多文化共生のすすめ

Toward a Multicultural Japan

彦根市

2006年08月29日 | Weblog
滋賀県彦根市は、人口11万人の小都市である。外国人登録者は約2300人で、人口の約2%であるから、全国平均の1.6%よりは高いが、特別多いわけではない。外国人の内訳はブラジル人が一番多く、やはり1990年以降、急増している。中国人とフィリピン人も増えている一方で、韓国・朝鮮人は増減がほとんどない。

彦根市では、2003年度から、「多文化共生社会推進事業」を立ち上げている。担当者によれば、事業名に「多文化共生」を用いたのは、多文化共生センターの活動と筆者が2002年11月に朝日新聞に投稿した記事「多文化共生へ基本法制定を」に触発されたからという。

この事業が2003年度に始まった背景には、2002年に市民団体の働きかけがあり、担当の国際交流課(現市民交流課)でも問題意識があり、すでに様々な活動をしている市民団体や外国籍市民の声をまず聞くために、2003年度に外国籍市民施策懇談会を設置したという。そして、庁内に外国籍市民施策調整会議を設置した。

第1期懇談会は、2003年6月に始まり、2005年6月に「住み良い地域社会をめざして-多文化共生社会を推進していくための提言」をまとめている。その中では、組織上の課題、実態把握、行政業務、教育・文化・言葉、市民交流といったテーマが掲げられている。

第2期懇談会は、2005年9月に始まり、教育、地域、医療を重点的に審議しているという。

彦根市は非常に動きが早く、2005年6月の提言を実現するために、提言に含まれた項目ごとに担当部署と実施年度を定めた「多文化共生社会推進計画」を2005年9月に策定している。さらに2006年3月には、2005年度の実績を整理し、次年度の計画を示した「多文化共生社会推進計画の進捗と次年度計画」も策定している。

全国の多文化共生の先進自治体の大半は、外国人が集住している地域である。彦根市のように外国人が特に多くない自治体が、全庁的に施策の推進体制を整備しているのは、極めて珍しいといってよいだろう。

韓国:居住外国人支援業務指針

2006年08月24日 | Weblog
韓国の行政自治部(日本の総務省に相当)は8月24日、国内に居住する外国人を地域社会の一員に統合する総合的なサービス推進システム構築などの内容を盛り込んだ「居住外国人支援業務指針」をまとめ、地方自治体に配布したことを明らかにした。 (聯合ニュース2006年8月24日「外国人にも参政権、居住外国人支援指針を策定」)

韓国行政自治部のHPに指針が掲載されている。指針の最後に、総務省が3月に出した「地域における多文化共生プラン」が添付されており、同プランを参考にしたようであるが、そこからわずか5ヶ月で策定したとすれば、ものすごいスピードである。

この指針は、自治体に対して、外国人支援のための条例制定や、専門担当者を確保し、年末までに外国人施策の諮問機関を設置することも求めている。

4月現在に自治体別で行った居住外国人現況調査によると、全国に居住する外国人の数は住民登録人口の1.1%に相当する53万6627人だという。外国人雇用許可制といい、永住外国人への地方参政権付与といい、とにかく韓国政府の動きは速い。

『美しい国へ』

2006年08月21日 | Weblog
次期首相となることがほぼ確実視されている安倍晋三官房長官の新著『美しい国へ』が先月発売され、よく売れているそうである。この本の中で、多文化共生にかかわる部分が一箇所ある。

「わたしたちが目指すのは、日本へ行って仕事がしたい、あるいは投資をしたい、と世界の多くの人たちに思われるような国、いいかえれば、だれにでもチャンスのある国であり、能力の活かせる国だ。

日本の国柄とその理想に共鳴して、子どもを日本で教育したい、あるいは日本人になりたいという人がいたなら、大きく扉を開かなければならない。それはとりもなおさず、日本のダイナミズムにつながるからである。

その点、日本社会は、自由と民主主義、そして基本的人権を尊重する社会であり、しっかりした法の支配の下にある。また、アジアの多くの国々とは市場経済という共通認識をしっかりともっている。」(158頁) 

これだけでは具体的にどのような政策をとるのかわからないが、少なくとも移民政策に関心を持っているのは確かだろう。小泉内閣では、最後になって、ようやく外国人政策の議論が始まったが、安倍内閣では、議論をつめて、政策として打ち出すことができるだろうか。


