貸金業債権の債権譲渡、行政監督機関の法執行権限

独り言日記...貸金債権譲渡して業務撤退だ。どうしたら貸金業から過払いリスクなく廃業できるか

クレディア再生計画案-- 収益見通しと事項可能性

2008-05-24 22:02:23 | 債権譲渡

5月22日、クレディア再生計画案提出が通知された。

以下の想定の上、48ヶ月の収益見通しをしてみる。

買収価格は、360億円と憶測される。そこで、かざかファイナンス(アドバンティッジ・パートナーズ)は、60億円の株式出資、300億円の貸付をして、買い取ると想定する。
債権カット率を提案どおりに、手続きの今後の予定にあわせて、予測してみる。

想定条件は、表に記載の通りで、概説する。
 - 2007年9月末の貸付残高を940億円
 - ネット月次元本返済率(既存客への途上のリボなどの再貸付額を差し引いた元本支払い率)を2008年末まで貸付総額x2.5%、2009年を2%、それ以降1%(新規客への貸付もあるので)とする。
 - 金利収入は、当初、貸付金の2/3が100万円以内のローンとして、年15%、それ以外は18%とする。2010年以降、15%金利ローンは、15%を占めるとし、85%が100万円以下ローンとする。
 - 正常債権比率を93%
 - 金利、貸倒費用を除く販売管理費を2008年まで貸付増額x年6%、それ以降、5.5%
 - 過払い金は、30万円まで全額、それ以上は4割払われるとし、30万円以内が全体の2/3を占めることから、過払い金請求に対する返済率を、80%とする。そこで、2009年までは、貸付総額x年2.4%、それ以降1.6%とする。
 - 貸倒率を、2008年年12%、2009年10%、それ以降8%とする。
 - 証券化の費用を年率4.25%x負債額とし、2007年9月以降、全部がターボ早期償還により担保回収金全額で返済されているとする。担保債権額は、パススルーによる減額がなく、一定額が維持されるとする。担保設定額は、表の通り。
 - 当初借入れ300億円の金利を年4%とする。ネットCFにより、毎月償還するが、CFは黒字でも、貸倒償却すると赤字になっているので、元本返済開始するかは、経営判断。
 - 表で、収益は貸倒償却前、所得は、貸倒償却後の利益
 - 所得÷2をIRR10%で割り引いたのが、CFPV
 - 上記想定では、経過48月で、借入れ残高は40億円まで減少し、58ヶ月でゼロになり、そのとき、貸付残高は180億円存在する。

 

収益見通しの結論

貸倒率が経営のキーポイントになる。販売管理費は、経営指標として変動しないで固定できるが、貸倒率、過払い金返還率は、将来予想に頼ることになり、どうなるか客観的合理性のある見込みが立てられない賭博的投資となる。そのため、買取額は、借入額を決定し、費用を確定することもあり、慎重を要す。
上記条件であれば、過払い金料率が貸付額x2%とすれば、貸倒が9.4%以内でない限り、利益がでることはない。永遠に赤字ということになる。

現状が大きく変らないとすれば、2009年の損失は、12億円を超えることが予想されるので、利益を上げるには、4年に上る長期戦となると見られる。

詳細は、以下に。

クレディア再生計画案-- 収益見通しと実行可能性


 


アエル 証券化の債権譲渡と債務者への譲渡通知をめぐり予知される紛争

2008-05-18 11:21:03 | 債権譲渡

証券化資産の債務者への譲渡通知と信託財産に含まれる過払い金返金請求権をめぐる扱い

アエル、民事再生会社と証券化財産に関する資産と信用状況 から続く。 

 

所収先:

http://consumerloan.blog.shinobi.jp/Entry/95/

以下は、目次と冒頭部分にすぎません。 全文は、上記URLに所収されています。

 


(a) 譲渡時、金利引きなおし計算前残高があるケース
債権譲渡は、債権が存在する債権についてしか、譲渡することができない。信託にかつて譲渡されてしまったけれども、そのまま金利引きなおしすることなく、完済された債権は、譲渡の要件を満たさない。(「貸金業債権の債権譲渡をめぐる債権の法的性質、要件事実と譲受人の帳簿保存、取引履歴開示義務」参考)
金利引きなおし前に、1円でも債権が残存すれば、債権譲渡の対象になるので、譲渡通知が出される可能性がある。譲渡通知の判断は、当事者がするので、通知されるかどうかは不明だ。しかし、引き直し計算したら、すでに過払い金が発生しているから、この債権の譲渡は、実質的に、信託による債務引受を承認する行為になってしまう。過払い金請求は、譲受人=信託財産に対してすることになる。信託財産が債務超過になれば、旧信託法に従って、.....

 

(b)譲渡時、債務が消滅しているケース
信託に債権が移転されていたが、譲渡通知を送付する時点で、債務が消滅しているときには、譲渡があったことを通知する必要はない。譲渡通知は、債権譲渡により、債権の請求権を有する者を通知することから必要であり、すでに債務が消滅しておれば、その必要がない。
そうすると、1円でも債務があるケースでは、譲渡通知がだされ、権利移転の事実関係を知ることになるが、完済している場合には、譲渡契約が効力を生じ、実際に移転されており、超過金を信託が受領していた事実を知ることができない。

債権譲渡登記を調査すれば、あるいは貸金業法にもとづき、譲渡者の譲渡に関する帳簿閲覧を請求して、譲渡の事実を知ることができる。(注) この場合...........

 

II. 信用情報の共有の問題

譲渡を受けるのが、信託銀行である場合、全情連加盟していない場合には、履歴情報の共有はできなくなる。BUSが貸金業者となって、受託者から回収事務を受任される場合に、信用情報機関に取引履歴を登録をしようとすれば、債務者の同意が必要なことは、すでに論じた。(「増補版  貸金債権の債権譲渡にかかる信用情報の共有に関する利用権の扱い」参照) 

他方、債権の帰属は、BUSではなく、受託者にある。受託者が信用情報機関の加盟員でない場合、信用情報機関は、登録をうける資産について、サービサーの保有資産として扱うことになるのか、どのように識別されるかは、不明である。・・・・

 

 


貸金債権の債権譲渡にかかる信用情報の共有に関する利用権の扱い

2008-05-17 22:09:32 | 債権譲渡

貸金債権の債権譲渡にかかる信用情報利用に関する違法性

信用情報機関を通じた加盟員との情報共有の利用権は、債権譲渡により、権利移転されうるか。

 

所収先:

http://consumerloan.blog.shinobi.jp/Entry/96/ 

以下は目次と冒頭部分です。全文は、上記URLに飛んで閲覧ください。 

 

概略 

取引履歴情報に関して、信用情報機関を通じて、貸し手以外の外部の貸金業者の加盟員との間で、情報共有されることができるとする債務者に帰属する信用情報の利用に関する権限、権能は、元のローン契約で、別途同意されている。貸し手の外部者との情報共有は、ローン契約あるいは付随の債務者同意にしたがい、契約上の地位に基づき、認められる。

債権譲渡に伴い、譲渡者の信用情報の利用権限は、債務者の別途の同意なく、譲受人に随伴するものではないので、譲受人が外部者との情報利用、共有することは、違法な不正利用となる。債権譲渡によって、債務者が経済的不利益を被ることは許されない。 

債務者は、債権譲渡にともない、譲受人が自己の信用情報の利用の同意を求めてきたとき、同意を法律的に義務付けられるような強制力がないので、同意するに及ばない。したがって、意図的、目的的ではないにしろ、延滞しようとも、その情報を信用情報機関を通じて、譲受人以外と共有することができない。債務者は、無断の情報利用をされた事実を知った場合、違法利用につき、信用情報機関に登録削除請求をすることができる。また登録されて、経済的不利益を被ったのだから、それにともない他で借入れに障害が発生したなどの損失、損害が発生していれば、金銭賠償あるいは代替的な代償(貸付)を求めることができると考える。

譲り受けた銀行が、信用情報機関を通じた情報共有をするのであれば、債務者によるオプト・アウト形式の推定同意だけでは、同意があったとは法的に擬制することができないと考える。具体的利用方法についての明記は不要であるが、情報共有され、2次利用される信用情報の範囲を明確にした上で、オプトインによる同意を要する。債務者が、無断利用による権利侵害により、結果的に被る不利益を考量すれば、衡平バランスがオプトアウトに傾くとは考えられない。

債権譲渡により、借入れ情報は、どのように扱われるだろうか。最新情報に随時更新されず返済があっても、それが反映されなければ、場合によっては完済しても、残高が残ったままでは、債務者は、債権譲渡により重大な不利益を被る恐れが生じる。経済的不利益は、誰の不注意により、被ることになるのか。債権譲渡後の借入れ情報の扱いについて、さらに検討しなければならない。

 

1.ローン借入れ時の信用情報利用の同意

 貸金業者から借入れをするとき、信用枠内のリボ借入れ付き借入れも証書借入れにおいても、通常、金銭消費貸借契約には、ローン情報の貸金業加盟員間の共有について、債務者の同意条項が含まれている。信用情報の共同利用に関する債務者同意は、ローンの性格あるいは要素を決定するための、ローン契約に必要な合意事項ではなく、ローン契約とは別に同意を取得される性格の法律関係である。ローン契約に組み込まれるのは、ただ便宜的に、ローン契約書において、貸付条件のひとつとして、同意が取得されるにすぎない..................

 

2. 債権譲渡で譲受人に同時に譲渡されない契約上の権利

 ローン情報は、その性格から、ローンの性質を決定する条件など契約上の情報と取引情報(延滞、債務整理、破産法適用に従うなどを含む)にわけられる。前者には、金利、月の返済期日、返済金額(ミニマム・ペイメントなど)支払条件、保証・担保設定の有無、与信枠(借入れ上限額)、与信枠変更裁量権、債務不履行事由などが含まれる。後者には、延滞の原因に関する情報の一部が含まれるが、それは信用情報機関を通じて共有されることを目的とされるため、分類上、情報機関を通じて共有される情報については、目的的に、取引情報に区分する。貸し手業者が、長期延滞債権をどのように処理するか、貸倒償却にする基準や貸倒償却したかどうかの内部管理上の処理や会計上の扱い、その原因については、.....................

