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アエル、民事再生会社と証券化財産に関する資産と信用状況

2008-05-15 22:44:31 | 債権譲渡

アエル、民事再生会社と証券化財産に関する資産と信用状況

 

民事再生手続き中のアエルに、証券化され信託譲渡された信託財産について、債務者に譲渡通知が送付されたと聞く。民事再生手続きでは、譲渡担保を含め、別除権行使が認められる。証券化では、債権譲渡時、信託受託者に対する債権譲渡の登記はなされている。譲渡債権について、債務者に譲渡通知がなされたことで、債務者対抗要件を具備したうえで、担保権行使がなされたと考えられる。

ここでは、過払い債権者が、どのような不利益を被るかについて検討するが、まずアエルの信用状況について俯瞰してみる。


アエルの財務・信用状況

管理している債権全体では、890億円の貸付金があるが、アエルの公式の会計帳簿では、営業貸付資産は390億円しかない。アエルの固有資産んと証券化された簿外に管理する別のふたつの会計帳簿があると考えるとわかりやすい。帳簿上の貸付金のほかに、帳簿に認識しないで管理している貸金額を加えた全体の貸付金がある。真正売買されて、簿外に外され、登記も権利移転された500億円の証券化のための貸付金がある。証券化では、サービサーをしているが、報酬は年数百万円にすぎないとみられる。

 

 証券化劣後持分出資の価値
 帳簿上、資産に、証券化の劣後出資持分250億円が認識されており、証券化の優先出資持分残高は、民事再生手続き開始時には、約250億円と推定される。劣後持分とは、証券化の超過担保譲渡による超過担保債権額と証券化(借入)額の差額の元本債権額に相当する。借入額を返済できたら、超過譲渡担保設定部分が劣後して返済される約束に類似する。おおざっぱにいえば、現在のところでは、500億円について証券化設定譲渡されているが、証券化金額は、250億円となる。証券化の投資家は、信託契約上、500億円の債権額全額から、完済を受けられるまで、優先弁済を受ける権利をもっており、投資家への返済が終わったところで、劣後持分権への分配が許される。
 投資家は、信託の受託者を通じて登記上も権利者ゆえ、回収の恐れがあれば、劣後受益者の保護を考慮することなく、500億円全額を手続き外で、任意処分して、250億円を回収する権利行使が認められる。したがって、劣後持分権に、どの程度の資産価値があるかないかの評価は、不透明となる。

 アエルが証券化のサービサーしており、信託の受託者からサービシング料を受けているが、実際にはサービシングにかかる経費さえ、補填できるに十分な額ではないから、実質的には、劣後持分からの高配当がその代わりとなる。投資家に配分される優先受益権の配当は、ダブルA並の金利に固定されるので、回収率が高ければ、劣後配当が大きくなる。必要なサービシング費用は、こうして劣後配当として、成功報酬に化けている。すなわち、アエルの債権者側からみれば、証券化の支払いが優先され、余りあれば、劣後配当で受領できる財産価値が増えるということになる。

 この500億円の証券化資産については、アエルは、過払い債権を含め債務整理や貸倒によって、証券化資産価値が目減りしたら、劣後配当に先んじて、それらの不良債権を信託の費用(デフォルト・トラップ)として認識され、配当前に控除されて、劣後配当が計算される。
債務整理、長期延滞などのデフォルト債権が減少すれば、劣後配当が増加することの意味は、例を用いて説明する。証券化金額を100億円、信託財産を130億円(30%の超過譲渡)で、常時、信託財産に発生する延滞率を5%とし、金利を29.2%とし、投資家金利を3.0%、受託者の信託報酬を年0.3%x信託財産額、バックアップ・サービサー(BUS)料年0.25%、サービサー料年100万円、デフォルト・トラップ発生率を月0.8%とすれば、信託の月収入は、
信託収入 29.2%÷12x95%x130%x100億=3.01億円
信託費用(投資家金利): 3%÷12x100億=2500万円
信託費用(信託報酬):   0.3%x130億÷12=325万円
信託費用(サービシングとBUS):  (100万+0.25%x130億)÷12=279万円
信託費用(デフォルト・トラップ) 0.8%x130億=1.04億円
合計信託費用:          1億3504万円
信託劣後配当(収入-費用合計):     1.66億円

