二日目、寒さで明け方に目を覚ました私は、がたがた震えながら雪の少林寺を目指しました。幸い、昨日の宿から遠くなく、それほど歩かずに例の門にたどり着きました。写真はネットで適当に探したものですが、私が見た少林寺はすっかり雪化粧されていました。少林寺周辺で見つけた観光客は、カメラを持った白人だけでした。私が写真の場所を訪れたとき、ちょうどテレビドラマの撮影か、少林寺っぽい服装をした子供たちがカメラを前に演舞していました。撮影スタッフの中には、分厚いコートを抱えた保護者の姿も。撮影中、子供たちは寒さを物ともせず元気いっぱいに演舞していましたが、カットの声がかかるとすぐにブルブル震えだし、スタンバイしていた保護者が急いでコートをかけてやっていました。気を練れば自然とあたたかくなる、なんてことはありません。気の力で血行がよくなりあたたまる感じがするのでしょうが、その血も凍りつくほどの天気でしたから。
ここは「塔林」と呼ばれる場所で、私が行ったときはやはり雪をかぶり真っ白でした。この中に入ると石の塔に囲まれ、方向感覚を失ってしまいます。なんとかここから抜け出すと、私は達磨大師の「達磨洞」に向かいました。標識によると、少林寺周辺から2キロ以上あるみたいで、しかもこの季節は通る人もなく、雪が膝まで積もっていました。私はあきらめて早々に引き返したのですが、達磨洞を目指す尼さんが現れました。彼女はなまりの強い中国語で、「達磨洞はあちらですか?」と聞いてきました。私が、「そうだけど、遠いみたいですよ」と答えると、信仰心の厚い尼さんはためらうことなく、雪の中に足を踏み入れました。
寒さに心まで支配され、景色を楽しむ余裕がなかった上、オフシーズンのため武術等のイベントがなかったので、私はバスが通る道路に向かいました(滞在時間は2時間弱)。しばらく待ってもバスが全く行き来しないため、近くの人にたずねると、雪のために少林寺から洛陽に直接戻るバスが出ていないという情報を得ました。とんだ一人旅で、常に怖気づいていた私は、その人の言葉に必死に耳を傾けました。その人の説明によると、まずこの道路を通りがかる鄭州行のバスに乗り、鄭州のバス停から今度は洛陽行のバスに乗り換えればいいとのこと。私はもうしばらく待ち鄭州に向かうバスに途中乗車することができました。鄭州のバス停に到着し、巡査さんに質問するなどして、なんとか洛陽に向かうバスを見つけることができました(なぜかバス停からは出ていなかった)。悪天候に苦しめられるさんざんな旅でしたが、いま思い出すとよい思い出です。その後、私は中国の一人旅に徐々に慣れていくのでした。
今回の旅のおみやげは、少林寺の売店で購入したクッキーです。実際には北京の大きなスーパーでも売っている品物ですが、武術の聖地・少林寺で購入することに意義があると思いました。というのも、私は日本で総合格闘技系の道場にお世話になっていたので、日本に帰ってから話題の種にでもなるかと考えたのです。当時はまだ中国の食の安全についてあまり取り沙汰されていなかったものですから、道場の皆さんも食べてくれました。
次回は冬の黄山の旅をご紹介致します。