 

ローン情報、取引履歴情報は、誰に帰属するか

ローン情報は、借入れ、貸付というように、相対する当事者に契約上発生し、保持される情報である。情報主体は、両者にそれぞれにあるように解すことができる。他方、貸し手は、................

 

3. 信用情報機関を通じて加盟員間で共有される信用情報の違反共有

 ローン契約において、取引履歴に関して、譲渡者以外の外部の加盟員で情報共有することが同意されている。その情報利用は、契約当事者である譲渡者の契約上の身分的地位に基づき発生する利用権であり、債権譲渡にともない、譲受人に随伴して移転することが認められない権利である。譲受人は、譲受後、取引履歴情報を保管するが、別途債務者と情報利用に関する契約をしない限り、許可のない不正な、あるいは目的外の違法利用ということになる。許可なき利用を知らないで、利用された債務者の利益が害される恐れがある。..............

 

4. 譲渡債権の共有信用情報の更新、削除請求と債務整理代理人の確認事項
  

債権譲渡により、債権が存在する借入れ情報は、どのように扱われるだろうか。最新情報に随時更新されず返済があっても、それが反映されなければ、場合によっては完済しても、残高が残ったままでは、債務者は、債権譲渡により重大な不利益を被る恐れが生じる。経済的不利益は、誰の不注意により、被ることになるのか。債権譲渡後の借入れ情報の扱いについて、さらに検討しなければならない。.....

 

(a) 債権譲渡により、共有できなくなる信用情報

すでに説明したように、債権譲渡により、譲受人は、信用情報機関の加盟員であっても、債務者同意がえられなければ、2次利用、共有による利用が禁じられる。債務整理にはいり、金利ひきなおし請求して、一部元本が消滅させたり、過払い返金請求しても、そうした履歴が信用情報機関には、登録することができなくなる。
他方、信用情報共有は、....................

 

(b) 共有されなくなった信用情報の削除請求

債務者が外部機関を通じた情報利用を同意しない場合に、どうなるだろうか。債権譲渡後、ローン契約の明示の終了合意がなければ、リボ貸付合意の効力は消滅していない状況におかれるかもしれない。また信用情報利用については、ローン契約が効力を終了しない限り、譲渡人の情報機関加盟員として、情報の正確性を維持し、更新する義務は..................

 

 

 


サブプライムで、金融機関の役員責任を問う株主代表訴訟で先駆的判決

2008-05-16 10:54:11 | サブプライム

Countrywide Financial サブプライム経営破綻で、経営者に対する株主代表訴訟
 
係争中ではあるが、5月13日、多くの金融業界関係者が注目の、将来の類似訴訟の先例となる株主代表訴訟の判決があった。原告は多くの年金基金である。
Countrywide Financialの役員に対する株主訴訟で、ロスアンジェルス連邦地区裁判所判事R. Pfaelzer は、貸付方針に違反して貸されていることを知りながら、監視することを怠ったことが、銀行を破綻に至らしめたと見解を示した。
 
債務不履行を結果的に増大させることになったローン・オペレーション(貸付業務)が緩んでいたことについての認識がなかったとするCountrywide役員らの抗弁をしりぞけ、株主の訴えの証拠が信じるに値するもので、従業員に与信基準に違反させて貸付けしを押し付け、けしたてたのは、銀行の蔓延した経営文化と評価した。
 
判決は61ページにのぼり、原告は、Countrywideの役員は投資家と公衆を誤解させたことについて、納得させるにたる抗しがたい推論を展開していると見解を述べている。
 
懲罰的クラスアクションの株主代表訴訟の主原告には、アーカンソー州教職員退職金基金、コロラド州消防警察組合、ミシシッピー州公職員退職者基金、ルイジアナ州地方警察官退職者年金、セントラル・ラボラー年金基金が含まれる。
 
裁判は、BACの買収を控え、その前に迅速に結審するよう小陪審を求めたが、Countrywideは、第9巡回控訴裁判所に控訴し、長引くことになる様相。
 
概説記事
New York Times 5月15日
GRETCHEN MORGENSON Judge Says Countrywide Officers Must Face Suit by Shareholders
 
今後の影響として、サブプライムで大きな損失を出し株価が暴落した金融機関の経営者の管理責任懈怠に対して広がる恐れがでてきたから、穏やかな判決でいられない。
また証券化でも、酷いケースではClaytonなど第三者がローン監査して、証券化に譲渡されたローンの7割が、信託契約上、貸付方針違反が見られたことから、証券化投資家が同様にオリジネーター役員を訴えることになるか。その場合、投資家を代理して、受託者がすることになる。モノラインも騙されたといって、訴えればよろしい。Countrywideは、FNMAに証券化したモーゲージの7割についても、とるべき所得証明をとっていなかったことが分かっている。
 
I. 背景
 E. 原告の主張
  1.ノンコンフォーミング・ローン貸付の増大
  2. 会社の与信引受け基準に違反して貸されるローン
     オプションARMの貸付で、書面確認がなかったのは2004年に74%だったが、2006年91%。
     HELOCは、プライムとラベルされていたが、....サブプライムとかわらなかった。
     リスキー・ローン貸付は、ローン引受け方針に違反していた。証言は、元従業員から法廷で秘密証人としてとられた。
  3. 損失や毀損のための引当金調整やヘッジの失敗
 F. 役員会、委員会ここのメンバーの任務
 G. 違反行為
 H. 被告の虚偽、不正の表明
  1. プレス・リリース、投資家コンフェランス
  2. SEC届出
  3. プロクシー 委任状
  4. 2007年Countrywideの状況
 
 J. Countrywideの著しい価値の下落
 K. 原告の請求
 
II. 法的分析
   判例検討
 A. 証券取引所法§10b
   1. 悪意の陳述
      分析  21ページ省略
      2.  重要な不正陳述
   3. 信頼(利益)
     4.   損失及び損失の相当因果関係
 B.   証券取引所法§20a
   C.  証券取引所法§20A
   D.  証券取引所法§14a, 規則14a-9
         分析
 E. 州法にもとづくフィデューシャリ任務違反 
  1. 監督責任懈怠
 以下 略
 
 
  
 
 
判決文 Lead Case No. CV-07-06923-MRP
 
UNITED STATES DISTRICT COURT
CENTRAL DISTRICT OF CALIFORNIA
In re COUNTRYWIDE FINANCIAL
CORP. DERIVATIVE LITIGATION
Lead Case No. CV-07-06923-MRP
(MANx)
 
The Lead Plaintiffs
Arkansas Teachers are Arkansas Teacher Retirement System (“ATRS”)
Fire & Police Pension Association of Colorado (“FPPAC”)
Public Employees Retirement System of Mississippi (“MS PERS”)
Louisiana Municipal Police Employees Retirement System (“LAMPERS”)
Central Laborers Pension Fund

ORDER (1) GRANTING IN PART AND DENYING IN PART
NOMINAL DEFENDANT
COUNTRYWIDE’S MOTION TO DISMISS; (2) GRANTING IN PART AND DENYING IN PART
INDIVIDUAL DEFENDANTS’
MOTION TO DISMISS; AND (3) GRANTING DEFENDANT DOUGHERTY’S MOTION TO
DISMISS.


アエル、民事再生会社と証券化財産に関する資産と信用状況

2008-05-15 22:44:31 | 債権譲渡

アエル、民事再生会社と証券化財産に関する資産と信用状況

 

民事再生手続き中のアエルに、証券化され信託譲渡された信託財産について、債務者に譲渡通知が送付されたと聞く。民事再生手続きでは、譲渡担保を含め、別除権行使が認められる。証券化では、債権譲渡時、信託受託者に対する債権譲渡の登記はなされている。譲渡債権について、債務者に譲渡通知がなされたことで、債務者対抗要件を具備したうえで、担保権行使がなされたと考えられる。

ここでは、過払い債権者が、どのような不利益を被るかについて検討するが、まずアエルの信用状況について俯瞰してみる。


アエルの財務・信用状況

管理している債権全体では、890億円の貸付金があるが、アエルの公式の会計帳簿では、営業貸付資産は390億円しかない。アエルの固有資産んと証券化された簿外に管理する別のふたつの会計帳簿があると考えるとわかりやすい。帳簿上の貸付金のほかに、帳簿に認識しないで管理している貸金額を加えた全体の貸付金がある。真正売買されて、簿外に外され、登記も権利移転された500億円の証券化のための貸付金がある。証券化では、サービサーをしているが、報酬は年数百万円にすぎないとみられる。

 

 証券化劣後持分出資の価値
 帳簿上、資産に、証券化の劣後出資持分250億円が認識されており、証券化の優先出資持分残高は、民事再生手続き開始時には、約250億円と推定される。劣後持分とは、証券化の超過担保譲渡による超過担保債権額と証券化(借入)額の差額の元本債権額に相当する。借入額を返済できたら、超過譲渡担保設定部分が劣後して返済される約束に類似する。おおざっぱにいえば、現在のところでは、500億円について証券化設定譲渡されているが、証券化金額は、250億円となる。証券化の投資家は、信託契約上、500億円の債権額全額から、完済を受けられるまで、優先弁済を受ける権利をもっており、投資家への返済が終わったところで、劣後持分権への分配が許される。
 投資家は、信託の受託者を通じて登記上も権利者ゆえ、回収の恐れがあれば、劣後受益者の保護を考慮することなく、500億円全額を手続き外で、任意処分して、250億円を回収する権利行使が認められる。したがって、劣後持分権に、どの程度の資産価値があるかないかの評価は、不透明となる。

 アエルが証券化のサービサーしており、信託の受託者からサービシング料を受けているが、実際にはサービシングにかかる経費さえ、補填できるに十分な額ではないから、実質的には、劣後持分からの高配当がその代わりとなる。投資家に配分される優先受益権の配当は、ダブルA並の金利に固定されるので、回収率が高ければ、劣後配当が大きくなる。必要なサービシング費用は、こうして劣後配当として、成功報酬に化けている。すなわち、アエルの債権者側からみれば、証券化の支払いが優先され、余りあれば、劣後配当で受領できる財産価値が増えるということになる。

