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台本置き場

GREEN ~秋空のスクリーン~ scene.4「君の瞳に恋してる」

2017-02-15 05:01:30 | 台本

GREEN ~秋空のスクリーン~ scene.4「君の瞳に恋してる」


【キャスト一覧】

小野 真治 ♂:
水野 真琴 ♀:
桜井 茜  ♀:
藤原 由紀恵♀:
本山 浩一 ♂:
中田 英明 ♂:


詳細なキャラ説明は一話を参照してください。
GREEN ~秋空のスクリーン~ scene.1「さよならゲーム」


【GREEN ~秋空のスクリーン~ 全4話】

GREEN ~秋空のスクリーン~ scene.2「シーズ・ソー・ラブリー」
GREEN ~秋空のスクリーン~ scene.3「好きと言えなくて」
GREEN ~秋空のスクリーン~ scene.4「君の瞳に恋してる」


【本編】


  《真琴の家の前》


SE:チャイム音 何度も鳴らす

真治 「おかしいな・・・真琴が居留守を使うとしても雅志君が出てくるはずなんだけど」

SE:ドアのノック音

真治 「まだそんなに遅い時間じゃないから、真琴のお母さんは帰ってきてないよな

SE:ドアのノック音 何度も叩く   

真治 「こんばんは! こんばんは~! こんばんは~!!
    はぁ・・・ダメ、かなぁ・・・」

SE:ドアが開く音

真治 「あっ、真琴」

真琴 「ちょっと、近所迷惑よ」

真治 「真琴、ごめん。ちょっと話を聞いてほしいんだ」

真琴 「こんな時間に押しかけて来て、どういうつもり?」

真治 「頼む! ちょっとだけでいいから」


  《真琴が真治を家に招き入れる》


真治 「ありがとう」

真琴 「静かにね」

真治 「あっ、ごめん」

SE:ドアを閉める音 鍵をかける音

  《階段を上がり、真琴の部屋に向かう》


真治 「あれ?雅志君は?」

真琴 「お母さんと一緒に田舎に行ってる。取材旅行のついでなんだって」

真治 「真琴は行かなかったんだ? 一緒に行けば良かったのに」

真琴 「もう、撮影があるでしょう」

真治 「あ、そうか・・・」


  《真琴の部屋のドアを開ける》


真琴 「はい、どうぞ」

真治 「あ、うん。お邪魔します」


  《部屋に入り、ドアを閉める》


真治 「ねぇ、真琴」

真琴 「・・・」

真治 「真琴、ごめん。本当に悪かったと思ってる」

真琴 「・・・」

真治 「真琴、ちょっと聞いてほしいんだ」

真琴 「呼び捨てにしないで。その辺に座ったら?」

真治 「う、うん」

真琴 「で、何? 用が終わったら、さっさと帰ってね」

真治 「いや、とにかく、謝りたくて」

真琴 「今更何を謝るの? 茜ちゃんにキスしたこと? それを平気な顔で私に話したこと?」

真治 「それもあるけど」

真琴 「それとも、私と別れて茜ちゃんと付き合うことにした? だったら謝る必要なんかないわよ。
    ほんと、それがいいかもね。あの子なら私なんかよりずっと素直だよ。
    先輩、先輩って、きっと何でも許してくれるわよ」

