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台本置き場

るろうに剣心 第七十八幕 「十本刀・張」

2017-11-25 00:31:41 | 台本
るろうに剣心 第七十八幕 「十本刀・張」



【主な登場人物紹介】

・緋村 剣心(ひむら けんしん)♂♀

本作の主人公。かつて「人斬り抜刀斎」として恐れられた伝説の剣客。初登場時28歳。
生来争い事を好まない性格だが、戦国時代に端を発する古流剣術
「飛天御剣流(ひてんみつるぎりゅう)」の使い手で、ひとたび戦いとなれば逆刃刀という、
峰と刃が逆転した刀で人智を越えた剣技を繰り出し、
軍の一個大隊をも遥かに超える一騎当千の戦力を発揮する。

・沢下条 張(さわげじょう ちょう)♂

“刀狩”の張。刀剣蒐集狂で、特に新井赤空作の殺人奇剣を好んで集め、
それを用いた殺戮を楽しむのが趣味の男。
赤ん坊を斬ることすら厭わない残忍さの反面、陽気で義理堅い性格でもある。
大阪在住で関西弁で喋り、逆立った金髪が特徴で、その髪型を馬鹿にされると激怒する。

・巻町 操(まきまち みさお)♀

紫に恋する、男勝りで感情豊か、かつ我が儘な一面を持つ少女。
御庭番衆先代御頭(蒼紫の師匠)の孫娘。
東海道で京都に向かっていた剣心に会い、京都まで同行する。
その時は路銀をなくして追剥をしていた。
御庭番式苦無術と、般若譲りの御庭番式拳法を使いこなし、常人レベルを超えた実力を誇る。

・翁(おきな)《本名:柏崎 念至(かしわざき ねんじ)》♂

京都探索方。通称「翁(おきな)」で、劇中では一貫してそう呼ばれている。
普段は料亭兼旅籠「葵屋(あおいや)」を営む。
操の育ての親。スケベな好々爺で、時に操にも通ずる我が儘な一面も見せる。

・新井 青空(あらい せいくう)♂

赤空の息子で、彼の技術を継承した刀工。
廃刀令施行後は、包丁や鎌などの生活用具を作って暮らしている。

・新井 梓(あらい あずさ)♀

青空の妻。生活用具を売る青空を支える。

・伊織(いおり)

青空と梓の息子で赤空の孫。張に人質とされる。

・新井 赤空(あらい しゃっくう)♂

幕末の刀工。数々の殺人奇剣を作り、張や志々雄など愛好者は多い。
人斬りを辞めた剣心に逆刃刀を授けた張本人。
数々の殺人剣を作りつつも内心はそんな己の在り様に疑問と苦悩を抱いており、
平和な時代を作ることに信念と理想を見出してひたすらに刀剣を打ち続けていた。
明治3年(1870年)に他界。



声劇の場合、新井赤空は翁もしくは新井青空との兼任推奨。
新井赤空は回想シーンのみの出演です。

伊織・新井梓はセリフ少なめです。


【キャスト表】

緋村 剣心 ♂♀:
沢下条 張  ♂:
巻町 操   ♀:
翁      ♂:
新井 青空  ♂:
伊織・新井 梓♀:

新井赤空   ♂:


【シーン説明】


新井赤空の最後の一振りを手に入れるため、
白山神社に奉納されている御神刀を手に入れようとする“刀狩”の張。
操から新井青空の子供の伊織が何者かに拉致された知らせを受けた剣心は、急ぎ白山神社に向かう。
張が神社に到着した時には、既に剣心が待ち構えていた。逆刃刀が折れているにもかかわらず。



※注 セリフ番号の関係上、同じキャラのセリフが続いている場合がございます。


【本編】


001伊織「ぶみぇ~~~~」

002張 「ちょいと時間喰ってもうたなァ。京都の地理はどうもわかりづろうてかなわんわ。
     さて、赤空の最後の一振り 一体どんな殺人刀」

003剣心「ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・」

004伊織「ごじゃる~~~!!」(剣心の発見を喜んで)