 この500億円の証券化資産については、アエルは、過払い債権を含め債務整理や貸倒によって、証券化資産価値が目減りしたら、劣後配当に先んじて、それらの不良債権を信託の費用(デフォルト・トラップ)として認識され、配当前に控除されて、劣後配当が計算される。
債務整理、長期延滞などのデフォルト債権が減少すれば、劣後配当が増加することの意味は、例を用いて説明する。証券化金額を100億円、信託財産を130億円(30%の超過譲渡)で、常時、信託財産に発生する延滞率を5%とし、金利を29.2%とし、投資家金利を3.0%、受託者の信託報酬を年0.3%x信託財産額、バックアップ・サービサー(BUS)料年0.25%、サービサー料年100万円、デフォルト・トラップ発生率を月0.8%とすれば、信託の月収入は、
信託収入 29.2%÷12x95%x130%x100億=3.01億円
信託費用(投資家金利): 3%÷12x100億=2500万円
信託費用(信託報酬):   0.3%x130億÷12=325万円
信託費用(サービシングとBUS):  (100万+0.25%x130億)÷12=279万円
信託費用(デフォルト・トラップ) 0.8%x130億=1.04億円
合計信託費用:          1億3504万円
信託劣後配当(収入-費用合計):     1.66億円

 信託収入からデフォルト・トラップされた不良債権は、そのまま信託に放置しておいても回収されない上、債務整理で法律紛争になって、信託財産の帰属のままでは、信託委託者(証券化をする貸金業者)が信託財産にかかる処分権を行使できない。そこで、現状有姿で、委託者に戻されることになる。
 信託財産の超過担保設定額は、この場合、130%の最低必要額を維持する義務を負っているので、デフォルト・トラップされた金額に見合う金額の債権を追加信託することになる。最低担保必要額を維持できなければ、信託の優先受益権の発行から数年間、据え置きされた予定償還期日が直ちに到来することになる。こうして信託委託者には、不良債権を優良債権で差し替える義務があり、証券化信託財産は、つねに正常債権だけになるよう運用される。

こうして、アエルがサービサーを継続する限り、劣後持分収益を高めるために、回収に努力する。効率的な回収は、投資家のためのサービシングだけでなく、自己が有する権利の価値を高くするために、アエルにとって、強いインセンティブが働く。

もしサービサーが継続できないとき、第三者にサービサーが交代すれば、信託財産の貸金債権の金利は利息制限法以内に引き下げられ、また高い劣後配当を受ける動機は交代サービサーにないので、回収の質は下がり、劣後配当が相当大きな収益源となるほどの影響を受けることは明らかだ。

 

 証券化、固有資産の債権の質の差 
 アエルの不良債権は、証券化を除いた残りの390億円に組み分けされていると推察される。信託財産が年間15%の差し替えがあると考えれば、アエル固有資産390億円のうち、どれだけが未収の腐った債権あるいは和解前の債務整理債権、過払い債権となるだろうか。もちろん、固有資産390億円からも、同様な不良化債権を発生があるとすれば、上記数字を当てはめれば、890x.15=133億円が不良ということになり、不良化比率は、帳簿資産に対して、133÷390=34%にもなる。

  証券化では、契約上、有利な条件で証券化するために、譲渡適格債権基準を定め、信用の質の悪いと判断される資産を組み入れません。たとえば、借入れ社数6件以上は不適格とか、2000年当時のアエルの証券化では、全情連で負債総額230万円以上の借り手の債権は不適格だとか、過去何年間において、延滞、破産履歴があったら不適格とか、そうした条件が十余は定められているから、890億円のなかから、支払い能力が高い500億円が選び出されているということになる。したがって、残った390億円の資産は、多重債務額が大きく、借入れ件数が大きく、保証会社案件(証券化では除かれる)だったり、延滞が頻繁におこったりする債権ということになる。

  会計帳簿上、認識されている営業貸付金約390億円の内、186億円の借入金のために、300億円を譲渡担保に差し入れている。債権者説明会の説明では、担保権者は、この担保の権利行使をしようとするように見受けられた。別除権行使だ。民事再生手続きなので、事業継続にどうしても必要なものでない限り、担保権者により、手続き外での処理がなされ、第三者に任意売却処分されても異議は申し立てできないから、これは、担保権者の意思しだいだから、手続き上、再生債権者が引当財産にできない別資産と考える。

  借入金の186億円は誰からの借入かは分からない。かりに株主ローンスターからであったらどうだろう。法律上、有効に担保設定されていれば、株主が貸付をしているからといって、その権利行使を妨げることはできない。
  この300億円はどういう担保の質かはわからないが、通常金融機関取引では、担保掛目が維持されることだけが重要で、譲渡担保だから、資産の中身の質を維持することは求められていない。通常、月末時点で、全部の担保債権を洗い換えされるのが通常である。貸倒債権や債務整理案件を除き、それ以外に差し替えるための作業として、月末時で切ってチェックし、該当債権を抜き出し、超過担保掛目分の債権を総入れ替えして、差し入れており、特に、適格基準を設けていなければ、延滞が含まれたり、質がいいとは限らない。しかし貸倒と債務整理は省かれると推測される。

 したがってこの担保債権をのぞいたアエル固有資産90億円は、債務整理が終わっておらず、未和解案件か、貸倒前だったり、管理に費用がかかる有毒の凝縮倉庫ということになる。
上の計算で、いくらが不良化しているか推測できるが、90億円全額が不良の可能性がある。簡単にいえば、極端には、自分が債務整理で訴えているものの引き当て財産が自分の債権だということになる。

  借入金は、全体で231億円あり、186億円を差し引いた、過払い債権者を含む残りの45億円の債権者にとって、配当が期待できない過酷な現実となる。たぶん、過払い金債権が3%集まると想定すれば、27億円。
 クレディアでは、事業ローンも営業していて、そこからの過払い金が大きく60億円にも達し、6%以上過払い金が届出されたが、アエルでは事業ローンもなく、手続き期間も短いので、それほど大きくはならないとみられる。だとしても、過払い金債権を加えただけで、70億円以上の債権者がおり、他にも出てくれば、90億円の固有債権からだけでは、何か返済できるあてはないとみられる。

  証券化の劣後持分の価値は、投資家が弁済確保のために、信託財産全部を自らだけの利益のために任意売却してしまわないかぎり、劣後受益権配当が期待でき、再生債権者は、それを引当にできる。
他方、受託者は、信託委託者とのサービシング契約を終了して、回収事務をバックアップ・サービサー(回収事務代行業者に類似するか)に委譲する場合、第三者がサービサーになるので、年金利18%以内しか回収できなくなる。こうして、第三者任意売却処分するかBUSに交代発動すれば、どの程度、債務者から弁済が期待できるか想像できない。
 第三者サービサーは、投資家が満足することが優先的任務になるので、劣後受益権者の権利を護ることには興味が小さい。債務者が金利引きなおし請求に容易に応じるだろう。第三者サービサーが全情連に加盟しているかどうかは不明だが、またBUS自身に帰属のある財産ではなく、信託銀行が保有者である債権なので、延滞を報告する義務があるかないか、どのように処理されるかは知らされていない。
  もし投資家が信託財産を処分することを選択する場合には、信託財産価値はかなり下がるので、アエルは、サービサーと継続することになる可能性もある。証券化資産に29%の高い金利を請求できれば、再生手続きの分配率はあがり、法曹債権としての報酬も期待できるということになるからだ。


 証券化資産に生じる過払い金の扱い

 法曹介入債権は、通常、デフォルト・トラップで信託内部の月次決算で、自動的に損金処理され、現状有姿で委託者に戻されることはすでに説明した。しかし過払い金が発生してしまう場合、信託銀行が不当利得を返還する義務を負う債務者となり、債務者だった者が過払い返還請求者となる。過払い債権となることが予想される債務整理の未和解債権について、信託が一部解除され、委託者に戻される場合には、債権者の同意のない債務者の交代、債務引受行為と同様の法的結果をもたらすことになる。しかも交代する債務者は、再生手続き下にある債務超過会社であり、支払能力がない会社に譲渡されることを意味する。
 デフォルト・トラップは、信託内部の信託決算方法にかかるので、劣後配当が減額されるからといって、再生会社の財産権処分行為にあたるとはいえない。同じ経済的効果をもたらすとき、委託者がデフォルト・トラップされる金額と相当額で無価値の債権を買い取った場合、手続下で、あきらかに否認の対象になるだろう。デフォルト・トラップは、再生会社の法律行為を伴わない事前の信託合意の事務に過ぎない。
 しかし過払い金返還が予期される債権を、委託者に戻すことは、投資家利益を護ることを引き換えに、再生会社の資産を目減りする結果となり、そうした害意があるといえる。
 
 この問題は、信託財産について、BUS交代を目的に債務者対抗要件を具備しようとして、譲渡通知をだそうとするとき、急に発現する。過払い金の発生は、完済された債権では必然である。信託財産にも、信託移転されたまま、完済された債権があることはいうまでもない。債権はすでに消滅し、残高がゼロの債権なので、過去において信託譲渡されていたからといって、債務不存在であれば、譲渡(通知)の要件を満たすとはいえるか。
 とすれば、完済債権に関しては、譲渡通知が出されることがなく、移転があったことを元債務者は、それにより知る機会はない。信託に対して請求するのであれば、引当財産は十分ゆえ、満額回答を得られるが、債務超過会社であれば、収受できる金銭はなさそうだ。


 これについては、証券化の過払い債権をめぐる扱いで、別稿にて論じる。

 


 


「貸金債権を買いあさる日本振興銀行のナゼ」 週刊東洋経済2008.5.17号

2008-05-12 13:00:33 | 債権譲渡

増補2版 貸金業債権譲渡をめぐる問題に関する早稲田大学大学院法務研究科の鎌野邦樹教授の見解に関する論考の考察 

 

「貸金債権を買いあさる日本振興銀行のナゼ」~日本振興銀行が消費者金融の三和ファイナンスから債権譲渡を受けたとする「お知らせ」を送付。債務者には動揺が広がっている。はたしてその狙いは何なのか

と題される大崎明子氏の論考が、週刊東洋経済2008.5.17号34-35頁に掲載された。

貸金債権買いあさる日本振興銀行のナゼ

 http://www.toyokeizai.net/business/strategy/detail/AC/69822d7f56713c92b87b63bbc76f287e/

債務整理関係者の間では、本件債権譲渡について、記事の内容に理解できない点、疑問点があるとの声がある。ここでは雑誌論考が指摘する貸金債権譲渡の問題点のいくつかに焦点のをしぼり、法的考察をこころみる。