真治 「やめてよ、水野さん。僕は、そんな話をしに来たんじゃない」

真琴 「何よ、おとなしそうな顔して。君のことを陰でコソコソ狙ってるんだわ!
    それで、都合が悪くなるとすぐ泣いて、ズルイ女!!」

真治 「茜ちゃんを悪く言うのは止せったら!」

真琴 「やっぱり、庇うんだ」

真治 「そうじゃないって」

真琴 「ねぇ、君、何しに来たの? 私に謝りに来たんじゃなかったの?」

真治 「もちろん、謝りに来たんだよ」

真琴 「どこが謝ってるのよ! もう帰って!」

真治 「どうして茜ちゃんのことを持ち出すんだ。
    彼女の気持ちがどうであれ、僕の君を想う気持ちに変わりはないのに!」

真琴 「出てって! ねぇ! 出てってよ!!」

真治 「水野さん、落ち着いて! 話を聞いて!」

真琴 「話なんかしたくないの! 理屈ばっかり言って! バカッ! バカバカッ!」

真治 「どうして分かってくれないんだ! 僕は!」

真琴 「私の気持ちは? 分かってるの?」

真治 「だから、分かろうと思って。でも、そのためには話し合わなきゃ」

真琴 「話し合って、何が分かるのよ!?」

真治 「水野さん・・・」

真琴 「・・・・・・」

真治 「水野さん、どうしてそんなに怒ってるの?」

真琴 「・・・」

真治 「僕のこと、嫌いになったの?」

真琴 「君が、私のこと嫌いになったんじゃないの?」

真治 「いや、好きだ」

真琴 「ウソ」

真治 「嘘なもんか。何度も言ったじゃないか。水野さんは、僕の理想の」

真琴 「そんなの、君が勝手に思い込んでるだけじゃない。私、名無しのヒロインなんかじゃないよ?
    普通の女の子だよ? そんな、君が思っているような理想の女の子じゃないよ」

真治 「そんなことは分かってるよ」

真琴 「分かってないよ!」

真治 「違うんだ、水野さん。きっかけは、そうだったかもしれないけど。
    思い出してほしい。いつか保健室で僕が君に告白した時のことを。
    あの時、君は僕に訊いたよね? 僕が水野さんのことを好きになったこと。
    映画に出演してほしいと思ったこと。どっちが先なのかって」

真琴 「・・・・・・」    

真治 「僕は、水野さんに出演してほしいと思ったのが先だと答えた。
    好きになったのは、その後なんだ。名無しのヒロインはきっかけに過ぎない」

真琴 「私、嫌な子よね」

真治 「そんなことないよ」

真琴 「ウソ」

真治 「一体、何が君をそんなに苦しめているの?
    そして、それは僕のせいなんだろうか」

真琴 「・・・・・・」

真治 「それを分かりたいんだ、真剣に。鈍感なことは謝るよ。
    でも、だからこそ教えてほしい。二度と君を苦しめないためにも」

真琴 「綺麗事言って」

真治 「ねぇ、僕には君が必要なんだよ」

真琴 「女優として必要なだけでしょ? いつだってそう、映画映画で、
    カメラを通して見る私にしか興味ないんでしょ!?」

真治 「違う! 僕は、一人の女性としての君が好きなんだ!」

真琴 「ごめんね、現実の私はこんなんで。
    幻滅させちゃったよね、茜ちゃんには酷いこと言うし。真治にも」

真治 「だから違うんだ! あれは、誰が悪いわけでもないよ・・・」

真琴 「ふ~ん、君は全然悪くないんだ?」

真治 「いや、それは、悪かったけど」

真琴 「それに、真治は私が悪いって言ったじゃない!」

真治 「そんなことは言ってないよ!」

真琴 「言ったじゃない!!」

真治 「・・・真琴、ごめん」

真琴 「・・・・・・」

真治 「ほんとにごめん。確かに、理屈じゃないよね」

真琴 「知らない」

真治 「ねぇ、水野さん。僕を見て」

真琴 「見てるよ」

真治 「僕は君が好きなんだ」

真琴 「そう、ありがとう」

真治 「目をそらさないで」

真琴 「・・・」

真治 「僕は君が好きなんだ」

真琴 「分かったわよ」

真治 「僕は君が好きだ」

真琴 「はいはい」

真治 「僕は君が好きだ」

真琴 「わっ、分かったったら」

真治 「君が好きだ」

真琴 「もう、いいよ・・・」

真治 「君が好きだ」

真琴 「・・・」

真治 「君が好きなんだ」

真琴 「・・・」

真治 「君が好きなんだ」

真琴 「やめて、そんな嘘つかないで! そんなこと言う柄じゃないでしょ!?」

真治 「・・・好きだ」

真琴 「ぐすっ ぐすっ」(泣き始める)

