子どもに事実を知らせない横浜の歴史教育の行く先は？

日本人が犯した罪はなかったことにするのは、歴史を学ぶ意義を無くすと言えます。横浜市の教育委員会が、今度は中学生向けの副読本から関東大震災時に起きた朝鮮人虐殺の記述を無くす原案を提出しました。神奈川新聞が詳細に伝えています。９月１３日の朝日新聞にも載っていました。「今度は」というのは、次のように、この横浜市教育委員会は今までも特異な教委ではないかと考えられるからです。

①批判が多く全国でも数パーセントしか採用されていない育鵬社版の歴史教科書を多くの教師や市民の反対をおしきって採用。この教科書はアジ　　ア侵略を肯定し、人権の記述が少ないなど問題になっています。

②中学生が使う副読本の記述を議会で自民党の議員から要求されて変えてしまうことがありました。
　問題の「副読本の２０１２年版は、「関東大震災時に自警団だけではなく軍隊や警察も朝鮮人に対する迫害と虐殺を行い」と記述されていまし　
　た。
　ところが、自民党の議員による、「軍隊・警察の関与は疑問がある」また「虐殺という言葉はいかがか」などという趣旨の批判を受け、教委は「軍隊・警察の関与」を削除し、「虐殺」を「殺害」に変えてしまうということをしたのでした。どの教科書、歴史書にもある歴史的事実を改ざんして子どもに提示することまでやってのけているのです。

　今度は、さらに一歩進めて「朝鮮人虐殺」の事実そのものが無かったことにすることにまで踏み込んだのです。もちろん多くの研究者や市民団体は反対しています。

　横浜での異常な歴史改ざんによる生徒への資料提供は、安倍政権による教育委員会制度の改悪など教育への介入やヘイトスピーチなど排外的な雰囲気と無関係ではないと思います。この先には、事実を隠して知らせないというかつての「大本営発表」のみを信じさせるという悪夢が待っていることをおそれます。

　子どもたちが自国の過ちを知らずに育ったら、どのような国民になるのでしょうか。アジア各国の子どもが知っていることを知らないまま、自国の優位のみ学んでしまったら協調して平和的な社会など作れるでしょうか。

　横浜市という国際都市にしてこのような教育委員会が存在しています。かつての自国の過ちを受け入れ、平和な未来に向って進む生徒ではなくて、隣国やアジアに対する歴史的な事実も知らない生徒を育てるつもりでしょうか。

　有名な「過去に目を閉ざす者は現在にも盲目である。」という言葉があります。
これは、かつてドイツのワイツゼッカー元大統領が演説した言葉で、真摯に自国の忌まわしい過去と向き合い、それを糧に将来を開くという戦後のドイツが政策でした。（註参照）

　日本では、戦犯になった人が首相や高官になったりして、戦争責任問題は曖昧なままになって来ています。アジア各地で起こした日本軍のおこした犯罪的な事実も「無かった」ことにする試みがまだ続いています。
次回は、その「関東大震災と朝鮮人虐殺」について考えます。　　　　　　　　　　　　　（註）ワイツゼッカー元大統領の発言
　ワイツゼッカー元大統領は西ベルリン市長などを経て、１９８４年当時の西ドイツの大統領に就任しました。
その翌年の１９８５年５月、第２次世界大戦終結から４０年の演説で、彼は

　「過去に目を閉ざす者は現在に対しても盲目になる。過去の罪を心に刻まなければ和解の道はない」

という歴史に残る言葉で語り、戦前のドイツが犯したホロコースト（ユダヤ人の大量虐殺）など過去の罪を直視し、被害を与えた国や世界との和解を進めるよう国民に呼びかけました。
　
また、同時に
　「我々は若かろうが年をとっていようが、みな過去を受け入れなければならない」

とも述べ、ナチス・ドイツへの関与の有無にかかわらず、国民一人ひとりが当時の非人間的行為に目を向けなければ、過ちが繰り返されるというメッセージをドイツと世界に発信しました。この演説は二十数カ国語に翻訳されたのです。
　
　この演説の５カ月後、当時の西ドイツ大統領として初めてイスラエルを訪問しました。ナチスによるホロコーストをめぐり、イスラエル国民の間でドイツに対するわだかまりが強かった時代でした。そこでも、ドイツ人の歴史的責任を強調し、イスラエル側はこれを「歴史的な出来事」と評価しました。
　さらに、ワイツゼッカー氏は１９９０年、東西統一を果たしたドイツの初めての大統領に就任し、４年間にわたる在任中、統一直後の混乱に直面する国民に融和を呼びかけ、「ドイツの良心」を代表する存在として国内外から尊敬を集めたのでした。