記事の半分は、記事という性格より、結論なき論考といったもので、貸金業債権の譲渡に法的リスク山積、その業務上リスクを指摘する とタイトルを付け直したら、わかりやすい。本来のタイトルにある内容を探してみたら、最後に疑問だとしか書いてない。

サブタイトルに、「問題多い『お知らせ』」とある。学者以外に、取材源が明らかにされていないので、問題指摘をしたのが学者以外に誰かは不詳だ。司法書士がインタヴューを受けたことは、他のサイトに書かれている程度。さて、この問題が多いという指摘には、疑問な法解釈が含まれ、銀行の違法性を問うにしても、阻却事由はいくらも出されて、争われることは推察できる。

 

1. 論者は、譲渡通知について、「専門家に確認したところ、今回の「お知らせ」には問題点が多い。」と指摘し、「形式からしてずさんなのだ。体裁は、三和Fと振興銀行の連名だが、送付の主体は譲受人の日本振興銀行。」と問題点を説明する。その指摘、説明が、前文の専門家に確認された意見によるものか、それとも論者の独自の見方かは、文中から、文脈からはあいまいにされている。
しかしながらその直後に、「早稲田大学大学院法務研究科の鎌野邦樹教授は、『民法467条の規定する債権譲渡の対抗要件は、「譲渡人が通知」するか「債務者が承諾する」ことなので、問題文書は要件を満たしていない』と指摘する。」と説明が続く。したがって、専門家のひとりの意見を確認したところ、譲渡通知が要件を満たしていないとする見解は、学者の説くところと考えてよさそうだ。
さて、鎌野教授は、要件論を考えるに、(通知の)体裁は....連名であると認識された上で、送付の主体を問題にされる。債権譲渡では、権利取得者である譲受人の通知では、債務者が信じるに足りないと場合が起こりえることから、権利得喪失関係を伝えるに、利益を失う譲渡者が通知をすることを求める。譲渡通知文は、葉書文面において連名してなされているので、葉書の送付主が銀行であるにすぎない。債権譲渡の対抗要件について、法は書面の送付主ではなく、譲渡があったのことの事実の通知行為を問題にする。ここでは、文面上、連名して通知していると解され、通知は共同して作成されたと考えられる。
そもそも送付は、使者としてなすこともできるのであって、送付主が誰かによって、譲渡通知文が明確に譲渡者を含んでおれば、債権譲渡の事実について誤解が生まれるとは考えられない。したがって、送付主が譲受人であるという事実だけをもって、債権譲渡の通知の形式が要件を満たさないとする抗弁を認めるほどにずさんとは言いがたいと考える。銀行は、この通知において、学者から指摘を受けるような不備があったとは考えられない。

 

2. 「登記事項証明書なども添付されておらず、社印のみで代表者印もない。架空請求ではないかと疑った債務者や弁護士、司法書士もいるほどだ。」との論者の説明は、論者の見解なのか、専門家の指摘かは、やはりあきらかにされていない。これも、債権譲渡の様式に関するものだが、登記事項証明書は、対抗要件具備のために、法律は特に求めていない。また債権譲渡における債務者対抗要件を議論しているところで、第三者対抗に関する要件具備を議論する必要はない。
本件で債権譲渡の登記をしているか否かは不明である。仮に登記していても、登記事項証明書で、現在事項証明だけであれば、過去に遡って譲渡があった場合に抹消されておらず、二重譲渡がないことが確認できるかは、別の問題である。
実印を押印することが求められるかについても、法は様式を規定していない。したがって、問題として指摘されるほどのことではない。誰でも文書を偽造できるような通知であれば、債務者として、譲渡の事実を信じてよいかというにすぎず、その不信は、譲受人に支払いをする際に、住所、債権の条件、譲渡額など譲渡者しか知りえない信用情報を確認をすることになるので、不安の抗弁による支払拒絶は、しづらくなるだろう。
そもそも内容証明郵便とて、E電子郵便(ネットで申込みする方法)であれば、債権譲渡を知る第三者であれば、譲渡人に代わって押印なくて出すことができるので、信じられることができるかと疑問になる。法が求める債権譲渡の通知とは、それだけの機能以上に何を期待できるか。
しかし偽造といっても、悪意の譲渡者の従業員が、使用者に無断で債務者の指名、住所、債権の条件、債権残高をデータベース上から盗み出し、譲受人と共謀してでないと偽造することはできない。譲受人が、しかも銀行である譲受人が、氏名、住所、債権額をしっている時点で、譲渡は確からしいことが分かる。

 

さて、論者は、疑わしい偽造通知というイメージをいだく恐れを指摘されたあとに続けて、「また、届いた『お知らせ』には実際の残債額を大幅に超える金額が記載されたものが多く、発送後の4月16日付で『通知書の一部訂正』が送られてくる始末。振興銀行のホームページにも同15日付けで、『お詫び』と題する文面が掲載されている。」と説明しているので、残高相違がある債権譲渡通知であるために、架空請求の疑いがあると説かれるのだろう。
事務手続き上、計算違いのミスは起こりえることであり、事務体勢の問題であったとしても、債権譲渡の問題点ではなかろう。

 

3. 「金利や遅延損害金率を低く変更する旨の記載がなされたものがあり、中には当該欄が空欄で通知されたものさえある。しかし前出の鎌野教授は、『債権譲渡においてはこうした一方的な条件変更を含むのは無効』と厳しく指摘する。」と、論者は学者の見解を取り上げられる。
本件の譲渡では、譲受ける銀行は、債権譲渡の通知に、請求金利を利息制限法以内にするという説明を付している。これは債権内容を変容させるような条件変更と性質決定ではなく、譲渡後、利息制限法を超える金利のみなし弁済の適用の主張をしないという意味にすぎない。債務者に一方的な不利益を与えるような権利侵害にあたるものではないと評価し、債権譲渡を無効にしうるほどの違法な債権内容の変更とはいえない。

 

しかしながら、「譲渡日以降の金利が利息制限法の範囲内に引き下げられるようで、一見、債務者には有利であるかに見える。」と、論者がその後で説くように、この請求金利下げは、債務者にとって、思わぬ落とし穴になりかねないし、銀行にとっては、結果的なのか、みなし弁済適用を主張しないように見せて、実は違法な請求をし続けることになりかねない。実際に、引きなおし計算しないままの譲渡を受けたローン残高を、債権額が消滅するまで、利息制限法適用金利を請求し続ければ、いつかは過払い金が発生する。銀行は、みなし弁済の主張の放棄を、見せかけながら、債務者からの抗弁がなければ、過払い金を請求し、収受し続けることができるので、事実上、みなし弁済の適用を享受できることになる。
他方、現段階で、銀行がそのような請求をするかどうかを憶測することはできない。銀行は、金利引きなおし計算しなおして、残高がゼロになったところで、請求を打ち切るよう業務することとも想定しうる。違法請求をするという前提で業務するとも考えられない。

 

この点について、金融庁の態度は明らかでない。しかしながら、譲渡時において、それ以降の請求金利さえ利息制限法の範囲内に下げれば、引きなおし計算前の債権額を基準に、それが消滅するまで請求できるとする見解を、銀行の質問に対して金融庁が回答したとは考えづらい。なぜならみなし弁済無効を主張する債務者に対しては、違法な請求だからである。銀行は、譲渡を受けた以前のグレーゾーン金利の受領について、現状の判例法理から、譲渡者がみなし弁済の主張が有効であるとの信じるにたる証拠は得られないからだ。
本件に関して鎌野教授の説く条件変更とは、そういう意味での評価であれば、誤っていないといえる。

 

しかしながら、債権譲渡の時点まで、任意弁済については特に争うことなく、債務者が引きなおし計算を主張せず、両者の間で、債権額において合意が形成されており、それが譲渡通知でも確認される。債務者は、後になり、理由のいかんを問わず、みなし弁済無効を主張するか、抗弁するにすぎない。譲渡時の債権額が引きなおし前金額といえ、違法とまではいえないので、譲渡通知において、引きなおし計算前の金額を基準にして、適用金利を利息制限法の範囲内に下げるという対応は、あとになって、遡及的に引きなおし計算して、債権額を再計算できる正当な権利がある者であることを考慮すれば、不利益変更をともなう性質のではない考える。
少なくとも、債権譲渡時において、債務者との間で、金利引きなおし前債権額を債務として存在することを確認しようとする銀行の意思まで推認することは、この事実からだけでは難しい証明ではないかと考える。

 

4. 論者はまた、「本譲渡契約についての『確認書』及び『保証委託契約証書』を別途送付させていただきますので、返送をお願いいたします」ともある。確認書や保証委託契約証書の内容次第では、返送すると、債務者は振興銀行が示した条件を新たに承諾したことになりかねない。」と説明する。債務者が勧めに応じ、保証委託契約書に合意すれば、確かに別の契約関係に入ることになる。確認書は、債権譲渡の確認書を意味しているようだが、実際には、未だ送付がなされていないようなので、記載内容について検討することができない。債権譲渡の対抗要件をすでに通知で済ませているとすれば、確認書は不要であり、債権譲渡の承諾の意味であっても、追加的債務を負担するわけではなかろう。承諾書によって、金利引きなおし前残高について債務承認、異議なき承諾を目論んでいたとしても、それを理由にして、債務者のみなし弁済無効の抗弁に対して、判例上、債権者には、争うすべがないのが実情だろう。確認書によって、そうした債務承認を強制しようとしても、説明義務違反により、錯誤無効が問われるにすぎないだろうから、法的には無益な行為ではないか。

 

5. 論者は、上記に続け、「延滞し代位弁済されると、ゴールデン商事が債権者となって現れる。」と論じる。連帯保証ゆえ、保証会社が、事前の調査なく、主債務者のみなし弁済無効の意思を確認なく、引きなおし前残高について弁済を履行し、主債務を消滅させてしまったとき、その結果として、保証会社は、弁済した金額について債務者に求償することができるか。保証会社は、グレーゾーン金利を請求し、受領されてきた貸金業債権であることを認識して、営業として保証業務をする業者であるから、金利ひきなおし計算すれば、すでに消滅している不存在の債務を弁済したとしても、自らの注意を怠った結果であり、代位できる権利はなく、求償できないと考える。債務者の主たる債務の消滅、債権不存在についての主張あるいは抗弁は、債権者だけでなく、保証人に対しても失われない。
債務者は、保証会社の給付請求に対して、請求に応じず、裁判を受けることを選択すればよい。保証会社は債権者に対して、不当利得の返還を求めることになるに過ぎない。

