えること?」
46 もし死ぬなら相手より先がいい? 後がいい?
 「これはこの間真面目に話し合いまして」
 「どちらかが死ぬ瞬間に一緒に死のう という結論がでました」
 「キラの死に顔なんか見たくない」
 「アスランのお葬式なんか出たくない」
47 二人の間に隠し事はある?
 「これもこの間暴露大会をしまして」
 「離れていた3年間になにがあったのかを暴露し合って」
 「俺の方が暴露した過去は多かったです」
 「やーい、汚れー」
48 貴方のコンプレックスは何?
 「身長が思ったより伸びなかったこと」
 「女顔と、小さいこと」
49 二人の仲は周りの人に公認? 極秘?
 「一部は知ってるよな」
 「っていうか、ザフト本部とかオーブの駐屯部隊のみんなには知られてるよ?」
 「・・・え?」
 「や、普通に知られてる」
 「どうして」
 「人の口に戸は立てられないってことでしょ?」
50 二人の愛は永遠だと思う?
 「・・・思うか?」
 「・・・たぶん」
 「じゃあ、俺もたぶん」

とりあえず50まで・・・。

Go the Limit(後編)

2007-05-18 14:08:07 | 戦後アスキラ
「だ、って」
 言い逃れをしようとする僕に、アスランは諦めたように身体を離して。
「これでも?」
 着ていたハイネックのシャツを脱ぎ捨てて。
 素肌に身につけられたペンダントを人差し指で突き上げた。
 僕が貰ったのと、同じデザイン。
 嵌っているのは、エメラルドじゃなくて。
 アメジスト。
「ちなみに裏はこう」
 ひっくり返して、見せてくれた裏には
『K.Y』
 Kira Yamato。
「カガリにこれ見せて、今日の夜は見逃してもらったんだ」
「え?」
「カガリもラクスも、知ってるよ」
 ペンダントを摘んでいた指で、僕の頬を撫でて。
「全部、言ってきた。ラクスにも」
「なん、て」
「キラは俺がもらうって」
 ひゅ と僕が息を吸い込んだのと同時に、また唇を塞がれて。
 今度は押し倒された。
 ソファとテーブルの狭い隙間で、身動きが取れない。
 しつこくキスをされて、ぎゅっと強く目を閉じると、アスランの舌が歯列の隙間から入り込んできて。
 僕の舌を捕らえて、絡められる。
「あ、んん・・・」
 背中からぞわっと何かが湧き上がって、僕は縋るようにアスランの肩を掴む。
「や、んっ」
 キスが嫌なわけじゃない。
 願ったり叶ったり。
 僕はこのキスを喜ぶべきだ。
 だけど湧き上がる何が怖くて、逃げ惑って結局アスランの背に縋る。
 縋ればアスランの身体がさらに密着して、それに比例するようにさらに何かが湧き上がって。
 もうどうすることもできない。
 いろんな感情が入り乱れて、僕は混乱して、仕舞いには泣き出してしまって。
「泣くなよ」
 気づいたアスランが唇を離して、涙を舐め取った。
「怖い?」
「こわい」
「なにが?」
「わかんない・・・」
「俺が怖い?」
 ふるふると首を横に振ると、アスランは笑って
「じゃあ、俺に逃げればいい」
 そう言って、思い切り抱きしめてくれた。
 僕の着ているシャツ一枚越しに、アスランの熱や鼓動が伝わって、それが僕を甘やかして。
「好きだよ、キラ」
 甘い甘い一言で、『幼馴染で親友』の枠を超えれば。
 僕の心はヘリウムよりも軽くなった。

