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吉田昌邦元所長の死

2013-07-16 | 脱原発

先週、吉田元所長の訃報を聞いて、やはりそうか、燃え尽きられたか、という思いがよぎった。 昨年の夏に脳卒中を患った頃に撮られた写真は、痩せてしまっていて、前年11月に所長を退任し、短いテレビインタビューに応じた際の生気は全く感じられなかった。 食道がん? 脳卒中? もしかしたら放射線被爆が原因? と周りは色々思いを巡らせても、本当のことは誰もわからない。

 

メディアでは、東電本店や政府の指示に逆らってまで海水の注入を続けるなど、現場で最善の判断を貫きとおした吉田氏を模範的なリーダーとして英雄視する報道がいくつかあったようだ。一方、2008年に15メートル超の津波予想が出たにもかかわらず、当時本店で責任ある立場にいながら、何ら対策をとらなかったことなどを上げ、英雄視に疑問を呈する意見もネットには散見される。 

 

だが、震災前の津波対策云々を非難するのは、やはり少々酷だろう。 事故の前に、東電最高幹部、政府、知識人のうち一体何人が、巨大津波の対策不足や全交流電源喪失といった「想定外」の危険を察知し、「原発震災」の可能性を公に指摘していただろうか。 吉田氏も、東電執行役員という立場ではあるが、大きな組織の一員だから、できることとできないことがあっただろう。 もしそうでなかったら、東電などさっさと辞めて、別の人生を歩んでいたはずだ。 

 

反骨精神旺盛な吉田氏が、知力、体力、胆力に秀で、未曽有の事故に対し勇敢に処したことは疑いを入れない。 正に「想定外」としていた大津波と過酷事故が発生し、日本が破滅するかもしれぬ事態が進行する中で、自分の至らなさを悔いる余裕もなかったに違いない。 吉田氏は、危機において自分の持てるすべてを動員して事に当たった。現場の長が吉田氏で良かったと、政府要人や多くの東電社員が認めている。 吉田氏にとって、これは運命以外の何物でもなかった。正に自分の命を懸けて立ち向かうしかない巨大な運命だった。 

 

病気で所長を退任したとき、吉田氏は事故の収束が覚束ないことを憂い、現場を離れなければならない悔しさをにじませていたそうだ。 ジャーナリストとして、吉田氏の許可を得て2011年4月に初めてフクイチに入り、現場を撮影した青山繁晴氏によれば、吉田氏は事故後に作られた仮設の防潮堤や冷却水の配管などが、もう一度大きな地震と津波が来ればひとたまりもなく、その時は、誰も二度と立ち入れなくなることを非常に危惧していたという。 青山氏は自身がレギュラー出演する関西テレビの「アンカー」で、吉田氏の遺志を継いで、炉の安定と放射能汚染の拡散を防ぐべく、今後も全力を尽くしてフクイチの報道を続けると涙ながらに誓っていた。

 

吉田氏は、その3月11日からの数週間に、自分の力をすべて出し切ってしまったのではないかと思う。 日露戦争で膠着した203高地の攻略を果たし、旅順を陥落させて半年後に世を去った海軍参謀長 児玉源太郎のイメージが重なったりする。 医学的に見て、がんの進行や脳出血には放射線の影響があったのかどうか、主治医でさえ断定的なことは言えないであろう。 ただ、壮健で体力もあったはずの吉田氏の体が急速に力を失っていったのは間違いない。 それがなぜなのか、疑問は残ったままだ。

 

吉田氏が、原発事故解明の鍵となるであろう情報や経験を語ることなく亡くなってしまったことを残念がる声もある。 フクイチに所長を含め3度も務めた吉田氏は、自分が半生をかけて育て守ってきた原発が、こうした悲劇的な結末を迎えたことをどう思ったのか。彼には、世間の評論家や政治家のように、原発を批判したり、脱原発に転向するといった選択肢はあり得なかった。 ただ現場の指揮官として、自らに課せられた仕事を全力で全うする以外になかった。

 

吉田氏の累積被爆量は、70ミリシーベルトといわれるが、これよりはるかに高線量で被爆した作業員はたくさんいる。その人たちが、今どこでどういう生活を送っているのか、東電も政府も全く追跡できていない。そんなことでいいわけがないはずだか。

 

電力各社は、原発の再稼働に向けて申請を開始した。 当座は安い電力を生み収益を支える原発がなければ、軒並み赤字で経営破綻を免れない電力各社を見殺しにするわけにいかないと、自民党政府は再稼働に舵を切りつつある。しかし、40年寿命とすれば、せいぜい今後動かせても10数基程度。 その間も行き場所のない核のゴミはたまり、地震の脅威も続く。 使用済み燃料の処理と廃炉の費用を入れれば、原発は決して安くないということをいつになったら、しっかりと政府は議論するのだろうか。 事実上破綻し、国営化されている東電を生きながらえさせ、除染や補償、事故の収拾に湯水のように税金を投入し続けなければならない事態を考えれば、日本のエネルギー政策の将来の選択肢は自ずと見えてくるはずなのだが。

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コメント(10/1 コメント投稿終了予定)
 
 
 
同意します (ヨシダ)
2013-07-16 10:46:23
将来の世代に負の遺産を残さないため、原発廃止の方針を一刻も早く確立する必要があります。それにしても、原発があまり参議院選の争点になっていないことがとても残念です。
 
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