 

6. 論考には、取引概略図が描かれる。法的に理解ができない点がある。
図では、日本振興銀行がゴールデン商事に対して、保証委託を求めることを意味する矢印→が銀行からゴールデン商事に向けて引かれているので、銀行があたかも保証委託するかの誤解を招く。概説図は、保証に関する法律用語の基礎理解を欠いて描かれているにすぎない。図で連帯保証は、保証会社と債務者との間で成立している。

保証委託契約とは、債務者が保証会社に対して保証委託を申し出、保証会社が応諾して成立する債務者と保証会社を当事者とする一種の委任契約とみられる。債務者が支払い不能になったときに、債務者が保証会社に保証債務の履行を求めるのであって、債権者が保証会社に、債務者が債務不履行になったとき、弁済を委託する回収する保険的な技法はない。
保証委託契約が債務者に別送されていないので、本件保証の実態は不明だ。保証会社が債務者に利息制限法を越えて保証料を請求することはないと規制上容認されないことから、日本振興銀行が、債務者を保険対象にして、債務者から収受する金利のなかから保証会社に保証料を支払い、債務者の死亡、高度障害のときに、主債務の弁済という方法で保証が履行される。
しかし、銀行は、債権譲渡に伴い、債務者に保証委託を申し出を強制することはできない。そこで、債務者を被保険者として、債務者の承諾なしに、保証会社との間で損害保険契約を結び、金利の一部を保険料として支払い、保険の受益者となることは、消費者保護法の点から許されるかは、別の考量が必要だ。保険であれば、損失填補が目的であり、主債務は消滅しないと考える。保証では、主債務を保証人が弁済をして、主債務を消滅させ、保証人は免責され、求償権を取得する。保険では、債務者に定められた損失発生事由が発生したら、受取人には填補請求権が生じ、保険会社に支払い義務が生じる。保険会社には、求償権が発生することがないので、債務者に対する請求は生じない。
このような保険を債務者を被保険者としてかける場合に、譲渡される主債務にはかかわりないところでの法律関係の生成であり、債務者は、なんら経済的不利益を被ることはないように見える。
他方、そうした保険制度については、金融保険という性格から、商品についての金融庁の承認が必要か、損害保険の特殊金融機関として、業務運営上の資本上、人的、組織的条件が求められるかは、別の監督行政の問題になる。
しかし、実体は、債務者と保証会社は、連帯保証関係とあるので、委託関係は、債務者と保証会社の間で結ばれ、成立うすることに疑いがなかろう。

 

7. 取引概略図では、日本振興銀行は譲渡者に、譲り受け代金を支払うよう、銀行から三和ファイナンスに向けて矢印→がついているが、どのような代金があるか、その有無も含めて不明である。

 

以上、疑問点を考察してみた。貸金債権の債権譲渡にかかり、論考は、債務者の不安な点や銀行の品位、風評リスクから論られるようだが、銀行の営業に違法性があるとまでは、決定付けることはできない。

 

補足と結論

 

なお論考は、問題点として、債権譲渡にともない債務者のみなし弁済無効など抗弁権の切断の恐れと銀行の事務対応についての不備の懸念、ゴールデン商事なる保証会社の問題が取り上げられている。
銀行は、取材に応じず、金融庁の対応については、言及されていないことから、銀行監督機関は、違法性がなく、被害がでていなければ、様子見のようだと推測される。

はじまりの紹介文のところには、譲渡者の紹介として、
「弁護士などの間で同社は、”問題業者”で知られる。現在、業者の多くは、過払い金の請求があれば返還に応じている。だが同社は判決で支払いを命じられても応じない。対抗して、振込口座やATMを差し押さえると、「口座がカラ」「ATMに2万円しかなかった」といった事例が相次いでいる。同社自らがサービサーを務める500億円超の証券化案件については投資家への利払いが続いている。当然、債務者からの返済金を確保しているはずだ。そうしたキャッシュフローがあるのに、返還に応じていないのだ。」
とある。そして、本稿のとりあげた債権譲渡の「お知らせ」には問題点が多いに続いている。

本ブログ論考では、貸金債権の譲渡に関しては、譲渡者は、理論上、貸金業法の規正を適正に業務されていれば、特段、日常業務として、債権譲渡が問題になることはないと考えるので、論及していない。債権譲渡では、譲渡を受けた側に、完全に権利が移るので、譲受側を論じている。
他方で、債権譲渡が、将来起こりえる執行免脱を目指すものであったり、債務者の抗弁権の接続を困難にするものであれば、債務者の権利が害されることになる。債権譲渡の目的として許されるものではないが、当事者の内心の意思は証明しようがない。
債務者の法益保護は、本ブログの別の論考で論じる譲り受けた側の帳簿保存義務、取引履歴開示責任、みなし弁済無効の抗弁に対する譲受人の認識と実務対応如何となる。譲受人に悪意がなければ、譲渡前と同様の債務者の権利が保護され、銀行は、当然に起こりえる法的紛争については事前に予知、予期して、無用な紛争が起こらないよう事前の予防措置をとっていると推察する。譲受人による開示機能が保証されないような事務体勢では、抗弁権が切断されたと同じ効果をもたらし、悪意の有無にかかわらず、債務者の権利は侵害される。
それは、帳簿保存義務といった債権の付随義務の評価の問題ではない。請求権に関する本質的問題であり、貸金債権の法的性質については本ブログの他の論考にゆずる。法的にまことに奇妙な仮説で穏やかではいられないが、
引きなおし計算前に、50万円の残高があるが、引きなおして1000円の残高がありさえすれば、会計帳簿上50万円と認識される債権を50万円の請求権があるとして、債権譲渡される。しかし、譲渡後の初回払いで、1000円入金し、債務者が遡及的任意弁済無効を主張あるいは抗弁された時点で、譲受人は、それに争うことはできない。存在したはずの49.9万円は消滅した。
いえ、これは訴訟法上、存在していなかったのだ。もともと請求権は、訴訟による訴えの正当な根拠を欠き、すでに受領した給付を保持する権能も、強制力をもたない責任のない債権で、任意弁済無効の主張、抗弁により、債権は消滅してしまう。
しかも、債権の不存在は、任意弁済無効に関する債務者の意思表示にかかる形成権的な性格ではなく、任意弁済無効を前提にして過払い金が発生している状況では、第三者(租税上は)により給付の代位請求ができる権利として生成されてしまっている。
貸金業債権の債務が相続により承継されるときも、みなし弁済無効の主張、抗弁は有効となるだろう。会計処理上は認識が認められ、貸借対照表上は存在する請求権ではあるが、法的には請求権がすでに消滅してしまった不透明な権利である。
譲受人は、付随義務として帳簿保存義務を持ち出してきて、みなし弁済無効の抗弁に対して、防御することは認められないだろう。

債権譲渡にあたっては、引きなおし計算して譲渡されることが、規制上強制されることができない限り、法的紛争に発展しかねない状況を脱することはないだろう。破産法適用においても、引きなおし計算して資産価額を認識することはなされておらず、生存企業について、一般会計基準、監査の基準においても、そうした方針は取られていない。譲受けた銀行に責任があるというのではないだろう。
しかし、貸金業者が事業から廃業、撤退、営業譲渡、資産売却する上で、避けて通ることができなくなった現実的問題で、そうした状況で、債務者の権利は、どのように保護されるか、これも不透明な状況といえよう。
 


貸金業債権の債権譲渡をめぐる債権の法的性質、要件事実と譲受人の帳簿保存、取引履歴開示義務

2008-05-02 15:31:16 | 債権譲渡

増補版  グレーゾーン金利ローン、貸金業債権の債権譲渡をめぐる訴求できない債権の法的性質決定に関する疑問と譲受人の帳簿保存、取引履歴開示義務

 (増補部分: 譲渡債権に関する譲受人の帳簿保存、取引履歴開示義務)

 

本ノートは、日本振興銀行による貸金債権の債権譲渡に違法性があることを議論するものでも、違法性があったことを指摘するためのノートでもない。債務者の保護すべき法的利益の点から、譲渡がどういった態様でなされたら、債務者に不利益が発生するかについて考察し、そうした被害を予防するために何が必要であるかを検討することを目的とする。

すなわち、債権譲渡にあたり、銀行が内部あるいはおよび外部の法律実務家との検討されたであろうリスクについて、部外者が検討を試みたにすぎない。

 

債権譲渡について考えてみよう。この課題が与えられるとき、権利移転の態様と優先権の議論が盛んだが、譲渡される債権がグレーゾーン金利適用である性格と債権譲渡について考える。そこで、債権譲渡の要件事実の視点から考察してみよう。

 

I. 過払い債権が発生しているが未実現の状況の貸金債権の譲渡をめぐる争点

債権譲渡が法的に有効であるためには、債権が存在しなければならない。不存在の債権を譲渡することはできない。
債権の発生の原因は、グレーゾーン金利適用の与えられた与信枠内での随時リボルビング付きの消費貸借契約であり、それ自体は成立し、効力を生じている。他方、弁済行為については、貸金業法が求める要件が備えられれば、みなし弁済が認められたと考えられてきたが、2006年1月判例の結果、任意弁済でない限り、弁済を強制することができなくなったと考えることができる。
判例は、金銭消費貸借契約に期限の利益喪失条項が含まれれば、債権者が残債務全額の支払いを強制する結果、過払い金が発生することになり、任意弁済が有効になされたとは言いがたいという。とすれば、返済を、強制できないことになる。正確には、期限の利益喪失事由が生じ、契約上、弁済を強制できるかもしれないが、償還請求可能な任意弁済の範囲は、借入れ時に遡り、金利ひきなおし計算して残存する金額についてのみ、請求が認められることになると読み替えることは、解釈上違法とは判断されないと考える。
請求許容範囲を超える金額とは、債権の消滅にもかかわらず、任意弁済によってのみ支払われ収受される金銭である。その法的性格については、過払い金と同じ性格を持つが、後で考察してみる。

