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最後のアメリカンドリーム - GMサターンを振り返る(2)

2009-07-20 | saturn
リテーラーとメーカーの対等な関係

サターンフランチャイズにおいて驚くべき革新の1つが、リテーラーとメーカーで組織するフランチャイズオペレーションチーム(FOT)だった。 これは、リテーラーとサターンの双方から同数の委員を選び、販売やマーケティングなどオペレーションの最重要事項を合同で決めていく決定機関だった。 通常、販売店はどうしてもメーカーに従属的な形態になりやすいが、このFOTは全く民主的に運営されていた。  そして、FOTの下には、それぞれオペレーションごとに、マーケティング、販売、アフターセールス、財務、情報システムといった分野でそれぞれFTF(フランチャイズ タスクフォース チーム)があり、FOTと同様にメーカーとディーラーが参加して運営していた。

FOTでは多数決は取らない。全員一致が原則であった。これは別に共産主義や社会主義なのではなくて、最後の一人が納得するまで話し合いを尽くす、というプロセスをとるのである。 議決をとってみて少数の反対があれば、その人達の言い分を改めて聞いて、更に討議を尽くす。 

もう1つ「70:100」のルールというのがあった。 これは、自分の賛成の度合いが70%でも、一旦賛成すると決めたら100%のコミットメントをもってサポートするというものだ。 説得された反対者は、まだ完全には納得していないとする。 しかし、他のメンバーも合意し、自分も大勢においては賛成できるとなれば、合意し決定事項には100%の支持をするということだ。  こうした場面を、日本のFOTでも何度が目にした。

FOTの恐ろしさを目の当たりにしたことが一度ある。それは、新型車のテレビCMの撮影に関するものだった。 既に新しいCMのロケハンが済んでおり、アメリカで2週間後に撮影が控えている。 だが、CMのストーリーボードの説明を受けた販売店側のメンバーは、その内容にどうしても納得しない。 これでは、わからない、インパクトが足らないと主張する。 マーケティングの専門家から見れば、当たっていること、そうでない指摘も目に付く。 普通なら、コメント聞いただけで、もちろんメーカー側の判断で撮影するだろう。 

長いやり取りの末、どうしても強硬な数人の委員が譲らず、サターンジャパンの代表は「わかった。皆さんが納得しないというのなら、このCMは中止する」と宣言した。 キャンセルによって、一千万円以上のお金が無駄になることがわかっていたのだが、代表はFOTの精神を尊重した。 もちろん、マーケティング責任者の顔からは血の気が引き、怒りに震えていたが。 だが、リテーラーの代表者たちに、FOTの民主的精神が言葉だけのものではないことをこれほど見せ付けた出来事はなかった。


ワンプライス(no haggling prices)

サターンの販売手法の一番ユニークなものとしては、俗に日本では「ワンプライス」といわれた「値引き交渉をしない」販売がある。 これはフィクスプライスと誤解されがちだが、価格を全く変えないということではなく、お客様と値引き交渉をしない、つまりお客によって値引き額を変えないということだ。 もちろん新車のときは定価で売れても、モデル末期では値段は下げなりと競争力がなくなる。 そうしたときは、一斉に値段は下げて、その価格を明確に告知する。 お互いの腹を探り合う値引き交渉をしないのだから、お客様には、製品やサービスの価値をもっぱら訴えることになり、値引きを念頭においてくるお客様には意外と思われたり、値引きゼロかと憤慨する方もいる。

しかし、商談が値引き中心になることは、販売店間の値引き合戦を生み、販売条件を悪くするだけでなく、値引き額のみで購入された方は、その後のサービスなどの定着率が必ずしもよくない。 値引き交渉がない分、セールスは、製品知識やサービスの価値で勝負する必要があったし、数万円の値引きの多寡よりも、セールスを信頼して買うお客様が多かった。 ともかくお客様に本当に納得してもらって契約するという考えだった。 だからMoney back guranteeという、一ヶ月以内なら全額返金するという画期的な返品制度も日米で実施されていた。

この手法は、販売テリトリーが一つの販売会社に専売で与えられていればこそ可能なもので、新規立ち上げブランドだから出来たともいえる。 後に日本に進出してきたBMWミニは、サターン同じく専売テリトリー設定と、値引きなしのワンプライスで大成功した。 これはもちろん商品も人気があって継続可能なことではあった。

日本では、ワンプライスに懐疑的な声が多かったが、実際にサターンのフランチャイズでこれを経験し、軽自動車販売に導入して成功した大手販売店もある。 決して高い授業料ではなかったですよ、というのは、この会社の社長の言葉である。



セールスはお客様の声を聞くことから始まる。

これは、サターンのコンサルティングセールスプロセスで、一番大切だとされていたことだ。 お客様に、プレッシャーをかけるセールスはしない。 まずは、お客様のニーズがどこにあるのかをきちんと聞き出す能力。これが接客、販売の原点であり、成功の鍵である。 