 枠を超えるのは容易いことだった。
 この差し出された手を取るだけ。
 たったそれだけのことで、僕らは『幼馴染で親友』のボーダーラインを超えた。
「あ、っ」
 シーツに押し付けられて、部屋の篭った空気に晒された素肌を舐められて。
 それだけで、声が上がる。
「アス、ま、だっ」
「待たない」
「だ・・・シャワー、くらい!」
「必要ない」
 僕の往生際の悪い声も、アスランの脳には届かない。
 執拗に僕のいたるところを舐めて、時々指で弄んで。
 その仕草ひとつひとつに上がる僕の声に、満足そうに笑う。
「いい声」
 臍のあたりを舐めていたアスランが身体を伸ばして僕の耳元で囁いて、軽く耳部を齧る。
「軍人は、ピアス、できないんだっけ」
「は・・・あ、」
「残念」
 どういう意味 と途切れ途切れ、息を吐きながら訊けば
「キラの身体に、穴開けたかった」
 独占欲に満ちた答えが返ってくる。
「こんなものじゃ足りない」
 僕の首に掛かったままのペンダントを指で摘んで
「もっと、俺のものにしたい」
 トップに、唇を寄せる。
 その仕草が、やけに色っぽくて。
「じゃあ、もっと」
 強請れば、アスランが笑った。
「いいの? もっとして」
「いい。全部、して」
 心臓がうるさい。
 血管の中を、血液が走ってるのがわかる。
 脳に霞がかかったみたいに、思考が鈍る。
 シーツを握っていた手を緩めて、そっとアスランの背に回して。
「もう、全部。アスランの全部が、ほしい」
 言えば、あとは簡単だった。
 箍が外れたアスランと、アスランに飢えた僕は。
 互いを貪りあうだけ。
 酸欠で死ぬんじゃないかってくらいしつこくキスをして。
 その間にアスランに前を弄られて、限界を感じて熱を吐き出す。
 その絶頂の間にもキスは続いて、声を上げることもままならなかった。
「しまった。声、聴きたかったのに」
 残念そうに言って、僕の吐き出したもので汚れた指を、アスランは舐める。
「ま、いいか」
 ぺろりとその美味しいはずない味を舌で確認して、
 ぐっと僕の足を持ち上げて、自分の肩に掛ける。
「怖かったら、すがり付いていいから」
 無理な体勢をさせられて、ただでさえ羞恥心とかでいっぱいになっている僕の、自分でも触ったことのない部分にアスランの指が触れた。
「やっ!」
 濡れた指でゆるゆると詰られて、その滑りを使って指が。
「あ!」
 入り込む。
 僕の中に。
「アス、や、やだ!」
「痛い?」
「・・・たく、ない、けど!」
「怖いなら縋ってろ」
 ぐっと指を深く侵入させて。
「んあ!」
 折り曲げられて、僕は自分でも信じられない声を上げた。
「イイ声」
 アスランの、熱っぽい目が、細められる。
「もっと聴かせて」
「やー! あ、あっ」
 ぐるりと中を蹂躙されて、反射的に縋りついたのはやっぱりアスランの背だった。
「そう、それでいい」
 耳に、アスランの息がかかる。
 熱い。
「力、抜いて」
 言われても、どうやったらいいのかわからない。
「息吐いて。ゆっくり」
 恐る恐る、本当に、息をするのが怖いなんておかしいけど、僕はそっと息を吐く。
 その、一瞬に。
「あー!!」
 二本目の指が侵入した。
「アス、アス、ラ・・・!」
「痛いか?」
 ふるふると反射的に首を振って答えると、アスランは「いい子だ」と言ってさらに中をかき回す。
 そのたびに僕は悲鳴を上げて、汗で湿ったアスランの背に縋りついた。
 手のひらから、アスランの鼓動とか熱とか、汗の感触とかが伝わって。
 その興奮が伝わって。
 僕を甘やかす。
「キラ」
 指でかき回される間に僕はまた熱を吐き出していて、目にはまた涙が滲んでいて。
 それでも目はアスランを捉えようとする。
「限界。容れて」
 細められた目には、熱が宿っていて。
 その瞳には、僕しか映っていなくて。
 反射的に、ごく自然に、頷いてしまった。
 唇を啄ばまれて、至近距離でアスランが笑う。
 その笑顔で緊張の糸が解れた。
 勢いよく指が抜かれて。
「愛してるよ」
 囁きと共に。
 アスランの熱が、僕を侵した。
 境界線がなくなる。
 喉の奥から、僕は悲鳴を搾り出して。
 アスランの背に、傷がつくくらい爪を立てた。
 もう、なにも怖くないのに。
 揺さぶられている間、ずっとアスランに縋りついて。
 ただ、アスランの熱と、その息を感じていた。
 耳には結合の卑猥な音と、互いのペンダントがぶつかり合う音だけが届いた。

