ワシントンDCに滞在していた頃、ちょうど地下鉄チャイナタウン駅の近くに、
「国際スパイ博物館」と呼ばれる施設があった。
多くの博物館や美術館が無料で入館できるワシントンDCにあって、
この博物館は、約20ドルも入館料を取るため、随分割高な印象を覚えたが、
そこには、世界各国のスパイ活動が紹介されており、
日本からは「忍者」がエントリーされていて、忍びの服を着た人形と対面することができた。
日本史研究の現状について、詳細を把握するものではないが、
おそらく史料的制約が厳しいこともあって、
忍者研究というものは、ほとんど進んでいないように思われる。
エンターテイメントの題材として、忍者は小説や映画などによく登場するけれども、
実際のところ、それがどのような存在であったのかはよく分かっていない。
まして忍者個人に焦点を当てたものとなると、
「真面目」な文献は皆無に等しくなるのではないだろうか。
そこで、エンターテイメントとしてではなく、
史料的根拠なども示した上で、忍者の存在に歴史的な検討を加えたものとして、
次のような文献を紹介したい。
川口素生
『スーパー忍者列伝』
PHP文庫、2008年
タイトルが若干、売れ線を狙っているだけに、
内容もエンターテイメントに走っていると思われそうだが、決してそんなことはない。
むしろ、戦国時代から江戸時代を通じて、
忍者という存在から、日本の情報活動史をきわめて簡便に知ることができるという点で、
有益な入門書といっても過言ではないだろう。
著者は、戦国・江戸時代を専攻する歴史家だが、
所属先が明記されていないので、在野で活躍している研究者なのであろう。
日本史研究者には、こうした人が多く存在しており、
所属先がないからといって、研究者として評価が低いということには決してならない。
むしろ、肩書だけで内容に偏見を抱くような愚かなことは、
歴史研究の世界では、断固として、あってはならないことである。
本書は非常に読みやすい構成となっていて、
序章で、戦国大名と忍者の関係を取り上げた後、
忍者とその指揮官を務めた戦国武将について、第一章で検討を加えている。
さらに、忍者個人にも焦点を当てており、
その人物を概説的に紹介しながら、有能・無能の評価を下している(第二~五章)。
また、第六章では、「真田十勇士」や「赤影」など、架空の忍者も扱われていて、
著者の忍者マニアぶりが窺える内容となっている。
本書の特徴は、きちんと史料的根拠を明示して叙述している点にあり、
各章末にあるコラムも、興味深く読むことができる。
特にコラム①「忍者の虎の巻」とコラム⑤「江戸幕府の忍者・隠密・御庭番」が面白かった。
歴史的な実証研究というには程遠いものではあるけれども、
こうしたところからまずは入っていかなければ、
日本の情報活動史に関する研究を進めていくことは難しいだろう。
本書の価値は、その点で、忍者研究の事始めとして用いることにある。
巻末にも引用資料が掲載されていて、関心のある人はそれを辿って調べることもできる。
低価格ではあるが、使い勝手の良い内容となっている。
「国際スパイ博物館」と呼ばれる施設があった。
多くの博物館や美術館が無料で入館できるワシントンDCにあって、
この博物館は、約20ドルも入館料を取るため、随分割高な印象を覚えたが、
そこには、世界各国のスパイ活動が紹介されており、
日本からは「忍者」がエントリーされていて、忍びの服を着た人形と対面することができた。
日本史研究の現状について、詳細を把握するものではないが、
おそらく史料的制約が厳しいこともあって、
忍者研究というものは、ほとんど進んでいないように思われる。
エンターテイメントの題材として、忍者は小説や映画などによく登場するけれども、
実際のところ、それがどのような存在であったのかはよく分かっていない。
まして忍者個人に焦点を当てたものとなると、
「真面目」な文献は皆無に等しくなるのではないだろうか。
そこで、エンターテイメントとしてではなく、
史料的根拠なども示した上で、忍者の存在に歴史的な検討を加えたものとして、
次のような文献を紹介したい。
川口素生
『スーパー忍者列伝』
PHP文庫、2008年
タイトルが若干、売れ線を狙っているだけに、
内容もエンターテイメントに走っていると思われそうだが、決してそんなことはない。
むしろ、戦国時代から江戸時代を通じて、
忍者という存在から、日本の情報活動史をきわめて簡便に知ることができるという点で、
有益な入門書といっても過言ではないだろう。
著者は、戦国・江戸時代を専攻する歴史家だが、
所属先が明記されていないので、在野で活躍している研究者なのであろう。
日本史研究者には、こうした人が多く存在しており、
所属先がないからといって、研究者として評価が低いということには決してならない。
むしろ、肩書だけで内容に偏見を抱くような愚かなことは、
歴史研究の世界では、断固として、あってはならないことである。
本書は非常に読みやすい構成となっていて、
序章で、戦国大名と忍者の関係を取り上げた後、
忍者とその指揮官を務めた戦国武将について、第一章で検討を加えている。
さらに、忍者個人にも焦点を当てており、
その人物を概説的に紹介しながら、有能・無能の評価を下している(第二~五章)。
また、第六章では、「真田十勇士」や「赤影」など、架空の忍者も扱われていて、
著者の忍者マニアぶりが窺える内容となっている。
本書の特徴は、きちんと史料的根拠を明示して叙述している点にあり、
各章末にあるコラムも、興味深く読むことができる。
特にコラム①「忍者の虎の巻」とコラム⑤「江戸幕府の忍者・隠密・御庭番」が面白かった。
歴史的な実証研究というには程遠いものではあるけれども、
こうしたところからまずは入っていかなければ、
日本の情報活動史に関する研究を進めていくことは難しいだろう。
本書の価値は、その点で、忍者研究の事始めとして用いることにある。
巻末にも引用資料が掲載されていて、関心のある人はそれを辿って調べることもできる。
低価格ではあるが、使い勝手の良い内容となっている。