サターンは値引きをしないから、お客様を強引に引っ張っていくことはしない。その分、商談には時間がかかる。 しかし、丁寧にお客様の知りたいことを引き出し、その疑問や要望にこたえていくことが信頼を生む。 お客様は、何万円の値引きの有無よりも、そのセールスの情熱や人柄でクルマを選ぶことにもなる。

サターン本社でカリスマ的な存在だった、スキップ ルフォー元社長(故人)は、The most important quality of the leader is listening とかつて言っていた。 リーダーとしての心得を説いたものだったが、それは現場にも当てはまる。 もしかしたらお客様自身も意識していないニーズやウオンツを引き出してあげること、これがセールスの冥利に尽きるのではないか。 
因みに、そうしたサターンのコンサルティングセールスのコンテストでトップになった八王子店にいた若いセールスマンは、ブランドを変わって高級ドイツ車を販売するようになっても、引っ張りだこだった。 これは、他のブランドにも当てはまる普遍原則なのであろう。 まずは人の話を良く聞くこと。


I say, I say, I say, Saturn !  デリバリセレモニー

サターンは、その販売プロセスを設計するにあたって、SAS(Scandinavia airline)で導入されて成功を収めていたMoment of Truth (真実の瞬間)という概念を導入し、クルマの販売、所有におけるお客様のMOTを洗い出した(現在はJDパワーの顧客満足調査でも、このMOTでの評価が使われていたりする。) 何十とあるそのMOTの中で、最も顧客にとって印象的なものの1つが、納車の瞬間である。 

サターンでは、お客様がクルマの鍵を受け取り、ショールームからそのまま乗り出すことを望んでいると考え、納車専用のスペースdelivery moduleと、ユニークな納車儀式を生み出した。 顧客がナンバーのついた新しい自分のクルマの説明を受け、ついに鍵を渡されるとき、店内にアナウンスが流れ、手の空いたスタッフはセールスもサービスが集合する。そこで、担当セールスから店のメンバーの紹介があり、その後で店のスタッフが、“I say, I say , I say, Saturn”と唱和し、祝福するのである。お客様は一様に驚くが(もしくは照れる)、後々までその瞬間を長く記憶することになる。 納車式でクルマと一緒にとったポラロイド写真は、その場で壁に貼り付けられ、一枚はお客様に記念として渡るのである。(ガラス張りのデリバリーモジュールから乗り出したお客様は、しばらくして、ガソリンタンクが満タンであることに更に驚く。) 

一週間すれば、お店から、車の調子伺いの電話が入る。また緊急用のカードキー(クレジットカードサイズの型にはめ込まれた薄いKEY)が、サターン本社から社長のレターとともに送られてくる。 日本でも、わざわざアメリカからこのカードキーとレターを送っていた。


CRMのお手本だったサターン

モノが売れない今日、誰もがCRM(Customer Relationship Marketing)の重要性を唱えるが、たとえ大金をはたいて顧客データベースを構築しても、それに魂が入っていなければだだの器でしかない。 日本でも2000年ごろから、Siebel 2000などのCRMアプリケーションが流行ったり、CRMブームが起こったが、サターン(US)はその最も先駆的な例だった。 販売店とメーカーのデータベースをリンクさせるのは今でも容易なことではないが、既に2000年ごろにはこれが完成していた。
また、ウェブサイトでは、オーナーが車体ナンバー(VIN)を登録すれば、オーナー専用のサービスが受けられる仕組みも早くから実施されていた。 これが、GMの他のブランドにも展開されて、「Owner center」というオーナー専用サイトが今は普通に活用され、メンテナンススケジュールの管理や、ビデオオーナーズマニュアルも入手できる。

最近の消えた年金問題を見ても、名寄せがいかに大変かわかるが、データベース(DB)は、常に更新されていなければ死んだリストに過ぎない。 サターンでは、販売店とメーカーのDBが共有化され、どちらからでも更新が出来るようになっていた。 あるお客様Aが、転居したり結婚したりすると、次回のデータにはお客様Bとして登録される可能性がある。 そういうことが積み重ると、同一人物が複数のデータとして混在することになるので、データベースはごみだらけになる。これを名寄せをし、データをクレンジングし、将来も変更があった場合には、関連付けができなければ、生きたDBにはならないのは言うまでもない。

例えば、コールセンターが、顧客からのクレーム電話を受けた場合でも、オペレーターは即時にその顧客の履歴にアクセスでき、過去の入庫や修理暦を参照することができる。 サターンUSのケースでは、オペレーターは、500ドルまでなら即時決済できる裁量が与えられていたという。日本ではちょっとあり得ない。 しかし、重要なのは、システムやツールではなく、顧客を中心思考が如何に組織全体に徹底できているかだ。

(その3に続く)

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Unknown (レクサスLX300h)
2019-08-30 17:06:03
サターンの納車セレモニー、素敵ですねー!!
 
 
 
Unknown (レクサスLX300h)
2019-08-30 17:07:27
サターンの近未来的デザインには勇気づけられますねぇー!!
 
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