 真夜中。
 気がつくと、アスランがいなかった。
 一瞬夢かと思ったけど、起き上がったときに走った体中の痛みが現実だと教えてくれた。
 汗とかいろんなもので汚れていた身体は、きれいに拭かれていた。
 ベッドサイドを見ると、バスローブが用意されていた。
 アフターケアがなってるなぁ。
 慣れてるのかな。
 ・・・誰と?
 怖くなって、僕はバスローブを着て、ベッドから抜け出す。
 あちこち痛む身体を引きずるようにして寝室を出ると、リビングから風が流れてきた。
 閉めていたはずの、ベランダに続く窓が開いている。
 そっとベランダを覗くと、スラックスにシャツを引っ掛けだだけのアスランの背中。
 知らない人みたいで、ますます怖くなる。
「起きた?」
 振り返らないまま、アスランが声を発した。
「アス・・・」
「寒くない?」
「・・・ない」
「俺が怖い?」
 見透かされて、僕は返答に困る。
「アスラン、だよね?」
「そう。キラの『幼馴染で親友』の」
 アスランは振り返らない。
「まだ、ただの『親友』?」
「そこから抜け出したいなら、おいで」
 勝手に足が動いた。
 両手を伸ばして、アスランの背中を抱きこむ。
「アス、怖い」
「うん」
「こっち向いてよ」
「今、顔見られたくない」
「どうして」
「情けない顔してるから」
「そんなの、全部知ってるよ」
 ふっと、アスランが笑った気配がした。
 動いた手が、そっと僕の頭を撫でる。
「悔しいもんだな、『旧知の仲』っていうのは」
 アスランが振り返る。
 両腕で、しっかり僕を抱きしめてくれる。
「かっこつけることもできない」
「しなくていい」
 アスランの肩に顔を埋めて、笑う。
 抱きつく腕に力を込めて。
「つくりもののキミはいらない」
「・・・うん」
 こめかみにキスを受けた。
「まだ怖い?」
「・・・ううん」
「最初、なにが怖かったんだ?」
 こつんと額を合わせる。
 えーとね と僕は言葉を選んだ。
「初めて行く場所って、緊張しない?」
「身を守るための勝手がわからないからな」
「うん。だから」
「・・・そっか」
 境界線を越えるのに、予習もできなければ下調べもできなかった。
 できるわけない。
 こんな、曖昧で単純なこと。
 誰もが知ってて、誰も知らない。そんな術。
「僕、超えられた?」
「俺と一緒にね」
「じゃあ、もう怖くない」
 なんにも、怖くない。
 アスランがいれば、なにも怖くない。
 あの戦場でもそうだったように。
 あのときは、背中をむき合わせて戦っていたけど。
 今度は、肩を並べて。
 手を取り合って。
 生きていける。
「アスラン」
「うん?」
 アスランと一緒に。
 同じだけの強さで。
「愛してる」
 その一言で、僕らは本当に境界線を超えた。
 『幼馴染で親友』から。
 『共に生きていく人』に。

ハッピバースディ、キラさまー。


Go the Limit(前編)(キラバースディ)

2007-05-17 20:59:32 | 戦後アスキラ
 5月17日の夜。
 一つの航空便が届いた。
 すぐに誕生日プレゼントだとわかって、差出人を確認する。
『Athrun Zala』
 僕らは幼馴染で親友。
 今年はどんなマイクロユニットかと思いながら小さな包みを開けたら、入っていたのは長方形の薄い箱。
 蓋を開けたら、ひとつのペンダントが入っていた。
 シルバーのちいさな長方形のトップがついた、シンプルなデザイン。
 アスランから貰った、マイクロユニット以外の初めてのプレゼント。
 箱から出してライトにかざせば、トップの下のほうにさりげなく飾られた緑色の石。
 エメラルド。僕の誕生石。
 一目で安物ではないとわかるそれは、親友に贈るには高価すぎるものだった。
 たしかにアスランはオーブ軍のなかでも偉いほうで、高給取りではあるけれど。
「これ、いいのかな・・・」
 キラリと光るそのトップの裏に、何か刻まれているのに気づいた。
 手のひらに乗せてみれば、小さく
 『A.Z』の文字。
 Athrun Zalaの頭文字。
 それは独占の意味を持つ贈り物に思えた。
 みどりいろの石は、キミの瞳の色。
 僕らは幼馴染で親友。
 その境界を越えたことはないのに。
 超えるつもりはなかったのに。
 期待する僕がいる。
 