 信託収入からデフォルト・トラップされた不良債権は、そのまま信託に放置しておいても回収されない上、債務整理で法律紛争になって、信託財産の帰属のままでは、信託委託者(証券化をする貸金業者)が信託財産にかかる処分権を行使できない。そこで、現状有姿で、委託者に戻されることになる。
 信託財産の超過担保設定額は、この場合、130%の最低必要額を維持する義務を負っているので、デフォルト・トラップされた金額に見合う金額の債権を追加信託することになる。最低担保必要額を維持できなければ、信託の優先受益権の発行から数年間、据え置きされた予定償還期日が直ちに到来することになる。こうして信託委託者には、不良債権を優良債権で差し替える義務があり、証券化信託財産は、つねに正常債権だけになるよう運用される。

こうして、アエルがサービサーを継続する限り、劣後持分収益を高めるために、回収に努力する。効率的な回収は、投資家のためのサービシングだけでなく、自己が有する権利の価値を高くするために、アエルにとって、強いインセンティブが働く。

もしサービサーが継続できないとき、第三者にサービサーが交代すれば、信託財産の貸金債権の金利は利息制限法以内に引き下げられ、また高い劣後配当を受ける動機は交代サービサーにないので、回収の質は下がり、劣後配当が相当大きな収益源となるほどの影響を受けることは明らかだ。

 

 証券化、固有資産の債権の質の差 
 アエルの不良債権は、証券化を除いた残りの390億円に組み分けされていると推察される。信託財産が年間15%の差し替えがあると考えれば、アエル固有資産390億円のうち、どれだけが未収の腐った債権あるいは和解前の債務整理債権、過払い債権となるだろうか。もちろん、固有資産390億円からも、同様な不良化債権を発生があるとすれば、上記数字を当てはめれば、890x.15=133億円が不良ということになり、不良化比率は、帳簿資産に対して、133÷390=34%にもなる。

  証券化では、契約上、有利な条件で証券化するために、譲渡適格債権基準を定め、信用の質の悪いと判断される資産を組み入れません。たとえば、借入れ社数6件以上は不適格とか、2000年当時のアエルの証券化では、全情連で負債総額230万円以上の借り手の債権は不適格だとか、過去何年間において、延滞、破産履歴があったら不適格とか、そうした条件が十余は定められているから、890億円のなかから、支払い能力が高い500億円が選び出されているということになる。したがって、残った390億円の資産は、多重債務額が大きく、借入れ件数が大きく、保証会社案件(証券化では除かれる)だったり、延滞が頻繁におこったりする債権ということになる。

  会計帳簿上、認識されている営業貸付金約390億円の内、186億円の借入金のために、300億円を譲渡担保に差し入れている。債権者説明会の説明では、担保権者は、この担保の権利行使をしようとするように見受けられた。別除権行使だ。民事再生手続きなので、事業継続にどうしても必要なものでない限り、担保権者により、手続き外での処理がなされ、第三者に任意売却処分されても異議は申し立てできないから、これは、担保権者の意思しだいだから、手続き上、再生債権者が引当財産にできない別資産と考える。

  借入金の186億円は誰からの借入かは分からない。かりに株主ローンスターからであったらどうだろう。法律上、有効に担保設定されていれば、株主が貸付をしているからといって、その権利行使を妨げることはできない。
  この300億円はどういう担保の質かはわからないが、通常金融機関取引では、担保掛目が維持されることだけが重要で、譲渡担保だから、資産の中身の質を維持することは求められていない。通常、月末時点で、全部の担保債権を洗い換えされるのが通常である。貸倒債権や債務整理案件を除き、それ以外に差し替えるための作業として、月末時で切ってチェックし、該当債権を抜き出し、超過担保掛目分の債権を総入れ替えして、差し入れており、特に、適格基準を設けていなければ、延滞が含まれたり、質がいいとは限らない。しかし貸倒と債務整理は省かれると推測される。

 したがってこの担保債権をのぞいたアエル固有資産90億円は、債務整理が終わっておらず、未和解案件か、貸倒前だったり、管理に費用がかかる有毒の凝縮倉庫ということになる。
上の計算で、いくらが不良化しているか推測できるが、90億円全額が不良の可能性がある。簡単にいえば、極端には、自分が債務整理で訴えているものの引き当て財産が自分の債権だということになる。