005張 「・・・どうやら神社の参拝客やないな。あんた誰や?」

  剣心が隠していた左頬の十字傷を張に見せる。

006張 「・・・その十字傷」

007剣心「その子を放せ」

008張 「左頬の十字傷・・・成程 あんたが有名な人斬り抜刀斎さんかい」

009伊織「ごじゃる~~~~~」

010張 「思ってたより小さいんやなァ。なんか女子(おなご)みたいなカンジや。
     まあええで。あんたも赤空の最後の一振り 取りにきたんか?」

011剣心「・・・生憎、拙者が求めているのは別の刀でござる。
     赤空の最後の一振りが欲しくば持っていけ。ただ、その前に、その子を放せ」

012張 「それは不要の闘いは避けたいって事でっか。そりゃそうでっしゃろ。
     頼みの逆刃刀とやらが折れて、闘いたくとも十分 闘えへんのやさかい」

013剣心「・・・・・・」

014張 「まっ、わいも十分に闘えん男を倒してもおもしろうないけど。
     敵と遭遇しときながら闘いもせんと済ませたら、わい 志々雄様に殺されてしまう」

015張 「それに!」(伊織を投げて木に引っ掛ける)

016剣心「!?」

017伊織「ふびー」

018張 「せっかく最後の一振りを手に入れても、試し斬りの素材がなければ楽しさ半減。
     前から一度『赤ン坊斬り』やってみたかったんや」

019張 「つう訳であんたの申し出は却下。正々堂々と勝負や」

020剣心「相手の刀が折れているのを知ってて なお人質をとって正々堂々か。ふざけた男だ」

021張 「別にふざけておまへんよ。ただ! あんたが真面目なだけや!」

  鞘を飛ばす 張。それを逆刃刀の鞘で弾く 剣心。

022張 「もろうた!」

023剣心「拙者を突き殺そうとするなら、
     斎藤の牙突を超える技を繰り出してこい」(張の突きを避けて)

024剣心「飛天御剣流 龍巻閃(ひてんみつるぎりゅう りゅうかんせん)」

025張 「う゛おっ」

026伊織「ごじゃる~~~」(嬉しそうに)

027張 「なんや 見かけによらず結構やるやないか。
     背中の愛刀がなかったら危ないトコやったわ。ケド この代償は高(たこ)うつくで」

028張 「どや 新井赤空の殺人奇剣『連刃刀(れんばとう)』 
     この短い間隔でな、同じ傷を二つつけられると傷口の縫合がうまく出来へん」

029張 「つまり、急所から外れてもこいつでサクッと斬りつければ、手当てが出来ず
     傷口から腐って 死に至らしめるんや!」

  剣心に斬りかかる 張。剣心は連刃刀を鍔で受け止める。

030剣心「お前はこの程度でござるか」

  剣心は逆刃刀の鞘を回転させて連刃刀を折る。

031剣心「飛天御剣流 龍翔閃(ひてんみつるぎりゅう りゅうしょうせん)!」

  剣心の技を受けた張は、その場に倒れる。

032剣心「またせたでござるな。今 降ろすでござるよ」(伊織が引っかかっている木に近づく)

033張 「成程・・・あんたのいうとおりや。どうやら わい 少しふざけ過ぎてたようや」

034剣心M「水月(すいげつ)に打ち込んだはずなのに、ものともしていない」

035伊織「ごじゃる~~~」(寂しそうに)

036剣心「すまんな、伊織。少し長引きそうでござるよ」

037張 「ガキと喋くっとらんと こっち向かんかいダボが!
     なめてっと そのガキから解体(バラ)すぞ コラ!」

  剣心が鋭い眼光を張へ向ける。

038張 「なんや、あんたもそんなツラ出来るんやないか。出し惜しみしよって、人が悪い。
     始めからそのツラしとったらこっちも出し惜しみせんかったのに」

  上着の脱ぐ 張。

039剣心「白銀(しろがね)の胴鎧(どうがい)・・・あれが龍翔閃を防いだのか」


  《場面が変わり 操と新井青空と妻の梓、反対側から翁が神社に駆けつける》


040操 「爺や! 遅いじゃない 今頃来たの! あれ? 緋村は」

041翁 「聞くや否やすっとんでったわ。とても追いつけん」

042操 「え~~~ 緋村 刀折れてるじゃない! だから爺やを頼りにしてたのに!」

043翁 「わしに怒るな~」

044操 「とにかく急げ!」

  操達は急いで階段を登り、神社に向かう。

045操 「げっ もう始まってる!! 緋村のヤツ 意外に短気だからなー」

046翁 「じゃが、緋村君の方が優勢のようじゃ」

047青空「! あれは!」(張が腰に巻いているものを見て)