したがって、グレーゾーン利息の超過支払いにより過払い金返還請求権の発生している債権については、債務者による任意弁済無効の主張あるいは抗弁の有無にかかわらず、債権はすでに弁済により消滅している。だから、債権が不存在である以上、請求することは許されず、売買すること、譲渡することは法律上認められないので、そうした契約は無効となる。結果、債権譲渡の要件事実を満たさない。譲渡後、その事実がわかれば、債権の不存在について争いになり、反証をもって債権の存在を証明できなければ、当然に無効が認容される。

すなわこの場合、譲受人は、自己の債権に関する給付利益の保持のため、貸付発生からの取引履歴を実質的に有することなく、譲受業務に参入することは、できないことになる。銀行は、担保権行使にともなう一回限りの場合の譲渡の対応を除いて、業としてなす以上、債務者に争えない法的状況におかれる不利益を被る結果となる譲渡を進んですることはないだろう。

 

ここで、任意弁済の無効の主張あるいは抗弁にかかわらずという意味について考える。法の現実的運用場面をみるに、地方自治体の地方税、国保などの未納者の回収をはかるため、自治体や国保では、債務者のみなし弁済の無効の意思表示にかかわらず、過払い金返還請求権を有する相手方貸金業者に対して、直接請求でき、実際に差押もなされており、代位訴訟も提起しうる。不当利得返還請求権は、履歴開示さえなされれば、その事務処理の時点で金額が確定し、財産権としてすでに発生している。過払い金返還請求権は、債務者の意思にかかる形成権的性格の未発生の状態にある債権ではなく、理論上、財産権としてすでに発生していると考えることができる。

こうした法的な思考は、裁判例に見出すことができる。金利引きなおし計算前、残高が存在して、貸金業者が請求を行っているとしても、2007年半ばのいくつかの高裁判決の考えるように、業者は業者である以上、残高のないことを認識しつつ、架空請求し、受領しているのであって、違法な請求である。(注1) 
したがて、そうした債権はすでに消滅しており、債務の確認を待たずして不存在であり、譲渡の要件を満たすとは到底考えようがない。ただし消滅した債権にかかる権利・義務は、貸金業者の事業譲渡や株式移転、新設合併により、元貸主の地位が譲受人に承継されるもののは言うまでない。

 

II. 引きなおし後も残高ある貸金債権の譲渡をめぐる争点

次に、引きなおし計算しても残高があり、過払い金の発生していない債権について考える。債権は、少なくとも引きなおし計算後の金額の範囲である限り、存在しているので、その範囲での請求権が認められ、譲渡できる。それについては疑義がない。その場合、いったい譲渡債権額は、いくらなのかが、実務対応上、重大な課題となる。
譲渡契約では、譲渡債権額を引きなおし計算前の金額と表記する場合、譲渡者は、譲渡債権の性格にかかり、譲渡債権が、貸金業法24条の点から、みなし弁済無効を主張あるいは抗弁されることがありえること、その結果、譲渡債権額が減額される重大なリスクがありえることを明確に陳述しなければならないだろう。同24条がその説明まで求めているかどうかは、明らかではない。しかしながら、譲渡者は、引きなおし前金額の債権の存在を表明保証するものではないし、その金額に責任を引き受ける意思がないのであれば、債権の性質に関する本件説明は重要事項となる。また譲受人は、銀行業として、貸金債権について専門的知識を有しているものであり、かりに譲渡者による陳述がない場合にも、貸金債権の性格について、自ら明かにするよう求める注意義務から免責されることはありえないだろうとも考える。

法が契約上の説明義務を明確に求めていないのにもかかわらず、表明を求められる理由について考える。譲受人は、譲渡後、譲渡の結果として、債権を変容させることは許されず、したがって金利引きなおし後、残高ゼロになり、消滅した場合には、強制的な請求権を有しないということである。その点については、法が求めるものであり、譲受人が違法に請求して、弁済を収受した場合には、銀行業として貸金債権の残高を管理して認識いる銀行である以上、超過があることの認識のうえ、架空請求して、不当利得を食んだと推定される。

金融庁の見解がどうあろうと、貸金債権について譲渡が認められるとの意見をとろうとも、超過部分についての請求についての私法上の違法性が阻却されることにはならない。債権譲渡が、債権の譲渡であり、契約上の地位の譲渡でも、地位の承継もしないということを主張しても、法的には、譲渡債権を変質させることは許されない。債務者にとって不利益変質があれば、それにより不利益、損失など被る債務者によって争われることが予期される。債権譲渡のもたらす効果として、一部請求権に対する債務者のみなし弁済無効の抗弁権を譲渡によって切断されることは、認められない。譲渡がそのような法の潜脱に利用されることがあってはならない。

 

金融庁、財務局に求められる検査体制

譲受人の帳簿保存と契約上の取引履歴開示義務

金融庁は、見過ごせないほど多くの被害が頻発するまで、行動を起こさないだろう。営業の自由のもと、私人間の契約にまで介入することはない。契約は全体として有効でも、一部において、無効の合意を含む場合もある。当事者で予期できないリスクについて、陳述されないこともある。債権譲渡は、貸金債権といえども、貸金業法上の制約をうけるが、規制監督規制上禁止されるわけではない。したがって、今のところ、無言の対応となっている。紛争が裁判所に持ち込まれた後、どのような対応がとられるか、一過性、一回性が強い取引であれば、無言の対応となるだろう。

しかしながら、金融庁は、債権譲渡がそうした法の潜脱を目的としてなされていないことについての監督責任を負うと考える。ここで監督責任とは、厳格にとらえ、検査において、貸金業法24条に関して、債務者保護の点から備えるべき事務体勢に関する検査項目に含め、また通報により、事後的に検査する場合に、チェック項目とされるという意味である。金融庁に、監督に服す銀行に対して、事後でなく、取引の事前の注意警告義務を求められるかは疑問だ。債権譲渡は、銀行にも、憲法上保証された営業の自由の範囲の業務であり、事前の報告がない以上、結果的に違法性が発見されたとしても、金融庁に責任を追及することは困難だろう。銀行も事前に違法認識があれば、そうした取引をするに抑止が働くが、違法認識なきままなされた場合には、ノーアクションなど意見書、その他事前の意見交換をすることもないだろうから、金融庁には知る機会がない。

債権譲渡の結果、債務者は無用な不利益を負担させられることになるとは、どういう事態を想定できるだろうか。債務者は、譲受人に対して、自己の計算により、金利引きなおし計算すれば、債権が消滅していれば、それを主張するか、残債務があるとして弁済請求する銀行に対して、苦情あるいは裁判上、債務不存在を理由に抗弁を申し立てる。銀行は、債務不存在を主張されたとき、あるいは存在を争う場合、債権残高確認のため、取引履歴を開示しなければならない。取引履歴開示義務は、グレーゾーン金利適用の貸金債権特有な性格から発生し、金銭消費貸借契約上の付随義務として、2005年7月19日判例法理で確立している。(注2) 開示請求は、契約上の義務として、債務不履行があれば、裁判上、強制することができ、債務者が不利益を被れば、賠償を求めることが認められる。

したがって、債権譲渡にあたって、銀行は、元債権者の譲渡人同様、引きなおし計算されたとき、いつ残債務が消滅するかについて、営業者として認識していることが求められる。過払い金は、債務者の形成的な意思表示によって成立するものではないと考えれば、譲受人は、残高を認識できる事務体勢になければならない。しったがって、貸金の性格からして、譲渡者と同様に、貸付からの全取引履歴を有していなければ、今日現在の残高を認識できない以上、自らが管理できる態様で、取引履歴を保管していなければならない。さもなくは、いつのまにか消滅した債権について、裁判例が示すような架空な残高の違法請求をし続けることになる。

こうして、貸金債権の特質から、銀行は、貸金業法24条から、事実上譲渡者と同様の帳簿保存義務を負担することになり、かつ契約上開示義務を承継すると考える。譲渡契約により、契約上の地位を引き継がないという合意が成立していても、貸金債権についての付随義務としての開示責任は、いかなる放棄合意、免責特約があろうとも、対債務者との関係では、承継されることになる。

銀行は、譲渡者同様に、貸金債権については、引きなおし計算後の債権消滅を超過する金額を架空請求することも、強制的に請求することも、訴求することも、強制執行することも、不当な給付を正当に保持することも、許されない。債権譲渡によって、この債権の特質が、債務者の不利益、犠牲の上、変容されるとすれば、違法な営業と判断される。 

業として債権譲渡がなされるとき、そうした債務者の不利益な結果を予期できるのであれば、それに対して予防できる体勢なしでは、債権を譲り受けることは禁じられなければならないと考える。上記のいくつもの裁判例では、裁判官は、業者は債権の消滅、過払いであることを認識できる状況にありながら、違法に請求し、収受していたと考えておられる。したがって銀行は、貸金債権という性格から、債権譲渡という理由に、譲渡前の履歴を知らなかった、譲渡を受けた金額が債権額として確定していたとは主張、抗弁できない。

また実取引界において、貸金業者は 引きなおし計算後、債権が消滅した時点で、債務者にその事実を通知し、任意弁済の意思確認をすることなく、過払い金を受領している。銀行だからという理由だけで、引き直しにより消滅した事実を通知して、任意弁済を事前確認させるのは、酷である。譲渡前と同じ、譲渡者と注意義務を果たしておればよい。

債権譲渡により、予想される不利益について、現行の金融庁の監督指針は出されていない。まさか、銀行が譲渡を受けただけで、取引暦開示責任がないと抗弁したり、帳簿保存なしのまま業務するとは、だれも考えていないからだ。しかし、今後貸し金業者廃業、業務撤退に関連し、多くの債権譲渡がなされ、紛争予防対応コンプライアンスができていると期待される銀行だけが譲渡を受けるわけではない。被害が発生してからの事後的な検査だけではなく、債権譲渡によって、債務者の法的保護に値する利益を侵害してなされることがないよう、譲受人の適格者規制、事務体勢整備に関する規制も必要になると考える。制度的欠陥を悪用するケースの発生が予防できているとはいえない。