 僕の誕生日ということは、双子の姉のカガリの誕生日ということでもある。
 オーブで盛大なパーティが開かれて、ラクスも呼ばれて行ってしまった。
 本来なら警護役として僕も行くべきで、何よりカガリから呼ばれていたんだけど、僕はそれを断った。
 僕とカガリが姉弟だってことは、公式には内緒になっている。
 先の戦争の盟友として参列することは自然と言えば自然だけど、僕らが並べば顔立ちから「血縁」ということがバレかねない。
 それはカガリの「首長」としての立場を脅かしかねないので、公式に僕らが接触することを、僕はよしとしない。
 なにより。
 見て、いられないのだ。
 今このテレビに映っている、カガリをエスコートするアスラン という絵は。
「嫌味なほど女の扱いに慣れた男だな」
 軍本部のカフェの一角。
 背後から突然そんな冷めた声を投げかけられて、僕は持っていたカップを落としかけた。
「・・・イザーク」
「涼しい顔しやがって。見ろ、このすまし顔」
 フン と笑って、イザークは四人掛けのテーブルの、僕の斜め横に座る。
「気配消して近づくの、やめようよ」
「気づかん貴様が悪い」
 軍人が気配を消すのは普通だろう とイザークは持ってきた紅茶のカップに口をつけた。
 僕の知ってる軍人。
 ムゥさんは「気づかないなんて言わせない」って雰囲気で近づいてくるし、ディアッカもわざと遠くから声を掛けてくる。
 ルナマリアは普通にしてるし、シンに至っては乱暴な足音がするからすぐにわかる。
 アスランは。
 アスランは、僕に近づくときだけ脅かさないように気配を見せる。
 背中からアスランの気配を感じて、2秒もしないうちに肩に手が触れる。
 こんな風に気配を消して人の背後を取るのは、イザークくらいだ。
「ラクス嬢の警護、断ったそうだな」
「ああ、うん」
「仕事を選ぶとは、偉くなったものだな」
 ただの隊長職の僕より、MS隊全てを統括するイザークのほうが、実は偉い。
「だって、行ったら」
「あれを見たくないか」
 バレるじゃん と言いかけた僕の言葉を遮って、イザークは視線を大型モニターに流した。
 映し出されているのは、巷で「アスハ首長の恋人」と言われるアスランが、カガリをエスコートする姿。
 僕が一番見たくないもの。
 カガリの恋人な、アスラン。
 カガリに手を差し伸べて、ヒールの高い慣れない靴を履いたカガリが躓かないように見守って。
 やさしい笑顔を向けて。
「仕方なかろう。すっかり恋人扱いなんだ」
 今日は僕らの20歳の誕生日。
 それを前にいくつかの週刊誌で『アスハ首長、婚約秒読み』という記事を見た。
 早くも婚約者扱いされてるのは、決まってアスラン。
 先の大戦の英雄で、元ザフトのエースで、今ではカガリの専属警護役で、オーブ軍の偉い人で、出生はやんごとなきお家柄で。
 カガリにはぴったりな相手なのだ。
「貴様もラクス嬢の『恋人』だろう」
 イザークの言うとおり、僕も巷では「ラクス・クラインの恋人」と言われている。
 オーブ軍を抜けてザフトに入ったのは、たしかにラクスを守るため。
 だけどそれは、「アスランがカガリを守るなら」ということでした選択だった。
 誰かが守らなきゃいけない。
 そう、思ったからで、その噂は真実じゃない。
「昨日さぁ、アスランからプレゼントが届いたんだ」
 ぽつりと零すと、イザークが眉間に皺を寄せた。
「あの球体でも届いたか」
 ううん と言って、僕は詰襟を崩して、首から提げていたペンダントを見せた。
「どう思う?」
 まじまじとそれを見たイザークの眉間に、さらに皺が寄る。
「エメラルド、か」
「うん。たぶん」
「上物だな」
「そうなの?」
 いい家柄のイザークが言うのだから、そうなのだろう。
「誕生石。親友の20歳の特別な祝い。少し気取りすぎだがな」
「じゃあ、これは?」
 くるりとトップをひっくり返すと、イザークは無反応だった。
「盛大な告白だな」
「なにそれ」
「独占宣言だろう、それは」
 キザなあいつのやりそうなことだ とイザークは鼻で笑う。
「めでたいじゃないか。ヤツの誕生日にしっかり答えてやれ」
「5ヶ月ももやもやした気持ちでいろって?」
 ペンダントをしまって詰襟を正してちらりとモニターを見て、僕は呼吸を止めた。
「違うよ、イザーク」
「何がだ」
 無言でモニターを指差すと、イザークも視線をやる。
 そこに映し出されたもの。
 屋外にいるせいで、風に乱れた髪を直してやる、アスラン。
 その指が、いとおしむように触れたカガリの耳に。
 シンプルなエメラルドのピアス。
 大げさなドレスに合わせるには、少しおとなしい。
 それに、カガリはピアスホールなんか開けてなかった。
 きっと、あれを開けたのはアスランだ。
 直感でわかった。
「あっちの方が独占宣言だよ」
「誕生石をプレゼント。いい演出じゃないか」
「だって、カガリ、ピアスなんか開けてなかった」
 ぴく とイザークの指が反応を示した。
「自分で開けられる性格じゃないよ、カガリは」
「あれをヤツが開けたって言うのか」
「きっとそうだよ」
 それはそれは とイザークは冷めてしまった紅茶を飲む。
「どっちが本命だろうな?」
「裏を読みすぎだよ、イザーク」
 これは素直に受け取るべき。
 このペンダントは、親友の証。
 あのピアスは、独占の証。
「僕、仕事に戻るね」
 無表情で席を立つ僕を、イザークは引き止めなかった。

 仕事に戻った僕に、部下のシンとルナマリアがそれぞれお祝いをくれた。
 新作ゲームと、最近できた噂のカフェのケーキの詰め合わせ。
 ありがとう と笑顔で受け取った。
 笑えたはず。
 仕事中にケーキを食べるわけにもいかず、とりあえず備え付けの冷蔵庫に入れて、仕事に戻る。
 新しいMSの、OS開発。
 本来は隊長の仕事ではないけど、上(イザーク)からの命令で断れなかった。
 何かに熱中するとほかのことが考えられなくなるこの性格は、都合よかった。
 気がつくととっぷり日が暮れて、就業時間が過ぎていて。
「たいちょーお。帰りましょーよー」
 シンの駄々を捏ねるみたいな言葉で我に返った。
「あれ?」
「あれじゃないですよ。ルナ、帰っちゃいましたよ」
「シンは?」
「俺はアンタを自宅に送るまでが仕事なんで」
 ぶー っとふくれっ面で、シンが言う。
「なんか食って帰ります?」
 お祝いに奢りますよ とシンが言ったところで、僕の携帯が鳴った。
「っと、ごめん」
 断って、携帯をポケットから取り出して、息が止まる。
『Athrun』
 とっくにパーティは終わってて、身内だけの晩餐会が行われている時間だ。
 鳴り続ける携帯を、僕は震えそうな手で強く掴んで。
 意を決して、通話ボタンを押す。
「もしもし?」
『キラ?』
 少し乱れた声。
『今どこ?』
「え、まだ、本部」
『まっすぐ帰っておいで』
「え?」
『寄り道するなよ』
 乱暴に通話が切れる。
 無音になった携帯を見つめて、
「ごめん、帰る」
「りょうかいでありまーす」
 何かを察したらしいシンの含み笑いを見ながら、僕は執務室を出た。
 駐車場まで足早に行って、シンの車に乗り込んで。
「ごめん、飛ばして」
「法定速度内でなら」
 そう言うシンは、あっさり法定速度を無視してくれた。