048青空「いけない! あの男が胴に巻いているヤツ! 
     あれは赤空(ちち)が改良に改良を重ねて造り上げた
     後期型の殺人奇剣(さつじんきけん)です!!」

049操・翁「な!」

050張 「十本刀“刀狩”の張。こっからが真骨頂や。ほな いくで」

051操 「気をつけて 緋村! そいつは まだ刀を隠し持ってるわ!」

052剣心「!」

053張 「どや これがわいの一番の愛刀! 殺人奇剣『薄刃乃太刀(はくじんのたち)』!」

054翁 「長い! それにあのしなり!」

055操 「緋村!」

056剣心「クッ」

057青空「だめです! それを紙一重で避(さ)けちゃ!」

  薄刃乃太刀が急に軌道を変えて 剣心の足を斬る。

058剣心「うっ」

059張 「狙いバッチリ。これでもうチョコマカと動き回れへんやろ」

060青空「殺人奇剣『薄刃乃太刀』 刃の強度を保ったまま可能な限り薄く鍛え、
     更に剣先をわずかに重くする事によって
     手首の微妙な返しをそのまま刀の軌道に伝え操る事が出来る・・・」

061青空「あの足で変幻自在の殺人奇剣『薄刃乃太刀』をよけ切るのは もう・・・」

062張 「いつの間にやら観客も出来てる事やし。
     そろそろ『くらいまっくす』といきまっか。我流『大蛇(おろち)』受けてみい」

  剣心は なんとか避けるが鞘が斬られてしまう。

063張 「よう防ぎよった! けど まだ終わりやないで!」

  さらに攻撃を続ける 張。

064剣心「くっ」

065操 「緋村!」

066青空M「やはりだめだ・・・とても勝ち目はない。このままでは伊織は・・・」

067梓 「あなた?」

068青空「・・・父の刀はあきらめよう。とにかく今は伊織を助けて、
     一刻も早くこんな修羅場は離れるんだ。大阪弁の男は彼との闘いに意識が向いている。
     このスキになら伊織を・・・」

069伊織「ごじゃる~~~」(悲しそうに)

070操 「緋村を囮にするわけ? 刀が折れてて十分に闘えないのを承知で、
    それでも緋村は、いの一番に駆けつけたんだよ! それを」

071青空「そんなのボクが頼んだ訳じゃない。彼が勝手に闘っているだけです」

072操 「!」(怒りで青空を殴ろうとするが翁が止める)

073翁 「青空さん。儂も一応この娘(こ)の養父(おや)じゃ。子を最優先に想う気持ちはわかる。
     じゃが緋村君が何を守ろうとして勝手に闘っているのか それもわかってもらえんかの」

074張 「往生際が悪いなあ。なんか見ててミジメやで、あんた」

  剣心が変わらず鋭い眼光を張へ向ける。

075張 「なんか その目 ごっつ ムカツくわ。状況わかってへんのか?
     絶対絶命なんやで? たかがガキ一人に命張ってる場合やないで、オイ」

076剣心「拙者は幕末(むかし) 新時代を開くため 大勢の人間を斬った」

077張 「なんや自慢話かいな。ええでええで
     この期におよんで過去の栄光にすがるなんて見苦しくてサイコーや」

078剣心「死闘と償いきれない流血の果てに とりあえず新時代を迎えて十年・・・
     死闘も流血も知る事もなく優しい家庭で子供が健やかに育つまで
     時代は平和の様相を見せ始めた」

079剣心「貴様にとってたかがガキでも、拙者にはかけがえのない新時代の申し子。
     命にかえても、伊織は青空夫妻の元に無事帰す」

080青空「・・・・・・」

081剣心M「拙者がこいつの注意を引き留めておく。今のうちに早く伊織を!」(青空に目配せする)