銀行が、債務者に事前の任意弁済を確認することなく、違法な請求をし、過払い金を受領し、不当利得を得ることになれば、件数に如何によっては、銀行は重大な訴訟リスクと風評リスクを負うことになる。銀行監督の点からみれば、そのとき、万一、銀行が不当利得返還する資力に欠けた場合、すなわち債務超過に陥ったとき、不当利得返還請求権は預金保険の対象にならず、預金者が不当利得の犠牲の上に救済される結果となる。債権譲渡は、思わぬ不利益を債務者に負担させることになる恐れがある。それらの点については、金融庁としても十分事前に予知できる結果である。したがって譲渡があることを知った以上は、注意をもって監督したら予防できた問題につき、任務懈怠の責めを負うといえるのではないか。

 

III. 請求不能、訴求権のない債権

金利引きなおし計算により算出される債権額を超える金額について、債権法上、請求権が認められる債権なのだろうか。正確に言い直せば、支払いを強制できるか、それとも裁判上請求が認められるのか。
許容範囲を超える金額については、債権の消滅にもかかわらず、それを認識した上での債務者の任意弁済にのみが有効であるとしたら、請求権が発生しない債権となる。結果、超過金額については、債権譲渡の要件を満たさない債権となる。
教科書的に論じれば、給付を適法に保持しうる権能もなく、強制執行して満足をえるための掴取力も、訴訟提起する訴求力も、本質的に備わっていない債権ということになる。債務者には、支払い責任を負わない債務となる。
債務者が会社であれば、貸借対照表上、超過金額については、責任のない債務だから、認識するに及ばない。責任がないのだから、契約上、債務不履行事由適用もない債権となる。債権者が会社の場合、財務諸表上、どのように表記される会計慣行だろうか。現行の一般に認められた会計原則GAAP上、金利引きなおし前の残高を認識することが、監査基準上の認められている。したがって、譲渡を受けたからといって、その性質が変容しない以上、請求権がない債権ということで、金利引きなおしにより、金利充当した弁済額を元本充当して消滅したはずの債権を認識から外すことは容認されないと考える。しかし、資産として、請求権を欠き、債務者とって契約上の責任を生じず、債務履行の強制を受けず、義務違反にならない債権である。(注3) その性格にについては、重要説明事項になるのではないかと慮るが、そういう会計方針はないとみられる。

判例は、こうした自然債務的な債務の存在を承認してしまうことになった。役にもたたない有用でない法概念を持ち出そうとするのではない。理解をしやすいように、整理上、性格決定してみたら、自然債務という範疇に入ってしまうというに過ぎない。
自然債務とは、訴えられないが、任意に履行するときは有効な弁済の効力を生じる債務(らしきもの)と定義されるという。(注4) 貸金業法と利息制限法の狭間で、最高裁がつくりだしたこの訴ええない債権という法技巧が、どのような本性なのかは、疑問が増すばかりだ。
アナロジーとなる類似の債権といえるかどうかは疑問だが、破産法適用を受け、免責された債権について、手続き終了後に破産債務者が、追加して支払える資力があって、任意に返済することもありえるという。破産法上の免責債権は、免責後は、強制執行による満足を受けることができなくなるが、破産者の任意弁済を受ける権利は認められる。破産法上の免責債権について、有力な反論があるものの、債務は消滅しておらず、責任が免除される自然債務と構成する意見が多数説といわれる。(注5) 
訴権が認められない債権も、債権ではあるとしても、債権としての主要な性格を欠いている。債権は、訴えられないものから、強制執行を受けるものまで、さまざまに存在するのだから、債権として区分されることを否定することにはならない。(注6)
実体法上、請求権なしに訴権は生じないから、こうした債権には、請求権さえ認められないのかもしれない。訴権につながらない、訴権の認められない請求権の存在があるとしたら、どのように法的性質決定したらよかろうか。
債権とは何かは、自然債務とは何かを区分するかのごとく、まるで意味のない議論をしているようにも見える。しかし性質決定しないことには、裁判上の扱いを決着することができないから、そうした不毛に見える法的分析も意味をもつことになる。いかなる形態の権利といえ、それを認めるとしても、具体的請求として訴訟物にならないのであれば、裁判上、具体的に検討することができない現象形態にすぎない。(注7)

 

結論

債権譲渡額は、債務者に対する譲渡通知を含め、金利引きなおし前の金額として容認される。しかしながら、それが債務存在の確認の意味を持っていたり、債務者のみなし弁済無効の抗弁権を奪取するものではない。

銀行は、債権譲渡により、こうした貸金債権の性格を変容させてはならず、譲渡によって、譲渡に悪意がなかろうと、結果的にも、債務者が契約上有する権利の主張や抗弁に障害事由を設けてはならない。銀行は、貸金業者と同様に、超過利息分を元本返済充当したら消滅する金額を超えて、違法に請求する場合には、自らが不当利得を得るリスクを認識しなければならない。違法に請求しないための事務手続きとしては、債務者に対して、引きなおし計算では債権が消滅していることを通知した上で、任意に支払いをするか確認を要することを意味するだろう。


(注1) 大阪高裁・平成19.7.31(平19(ネ)弟676号不当利得返還請求控訴事件、被控訴人GEコンシューマー・ファイナンス) 
札幌高裁 平18(ネ)第303号 不当利得返還等請求控訴事件(被控訴人CFJ)

(注2) 最高裁判所第三小法廷・平成17年07月19日判決(平16(受)965号過払金等請求事件) 

(注3) 債務不履行責任、契約責任法理にについては、潮見佳男「債務履行構造に関する一考察」民商90巻3,4号

(注4) 石田喜久雄「自然債務概念の有用性」民法の争点II

(注5) 山木戸克己・破産法300頁、注解破産法(下)822頁他  

(注6) 債権、請求権の性質については、奥田昌道・請求概念の生成と展開参照

(注7) 川島武宜・民法講義弟1巻序説61頁以下、同・民法解釈学の諸問題160頁以下

 

 


金融庁処分にみる行政取締法違反の違法性の解釈と法執行権限の考察 ~ドイツ証券の証券化の時価評価を例に

2008-05-01 09:07:58 | 行政監督庁権限

ドイツ証券の証券化の時価評価にかかり、金商法51条をめぐる行政取締法規違反の違法性の解釈と法執行権限に関する基礎的一考察 (訂正1版)

金融庁が、法規則規範に照らして、個別事実を認識して、法的違法性を評価しない限り、経済社会に法的不安定性が募り、結果的に、そうした不安から、企業は、経済活動を躊躇、停滞させることにつながる。ここで、規範とは、関係者の誰もがそれが規範として認めるもので、公知の事実となっているものだ。したがって、法的強制力がある法、規則だけでなく、それ以外の指針、ガイドラインも違反判断基準になることもある。
法が法として、ひとに強制できる力をもつためには、最終的に裁判でそう支持評価され、強制できる力を意味するでしょうけれ。その前に、まず法が強制力ある法として機能するためには、法の実体(何々してはならない、しなければならないなど、禁止的、肯定的な行為規範など義務規定)とともに、罰則・救済規定がないかぎり、法の効力も抑止力も期待できない。
法を学び損なった法務部やコンプライアンスのうるさ方は、しばしば何々してはならないというところばかりに眼を留め、罰則規定がないことを知らない。違反しても処罰がなければ、誰がそれに従うか。通りで噛んだガムを捨ててはいけませんと、ガイドラインに書いてある。それをだめだと規則違反だと主張したところで、処罰して、裁けるものではない。裁判規範として確立されなければ、単なる倫理規定にすぎない。

ここで、処罰、救済とは、どういう意味か。被害を直接蒙った被害者は、法に従い、賠償請求の訴えを起こせるか。法が私人の訴えの権利のよりどころになるか。法の私的訴権private cause of action が認められれば、私人がその法にしたがい、独自に法の執行による救済を求めることができる。それが法が法であることの意味だ。裁判所は、訴えに対して、法規範にのっとり、要件が満たされているか事実を認定し、違法性を評価し、違法行為を軽重を考量して、処罰する。

行政取締法規については、救済、処分規定が設けられていない法がある。法が私的訴権を準備していないような、本来法が兼ね備えるべき法の執行規定を欠き、不備があることがある。そうした場合、行政監督機関が、被害者に代わって訴えを起こし、あるいは独自に法を執行する権限が法により付託されている場合となる。証券取引法というのは、どこを見ても、私人が訴えを起こせる根拠規定は、まれで、監督機関が法的保護の必要と判断される公益に照らし、独自判断して、処分を決める。独占禁止法、銀行法、貸金業法、信託業法、税法などが、それにあたる。

そうすると、しばしば出てくるのが、違法性がないのに、処分を受けたという話だ。
行政取締法規については、法の解釈や法の執行権限についての第一審管轄権primary jurisdictionは、行政監督機関に事実上与えられるのが通常だ。多くが裁判を受ける権利が、監督機関内にあるケースとなる。裁判所は、市場メカニズムも行政官のもつような専門的知識、経験もないので、行政監督機関の判断に謙譲的態度をとる。だから、第一審で展開された事実評価について再審する控訴審的役割になる。

法執行について、行政監督機関の処分決定に不服があれば、行政不服申し立て申請すればいい。違法性がないのに、処分されて、経営を委ねられた経営者が黙って違法処分にしたがっていれば、名誉毀損で業務、営業に支障が生じることもあり、結果的に利益に重大な影響を及ぼしかねない。株主や場合により、訴えを起こされかねないから、違法性がなければ、争わざるをえなくなる。権限外処分であれば、違憲審査を求めてを争うこともあろう。

したがって、処分決定にいたる事実上の「裁き」プロセスは、法的due processと同様な手続きを求められることになる。事実認定審は、行政監督機関において、なされる。具体的には、行政監督機関は、服す業者を定期的に検査している。検査中に見つかった処分に値する「違法」な行為について、監督機関は事実を提示して、業者に対して、営業行為にいたるまでの経緯、背景、理由、動機を文書によって提出を求める。業者は、違法性の解釈について、場合によって、外部専門家(弁護士、会計士)の鑑定意見書を添える。その上で、監督機関からの違法な事実の認識についての解釈の関する回答があり、そのとき争点が明確にされる。
業者には、それらについての聴聞の機会が与えられなければならない。指摘された違法な行為に事実認識について、違法性のないことについて争うのであれば、その根拠障害理由(本記事に書かれているような、債券は常時売買されないし、適正価格などないでしょうといった)となる反証の提示による抗弁をする。それに対して、再抗弁があり、決定が下される。そのなかで、業者は、裁判同様に、鑑定意見書(当事者により公開性が認められれば、裁判判決に関係する部外者のamicus currieのような意見書)を提示することも許される。審理過程は、裁判手続きとなんら変わりない。