 プラントに来てすぐは、軍の官舎にいた。
 だけどほかの隊長さんとかにあれこれ好奇の眼差しを受けるのが嫌になって、三ヶ月で僕は一般の賃貸マンションに引っ越した。
 新築。1LDK。
 眠りに帰るだけだから、その広さで十分だった。
 マンションの玄関前に車を停めてもらって様子を伺うと、入口の壁に誰かがもたれ掛かっていた。
 見間違えるはずのない姿。
「え? だって、あの人昼間オーブにいましたよね?」
 運転席から見たシンも、信じられないという顔をする。
「ていうか、パーティやってる時間じゃないですか?」
「ありがと、シン!」
 呆然とするシンを放って、僕は車から飛び降りる。
「明日は休みなんで、ゆっくりどうぞー」
 シンの言葉を背に受けながら、僕はたいして遠くもない彼のもとに走る。
「おかえり」
 一部始終見ていたアスランが、なんでもない顔で迎えてくれた。
「なんで、パーティ・・・っていうか、さっきまでオーブにいたじゃん・・・」
「時差、わかってるか?」
「え?」
「オーブの時間じゃ、もう19日だな。テレビでも見た?」
「うん・・・」
「録画したのを、しつこく流しまくってたんだろ」
 ふっとアスランの表情が緩んで。
「プラント時間で、まだ18日だよな?」
 僕は腕時計で確認する。
 午後9時。
「あと、三時間」
「ギリギリだな」
 言って、アスランはマンションに入る。
 僕は慌ててセキュリティを解除して、エレベーターに乗り込む。
「最上階。贅沢だなぁ」
「物件用意したのはイザークだよ」
 引っ越したいと言った僕に、イザークが用意してくれたのはどれも豪華で広いマンションばかりで。
 ここが一番狭かった。
 広い部屋には住みたくない。
 一人だということを思い知らされるから。
 エレベーターが止まって、部屋の前まで来て
「・・・泊まってく?」
 なんとなく訊くと
「宿無しで強行軍なんだ」
 アスランは笑う。
 部屋のセキュリティを解除しながら「ベッド一つなんだけど」と言うと、アスランは
「一緒に風呂まで入った仲だろ」
 と切り返す。
 子供の頃の話じゃん。
 あ、アークエンジェルで何度か一緒に天使湯に入ったっけ。
「狭いけどどーぞ」
 中に入って、リビングの明かりを点ける。
 テレビとゲームと、パソコンが目立つ部屋。
「キラ、夕飯は?」
「まだ。アスランも?」
「ピザかなにか頼もうか。酒買ってきたんだ」
 バッグから出された瓶は、赤ワイン。
「免税ものだけど」
 安物だった。
「税関通ってると、キラをほかに取られそうだったからな」
 勝手に棚に置いてあるケータリングのチラシを眺めて、勝手に注文して。
 初めて来る部屋なのに、アスランは勝手に寛ぐ。
 僕は自分の部屋なのに、やたら窮屈に感じた。
「なに?」
「あ、着替えてくる」
 突っ立ってる僕にアスランの瞳が向いて、僕は逃げるみたいに寝室に飛び込んだ。
 まただ。
 期待する僕がいる。
 『幼馴染で親友』の枠を超えたがってる僕がいる。
 のろのろと着替えてリビングに戻ると、続きになってるキッチンでアスランは夕食の支度をしていた。
 すでにリビングのテーブルに、グラスが置かれ、ワインは冷やされている。
「少しは食材買い置けよ」
「ほとんど外で食べるから・・・」
「それにしたって、これはないだろ」
 冷蔵庫を覗いて、アスランはため息を吐く。
 水と栄養ドリンクしか入ってない冷蔵庫。
「ほんと、昔から無精者だな、キラは」
 なんでもお見通しって顔で笑う。
 その瞳で僕の心まで見透かされそうで、心臓が跳ねる。
 首に提げたままのペンダントを握ると、ぴんぽーんとインターホンが鳴った。