082青空「あ・・・う・・・」

083梓 「あなた?」

084張 「なんや正義の味方気取りおって。まるで、わい 悪役やんか。尚更ムカツいたわ。
     もうええ、あんたの役はこれで終わりや。
     この先は志々雄様の下で この『薄刃乃太刀』がまた新たな時代を創るさかい
     安心して死ねや」

085剣心「生憎(あいにく)だが、お前には到底無理でござる。
     時代を創るのは『刀』ではなくそれを扱う『人』でござる」

  急に青空が神社の祠の方へ走り出す。

086梓 「あなた!」

087操 「あいつ」(逃げたと思って)

088翁 「いや待て 違うぞ!」

089青空「待っていろよ 伊織! 必ず助ける もう少しの辛抱だ!」

090張 「観客が何勝手に舞台に上がってんのや!」

  張の薄刃乃太刀が青空を襲う。

091梓 「あなた!」

  剣心が折れた逆刃刀を投げて、それを防ぐ。

092張 「ホンッ・・・・マに、ごっつムカツくわ!!」

093剣心M「青空殿・・・?」

094青空M「この人に賭けてみよう。この人なら託せるかも! 
      この人なら、父の刀を正しく使って伊織と この平和な新時代を必ず守ってくれる!!」

  青空が祠の扉を開けて中に入る。

095青空M「『おれの造った刀が新時代を創る』・・・昔 父がよく言ってた
      この言葉に僕は納得いかなかった。
      今 やっと理由(わけ)がわかった。
      そうなんだ・・・刀が時代を創るなんておこがましい」

096青空M「新時代を創るのは人であり。そして、築いた時代を守るのも 又(また) 人なんだ・・・」

097青空M「この平和を守るために影で闘い続けるあの人に。赤空(ちち)の最後の一振りを――!!」


前編 終了

後編 開始


098張 「もう許さへん! ワイは頭に来たで!! 見さらせ この頭! 
     これぞ『怒髪(どはつ) 天を衝(つ)く』ってヤツや!!」

099剣心「・・・もともとでござろう。そのイカレたホーキ頭は」

100操・翁・梓「うん うん」

101伊織「ホーキ ホーキ」(楽しそうに)

102張 「人のボケに真顔で突っ込むな このドアホゥ! むっちゃムカツクヤツやッ!!」

103操 「突っ込んできた!」

104張 「! 鞘の残がいで受けとめよっ・・・しもうた!」

105張M 「間合いに入り込み過ぎた!」

106剣心「おおおおお!!」(あああああああ でもOK。気合の雄叫び)

117操 「やった!! 交差攻法気味の肘鉄!」

  剣心の肘鉄をくらって吹き飛ばされる 張。

118操 「よっしゃあ!!」

119翁 「挑発で奴を誘い 一足飛びで攻撃出来る間合いに引き込む・・・
     刀のない上に右足に傷を負った緋村君に出来る最後の攻撃手段じゃ。
     これで決まってなければ・・・」

120剣心「ハァ、ハァ」

121張 「危ない 危ない。やっぱ あんた なめてかかったらアカンわ」

122操 「!」

123翁 「駄目か・・・」

124張 「今の一撃で頭に昇った血が一気に下がったわ。もう二度とあんたの間合いに入らへん・・・
     外から刻んで五体解体(バラ)して四条河原(しじょうがわら)に晒(さら)してくれるわ」

125翁 「これでもう勝機はなくなった。後は如何にして全員無事にこの窮地から脱するか・・・だ」

126操M 「・・・刀・・・刀さえあれば・・・」

127青空「緋村さん!! 父の最後の一振りです! これを使って下さい!!」

  青空が御神刀を剣心に投げて渡す。

128操 「緋村!」

129張 「チィ・・・ッ。転がされた分 初動が遅れてもうた・・・
     まあええ。あんたを斃(たお)すのと最後の一振りを手に入れるのと・・・
     二つの目的がこれで一つになった訳や」