真治 「君が好きだ」

真琴 「ぐすっ ぐすっ・・・」

真治 「愛してる」

真琴 「ぐすっ ぐすっ・・・うわあああん!」

真治 「?」

真琴 「分かんない・・・自分でも何で怒ってるのか、分かんないの・・・
    ごめん、ごめんなさい! 真治! ぐすっ ぐすっ・・・」

真治 「僕にもよく分からないよ、真琴」

真琴 「ぐすっ、ぐすっ、ぐすっ・・・・・・」


  《ベッドの中》


真琴 「うふっ、変なの。さっきまで私たちケンカしてたのに。
    今は真治がそばにいることが、すごく嬉しいの」

真治 「僕もだ」

真琴 「ふふっ。なんだか、おかしいね。でも、幸せ」

真治 「真琴」


  《しばらく経って》


真琴 「ほっぺた、まだ痛む?」

真治 「いや、別に」

真琴 「ごめんね。昼間、おもいっきり殴っちゃって」

真治 「気にしないでいいよ」

真琴 「茜ちゃんの言うとおりかも。私、ちょっと浮かれてたの。
    っていうか、甘えてみたかったのかも」

真治 「甘えて?」

真琴 「真治が」

真治 「僕が?」

真琴 「誰にでも優しいから。何か不安になっちゃって。
    わざとああいう態度とっちゃったのかもしれない」

真治 「だとしたら、本当に僕のせいだね。ごめん」

真琴 「ううん、謝らないで。後から考えてみて、そうだったのかな~ってだけだから」

真治 「僕は、もっともっと、真琴の気持ちを分かりたい」

真琴 「ごめんね。理屈にならないことばっかり言って」

真治 「いや」

真琴 「え?」

真治 「分かりたいんだ。その、理屈じゃないこと」

真琴 「ふふっ。すごく分かってくれる気がするよ、今は」

真治 「そうかな?」

真琴 「うん!」




真琴 「明日、茜ちゃんに謝っておく」

真治 「うん」

真琴 「真治・・・ありがとう」


  《映画部 部室 全員集まっている》


本山M「ふぅ・・・ってなわけで。ああ、俺だよ、天才の本山。
    なんだかんだ言って、やっぱり元鞘(モトサヤ)っていうか
    落ち着くべきところに落ち着いたっていうか
    雨降って地固まるというか」

茜  「本山先輩? 何ブツブツ言ってるんですか?」

本山 「ん~? っと、おお! 茜ちゃ~ん! はっはっはっ!
    天才はなかなか理解されないものなんだよ」

茜  「そう、何ですか?」

由紀恵「うふふふっ。本山君は相変わらずね」

本山 「な、なんスか~それ~」

真治 「本山君! もう何曲かあがってる? そろそろ前半の仮編集に入れるから
    曲があったらあててみたいんだけど」

中田 「ん? どうだろうな。本山は土壇場でまとめあげてくるタイプだからな」

本山 「チッチッチッチッ、部長さん。日々成長するこの天才本山をなめちゃ~いけませんぜ~」

真琴 「ええ~! じゃあ、もう曲出来てるの?」

本山 「な~によ、真琴ちゃ~ん。そんなに驚くことねぇじゃんよ」

真琴 「だって、ねぇ?」

茜  「ねぇ」

本山 「ガッ! 茜ちゃんまでひっで~な~」

由紀恵「うふふっ。じゃあ、聞かせてくれないかしら? その天才さんの華麗なる作品ってやつを」

本山 「え? 今? ここで? みんなで聞くの?」

由紀恵「天才、なんでしょ?」

本山 「そりゃ~そうっスけど・・・何か照れるな~」

中田 「ほう、お前でも照れることがあるのか」

真治 「部長。それはいくらなんでも言いすぎですよ」


  《本山以外 みんな笑う》


本山M「チッ、全く。凡人どもが天才を甘く見やがって。待ってろよ。
    今、溢れんばかりの才能を結実させた珠玉の名曲たちを聞かせてやるからな。
    腰抜かすなよ? さて、ディスク1をセットしてっと。
    さぁ、これを聞けば、みんな黙っちまうぞ~。
    それでは、イッツア ミュージック! スタート!」





