しかし、以前に比べると、聴く機会はだいぶ減ってしまった。
日常生活が忙しくなったということもあるが、
何事にもあまり感動しなくなったということもある。
どんなものを見たり聞いたりしても、既視感を覚えることが多くなった。
また、良くも悪くも世間知に通じるようになってきたので、
知らないうちに、物事を斜に構えて見る癖がついてしまった。
心が老いてきたということなのだろう。
10代の頃みたいに、ポップスの世界に酔えなくなっている自分がいる。
楽曲の中で提示されている物語に共感できなくなっている。
些細な出来事にも心を躍らせるような感受性が失われてきている。
これは非常によろしくない。
心の水分を補給する必要がある。
とはいえ、基本的に80年代ポップスで育った世代としては、
最近のポップスは、アレンジの豪華さや派手さとは裏腹に、
描かれている世界観が内面的な躍動感に乏しい印象を受けていたのも確かであった。
ロックの基本精神が「現状打破」であるのに対して、
「現状維持」にポップスの基本精神があることを考えると、
現状維持の方向性がどこか退廃的な雰囲気を漂わせていることが多かったからである。
流行歌において、同時代性は絶対的に不可欠な要素である。
政治でも経済でも、価値の紊乱と相対化が著しく進んだ日本社会において、
新しい価値観を提示するような楽曲を制作することが、
非常に困難な作業であったことは想像に難くない。
したがって、むしろ、そうした時代状況に抗うのではなくて、
全面的に受け入れて狡猾に生き抜こうとするイメージに由来した楽曲が支持されたのだし、
それは確かに一つの時代を象徴していたといえよう。
以前、何かの雑誌でのインタビューにおいて、
佐野元春がポップスの普遍性はポジティブな世界観に宿ると語っていた。
これはまさしく真理であるように思う。
CD売上の低下で、音楽業界全体が地盤沈下の傾向にあると言われているが、
音楽配信の形式やメディアの変化といったハード面ばかりが理由なのではなく、
この普遍性の追求こそが、最近のポップスで疎かにされていたからかもしれない。
そして今、原点に回帰するかのように、
それを現代的な音でうまく表現するアーティストが増えてきたことは、
非常に喜ばしい出来事である。
日本のポップスは、捲土重来、これからが大いに期待できそうな感じがする。
そんなわけで、今度、いきものがかりのベストアルバムを予約してきます。
発売は11月3日だそうです。
それを聴きながら、いつしか忘れていた瑞々しい気持ちを取り戻したいところです。