130張 「抜けや。ええ加減 決着(けり)つけようや。
     互い真剣同士。殺るか殺られるか、判り易うてええやろ」

131操 「行け 緋村! 刀さえあればこっちのもんよ!」

  刀を受け取った剣心は抜くのをためらっている。

132操 「?」

133翁 「駄目じゃ。緋村君はあの刀は抜かん・・・いや、恐らく抜けんのじゃ」

134操 「え・・・」

135翁 「不殺(ころさず)を心に決めてる彼にとって、逆刃刀以外の抜刀は絶対の禁忌のはずじゃ・・・」

136操 「でも! 今はそんな事 言ってる場合じゃないでしょ! 殺らなきゃ自分が殺られのよ!
     緋村がどんな人斬りだったかよく知らないけど もう一度くらい 人を斬ったって」

137翁 「その一度が問題なんじゃ。志々雄一派という強敵が現れて、今の彼は例えるなら丁度 
     天秤の如く 不殺(ころさず)の流浪人(るろうに)と人斬り抜刀斎の間(はざま)で
     揺れ動いてる」

138操 「人斬り 抜刀斎・・・」

139翁 「今一度 ここであの刀を抜いて斬れば心のタガがはずれ、
     後はずるずると人斬りの修羅道真っしぐら。二度と流浪人(るろうに)には戻れまい」

140翁 「せめてあの刀の鞘が白木ではなく逆刃刀同様の鉄拵えだったなら・・・」

141張 「あんた・・・人斬り抜刀斎やろ。人斬るのに何そんなに躊躇しとんのや・・・
     ええで、人を斬る悦びを忘れました言うんなら このワイが思い出させてやるわ。
     実演を踏まえてな」

142青空・梓「伊織!」

143張 「あんたの言う 平和の申し子とやらから 先に解体(バラ)したるわ!」

144翁・操「くっ」(それぞれ武器を構える)

145剣心「おおおおおお」(あああああああ でもOK。気合の雄叫び)

146張 「かかったな このダボが!!」

147翁 「いかん! 今のは挑発じゃ!!」

148張 「わいをコケにした分はキッチリ 返すで! もろうた!」

149張M 「薄刃乃太刀 切っ先は変幻自在やで。後ろから串刺しや!」

150張 「え・・・?」(剣心に避けられる)

151剣心「おおおおおお」(あああああああ でもOK。気合の雄叫び)

152張 「な・・・なんや 今の超反応は! さっきまでとはまるで別人やんけ・・・」

153剣心「飛天御剣流 龍巻閃・『旋』(つむじ)!」

  剣心の技をくらい、倒れる 張。

154翁 「殺った・・・」

  ただならぬ人斬り抜刀斎の空気が流れる。

155伊織「ふあ」

156操 「緋村・・・」

157剣心「拙者・・・!!」

158操 「あ」

159翁 「ム」

160青空「・・・その刀」

161操 「逆刃刀!」

162翁 「なんと・・・! 新井赤空 最後の一振りは緋村君に渡した逆刃刀と同じ!」

163剣心「いや、これは・・・わずかだが以前の逆刃刀より手になじむ・・・感じでござる」

164操 「でも、それが逆刃刀なら・・・」

165張 「・・・く・・・」

166操 「生きてるよ 緋村! あんた不殺(ころさず)は破ってない!!」

167張 「成程。国盗りっちゅう どでかい目的がありながら、
     志々雄様がなんであんたの事 相手にするか今のでよう解ったで。
     けど イイ気になったらあかんで。特攻部隊十本刀の剣客は まだ残り九人もおるんや。
     その内の二人 あんたも一度剣を交えた事ある宗次郎と
     琉球から京都へ向かってる宇水さんはあんたより上やで」

168張 「あんたは絶対 志々雄様にたどりつけん!
     自分の非力さをかみしめて 大人しゅう志々雄様の国盗りを見ていや!」

169操 「・・・爺や」

170翁 「うむ」

171操 「成敗!!」

  操が仕込み杖で脳天に一撃を入れる。張が気絶する。

172操 「こいつどうする?」

178翁 「そうじゃな。色々と情報聞き出したいから葵屋に運ぼうかの」

179剣心「いや、こいつは警察に引き渡そう。まだ京都についたかどうかわからんが
     警察には志々雄一派の件で全権をまかされている男がいる。その方が安全でござる」

180操 「あいつかあ・・・」

181翁 「緋村君がそういうなら」

182青空「逆刃刀・・・父の最後の一振りが・・・わからない・・・
     殺人剣ばかりつくっていた父が・・・何故」

  刀の柄に急にヒビが入る。

183操 「刀が壊れる!?]