scene.4   終




GREEN ~秋空のスクリーン~ scene.3「好きと言えなくて」

2017-02-15 04:54:39 | 台本
GREEN ~秋空のスクリーン~ scene.3「好きと言えなくて」


【キャスト一覧】


小野 真治 ♂:
桜井 茜  ♀:
藤原 由紀恵♀:
本山 浩一 ♂:
中田 英明 ♂:


詳細なキャラ説明は一話を参照してください。
GREEN ~秋空のスクリーン~ scene.1「さよならゲーム」


【GREEN ~秋空のスクリーン~ 全4話】

GREEN ~秋空のスクリーン~ scene.2「シーズ・ソー・ラブリー」
GREEN ~秋空のスクリーン~ scene.3「好きと言えなくて」
GREEN ~秋空のスクリーン~ scene.4「君の瞳に恋してる」


【本編】


本山M「自主制作映画の撮影中に勃発した美少女同士の一騎討ち~。
    な~んてな、ウッス! 俺、本山。忘れないでくれよ! 天才の本山。
    なぜか二人の美少女に好かれてる映画バカの真治がね~、
    女優の真琴ちゃんと付き合ってるくせに部員の茜ちゃん相手にまぁ~、
    早く言やぁどっちつかずの態度をとっちゃったわけだよ。
    本人真面目な奴だから全然そんなつもりはないんだろうけどさ、
    女心が分からないっていうか、困ったもんだよな。
    ともあれ、真治のことを諦めきれない茜ちゃんを
    うまいこと慰めてやったまではいいんだけど、
    茜ちゃんにキスしたことまで真琴ちゃんに話しちゃったってんだからもう大変・・・。
    さて、放課後。もちろん俺は部室に向かったね。
    ここまで来たら最後まで見届けなきゃしょうがんねえ!」