 動けない僕の変わりにアスランが対応する。
 心臓を沈めるのに必死になっている間に、アスランはさっさとピザを受け取って
「座ったら?」
 カーペットを敷いた床に直接座って、僕を見上げる。
 言われるままにアスランの向かいに座ると、慣れた手つきでワインを開けて
「あまり冷えてないけど」
 真っ赤なワインを、グラスに注ぐ。
「甘いやつだから、キラでも飲めるよ」
 そう言って、片方のグラスを僕に差し出した。
 ワインなんて飲みなれてないけど。
 カチン とグラスの端を鳴らし合わせて口をつけると、本当に甘かった。
「誕生日、おめでとう」
 自分も一口ワインを飲んで、アスランが言う。
「いいの?」
「なにが?」
「カガリ・・・」
 ああ とアスランはピザを一切れ摘んで
「昼間祝ったから。夜はキラ」
 なんでもないみたいに、当然みたいに言う。
「昼間なんて、あれ、仕事みたいなもんじゃん」
「そうだけど」
「プライベートでお祝いしなくていいの?」
「昨日したよ」
 ピザにぱくつくアスランに首を傾げると
「明日の夜はキラのところに行くから、時間ないって言ったら、じゃあ今日って」
「恋人より、親友の誕生日優先?」
 ぴたり とアスランの動きが止まる。
「誰と誰が恋人だって?」
「キミとカガリ」
 ぷっ と、アスランが噴き出す。
「あの噂、おまえまで信じてるのか」
「違うの?」
「放っておいてるのは、カガリに余計なムシがつかないように。首長だからな、あれこれ見合い話が多いんだ」
「だから、ほんとなんでしょ?」
「仕事のうちだよ。カガリに余計な負担かけないように。見合いひとつで一日仕事だからな」
 ピザを一切れ食べきって、ワインを一口飲んで。
「ただの噂。真実じゃないよ」
 真っ直ぐに僕を見る。
「じゃあ、あのピアスは?」
 訊くと、アスランはまだ疑うか ってため息を吐いて
「20歳になったら開けたいって前に言ってたから」
「でも、開けたのキミでしょ?」
「よくわかったな」 
 わかるよ。
 カガリは男勝りなくせに臆病なところがあるから、自分で開けられるわけない。
 首長の耳に穴を開けられる人なんて、そうゴロゴロいるわけない。
 カガリの耳を確かめるみたいに見ていたあの瞳で、すぐにわかった。
「カガリはナチュラルだから、アレルギーとか心配だったんだけど。化膿もしてないし、大丈夫だろ」
 二切れ目のピザに手を伸ばして、アスランはふと視線を上げる。
「まだ疑う?」
「・・・疑うっていうか・・・」
「それ」
 ピザを齧りながら、空いたほうの指で、ぴっと僕の胸元を指した。
「意味わかった?」
 仕草は自然なんだけど、視線が変わる。
 射抜くような目。
「・・・20歳の、お祝い」
「で?」
「親友への、奮発したプレゼント・・・」
 小声で答えると、アスランは「はー」と深くため息を吐いた。
「それ、よく見た?」
 ピザを箱に戻して、油で汚れた手を拭きながら、心底呆れたようにアスランが問う。
「・・・見た」
「刻んである文字、見た?」
「みた」
 立ち上がって、僕の隣にどかっと座って。
 いつも動きが繊細なアスランからは想像できない苛立ち方だった。
「どう思った?」
「・・・親友の証、とか・・・」
「ああもう!」
 我慢限界って声を上げて
「んっ」
 僕の後頭部を引き寄せて、無理やり口付けた。
 逃げようとする僕の肩を引き寄せて、角度を変えて、さらに口付けて。
「はっ・・・」
「まだわからないか?」
 唇が離れて息を吐く僕の鼻先で、アスランは低い声で言った。
「意味、わかんな・・・」
「ほんとうに?」
 エメラルドの瞳が、至近距離で煌く。


