株式会社岩波書店・宮本哲男さんにきく。
『広辞苑 第六版』の広告に関するインタビュー その2
――広告の企画を立てる上で気をつけた点などはありますか。
広告というのはわたしたちが、これがいいと議論してやったとしてもそれは独りよがりであって、それを目にしたみなさんが止まってくれないとだめなわけですね。やはりクリエイティブの表現として、それなりのインパクトのあるもの。その中で情報をどのように入れるかということがあります。
今回の広告に関しては、もっと詳しく改訂のポイントについて詳しくという気持ちもあるけれど、できるだけ要素をそぎ落としていき、的確に何がいいたいのか。それは広辞苑が10年ぶりに全項目を見直し、新しい項目が1万加わりましたということを、できるだけシンプルに、かつ堂々と送りだしていきたいと。
広辞苑はおかげさまで、「広辞苑によれば」などと辞典の代名詞のようにいわれています。しかしそのようなは、何もしなければもしかしたら、時代の流れと共に陳腐なものになってしまうかもわからない。だからこの新発売という機会に、信頼やブランド力を高めることを念頭に置きながら広告を打ち出していくというようなことはありますね。
――以前はテレビCMを使用していたそうですが、なぜ今回は使用しなかったのでしょう。
前回、前々回と読書カードで認知経路をたずねました。それからすると新聞で知ったという方が多かったんです。実は今回、また同じようなことをやったのですが、やはり新聞広告でという方がひじょうに多いんです。その結果をうけて、メディアとしては新聞を中心に展開しました。
もうひとつ言うと、新聞を読むということは物事に関心があるみなさん。したがって、新聞を読むみなさんと辞書を持つみなさんというのは、ひじょうに近いというのかな。言葉に関心がある、物事に関心があるというようなことがあるのではと思います。
――第6版を購入した方の年齢層はどのようになっていますか。
男性も女性も30~40代の方が多かったです。その次が50歳以上の方です。広辞苑を改定するたびに買いかえてくださる方が多いので、当然そのみなさんには買っていただきたいというのはありました。しかしそこにとどまっていたら、売り上げなどの目標は達成されませんよね。そのなかで30~40代の中学生・高校生のお子さんがいる、その世代のみなさんにも求めてもらいたいと考えていました。そういう意味では、この広告がみなさんに届いたのかと思います。
おそらく広告だけでものが売れるということではないんでしょうね。どこまで行動して話題になったこということもありますし。小学生新聞だとか親子が購読しているようなところにも記事とタイアップ的な広告を作るだとか、そういうことが後押しであったのかと。
――さきほど出版の売り上げが落ちているとありましたが、そのなかで今後はどのように広告活動をしていくおつもりですか。
これはすごく難しい質問で、みんなが日々悩んでいることですね。
情報の入手のしかたがひじょうに多様になっていくなかで、出版物が限りなく下がり続けていずれは無くなっていくとは思いません。ただ、一定にやはり落ちていくだろうと。辞書ということから考えると、電子辞書の方が早いでしょうね。だけども、辞書をちょっとめくること、たどり着くまでにすこし時間がかかること。そのことによって記憶を定着させるというようなことが、活字にあると思うんです。
最終的にはそれが本当に価値あるものかどうか、そしてみなさんが本当に求めているものなのか。そういうことが問われる、ある意味では進化が問われるのかなと思います。
――ありがとうございました。