《タイトルコール》

由紀恵「GREEN ~秋空のスクリーン~ 第3話『好きと言えなくて』」


《映画部 部室》


本山 「ウィ~~~ッス!」

由紀恵「あら本山君、おはよう」

中田 「お、本山かぁ」

本山 「どうっスか? 連中は来てます?」

中田 「う~ん、いやまだ来ていない」

由紀恵「まぁ、まだ早いから。これから来るんじゃない?」

本山 「はぁ・・・そうっスかねぇ~」

真治 「おはようございます」

本山 「おおう! 真治! 真琴ちゃんはどうしたよ?」

真治 「いや、それが・・・」

由紀恵「まだ仲直り出来ないの?」

真治 「はい、すみません。なんかますます怒らせちゃったみたいで。
    さっきの様子では、今日の撮影には来てもらえないんじゃないかと・・・」

中田 「ん? では、捜してくればいいだろう」

真治 「はいっ、すみませんけどちょっと行ってきます」

由紀恵「頑張ってね」


  《真司が部室を出て行く》


中田 「今日の撮影は中止のようだな」

由紀恵「こればっかりは、仕方ないわよね」

中田 「うん。今のところスケジュールにも余裕があるし中途半端なままにしておくよりも、
    みんながしっかり納得いくまで話し合った方がいいだろう」

由紀恵「へぇ、中田君、意外とそういうことに理解あるんだ」

中田 「意外か? うん・・・まあいい、俺は暗室でスチールでも現像することにしよう。後は頼む」

由紀恵「はいはい」

本山 「へぇ~、あんなところに暗室があったんだ」

由紀恵「暗幕で囲っただけの簡単なやつだけどね」

本山 「部長さんって、写真までやってたんっスねぇ」

由紀恵「確か、最初は普通のカメラから始めたって言ってたわ」

本山 「ふ~ん・・・じゃ、由紀恵さん。俺もお先に失礼するっス」

由紀恵「そう? 私はもう少し待ってみるわね」

本山 「連中が戻って来てあれこれ言ってたら、後で教えてくださいよ?」

由紀恵「なぁに? 野次馬根性? 趣味悪いわねぇ」

本山 「うわっ!? 心外だなぁ、これでも心配してるんっスよ~?」

由紀恵「うふふっ、そうなの?」

本山 「だって、ねぇ。どうせ、あれでしょ? 仲が良いほどなんとやらって」

由紀恵「本当にね。そうだといいんだけど」

本山 「じゃ、失礼しや~~っス!」

由紀恵「また明日ね」


  《本山が部室を出て行く》


本山M「本当は俺も待っていたかったんだけどさ。まぁ、天才は何かと忙しいんだよ。
    ってなわけで、後は由紀恵さんから聞いた話なんだけどな。
    いや、さすがは姉御! 人生相談状態になっちまったみたいだぜ」
 
  
  《茜が部室に入ってくる》


茜  「遅れてすみません」

由紀恵「あら、茜ちゃん。今日の撮影は中止よ」

茜  「え!? そうなんですか!?・・・やっぱり、水野さん」

由紀恵「そうね。ちょっとこじれてるみたい」

茜  「私も水野さんに謝ろうと思って、それで捜したんですけど。
    でも、全然見つからなくって」

由紀恵「今、小野君が捜しに行ってるわ。任せておいてあげましょ」

茜  「でも、だったら私も」

由紀恵「また話をこじらせたいの?」

茜  「そんなこと・・・でも、でも私」

由紀恵「あなたはここで待っていればいいの」

茜  「はい」


  《しばし沈黙が続く》


由紀恵「ねぇ、茜ちゃん?」

茜  「はい?」

由紀恵「小野君のこと、好きだったんでしょ?」

茜  「いいえ」

由紀恵「あら? 違った?」

茜  「今でも好きなんです」

由紀恵「そっか・・・辛いわね」

茜  「でも、もう吹っ切れました」

由紀恵「好きなのに?」

茜  「好きだからです」

由紀恵「ふ~ん、強い子ね」

茜  「全然そんなことありません」

由紀恵「水野さんのこと、どう思ってる? 憎い?」

茜  「いいえ! そんなことないです。でも・・・」

由紀恵「でも?」

茜  「すごく羨ましいです。やっぱり」

由紀恵「水野さんに負けたくない?」

茜  「それは・・・でも、水野さんは素敵な人だから」

由紀恵「じゃあ、小野君を想う気持ちだったら負けてない?」

茜  「もちろんです! それだけは絶対に負けません!
    私、ずっと、ずっと見てたんです。入学してからずっと」

由紀恵「それでも吹っ切れるの? これから一緒にやっていける?」

茜  「わかりません。でも、やっていくって決めたから」

由紀恵「そう・・・」

茜  「・・・」

由紀恵「ねぇ、茜ちゃん? あなたがどう思ってるか分からないけど」

茜  「はい?」

由紀恵「隙があったら、小野君とっちゃってもいいのよ?」

茜  「え?」

由紀恵「なんか思い詰めて決めこんじゃってるみたいだから」

茜  「でも、水野さんは先輩の理想の人で」

由紀恵「理想に近ければ近いほど、幻滅が大きいってこともあるわ」

茜  「あの、それって、もしかして財前(ザイゼン)先輩のことですか?」

由紀恵「・・・小野君の気持ちさえ引き寄せることが出来るなら、あなたは彼を奪っちゃっていいの。
    誰もそれを止めることは出来ないわ」

茜  「由紀恵先輩、私の味方してくれるんですか?」

由紀恵「うふふっ、違うわよ。これは敵味方の問題じゃないわ。
    だって、要は小野君の気持ち次第なんだから」

茜  「でも、もしそんなことになったら、水野さんは」

由紀恵「今、あなた辛くないの?」

茜  「・・・辛いです」

由紀恵「でも、それはしょうがないわよね。誰のせいでもないでしょ?」

茜  「そう、でしょうか?」

由紀恵「そうよ。だからたとえ水野さんが悲しむことになってもそれは仕方のないことなの」

茜  「はい」

由紀恵「茜ちゃん。あなたは全然諦める必要なんかないの。
    好きでい続ければ、いつかチャンスが来るかもしれない。
    いつか、彼が振り向いてくれるかもしれない。
    もちろん、あなたがそれまで彼のことを好きでい続けることが出来ればの話、だけどね」

