YS_KOZY_BLOG

History, Strategy, Ideology, and Nations

多国間情報協力は可能か?

2010年10月28日 | INTELLIGENCE

 同時多発テロ事件以降、世界的な対テロ戦争(global war on terrorism)が継続している現在、
 情報協力を通じて、世界各国がテロリストの情報を共有し、
 テロリズムの撲滅を図っていくことは、重要かつ喫緊の課題である。
 特に米国は、冷戦時代に培った西側諸国間との情報協力に加えて、
 中東・中央アジア諸国との連携を強化し、幅広い情報収集を進めていかなければならないのだが、
 そうした国々が十分、信頼に足る国かどうかは、大きな悩みの一つである。
 
 元来、情報協力は、二国間で結ばれることが一般的であった。
 それというのも、多国間の情報協力関係は、提供した情報が漏洩したり、
 意図せざる目的で利用されたりすることを恐れて、
 うまくいかないことが多かったからである。 
 また、他国から提供された情報であっても、
 自国の情報機関を通じて、確証が得られる情報以外は、
 偽情報の可能性を排除できないということもあって、
 結局、いずれの国も、消極的な形でしか協力関係を構築できないのが実情であった。
 「永遠の同盟国も敵国もない。存在するのは、永遠の国益追求、それだけである」
 という英国の有名な格言があるが、
 それは確かに、情報の世界ではむしろ当然の発想と言えるのである。

 だが、グローバリゼーションの影響を受けて、
 テロリストのネットワークが世界的に拡張・深化していく中、
 自国の情報活動で追跡できる領域には、やはり限界が生じるのも事実である。
 したがって、追跡できない領域については、他国からの情報提供を受けなければならないし、
 テロリズムの脅威を同じく共有する国々とも協力関係を深めるために、
 多国間の情報協力体制を整備していくことが必要になってくる。
 問題は、そうした体制を機能させるには、どうすればよいかという点である。

 カナダ国防省で戦略分析官を務めたステファン・レフェブル氏によると、
 国家間で情報協力関係が結ばれるのは、
 潜在的な利益が明白で、協力に伴うリスクやコストが明確である場合である。
 たとえば、情報格差の存在や工作活動上のコスト削減は、
 他国の協力を得ることによって解消、ないし改善することが可能となる。
 また、外交関係がない国に対して、工作活動を展開しようとした場合、
 その国と外交関係を持つ国を媒介にして実行することもできる。
 つまり、情報協力の基本は、相補的関係の確立にあると言えるのである。

 しかし、その一方で、情報協力の阻害要因も存在し、
 レフェブル氏によると、それはおおむね、次のようなものが挙げられる。

 1)脅威認識と外交政策上の目的に相違が見られる場合
 2)国家間のパワーが不均衡である場合
 3)協力相手国における工作員保護への消極的姿勢
 4)法的問題(情報公開など)
 5)情報交換への不信感
 6)提供された情報を意図しない目的で利用される危険性

 こうした要因は必ずしも容易に克服されるものではない。
 まして、国家間の信頼性が安定していない状況下で、
 柔軟かつタイムリーな情報協力が確保される余地は小さいと言わざるを得ないだろう。
 だが、レフェブル氏は、対テロ戦争を有効に展開させていくためには、
 多国間協力は必要不可欠であり、
 相互の信頼を高めるためにも、情報協力体制を整備することが有用であると指摘している。
 
 Stephane Lefebvre
 "The Difficulties and Dilemmas of International Intelligence Cooperation"
 International Journal of Intelligence and Counterintelligence
 Vol. 16, No. 4 (2003), pp. 527-542.

 もっとも、レフェブル氏は、性善説的な立場を採っているわけではなく、
 「しっぺ返し(quid pro quo)」の手段を確保しておく必要性にも言及している。
 その具体的な内容については明らかにされていないが、
 対テロ戦争で最も避けるべきは、情報面での孤立化にほかならない以上、
 それが対抗措置の一つとして想定されることは間違いない。
 ただし、同時に情報収集源を失うことにもなるため、
 やはりディレンマに直面することは避けられないとも言えるのである。