私の経験から知るところでは、金融庁処分では、監督機関による当該指摘事実に関する検査が、3ヶ月ほど続くか。違法と疑いのある行為以外と一緒に目的が分からないように検査されることもあるが、検査期間は、検査項目による。監督機関は、数ヶ月(1~2月)以内に、集めた事実から違法行為があったことの証拠固めをして、違法性を判断し、ほどなくして業者に、検査で違法性が発見されたとの通知がある。業者は、事実の釈明のための機会が与えられ、上記のように、書面を交付を求められることになる。争点について、争う場合の審問、審査プロセスは、文書提出準備期間を含め、2~3ヶ月ほど。検査をうけもつ下部監督機関での審理プロセスが終了する時点で、行政監督機関は、業者が違法性について争う意思がなければ、「違法」行為についての経営者の責任の認識、経営陣の更迭・交代、今後の組織体勢整備、対応、社会への説明・開示方針を文書にして提出を求めることがある。
それが終わると、上部監督機関への処分勧告申請を経て、上部機関(監視委員会に対する金融庁、財務局に対する金融庁)による法執行決定にいたるまでの同監督機関内評価期間となる。3ヶ月ほどだが、少しの期間、数ヶ月、様子をもみることもある。違法な行為について、業者として認識し、反省があり、再発がない体制が整っているとなれば、処分の軽重は、軽減されたり、重要でなければ、法執行は見送られることがある。

行政監督機関での審理・裁決が、通常の裁判と違うのは、弁護士の立会いが嫌われることだ。それに対して、監督機関は機関内の弁護士資格者が随行している。また裁判は、通常、公開性があるが、秘密に行われ、審理の内容どころか、関係部署役員以外に、そうした審理手続きがなされていることさえも秘密にすることが求められる。すなわち審査プロセスで、提示された一切の違法性の証拠資料、反証、事実評価プロセスは、事案の性格から、公開されないことがしばしば。こうして処分は、適正な審理裁決プロセスを経てなされる。業者は、違法性がないとしたら、行政不服申し立てをせざるを得ない。

違法性が明確でなく、違法性による処罰理由が不透明で、違法性解釈について、争われるような疑念がある性格の営業行為についての法執行では、こうした審理、裁決の適正プロセスがあったと推定される。聴聞、審問もなく、釈明の機会もなく、違法性の法規範もなく、勝手に処罰されることは、逆に権限外の法執行のよる違法性を問われるからありえない。監督機関は、議会が付託していない権限のない違法な処分をしたとして、不服申し立てを受けることになる。したがって、監督機関が違法性が問えない営業行為にもかかわらず、責任を問うという場合には、業者は、そうした処分に障害事実を示して反論できないほどに、処分について実質的同意しており、不服申し立てのリスクが小さくなっているということを意味する。

業者が、どのような違法性認識を認めたかは、個別事実が不明なので、議論できない。しかしながら、実質的な弟一審に対する不服申し立てがく、業者が甘んじて処分を受けるというのであれば、金商法第51条(注1)では、公益に照らして、保護されるべき法益保護という規定があるから、それに違反したと評価される。公益保護違反営業がなされたことについて、業者には、すでに争う意思がないと法曹社会には受け止められることになる。

 

金商法にかかる法の解釈権限と法執行権限

そうすると、今回の処分があった場合に、実際の行政取締法の運用から抽出された実態は、同51条の証券取引に関して、おかしてはならない公益とはなにか、また当該公益の保護に値すべき法益の範囲に関する概念枠組みの解釈権限と法執行権限が、金融庁に付託されたということになる。通常の議会が法の特定の規定について、法執行をともなう施行細則などの規則制定権を、特定の行政監督機関に付託する方法としては、内閣府令で定めることも考えられる。今般は、それを明示の規則制定権付与なく、法の運用を行うものであるが、裁判所は、行政取締法の性格から、法の専門的技術性から、第一審管轄権の機能として、公益保護に関するそうした金融庁の事実に対する認識方法や違法性評価を重んじると考えられよう。

新聞では、違法性ある行為として問題視されるのは、以下の3点としている。
 1. 同一時点・同一商品の時価が顧客によって異なる。
 2. 同一時点・同一商品の時価について、複数の評価手法に基づく複数の時価を顧客に提示し、顧客にどの時価を採用すべきか判断させていた。
 3. 評価時点・時価の増減に関する事務ミス。

すでに広く指摘されるように(注2)、債券は、価格が決められて、売り出し、発行されてしまえば、毎日頻繁に売買されるものはない。流通の乏しい社債では、半年に一度しかない場合もある。上場はおろか、流通市場が成立していなくて、客観評価が難しく、取引値ということであれば、取引のあった日まで遡るという基準も使われることもある。

債券がロンドン、ルクセンブルク、アイリッシュ証券取引所に上場していた場合は、どうなるのだろうか。取引はほとんどされることがないだろうし、アイリッシュにいたっては、上場しているという基準を満たすためで、流通市場確立が当初の目的ではない。しかし公式な市場が存在する限り、その価格が使うことが妥当なのか。

債券の発行にかかり悪質な場合には、新規発行債券では払い込み前市場で、価格を吊り上げて、儲けようとする輩もいたりする。300億円しか発行がないところに、引受会社数社に同時に、総額200億円の買いをいれ、市場をスクイーズさせて、空売りの買戻しをできなくてして価格を吊り上げ、その後売りに出して、利益を上げる取引は、かつての大手の銀行すらしてきたモラルを欠いた悪行でもある。失敗すれば、値崩れもある。そうした場合、価格とは何か。

モデルなどという難しいことをいわなくても、10トランチを超える複雑なRMBSやCDOでは、証券ディーラーは、一旦ヘッジして、売れるまで買い持ちするだろうが、なかなか損をしてまでうろうとはしないので、債券市場が変動しても、当該証券価格は動かないことがしばしばみられる。伊万里焼のつぼや茶碗のセットの一部と同じで、それぞれにアルファベットの4文字のニックネームがあって、類似品はあるが、同一品はない。

流通市場評価の難しさは、2006年終わり、ディーラーが自己のポジションRMBSやCDOを評価するに、中間値を使うという便法が用いられ、非難されたことがある。買値30、売値90だったら、どう評価するか。60ではないはずだ。指摘されるように、1000億円の売りと、1億円の売りでは、買取リスクが違うし、現実にヘッジ可能かでも異なってくる。

モデルの必要性も付きまとう。RMBSは発行目論見書では、CPR、PSAの想定期限前返済率に応じた返済とプール・ファクター(残高)の予定表が必要記載事項とされている。それにあわせて、さらに金利の上下変動、デフォルト頻度の想定を加えた3次元マトリックスをつくって、想定価格を推定することは、配布される目論見書付録以外に、募集における電子媒体計算情報computation materialの提供は、は通常となっている。投資家は自分のもつ想定によって、さまざまな価格がえられることになる。CDOでは、債務不履行事由が発生すれば、キャッシュフロー配分変更されたり、支配権を有するトランチ所持人が担保売却して清算する権利を行使できるので、価格の推定には、そうしたデフォルト想定が必要になる。

このように債券では、特に証券化では、モデル想定を要するため、一物複数価になるのは、避けようのない取引慣行であることは、監督機関は調査により理解していると推認されうる。もし理解がないというのであれば、それ自体、専門監督官として、重大な注意義務違反であり、監督失格ということになるので、理解があると推定するのが説得的かつ合理的である。

個別の債券では値段がなく、流通市場が存在していないとすれば、上記3テストを満たすことは、現実的ではなく、通常の業務であっても、違反してしまう。テスト基準を示し、そこに例外取引を違反とすれば、違法性評価と法執行のあり方について、行政不服申し立てリスクが避けられない。そうすると、今回の処分というのは、具体的に債券評価方法についての違法性が発見されたというのではなく、金商法51条の保護すべき公益性に照らし、それを侵害する何か許しがたい行為があったことが推測され、その判断について業者が処分に甘んじれば、それを追認することになる。公益侵害行為が何かは、不明だ。しかし金融庁にその解釈、判断権限が付託されている以上、特に公開をもって、説明をしなくても、違法な法執行とはいえないという法律構成となると考える。むしろ公開が当事者にとって、不利益になることもある。

公益を考えるに、たとえば以下のようなケースを想定してみる。

● 投信に証券化商品が入っていた。投信の保有する規模から、それを受けられるようなbidがないのに、ファンドを清算できないほどの高い価格が提示だれ、投資家が虚偽の報告で欺かれ、損害を出す恐れがあった。(注3)

● 上場する金融機関や組織系金融機関で、資本に対して、複雑な証券化商品に大きな金額の投資をしていた。評価を誤り、結果的に、資本の毀損を隠蔽することになり、株式や証券を購入した投資家が欺かれ被害を蒙った。金融機関は、資金援助を受けて、資本を増強した。

下のケースで、減資でもして、資本を得た場合や、公的資金が使われたら、さらに公益に反する結果を招いたことになる。

発行証券を引受け、販売した証券業者に、無償で流通市場の証券取引所機能を求めたり、義務付けるのはあまりに酷である。しかし、仮に証券評価サービスを提供するのであれば、そうした公益に反することになる恐れがあるリスクを十分認識した上で、業務するよう注意が必要だ。今般処分がありえるとすれば、その専門販売業者としての注意義務違反が認められたということを意味するのだろうか。

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(注1)
第51条  内閣総理大臣は、金融商品取引業者の業務の運営又は財産の状況に関し、公益又は投資者保護のため必要かつ適当であると認めるときは、その必要の限度において、当該金融商品取引業者に対し、業務の方法の変更その他業務の運営又は財産の状況の改善に必要な措置をとるべきことを命ずることができる。

(注2) 

ドイツ証券、証券化商品ずさん時価評価につきSECが処分検討、との記事に釣られてみる     
証券化商品の「ずさん」評価   

(注3)

ニッセイ/パトナム毎月分配投信インカムオープン(委託会社ニッセイアセットマネジメント、販売会社みずほインベスターズ証券)投信の大半のポートフォリオは、さまざまなCMBS、ABS、CDOで構成されている。どのように評価されていたのだろうか。