茜  「それで、いいんですか?」

由紀恵「ふふっ、もちろんよ」

茜  「私、絶対にこの気持ちは変わりません」

由紀恵「そう? うふふっ、頑張ってね」


  《由紀恵が椅子から立ち上がり、背伸びをしながら》


由紀恵「ふう・・・そろそろ小野君、戻ってくるんじゃないかな?」

茜  「由紀恵先輩」

由紀恵「なぁに?」

茜  「ありがとうございました」

由紀恵「私はなんにもしてないわよ?」

茜  「これで本当に吹っ切れそうです」

由紀恵「そう、良かったわね。もう、あんなこと言っちゃダメよ?」

茜  「はい。本当にありがとうございました。今日は、もう帰ります」

由紀恵「うん。また明日ね」


 《ドアが開き、真治が部室に帰ってくる》


茜  「あっ」

由紀恵「あら、小野君。どうだったの?」

真治 「いや、ダメです。もう帰っちゃったみたいで・・・あ、茜ちゃん。おはよう」

茜  「おはようございます。あ、でも、今日は撮影しないみたいだから、私帰りますね」

真治 「あ、うん」

由紀恵「部長さんがね、慌てることもないだろうって」

真治 「あ、そうですか」

茜  「じゃあ、失礼します。先輩! 私、もっともっと頑張りますから!」

真治 「あ、うん。よろしく頼むよ。じゃあ、明日」


 《茜が走って部室を去っていく》


真治 「なんか茜ちゃん、元気になったみたいですね」

由紀恵「そうね。もう大丈夫だと思うわ」

真治 「心配してたんです、色々あって」

由紀恵「いろいろ?」

真治 「はい、実はその件で真琴・・・水野さんを怒らせてしまって」

由紀恵「ふ~ん、何があったの?」

真治 「実は、今朝・・・」

由紀恵「うんうん・・・」


 《真治が由紀恵に事の顛末を説明する》


真治 「というわけなんです」

由紀恵「はぁ・・・呆れた人ねぇ~」

真治 「あの、やっぱり僕が間違ってたんでしょうか?」

由紀恵「う~ん、茜ちゃんに対する態度は間違ってないと思うわ。
    っていうかね、それは茜ちゃんの勝ち。仕方ないわね」

真治 「勝ち、ですか? ってことは、僕の負け?」

由紀恵「うふふっ、分からなければいいのよ。
    でもあの子、私がお説教するまでもなかったみたい。うふふっ」

真治 「僕は、どうすれば良かったんでしょう?」

由紀恵「じゃあ、教えてあげる。茜ちゃんとのこと、水野さんには内緒にしておけばよかったの。
    それだけのことよ」

真治 「え? だって、それじゃあ」

由紀恵「小野君。なんでも正しければ良いってもんじゃないのよ?
    人間のすることなんて、善悪はっきり分けることなんて出来ないんだから」

真治 「そういうものですか?」

由紀恵「人の数ほど価値観があるの。それは、映画も同じじゃない?」

真治 「確かに、そういう面もあるかもしれません。でも、僕は」

由紀恵「一つだけ確かなことはね、小野君。君は水野さんを悲しませちゃいけないっていうこと」

真治 「分かっています。けど」

由紀恵「女の子の気持ちって理屈じゃないの。もちろん、間違ったことは注意しなきゃいけないわ。
    でもね、理屈を曲げてでも優しくしてあげなきゃいけない時もあるのよ」

