真昼の月

創作?現実? ちょっとHな虚実不明のお話です。
女の子の本音・・・覗いてみませんか?

運命の微笑・第二章

2005-06-07 08:13:37 | オリジナル小説
そんな会話が交わされた翌日からも、酔った上での冗談であったのか、或いは覚えていないのか、西澤は何事も無かったかのように自然に川村と接し、川村も年末の慌しさの中で、そんな事があったとは忘れているかのようであった。
実際西澤達にとって、年末年始などというものは休日とは言えなかった。
全く休みが無いわけでは無いのだが、海外企業はクリスマス以降は接待もパーティーも激減するが、国内の企業ではクリスマスの後は、やれ忘年会だ懇親会だと、何かにつけて呑んで騒ごうという古い体質が染み付いていたし、その忙しさの中で年始に向けての挨拶や手土産の準備、新年会の準備等に追われ、実質幹部連中には休みなど無いに等しかったのだ。
社長である西澤と、補佐役でもある川村も当然忙しい日々を過ごし、社自体の仕事納めは29日に済ませていたのだが、結局二人の年内の仕事は大晦日いっぱいまでかかってしまった。

やっとの思いで腰を下ろし、ネクタイの結び目を緩めると、大きく息をつく西澤に「お疲れ様でした。熱いお茶かコーヒーでもお煎れしますね」と、結局一緒に仕事に付き合わせてしまった川村が労を労ってくれた。
「いや、君こそ大晦日の、しかもこんな時間まで付き合わせてしまって本当に申し訳無い事をしたね。お茶は私が煎れるから君は少し休みたまえ」
そう言うと川村が手を出す暇も無く、器用に熱い煎茶を二人分煎れてしまった。
「社長、手慣れていらっしゃるんですね。私がお手伝いさせて頂く隙もありませんでしたわ。それに...とっても美味しい!」
「あぁ、独り暮らしが長いから慣れてるんだ。勝手に煎茶にしてしまったが、もうすぐ年も明けてしまう。こんな時ぐらい日本人らしくお茶の方が良いかと思ったんだが、コーヒーが良ければすぐ煎れるよ」
「いえ、そんなお茶の方が良いです。コーヒーは少し飲みすぎてウンザリしてますから」
実際ハードスケジュールをこなしていた二人は、眠気覚ましや訪問先で出されるコーヒーに少々食傷気味であったのだ。
丁度良い熱さで、程よく茶葉の甘みの出たお茶を味わいながら、TVで流れる恒例の「行く年、来る年」に目をやった。
「もう本当に来年になるんですね。。。」

気が付いた時、TVは消され、川村は自分にかけられている仮眠用の毛布に気付き、自分が眠ってしまった事に気が付いた。
慌てて起き上がると、驚いた事にそこにはまだ西澤がいて、微笑みながら、じっと川村の顔を眺めていた。
驚いたのは川村である。
「し、社長!すみません、私うっかり... 起こして下されば良かったのに、あの、申し訳ありません。早くお帰りになりたいでしょうに」
「いや、気にする事は無いさ。そんなに疲れさせてしまったのは、社長である私の責任だし、君の寝顔を眺めながら新年を迎えるのも良いものだよ。」
「社長、お人が悪いですわ」
照れながら抗議する川村であったが、日頃沈着冷静な川村のそんな様子は非常に可愛らしく映った。
「本当だから仕方が無い。家で独りで朝を迎えるより、こうして仕事に追われているか、君の寝顔を眺めていた方が余程気持ちが休まるよ」
一見プレーボーイの様なセリフだが、今の西澤は本心からそう言っていた。
「それに、この前言っただろ。 君が本当に特定の相手がいなくて、独身主義者でも無いなら俺の嫁さんにしちまうぞ ってね。」
酔った上での戯言で、覚えていないだろうと思っていたのだが、西澤はしっかり覚えていたのだ。
「あれは悪い冗談なんかじゃない。勿論君が嫌で無ければ、だが、俺は君に生涯の伴侶になって欲しいと思ってるんだ。 嫁さんにしたいと思う女性の寝顔を眺めていられるっていうのは、なかなか幸せな気分だな。」
さすがにちょっとストレートすぎたと思ったのか、西澤は照れ笑いを浮かべた。
驚きのあまりか、一言も発しない直子に「夜更かしついでだ。コートを取ってきたら私の駐車場で待っててくれないか。近場の神社で初詣でもして、家まで送るよ。」
そういうと社長室へと消えてしまった。