中部経済連合会:提言

2006年08月17日 | Weblog
2006年6月に「外国人児童生徒の教育保障の構築に向けて」と題した提言を出した中部経済連合会(中経連)が、7月には「人口減少・少子高齢化に適応した社会の実現に向けて」と題した提言を発表している(「中部経済連合会:外国人の教育」)。

21項目の提言が打ち出されているが、外国人労働者に関しては以下の4項目がある。

【提言18】外国人労働者については、専門的・技術的分野について積極的に受け入れるとともに、その範囲を、例えばエンジニア(技術職)からテクニシャン(技能職)へといったように拡大すべきである。

【提言19】厳しい作業環境などのため、ミスマッチが生じる可能性が高い業種や職種については、単純労働者の受け入れが避けられないので、期間を限定した形での一時労働者資格を創設すべきである。

【提言20】出入国管理、雇用、社会保障、教育、税務などを一元的に管理するための共用データベースを作成し、外国人労働者の適切な労働条件の確保や在留管理をしていかなければならない。

【提言21】日系人については、集住している自治体が対応を一手に引き受けている状況が続いており、政府においても、「定住者」の資格で受け入れている現状を鑑みれば、日本語教育や職業訓練の場の提供、社会保険制度への加入促進など改善に向けて国として責任を持った対応を行う必要がある。

今回の提言には、技能実習制度の拡充などが含まれており、あまり評価できない。特に、日系人労働者の受け入れについて、政府を批判しながら、企業の責任にはまったく言及していない点が、6月の提言では企業の役割を明示していただけに残念である。

夜間中学

2006年08月10日 | Weblog
日本弁護士連合会(日弁連)が、2006年8月10日に「学齢期に修学することのできなかった人々の教育を受ける権利の保障に関する意見書」を内閣総理大臣・文部科学大臣・厚生労働大臣・衆議院議長・参議院議長に提出した。

国が、学齢期に修学することのできなかった中高年齢者、中国帰国者、在日外国人等について、義務的かつ無償とされる普通教育を受ける権利を実質的に保障するため、全国的な実態調査を行った上で、公立中学校夜間学級(いわゆる夜間中学)の設置や拡充などを推進することを求めている。

夜間中学とは公立中学校夜間学級の略称である。戦後の混乱期に、貧困のために昼間は就労せざるを得ず、学校を長期にわたって欠席する生徒が少なくなかったため、夜間の授業を行う中学校が出現したのが、夜間中学の端緒であるという。

1954年ころの87校をピークとして漸次減少を続け、2005年4月現在では全国で8都府県35校となっている。設置数が最も多いのは11校の大阪府で、以下、東京都8校、神奈川県6校、奈良県および兵庫県3校、広島県2校、千葉県および京都府1校となっている。

総在籍者数は2005年9月現在で2587名である。在籍者は、中高年齢者、障がいのある人、中国帰国者、在日コリアン及び15歳以上の新来外国人(ニューカマー)に大別される。中国帰国者は764人、在日韓国・朝鮮人が564名である。

ブラジル人を中心とするニューカマーの子どもたちの不就学が、東海地方を中心に大きな社会問題となっているが、学校をドロップアウトした子どもたちが、もう一度やり直せる夜間中学のような受け皿は、東海地方にも必要だろう。

兵庫県教委:子ども多文化共生センター

2006年08月07日 | Weblog
子ども多文化共生センターは、兵庫県教育委員会が2003年10月に設置した、全国初の多文化共生教育の拠点である。筆者は以前から注目していたが、先月、ようやく訪問することができた。

兵庫県は、1994年に「地域国際化推進基本指針」を策定している。これは「外国籍県民との共生社会」をめざした指針で、「多文化共生」を謳ってはいないが、共生社会をめざしたものとしては最も初期のものといってよいだろう。1999年には、「地域国際化推進基本指針フォローアップ方策」を策定するとともに、外国人県民共生会議を設置している。

兵庫県教委は、1998年3月に「人権教育基本方針」、2000年8月には、「外国人児童生徒にかかわる教育指針」を策定した。「教育指針」の基本的な考え方として、外国人児童生徒が自己実現を図るための支援、差別や偏見をなくそうとする意欲や態度の形成、共生の心の育成、学校における研修体制の確立を掲げている。

外国人児童生徒にかかわる教育指針」を策定する過程で、日本語理解が不十分な外国人児童生徒に対する指導が喫緊の取り組むべき課題として明らかになった。そのため、1999年からは、外国人児童生徒や保護者と教員等のコミュニケーションの円滑化を図るために、「外国人児童生徒指導補助員派遣事業」を先行実施している。

