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iPhone 販売不振と中国経済減速が
日本企業を直撃…アップル&中国依存脱却が急務
2019.01.25 文=真壁昭夫/法政大学大学院教
2018年の年末にかけて、わが国の企業業績の悪化を懸念する市場参加者が増えた。その背景には、米中の貿易戦争の激化懸念やスマートフォン(スマホ)需要の減退などを受けて、世界のIT先端企業の業績悪化懸念が高まってきたことがある。
その変化を、いち早く反映してきた銘柄の一つにロームがある。16年半ばから17年年末まで、同社の株価は4000円程度から1万3000円程度の水準まで大幅に上昇した。一転して、18年を通して同社の株価は下落し、年末は7000円台をつけた。18年のロームの株価騰落率はマイナス43%を超えた。
アップルの iPhone などスマホの販売不振、米中貿易戦争への懸念に押された中国企業の設備投資抑制などは、ロームの業績悪化懸念を高めるだろう。そのなかで、ロームがどのようにして当面の収益を確保しつつ、より長い目で成長に向けた取り組みを強化していくかが問われている。リーマンショック後、ロームはいち早くスマホの需要に着目して必要な取り組みを進めてきたと考えられる。経済環境の変化を受けて業績の下押し圧力が高まりやすくなっているなか、同社がどのように変化に対応し、収益力を高めることができるかに注目が集まる。
車載需要などを重視するローム
ロームはLSI(Large-scale Integrated Circuit、大規模集積回路)や半導体素子事業を中核とするわが国の電機メーカーである。現在、ロームは民生向けの事業よりも、産業用事業の競争力向上を重視している。それが同社の成長戦略だ。同社は、今後の普及が期待されている電気自動車や自動運転技術の実用化、工場の自動化などに必要な半導体の供給能力を強化し、業績を拡大しようとしている。そのために、同社はパワー半導体(SiC<シリコンカーバイド>半導体)事業の強化などに取り組み、国内外での買収を実行してきた。
ロームの成長戦略は、わが国の経済と、それを取り巻く外部環境の変化への適応を重視している。日本では少子化と高齢化、人口の減少が3つセットで同時に進んでいる。そのなかで、需要の拡大を期待することは難しい。どうしても、海外の需要を獲得する必要性が増す。
国内電機業界全体でも、ロームと同様の発想を重視する企業が増えてきた。その結果、日本企業が自力で人気のあるヒット商品(最終商品)を生み出すことは減少してきたように思う。
ローム以外にも、ソニー、安川電機、日東電工、村田製作所など多くの企業が海外のスマホメーカーなどをはじめとするIT先端企業からの需要を取り込んで収益を獲得してきた。加えて、中国などでのIoT(モノのインターネット)への投資増加を受けて、制御機器などの需要を取り込んで成長を遂げた国内企業も多い。
このなかでロームは、顧客企業のニーズに対応したカスタムLSIを得意としてきた。それは、同社の株価や業績動向が、エレクトロニクス企業の需要・業績動向をより敏感に反映しやすいことを意味する。18年年初来の同社の株価下落には、目先の業績だけでなく戦略への不安心理の高まりが影響している可能性がある。
スマートフォン需要の低迷
ロームにとって経営戦略上、スマホ関連需要の取り込みには、成長に向けた経営資源を確保する意味合いがあったといえる。それを実現した上で、同社は車載関連など新しい分野へ経営資源を再配分することができてきたと考えられる。
リーマンショック後、ロームはアップルなどの需要を取り込むことを重視した。そのために09年、ロームは米国の半導体企業であるKionix(カイオニクス)を買収した。買収の目的は、カイオニクスのMEMS加速度センサ(人の動きや振動などを検知するデバイス)技術の獲得にあった。
こうした取り組みの結果、同社の収益に占める海外民生関連事業の売上高は増加基調となった。04年度、同社の売上の28%が海外民生関連からもたらされていた。リーマンショック後の落ち込みを挟んで、海外民生関連が売上高に占める割合は増加傾向となった。その後、産業用機械や車載関連の収益が増加してきた。それがロームの戦略を支えている。
スマホには、IoTのインターフェイスとしての役割がある。スマホの登場があったからこそ、工場の自動化、コネクテッドカーなどの開発が進んだ。そう考えると、ロームの市場別に見た売上高の構成比推移は、スマートフォンからIoTへ、という流れと一致している。
ただ、17年度ごろから、海外民生関連の売上が伸び悩んでいる。19年3月期、ロームは海外民生関連の売上が全体の24%程度に落ち込むと予想している。17年、世界のスマートフォン出荷台数は初めて減少に転じた。これは、世界全体でスマホの普及が一巡しつつあることの表れにほかならない。スマホ需要が伸び悩むなかでロームがどのように収益を獲得し、成長につなげていくか、先行き不透明感が高まっている。
中国経済の減速
ロームの業績を考える上で、中国経済の動向も軽視できない。同社の地域別売上高を見ると、全体の57%の売上高がアジアからもたらされている。詳細は公表されていないが、このうちのかなりの部分が中国で獲得されているはずだ。
米中貿易戦争への懸念などを受けて中国経済の減速懸念は高まっている。わが国の中国向け工作機械受注の減少は、中国における設備投資の増加ペースが鈍化していることにほかならない。ロームが産業用機械などに搭載される半導体需要を取り込むことは難しくなっていると考えられる。
それに加え、中国経済の動向はドイツをはじめとする欧州経済の減速にもつながる。すでにユーロ圏の景況感は悪化している。中国経済の減速に伴い、独自動車メーカーの業績悪化などが顕在化すると、ロームの車載関連事業の収益に下押し圧力がかかることは避けられないかもしれない。
このように考えると、ロームは新しい収益源を獲得しなければならない局面を迎えつつある。米国の株式市場では、アップルの株価下落とは対照的に、アマゾンの株価が底堅さを維持している。この背景には、家庭用IoTデバイスともいえるスマートスピーカーへの期待などがあるといえるだろう。ロームは車載用を目的に音声関連の半導体を生産している。加えて、スマートスピーカーなどに用いられる電源ICの供給も行っている。こうした分野への取り組みは、スマホ需要などの落ち込みをカバーする上で一定の役割を果たすだろう。
その上で、ロームには今後の産業動向を見極めつつ、新しい需要の取り込みに向けて戦略を強化する必要がある。これまでに蓄積してきた経営資源を生かしつつ、ダイナミックに同社が戦略を策定・実行して環境の変化に対応していくことを期待したい。
(文=真壁昭夫/法政大学大学院教授)
https://biz-journal.jp/2019/01/post_26399.html
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