米ソ冷戦の実態は、結局のところ、CIAとKGBの工作戦であったという見方がある。
世界史的に見れば、工作活動が存在しなかった時代というのは、
おそらくいまだかつてなかったであろうと思われるので、
これこそが米ソ冷戦における最大の特徴だったとは言わないが、
少なくとも重要な政策手段の一つであったことは間違いない。
しかし、個々の工作活動に焦点を当てた研究が多く発表されている一方で、
米ソ各々による工作活動の全体像をとらえようとする研究は案外、少ない。
この領域に関しては、史料的制約が非常に厳しいので、
まずは個々の工作活動に関する事実をきちんと検証することが大切なことは確かなのだが、
両者の工作活動における特徴を大まかに捉えておくこともまた、
それを俯瞰的に見る場合に必要であろう。
そこで、若干、古い論文ではあるが、
冷戦期全体を通じて、CIAとKGBが行なった秘密工作、特に政治工作に関して、
カナダ人研究者によって提示された議論がある。
Kevin A. O'Brien
"Interfering with Civil Society: CIA and KGB Covert Political Action during the Cold War"
International Journal of Intelligence and Counterintelligence
Vol. 8, No. 4 (Winter 1995), pp. 431-456.
著者によると、CIAは、政党や前線組織をうまく活用しながら、
他国の政治情勢や大衆世論を誘導する面で、KGBよりも多くの成功をおさめたという。
逆に、KGBが得意だったのは、国際機関や慈善団体といった社会団体を通じた工作活動であり、
CIAは、常に後手を取りながら、ソ連の影響力行使に対抗しなければならなかった。
もちろん、KGBもまた、多くの前線組織を抱えていたが、
その目的は政治工作というよりも、工作資金の獲得や技術情報の収集といった分野に向けられていた。
しかも、CIAは、前線組織の運営や支援に直接、関与していた場合が多かったのに対して、
KGBは、そうした運営や支援に間接的な形でしか関わらなかったとされている。
一方、プロパガンダ工作においても、
KGBは、前線組織や協力者を通じて工作活動が進めるという点で、陸上戦が得意であったが、
CIAは、ラジオ放送を積極的に活用するなど、空中戦を好むところがあった。
また、協力者確保の手法も、KGBはもっぱらそれを他国で行なっていたが、
CIAは、自国のメディアやジャーナリストを利用する傾向があった。
しかし、それはのちに、左派系ジャーナリストがCIAの工作活動を暴露する温床となったのである。
この他にも、具体的事例を紹介しながら、
CIAとKGB双方における工作活動の特徴を比較しているのだが、
明確に言えることは、両者それぞれに得意分野と不得意分野がはっきりと存在しており、
工作活動上の不均衡が見られることである。
つまり、工作戦といっても、同じような実力で鍔迫り合いを繰り広げていたわけではなく、
工作活動の分野ごとに実力差があったことが指摘されている。
著者は、工作活動の特徴や分野ごとに生じる実力差の原因まで分析しておらず、
あくまでも両者の大まかな傾向を把握することだけに議論を限定させている。
その原因を探求することは、それはそれで一つの大きな研究テーマとなりそうだが、
さらに多くのデータを積み重ねれば、理論的研究への道筋も見えてきそうである。
そのためには、工作活動の事例をうまく整理することから始めなければならないだろう。
世界史的に見れば、工作活動が存在しなかった時代というのは、
おそらくいまだかつてなかったであろうと思われるので、
これこそが米ソ冷戦における最大の特徴だったとは言わないが、
少なくとも重要な政策手段の一つであったことは間違いない。
しかし、個々の工作活動に焦点を当てた研究が多く発表されている一方で、
米ソ各々による工作活動の全体像をとらえようとする研究は案外、少ない。
この領域に関しては、史料的制約が非常に厳しいので、
まずは個々の工作活動に関する事実をきちんと検証することが大切なことは確かなのだが、
両者の工作活動における特徴を大まかに捉えておくこともまた、
それを俯瞰的に見る場合に必要であろう。
そこで、若干、古い論文ではあるが、
冷戦期全体を通じて、CIAとKGBが行なった秘密工作、特に政治工作に関して、
カナダ人研究者によって提示された議論がある。
Kevin A. O'Brien
"Interfering with Civil Society: CIA and KGB Covert Political Action during the Cold War"
International Journal of Intelligence and Counterintelligence
Vol. 8, No. 4 (Winter 1995), pp. 431-456.
著者によると、CIAは、政党や前線組織をうまく活用しながら、
他国の政治情勢や大衆世論を誘導する面で、KGBよりも多くの成功をおさめたという。
逆に、KGBが得意だったのは、国際機関や慈善団体といった社会団体を通じた工作活動であり、
CIAは、常に後手を取りながら、ソ連の影響力行使に対抗しなければならなかった。
もちろん、KGBもまた、多くの前線組織を抱えていたが、
その目的は政治工作というよりも、工作資金の獲得や技術情報の収集といった分野に向けられていた。
しかも、CIAは、前線組織の運営や支援に直接、関与していた場合が多かったのに対して、
KGBは、そうした運営や支援に間接的な形でしか関わらなかったとされている。
一方、プロパガンダ工作においても、
KGBは、前線組織や協力者を通じて工作活動が進めるという点で、陸上戦が得意であったが、
CIAは、ラジオ放送を積極的に活用するなど、空中戦を好むところがあった。
また、協力者確保の手法も、KGBはもっぱらそれを他国で行なっていたが、
CIAは、自国のメディアやジャーナリストを利用する傾向があった。
しかし、それはのちに、左派系ジャーナリストがCIAの工作活動を暴露する温床となったのである。
この他にも、具体的事例を紹介しながら、
CIAとKGB双方における工作活動の特徴を比較しているのだが、
明確に言えることは、両者それぞれに得意分野と不得意分野がはっきりと存在しており、
工作活動上の不均衡が見られることである。
つまり、工作戦といっても、同じような実力で鍔迫り合いを繰り広げていたわけではなく、
工作活動の分野ごとに実力差があったことが指摘されている。
著者は、工作活動の特徴や分野ごとに生じる実力差の原因まで分析しておらず、
あくまでも両者の大まかな傾向を把握することだけに議論を限定させている。
その原因を探求することは、それはそれで一つの大きな研究テーマとなりそうだが、
さらに多くのデータを積み重ねれば、理論的研究への道筋も見えてきそうである。
そのためには、工作活動の事例をうまく整理することから始めなければならないだろう。