国は、2000年12月に「人権教育及び啓発の推進に関する法律」を施行し、同法に基づき、2002年3月に「人権教育及び啓発に関する基本計画」を策定した。兵庫県も、2001年3月に「人権教育及び啓発に関する総合推進指針」を策定している。

こうした動きを受けて、兵庫県教委では、2002年4月、「外国人児童生徒指導補助員派遣事業」を発展させて、子どもの心の安定やコミュニケーションの円滑化、学習の補助等を行う「子ども多文化共生サポーター派遣事業」が始まった。そして、2003年3月には「子ども多文化共生推進委員会」の提言「子ども多文化共生をめざして」が発表され、「子ども多文化共生センター」の設置が提案された。

センター設置以来、兵庫県教委では、外国人児童生徒の自己実現の支援を図るとともに、すべての児童生徒に「豊かに共生する心」をはぐくむ子ども多文化共生教育を行ってきている。外国人児童生徒の支援の取組としては、サポーター派遣(02年度~)、教育相談(03~)、ボランティア養成講座(04~)、日本語指導研究推進事業(04~)があり、「豊かに共生する心」をはぐくむ取組としては、子ども多文化交流フェスティバル(01~)、学校・地域・家庭が一体となった子ども多文化共生教育の在り方を研究する子ども多文化共生フロンティア事業(04~)がある。

さらに、今年度は、新たに県下全市町を対象に不就学外国人児童生徒調査・支援事業を行うという。2005年度から文部科学省が全国的な不就学の調査を行っているが、県内を対象とした調査は初の試みである。また、母語教育支援事業や子ども多文化共生連絡会議も新規に実施している。

なお、、2003年度には、具体的な施策を検討するために「子ども多文化共生推進協議会」が設置され、報告書「子ども多文化共生教育の充実をめざして」(2004年3月)が作成されている。

外国人児童生徒教育に関しては、まず首長部局が動き、遅れて教育委員会が動く自治体が圧倒的に多く、兵庫県のような例は珍しい。全国の教育委員会の中でも、兵庫県教委が最先端を行っていることは間違いないだろう。特に、外国人児童生徒への支援のみならず、すべての児童生徒を対象に多文化共生をめざした教育に力を入れていることは注目に価する。

日経:街イメージ調査

2006年08月03日 | Weblog
日経新聞が東京都内に住む成年男女3500人を対象に、6月23~28日まで、インターネットにより、「東京を代表する街」など28項目について首都圏各地区に抱くイメージを聞く調査を行った。1087人から回答を得た(回答率31.1%)という。

その結果を、7月19日から8月3日までの連載記事で紹介している。「変化の激しい街」、「子どもを育て上げたい街」、「休日に町歩き、散策したい街」など項目ごとに街のランキングを発表しているのだが、8月1日の回は「外国人が住みやすい街」についてで愕然とした。1位は麻布・広尾、2位は六本木、3位は青山、4位大久保、5位白金となっている。一方、外国人が住みにくい街は、1位奥多摩、2位柴又、3位永田町・霞ヶ関、4位巣鴨、5位田園調布である。記事の見出しには、「国際色豊かな麻布・広尾」とある。

麻布・広尾は、「外国人向けのマンションが建ち、スーパーなどの店頭には輸入品があふれる。店の看板にも英語表記が目立ち、外国人が快適な生活を送るためのインフラも整っている」という。

一方、ランキングは22位にとどまったが、江戸川区の葛西は「2000年ごろからインド人の居住が急増。個性ある街を形成しつつある」という。「区内ではインド人を交えた子育て支援の交流会が発足。隣の江東区には日本で初のインド人学校も誕生した」という。

外国人が住みにくい街の上位には、柴又、巣鴨、浅草などが入ったが、「近所付き合いが難しそう」というのが主な理由だという。こうした地域では、「下町イメージが今も残るだけに、逆になじめない外国人も多いのでは、との印象が根強いうようだ」といって、記事をまとめている。

今回のアンケートに答えたのは、大半が日本人であろう。「外国人が住みやすい街」がどこかを日本人に聞いて、その結果から麻布や葛西、柴又の街の特徴を論じることにどれだけの意味があるのだろうか。できれば、外国人を対象にしたアンケートも同時に実施して、国別や男女別で集計したり、あるいは、日本人の回答と比較するぐらいの工夫をしてもらいたかった。