中途半端ですけど、文字数制限の問題で、前後編になりました。
このあとは18禁ですにょろよー。(あわわ)

アレルギー・コップ

2007-05-14 19:55:37 | 戦後アスキラ
 遠く遠く離れたキミに。
 どうしたら、この想いを届けられる?

「遠くの人にものを届けるにはどうしたらいいと思う?」
「簡単だ。航空便にしろ」
 イザークの答えは、至極簡単。
「でもさぁ、鮮度が命なんだよ」
 シャトルで速達にしても、オーブまでは一日はかかる。
 今日の想いは、明日届く。
 それじゃ嫌だ。
 今日の想いは今日のうちに届けたい。
「明日になったら変わっちゃうの。似て非なるものになるの。その場合は?」
「冷凍でもしろ」
 カチカチに凍った、僕のキモチ?
 それって新鮮とはいえないし、冷たくない?
 レンジでチンってされて、またあったかくなるんだけどさ。
 それって味が落ちない?
「味気ないよ。なんかもっと、ない?」
「一般輸送では駄目なのか」
「うん」
「どこへ送るんだ」
「オーブ」
 ピクリ とイザークの眉間に皺が寄る。
 オーブ と聞いただけで送り先がわかるのは、イザークだけじゃないはず。
「ヤツの誕生日ではないだろう?」
「よく知ってるね。うん。10月29日」
 イザークは8月なんだよね。似合わないね って笑ったら、また不機嫌顔。
「記念日かなにかか?」
「ううん。でも、溢れちゃいそうでさ」
「なにがだ」
「キモチ」
 イザークは頭を抱えた。
「・・・通信でもなんでもしたらどうだ・・・」
「時差が邪魔するんだよねぇ」
 僕が仕事が終わる頃には、アスランは仕事を始める。
 アスランが仕事を終える頃には、今度は僕がベッドの中。
 どうやっても時間が合わない。
「録画でも録音でもすればいいだろう」
「それじゃ鮮度が落ちちゃう」
 鮮度ってなんだ とイザークはぼやく。
 どうすればいいかなぁ。
「携帯があるだろう」
「仕事の邪魔したくない。今忙しいんだって」
 よく知らないけどさ と言うと、イザークはなにか知っているみたいな反応をした。
「・・・あれか」
「なに、何か知ってるの?」
「聞いてないのか?」
「なにを」
「というか、三日前の会議で言わなかったか?」
 三日前の会議?
「あー・・・。新作ゲームのことで頭イッパイだった・・・」
「貴様!!」
 ずっと楽しみにしてた大好きなシリーズの新作が出る と知って、どこならデータ落ちてるかな ってずっと考えてた。
 会議の内容は、よく覚えていない。
「今すぐその軍服を脱げ!!」
「セクハラー」
「死にたいか!」
 いいじゃん。平和な今は特に作戦会議とかするわけじゃないし。
 会議のひとつくらい聞いてなくても、命には関わらない。
「で? なんなの?」
 はー とイザークはため息を吐く。
「こういう大事な話を貴様にしていないあいつの抜けっぷりに呆れてものも言えん・・・」
 ため息の後でノンブレスで盛大なぼやき。
 肺活量いくつ?
「これだ」
 差し出された書類を受け取って、僕は目を丸くした。
「・・・オーブ軍プラント駐屯地?」
 なにそれ。聞いてないよ。
「和平条約確立に伴って、互いに有事・・・災害などの場合には助け合いましょう という話でな」
 途中から僕に気を使ってわかりやすく話してくれる。
 イザークの難しい話し方は、本気でわからないんだ。
「有事にすぐ対応できるよう、互いの領地に駐屯地を作ることになったんだ」
 へぇ。
 ようするに連邦に対する牽制でしょ?
「ザフトは建築資材などをオーブで現地調達できるが、オーブ軍はそうもいかん」
 オーブは地球で、プラントはコロニー。
 資源の多さと物価が違いすぎる。
「そういう理由で、ザフトの基地はもう完成間近なんだが、オーブ軍のほうは遅れていてな」
 イザークは目の前のテーブルからカップを持ち上げる。
「しばらくオーブ軍の一部が、ザフトの本部に間借りすることになったんだ」
「それがアスランと何の関係があるの?」
 フン とイザークが鼻を鳴らす。
「最初、貴様をオーブ駐屯地の隊長にしようという話もあったんだ。貴様は元オーブ軍で、勝手がわかっているからな」
「なにそれ! だったら今からでもそうしてよ!」
 ぎゃん! と吠えると、イザークは
「だが」
 と紅茶で口を湿らせる。
「迂闊にオーブに近づけると、あいつだのアスハ嬢だのにうっかり攫われかねん。腕の立つパイロットは貴重だからな。それは避けた」
 勝手だ! と抗議したけど、イザークは気にせず続ける。
「こちらに来てもらう ということは、少しでもプラントとザフトの事情に詳しい人物が望ましい」
 ん?
「最近では開けてきたが、プラントの人口の9割半以上はまだコーディネイターだ。オーブ軍はナチュラルがほとんどだろう」
 そこで とイザークはカップをテーブルのソーサーに戻した。
「オーブ軍在籍、プラントとザフトの内情に詳しい、コーディネイターの上官殿を責任者にしていただく という条件をオーブに出した」
 なんでもない という顔をして、腕組なんかして。
「意味はわかるな?」
 ふふん と勝ち誇った顔をした。