真治 「真琴に同じようなこと言われました」

由紀恵「彼女に幸せでいてほしいでしょ? 笑っててほしいでしょ?」

真治 「ええ! それは本当に! だって、彼女は」

由紀恵「だったら、理屈を曲げてでも、何かを捨ててでも、彼女を守るのよ。
    それは、君自身の幸せのためでもあるんだから」

真治 「僕自身の幸せ?」

由紀恵「彼女にずっと傍に居てほしいでしょ?」

真治 「・・・・・・」

由紀恵「分からなくてもいいわ。水野さんと付き合っているうちに、きっと分かる時が来るから」

真治 「藤原先輩って、凄いですね」

由紀恵「なぁに? 急に?」

真治 「演技が上手いって、きっとそういうことなんですね。
    人の考えていることが分かってるっていうか」

由紀恵「代わりに自分のことはあんまり分からなかったりして、ね」

真治 「僕は、まだまだですね」

由紀恵「いいじゃない。最初は誰でもそうよ。
    まぁ、小野君は人よりちょっと鈍いところ、あるかもしれないけど」

真治 「これから、真琴の家に行ってみます」

由紀恵「そうするといいわ。仲直り出来たら、また撮影始めましょ」

真治 「はい、ありがとうございました!」

由紀恵「どういたしまして。じゃあ、また明日ね」

真治 「あ、そういえば、部長は?」

由紀恵「え? 中田君? あ、ああ、そういえばいないわね。
    もう帰ったんじゃないからしら」

真治 「そうですか。じゃあ、お先に失礼します」

由紀恵「お疲れ様。また明日ね」


  《真治が部室を出て行く》


由紀恵「はぁ・・・なんかカウンセラーみたいなことしてるわね、私。
    ちょっと羨ましいかな、あの子達。青春しちゃって」
    って私、なにオバサンみたいなこと言ってんだろう」

中田 「藤原さんもずいぶんと理解出来ないことを言うな。
    一つや二つ歳が違うからといって、さほどのこともないだろうに」

由紀恵「!? 中田君!? 何してたの!?」

中田 「いや、なんだか出るに出られなくなってしまってな。汗だくになってしまった」

由紀恵「うふふっ、おかしな人」

中田 「よくそう言われるのだが、どうしてなんだろうな?」

由紀恵「うふふっ、さぁ? どうしてかしら?」

中田 「うん、訊いているのは俺なんだが・・・
    ともあれ、事を丸く収めてくれたようだな、ありがとう」

由紀恵「どうかしら? 後はあの子達次第だと思うけど・・・
    え? 中田君、何がどうなってるのか分かってるの?」

中田 「うん、よくは分からんが、そのまま映画になりそうな感じだ。一つ撮ってみるか」

由紀恵「ちょ、ちょっとやめてよ。中田君」

中田 「うん、冗談だ」

由紀恵「もう、びっくりさせないでよ。
    中田君の言うことって、冗談なのか本気なのか全然分からないんだもの」

中田 「うん、それもよく言われる」

由紀恵「うふふっ、本当に、おかしな人ね」

中田 「ん?」

由紀恵「うふふっ、うふふふふふっ」



  《次回予告》



本山 「さ~て、次回はいよいよ最終回っスね。由紀恵さん」

由紀恵「そうね。あの二人、うまくいくといいんだけど」

本山 「あのヘタレの真治が真琴ちゃんとうまく仲直り出来ますかね~?」

中田 「アイツはああ見えて、やるときはやる男だ」

由紀恵「中田君!?」

本山 「ちょっと、部長さん! 俺と由紀恵さんのコーナーにいきなり入ってこないでくださいよ~」

中田 「いつも二人で楽しそうにしていたからな。邪魔しに来た」

本山 「邪魔って・・・」

由紀恵「ふふふっ、中田君おかしすぎ」

本山 「あ~、俺と由紀恵さんのコーナーが~」

中田 「次回『君の瞳に恋してる』」

由紀恵と本山「お、お楽しみに!」





scene.3    終