  借入金は、全体で231億円あり、186億円を差し引いた、過払い債権者を含む残りの45億円の債権者にとって、配当が期待できない過酷な現実となる。たぶん、過払い金債権が3%集まると想定すれば、27億円。
 クレディアでは、事業ローンも営業していて、そこからの過払い金が大きく60億円にも達し、6%以上過払い金が届出されたが、アエルでは事業ローンもなく、手続き期間も短いので、それほど大きくはならないとみられる。だとしても、過払い金債権を加えただけで、70億円以上の債権者がおり、他にも出てくれば、90億円の固有債権からだけでは、何か返済できるあてはないとみられる。

  証券化の劣後持分の価値は、投資家が弁済確保のために、信託財産全部を自らだけの利益のために任意売却してしまわないかぎり、劣後受益権配当が期待でき、再生債権者は、それを引当にできる。
他方、受託者は、信託委託者とのサービシング契約を終了して、回収事務をバックアップ・サービサー(回収事務代行業者に類似するか)に委譲する場合、第三者がサービサーになるので、年金利18%以内しか回収できなくなる。こうして、第三者任意売却処分するかBUSに交代発動すれば、どの程度、債務者から弁済が期待できるか想像できない。
 第三者サービサーは、投資家が満足することが優先的任務になるので、劣後受益権者の権利を護ることには興味が小さい。債務者が金利引きなおし請求に容易に応じるだろう。第三者サービサーが全情連に加盟しているかどうかは不明だが、またBUS自身に帰属のある財産ではなく、信託銀行が保有者である債権なので、延滞を報告する義務があるかないか、どのように処理されるかは知らされていない。
  もし投資家が信託財産を処分することを選択する場合には、信託財産価値はかなり下がるので、アエルは、サービサーと継続することになる可能性もある。証券化資産に29%の高い金利を請求できれば、再生手続きの分配率はあがり、法曹債権としての報酬も期待できるということになるからだ。


 証券化資産に生じる過払い金の扱い

 法曹介入債権は、通常、デフォルト・トラップで信託内部の月次決算で、自動的に損金処理され、現状有姿で委託者に戻されることはすでに説明した。しかし過払い金が発生してしまう場合、信託銀行が不当利得を返還する義務を負う債務者となり、債務者だった者が過払い返還請求者となる。過払い債権となることが予想される債務整理の未和解債権について、信託が一部解除され、委託者に戻される場合には、債権者の同意のない債務者の交代、債務引受行為と同様の法的結果をもたらすことになる。しかも交代する債務者は、再生手続き下にある債務超過会社であり、支払能力がない会社に譲渡されることを意味する。
 デフォルト・トラップは、信託内部の信託決算方法にかかるので、劣後配当が減額されるからといって、再生会社の財産権処分行為にあたるとはいえない。同じ経済的効果をもたらすとき、委託者がデフォルト・トラップされる金額と相当額で無価値の債権を買い取った場合、手続下で、あきらかに否認の対象になるだろう。デフォルト・トラップは、再生会社の法律行為を伴わない事前の信託合意の事務に過ぎない。
 しかし過払い金返還が予期される債権を、委託者に戻すことは、投資家利益を護ることを引き換えに、再生会社の資産を目減りする結果となり、そうした害意があるといえる。
 
 この問題は、信託財産について、BUS交代を目的に債務者対抗要件を具備しようとして、譲渡通知をだそうとするとき、急に発現する。過払い金の発生は、完済された債権では必然である。信託財産にも、信託移転されたまま、完済された債権があることはいうまでもない。債権はすでに消滅し、残高がゼロの債権なので、過去において信託譲渡されていたからといって、債務不存在であれば、譲渡(通知)の要件を満たすとはいえるか。
 とすれば、完済債権に関しては、譲渡通知が出されることがなく、移転があったことを元債務者は、それにより知る機会はない。信託に対して請求するのであれば、引当財産は十分ゆえ、満額回答を得られるが、債務超過会社であれば、収受できる金銭はなさそうだ。


 これについては、証券化の過払い債権をめぐる扱いで、別稿にて論じる。