多文化共生のすすめ

Toward a Multicultural Japan

骨太の方針

2005年06月27日 | Weblog
日本政府は、6月21日、2006年度予算編成の指針となる「経済財政運営と構造改革に関する基本方針(骨太の方針)2005」を閣議決定した。2001年1月の省庁再編で、経済財政政策に関して首相のリーダーシップが発揮されることを目的として内閣府に設置された経済財政諮問会議が、毎年6月に次年度の予算編成の指針として策定し、今年で5年目となる。

今回の方針で、外国人への言及は以下の4箇所である。

「海外人材を活用するため、高度人材の受入れを促進するとともに、現在は専門的・技術的分野とは評価されていない分野における外国人労働者の受入れについて、国民生活に与える影響を勘案し総合的な観点から検討する。また、日本で就労する外国人が国内で十分その能力を発揮できるよう、日本語教育や現地の人材の育成、生活・就労環境の整備を推進する。」(16頁)

外国人の入国後の実態についてチェックする仕組みを検討する」(22頁)

「2010年までに訪日外国人旅行者数1,000万人を目指す」(24頁)

以上の引用から明らかなように、今回の方針では、労働者としての外国人、犯罪者としての外国人、そして観光客としての外国人にスポットがあてられている。しかし、多文化共生の観点から重要なのは、生活者としての外国人、住民としての外国人である。そうした意味で、外国人労働者に関してとはいえ、生活環境の整備を唱えたことは評価したい。

なお、朝日や読売などマスコミは、「単純労働者」の受入れ検討と報じたが、これは誤報といってよいだろう(「単純労働者」参照)。

総務省

2005年06月20日 | Weblog
総務省は、昨年8月に「多文化共生社会を目指した取組」の推進を、2005年度重点施策の一つに掲げていたが、今年度、「多文化共生の推進に関する研究会」を設置し、6月15日に第1回めの会議が開かれた。私も座長として参加することとなった。

1990年代後半以降、地方自治体レベルでは、多文化共生をテーマに掲げた取り組みが進められてきたが、国レベルで多文化共生をテーマに掲げた研究会は初めてのことである。それだけに、12名の委員からなる小さな研究会だが、歴史的意義の大きな会といえよう。

「単純労働者」

2005年06月13日 | Weblog
読売新聞の報道によると、経済財政諮問会議(議長・小泉首相)が13日開かれ、「経済財政運営と構造改革に関する基本方針(骨太の方針)」の原案が提示され、「海外から受け入れる専門労働者の範囲拡大や、単純労働者の受け入れについても検討する方針」が新たに盛り込まれたという(『読売新聞』インターネット版6月13日「骨太の方針原案提示、外国人単純労働者の受け入れ検討」)。

「日本21世紀ビジョン」に示された方向性が、政府の方針として明示されたといえる。これから、外国人労働者の受け入れの具体案が本格的に議論されることになろう。

その際、筆者が気になるのが、「単純労働者」という用語である。グーグルで検索すると、16万件以上のヒット数がある。内閣府が昨年5月に行った世論調査でも質問項目に用いられている。マスコミもこの用語をよく用いている。今回の読売新聞もそうだし、朝日新聞や日経新聞も同様である。

しかし、実際の労働には、熟練度の高いものから低いものまで、様々な段階があり、一概に何が単純労働であるかを決めることは難しい。現在の入管法で、在留資格として規定されていないものが、便宜的に単純労働と呼ばれているだけで、それ以上の意味はない。

また、単純労働者といえば、単純労働に就く者というよりは、単純な労働者という語感が強く、ネガティブな意味合いが強い。これから、外国人労働者が増え、多文化共生が大きな課題となっていく時に、そのような呼称を用いることは、いたずらにネガティブなステレオタイプを強化し、偏見を煽るだけだろう。

従って、筆者は以前から、「単純労働者」ではなく、「非熟練労働者」を用いることを提唱している。ちなみに、法務省の第3次出入国管理基本計画(2005年3月)では、「単純労働者」という用語は用いられていない。2004年4月に発表された経団連の「外国人受け入れ問題に関する提言」では、「単純労働者」の代わりに「現場で働く労働者」という表現が用いられている。

日本と韓国

2005年06月06日 | Weblog
6月24日に、韓国ソウル市内で、「日韓関係と北東アジアの新しいビジョンを求めて」と題した日韓国交正常化40周年記念国際学術会議が開かれた。主催は、日本国際政治学会、韓国現代日本学会、韓国国際政治学会、韓日経商学会、中央日報社で、総勢200人の報告者と討論者が参加した。

会議は、全体会議と歴史、政治、経済・経営、社会・文化といったテーマの分科会のほか、企業人、政治家、軍事・安保専門家、言論人といったアクター別ラウンドテーブルも設定された。

私が討論者として参加した歴史の分科会では、韓国湖南大学の金太基氏の「在日韓人の過去・現在・未来」と題した報告があった。金氏は、戦後の在日コリアンの歴史を振り返り、2世から3世にかけてアイデンティティが多様化してきたことを報告した。また、韓国・全北大の薛東勳氏は、「日韓外国人労働者政策の比較」について報告した。日韓両国の政策は、労働者の定住化を前提としていないことが共通しているが、これまで日本の入管政策をモデルにしてきた韓国が、昨年度から雇用許可制度を採用したことが報告された。

会議の休み時間に、韓国の移民研究者といろいろ雑談をした。韓国では、まだ「多文化共生」という言葉が使われていないようだった。また、地方自治体が独自の外国人施策を進めている例もないようであった。一方、市民団体の影響力が強く、研修制度が大きく批判される中、雇用許可制度が採用されたのもその力が大きいとのことである。

今回の会議全体のテーマにも関連するが、多文化共生の分野でも、日韓の研究者や市民団体、自治体、そして政府関係者の間での様々な交流が有益ではないかと感じた。