日課の散歩に出かけた。
ちょっと風はあるけど、日差しもさほど強くなくて
歩くにはちょうど良い天気。
住宅街の庭はどこも花盛り。
さて、海の公園に着くと、あらら、人がいっぱい!
昨日だったか、今年はゴールデンウィーク明けくらいまで
海の公園も野島海岸も潮干狩り禁止になったと、
ネットで見たような気がしたんだけどねえ。
私は人があまりいない岩場専門。
アサリを獲るのではなく、干潟の生物を
見るのが好きだから。
海ぞうめん。
びっしりついた小さなフジツボ。
巨大魚の骨ではなくて、ワカメ。
15分くらい岩場で独り楽しみ、さて戻ろうと思ったのだが……。
ずっと視界に入っていて、ずっと気になっているものがある。
人のいないところに、ベビーカーが一台。
赤ちゃんが乗っている。
誰かこの赤ちゃんを気にしている大人はいないかと
何度も見回した。
でもみんな潮干狩りに夢中。
人の多い波打ち際からも、ここはちょっと離れている。
この子になにか起きても、誰も気が付かないだろう。
あんまりそばによると、このご時世だから
親が嫌がるだろうと思い、少し離れたところから見守った。
そうせずにいられなかったのだ。
女の子で、一歳になるかならないかくらいだろうか。
退屈して、体をさかんにくねらせている。
ベビーカーから降りようとしているのだ。
ハトが二羽、近くに舞い降りた。
赤ちゃんはそっちへ手を伸ばし、さらに体をくねらせる。
私は周囲を見渡しつつ、思い切って近くに寄った。
赤ちゃんのおなかのあたりを見たのだが
ベルトをしていない。
体の前に枠があるだけ。
赤ちゃんの体はとても柔軟だ。
このままだと、この子は枠をすり抜け
ベビーカーの外へ出てしまう。
でもたぶん、まだちゃんと歩けないだろう。
ベビーカーの周囲はごつごつした岩だらけ。
十分間ほどはらはらしながら見守っていたが
いよいよ足がすり抜けそうなのを見て、いてもたってもいられなくなった。
手を延ばせばベビーカーに触れる位置まで行き、
見守りながら必死で、親らしい人はいないか
こっちを気にしている人はいないかと見回す。
そのうち、一歳半くらいの女の子が
波打ち際のあたりからこっちへ歩いてきた。
「あなたはこの子のお姉ちゃん? そうなの?」
ベビーカーのそばへ来た子にそう尋ねるも、
女の子はきょとんとして「ママ……」と呟くだけ。
「ママはどこにいるの? 教えて」
と言ってもきょとん。
でも身内であることは間違いないようで
ベビーカーのそばに置いてあったスナック菓子を取り、
袋を開けて食べ始めた。
とたんに大きなトンビが二羽、その子めがけて
舞い降りた。
私は必至で手を振り回し、追い払う。
女の子はトンビに怯えて泣き声を上げたものの
危険が去ったとみるや、またスナック菓子を食べ始めた。
いまの泣き声で親が気づいてくれないかと願ったが
それらしい人は来ない。
その時、ベビーカーの赤ちゃんが立ち上がった。
揺れたベビーカーが後ろへひっくり返る。
あやういところで手を伸ばしてとめたものの、
もう我慢できない。
ちょっと離れたところで潮干狩り中の
若い男性二人を大声で呼んだ。
「ちょっと来てくれない? 赤ちゃんが危ないの!
親がいなくて、このままだと危ないのよ!」
けげんな顔で、それでも二人は来てくれた。
私は、公園の管理人を呼んできてほしいと頼んだ。
「え~と、そのへんにいるかなあ」
二人はのんきな顔であたりを見回す。
管理棟はかなり離れていたが、あそこへ行って
管理人さんを呼んできてほしいと私は頼んだ。
二人は近くにいた友達に「おーい、子供が
危ないんだって。管理人に来てほしいんだって」
と声を掛ける。
頼まれた友人がちんたら歩き出すのを確認して
私はその場でベビーカーを押さえていた。
子供に触るのははばかられた。
管理人はなかなか来ない。
でもそれから五分くらいたって、ようやく
母親らしい女性が、のんびりと海の方から歩いてきた。
アサリが入っているらしいバケツをさげて。
「あなたのお子さん? どうしてこんなところに
独りで置いておくの? ベビーカーがひっくり
かえるところだったんですよ! 危ないでしょう!」
私の声はとがっていたと思う。
でも彼女は「あら、すみません」と一言返しただけ。
もう散歩を続ける気もなくなり
苛々しながら帰宅した。
落ち着け、落ち着け、と自分に言い聞かせる。
でもほんとうに怖かったのだ。
私がいなかったら、あの赤ん坊はベビーカーごと
ひっくりかえり、岩で頭を打っていたかもしれない。
そうでなくても岩だらけのところを這いまわり、
手や足にけがをしていたかも。
なんで人のいないところに赤ん坊を放り出して
のんびり潮干狩りなんかしていられるの?
なにかあってもすぐに駆け寄れる距離じゃないのに!
もっといえば、見知らぬ大人(私)がベビーカーのそばにいるのを、
母親が海から見たとしたら、それはそれですぐ戻ってくるべきではないか。
誘拐だってありうるし、コロナの感染者だったらたいへんだし。
苛々と不安にかられるまま、帰宅後、なぜかせっせと
野菜の掻き揚げをこしらえ、ものすごい勢いでそれを食べた。
大きなストレスに見舞われると、私は過食になる。
落ち着こう、ほんとに落ち着こう。
私が過剰に心配性なのかもしれない。
でも、もう二度と、あんな場に遭遇したくない。
食べ過ぎでおなかも痛いし、まさかこれも
コロナのせいだとは言えないし……。
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