184翁 「白木の柄が緋村君の技に耐えられなんだ・・・!」

  刀の柄が壊れて刀身が地面に突き刺さる。

185翁 「大丈夫じゃ・・・刀身に破損はない。ム・・・これは・・・」

  刀の茎の部分に文字が彫ってある。

186青空「我を斬り 刃(やいば) 鍛えて 幾星霜(いくせいそう)
     子に恨まれんとも 孫の世の為」 


  《場面変わって、葵屋》


187翁 「自分自身を斬りつける思いで刀を造り続けて幾年月・・・
     それが自分の子に憎まれる事になろうとも その次の孫の時代のために・・・
     恐らく赤空は辞世(じせい)の句のつもりで刻み残したんじゃろうな」

188青空「途中で父は気づいていたんですね。刀が時代を創るなんてのはおごりだって事・・・」

189青空「でも時代は幕末の動乱の真只中 もう後に退く事も留まって悩むコトも出来ない程
     混乱を極めていて」

190青空「幕末に生きる刀匠(とうしょう)として父は、ただただ前に・・・
     一刻も早く平和の時代が来る事を願って殺人刀を造り続けるしかなかった・・・」

191青空「自分の気持ちとは全く裏腹の・・・
     端から見れば矛盾した生き方をするしかなかった・・・」

192青空「そんな父が深い悔恨とわずかな希望を祈りに込めて残したのが
     この御神刀『逆刃刀・真打(しんうち)』」

193操 「真打(しんうち)?」

194梓 「ええ。御神刀を打つ時 一本ではなく あらかじめ二本
     もしくは複数本打つのが通例でして。
     その中で一本よく出来たのを『真打』といい神に捧げ
     残りを『影打(かげうち)』といい 死蔵(しぞう)したり 人に譲ったりするんです」

195翁 「成程な。じゃから逆刃刀は初めから二本・・・」

196操 「そしてこっちが真打。つまり、前の逆刃刀を超える逆刃刀!」

197青空「お受け取り下さい 緋村さん。父もそれを望んでいると思います」


  【回想シーン 新井赤空と剣心の別れ】


198赤空「志士を抜けるんだってな 緋村。まだ鳥羽・伏見での緒戦に勝っただけ。
     維新回転はこれからだってのに 手前(てめぇ)勝手に。
     おまけに刀も持たず何処へ何しに行きやがる」

199剣心「・・・桂先生に許しはもらってます 赤空殿。
     俺は、これから人を斬る事なく新時代に生きる人達を守れる道を探すつもりです」

200赤空「フ・・・そんな道があるなら 是非 俺にも お教え願いたいモンだな」

201赤空「何人も何人も斬り殺しておいて 今更 逃げるんじゃねーよ。
     剣に生き 剣にくたばる。それ以外にてめえの道は無えはずだぜ」

  赤空が刀を剣心に投げて渡す。

202剣心「!」

203赤空「餞別(せんべつ)だ。出来損ないだが 今のお前には十分過ぎる一振りだ。
     とりあえずそいつを腰に剣客やってみな。
     自分の言ってる事がどれだけ甘いか身に染みてわかるってもんだ」

204赤空「そいつが折れた時、それでもまだ甘い戯れ言を言い続けられるなら。
     もう一度 俺を訪ねて京都へ来な」


  【回想シーン 終わり】


205剣心M「赤空殿・・・俺はまだ あなたと同じく甘い戯れ言に賭けてみたい。だから」

206剣心「逆刃刀・真打・・・有難く頂戴致す・・・」

207青空「では、私達はこれで・・・」

208翁 「おお、気をつけてな」

209伊織「ごじゃるぅ。あくす あくす。ばいばいのあくす」






るろうに剣心 第七十八幕 「十本刀・張」


終わり