5分後、2人は地下駐車場の西澤の車の中にいた。
その後あまり人の来ない小さなオフィス街の神社に詣でると、言葉どおりに川村の自宅方面へと車を走らせた。
「あの、社長...さっきのお話ですけど...」
「あれなら冗談でも何でも無い。俺は本気で君と結婚したいと思っているよ。ムードもへったくれも無くて申し訳無いが、プロポーズだと思ってくれないか? 勿論君の気持ち次第だし、強要はしない。断ったからと言って今後の仕事には何の私情も挟むつもりは無い。」
いつものようにスマートにかわそうにも、かわしようの無いほど率直な言葉であった。
とまどう直子が口を挟む間もなく、
「もし君が俺と結婚するのが嫌だとしても、これは承知して欲しいんだが・・・君は今でも実質そうなんだが、正式に副社長に就任してくれないだろうか。 いや、いっそ副社長に就任しやすくする為に結婚すると言ってくれても構わないぐらいだ。俺はそれぐらい君に側にいて欲しいと、真剣に願っている。強要はしない、しないが・・・できれば良い返事をくれないか。 勿論今すぐとは言わないが。」
西澤に押されっぱなしの直子であったが、暫しの間の後に、真顔で問い質した。
「どうして私なんですか? 副社長の件はともかくとして、なぜ私と結婚だなんて? 社長ならもっと良い御縁が沢山おありのはずです。 私なんて働くだけが取り柄のつまらない女ですわ。 なぜ私と結婚だなんて急におっしゃるんですか?」

この言葉を聞くと、西澤は車を道路の脇に寄せ、停車した。
そして直子の方に向き直ると、いつになく真剣な顔で話し出した。
「俺は...君の言うような大層な男なんかじゃない。仕事だって俺一人じゃあ生き残って来れなかっただろうし、君の思うようなプレイボーイでも無い。社長だとか何だとか、肩書きをひっぺがしたら、俺なんて只の孤独なつまらん男に過ぎないんだ。」
「それに比べて君は素晴らしい女性だ。才色兼備で、誰にも気配りができ、皆から慕われ、何より心の美しい女性だ。
何も俺は急に君を好きになったわけじゃない。立場上態度や言葉に出しはしなかったが、ずっと以前から君の事を愛していたんだ。君は全く気付いていないようだったが。」
「私は...私はそんな才色兼備でも無ければ、ましてや”美しい心”なんて持ってやしません。社長の買い被りです」
しかし実際直子は、その有能さと人柄の良さが先に口に出されるので、あまり言葉としては出なかったが”才色兼備”と言って差し支えなかった。
確かに、”美咲”のような目を見張るような美女というわけでは無かったが、それでも十分美人の部類で通る顔立ちであったし、スタイルも良かった。
「君は・・・自分の美点に気付いていないのか、それとも俺を断るためなのか? 君は本当に俺には勿体無い素晴らしい女性だよ。」
あくまで優しく口にする西澤であったが、直子はそのまま俯いて黙り込んでしまった。
しばしの沈黙の後、意を決したように直子は口を開いた。
「私...私、子供の産めない体なんです。そんな女とわざわざ結婚する物好きなんて...」
最後まで言い終える間を与えず、唇が塞がれた。
「俺は子供を産んでくれる女が欲しいわけでも家政婦が欲しいわけでも無い。ただ愛する女性と一緒にいたいだけなんだ。それじゃあダメか?」
甘い言葉と共に、再び甘い接吻が重ねられた。 既に夜は開けきろうとしていた。

2 コメント

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直子も可愛い人ですね (napdog)
2005-06-15 07:43:16
ハイペースの執筆、順調に回復されているようで安心しています。



西澤のキャラクターははかりかねますが、直子に対する思いだけは共感できます。



子どものいない、いいご夫婦は世の中にいくらでもいるのに。



私も、もし相手から(といってもいたらの話ですが(^^ゞ)直子と同様のことをいわれたとしても、西澤と同様の感覚だし、それどころか相手の方を一層愛しく思うことでしょう。
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西澤は。。。(^w^) (yurika)
2005-06-15 10:00:52
西澤のキャラクター、不明ですよねぇ。

直子が素敵な人なだけに、どうして西澤なんかと?と思われる人もいるかも?

謎がいっぱいの今後です♪
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