 この、イザーク・ジュール国防長官殿め!
 ・・・イイヤツすぎて抱きしめてやりたくなる!!
「いつ! いつ来るの!!」
「今日だ」
「へ?」
「そいつと、先陣のオーブ軍の世話を貴様の部隊に任せる。命令だ」
 正式な辞令であることの証拠に、イザークは一枚の書類を僕に突きつける。
 軍事命令 だ。
「異論はないな?」
 異論どころか、抗議も文句も浮かばない。
 ぽかーん としていると、イザークの趣味でアナログにされたドアを誰かがノックした。
「入れ」
「ご到着ですよー」
 挨拶もなしに入ってきたのはディアッカ。
 その後ろに見える影は。
「ほら、涙の対面だ」
 イザークの声を聞かず、僕はディアッカを押しのけてその影の主に抱きついた。
「うわ、こら」
 窘めるわけではない、軽い声で。 
 至近距離で、アスランが。
「久しぶり、キラ」
 笑うから。
「うー・・・」
 僕の中にある感情が本当に溢れ出して、アスランにしがみついたままぼろぼろ泣いてしまった。
「泣くなよ、いい大人が」
「アレルギーみたいなものだろう」
「アレルギー?」
 僕を抱きしめて、アスランはイザークの言葉に聞き返す。
「アレルギーコップだ。さっきまで、「感情が溢れそうなんだ」とぼやいていたぞ」
 ああ、とアスランは納得したみたいだった。
「溢れたんだろう」
 そういうことか とアスランはさらに強く抱きしめてくれる。
 その会話の間も、僕は泣きっぱなしだ。
「早く免疫をつけてやれ。俺たちは二時間、席を外す」
「悪いな」
「部下の世話も仕事のうちだ」
 そう言って、イザークとディアッカは本当に部屋から出て行ってしまった。
「アス・・・」
「うん」
 抱きしめられているので、顔が見えない。
「俺も、溢れそうだったんだ」
 ちゅっ と米神にアスランの唇が触れる。
「それはもう大量生産でさ」
 くすくす笑う声が、心地いい。
「鮮度がいいまま届けるにはどうしたらいいかと思って」
 アスランも、同じこと考えてた。
「出戻ってきた」
 正式にはオーブ軍のままだし、国籍もオーブのままなんだけど。
 そのうちオーブ軍の駐屯地は完成して、仕事場は離れるけど。
「受け取ってくれる?」
 アスランの片手が離れてオーブの軍服のポケットを探って。
 身体を離せば、無理やり左手に何かを握らされる。
「返品不可だから。いらなかったら捨てて」
 手のひらを開けば、一つのわっか。
 プラチナのリング。
「・・・サイズが違う場合は?」
「それはないな」
「どうして」
 リングを見つめたままの会話。
「ディアッカ情報だから」
「?」
「あいつの特技。見たり触ったりしただけで、他人のあらゆるサイズがわかるんだ」
 セクハラだよな とアスランは笑う。
「ディアッカに、手、見せなかった?」
 言われて考える。
「そういえば、こないだ、手が小さいなって言われて・・・」
 手のひら合わせてくらべっこして、あまりの大きさの違いに凹んだ。
「俺が頼んだ」
「いつ」
 僕には連絡しなかったくせに。
「あいつが寝てるの叩き起こした」
「イザークと同居してるんじゃなかったっけ?」
「ああ。思いっきり怒鳴られた」
 視線はまだ、リングに向けられたまま。
「どうする?」
 誘導尋問にも、僕は怯まない。
「ん」
 リングをアスランに突きつける。
「返品不可だって」
「じゃなくて! ちゃんと!」
 返品なんか、頼まれたって土下座されたってするものか。
「ちゃんと?」
「・・・嵌めてよ」
 小声で言うと、アスランは
「顔に似合って乙女だなぁ」
 自分だって少女趣味なことしてるじゃん!
 自分だって女顔じゃん!
 反論したいのを押さえつけて黙ると、アスランは指輪を僕の手から拾って。
「後悔するなよ」
「させないでよ」
「俺はしないから」
「うん」
 そう言って、嵌めてくれたリングは、憎らしいくらいぴったりで。
 ディアッカ、いい仕事をしていた。
「というわけで、今日はイザークとディアッカに夕飯奢るんだ」
「迷惑料?」
「引越し蕎麦」
 キラもね。
 そう言って、アスランはさらにポケットから小さく折りたたんだ紙切れを取り出した。
 開いて、目の前に突きつけられる。
 ザフトのマークが入った、ついでにイザークの承認サインまで入ったそれは。
「住所変更?」
 知らない番地。
「ここと、オーブ軍駐屯地の間。買ったんだ」
 マンションだけど とアスランは言う。
「変更日、今日になってる」
「うん。キラの部屋には今頃なにもないよ」
「・・・は?」
「ここに運ばれてる。イザークに手配頼んだんだ」
「・・・僕がこれ受け取らなかったらどうした気」
「それもありえない確立だな」
 なんだろう。誰だろう、この自信家。
「アレルギー、克服?」
 僕の頬に落ちたまま乾きかけた涙を指の腹ですくって、アスランは笑う。
「うん。いい薬、鮮度がいいまま届いたから」
「それはよかった」
 笑いあって。
 僕らは強く抱き合った。 
 免疫がついて涙は出なかったけど。
 感情の大量生産は続いていた。


キラさまバースディ、前祝。R指定ナシバージョン。
思いつくままに・・・!!
やっぱりザラが少女趣味な俺様です。