多文化共生のすすめ

Toward a Multicultural Japan

多文化共生10大ニュース

2005年12月26日 | Weblog
2005年に起きた出来事の中で、日本における多文化共生のゆくえに大きな影響を及ぼすであろう10大ニュースを、去年に続き、選んでみた。

1)規制改革・民間開放推進会議が第2次答申を発表し、2006年度中に外国人登録制度、研修・技能実習制度の見直しを行うことを打ち出す(12月)

*外国人政策に関わる省庁の縦割り行政の限界を超え、総合的観点から外国人政策を再構築する推進力として、規制改革・民間開放推進会議の動向に注目したい。

2) 総務省が「多文化共生の推進に関する研究会」を設置(6月)

*国レベルで初めて、「多文化共生」を重要な政策課題として認知するもので、地方自治体の多文化共生施策を大きく推進する可能性がある。一方、国の他の省庁への影響力は未知数である。

3)全国に先駆けて川崎市が「多文化共生社会推進基本指針」を、立川市が「多文化共生推進プラン」をそれぞれ策定(3月)

*これまで、「国際化」や「外国人施策」の指針や計画が策定されることはあったが、「多文化共生」を謳ったものとしては全国初となる。

4)日本の総人口が2004年にピークを迎え、2005年に初めて減少する見通しあることが発表される(12月)

5) 外国人集住都市会議が「多文化共生社会をめざして-子どもたちの未来のために-」と題したテーマに四日市市で開催し、規制改革・民間開放推進会議に要望書を提出(11月)

6)英国、フランス、オーストラリアで、移民政策の見直しにつながるような大きな事件が起こる(5月、11月、12月)

7)自由民主党政務調査会が「新たな入国管理施策への提言」を発表し、IC出入国カードおよびIC在留カードの発行を提案(6月)

8)在日ペルー人が広島の女児殺害事件の容疑者として逮捕される。(11月)

9)韓国国会が公職選挙法改正案を可決し、永住資格を持つ19歳以上の外国人に地方選挙権を認める。(6月)

10) 政府の経済財政諮問会議が策定した「日本21世紀ビジョン」が「外国人労働者の積極的かつ秩序ある受け入れ」を唱え、「骨太の方針2005」において初めて「外国人の生活・就労環境の改善」が取り上げられる(4月、6月)

10)群馬県が新政策課に多文化共生支援室を、静岡県磐田市が共生社会推進課に多文化共生係をそれぞれ設置(4月)

規制改革要望

2005年12月19日 | Weblog
規制改革・民間開放推進会議では、「広く国民・経済界等から、全国で実施すべき規制改革・民間開放に関する提案・要望を集中的に受け付け、その実現に向けて関係府省庁と協議し、実施することとなったものについては、政府の対応方針として決定する」こととしている。2004年6月に初めて受け付け、以来、2004年11月、2005年6月、そして2005年11月と続けている。

外国人集住都市会議は、2004年11月の豊田宣言及び部会報告で政府に対して行った就労、コミュニティ、教育の各分野における政策提言に基づいた要望書を、2005年11月に同会議に提出した。関係省庁からの回答が12月12日に同会議のHPに公表されている。

各省庁の回答は、形式的なものが多く、集住都市会議にとって決して満足のいくものではないだろうが、こうして回答を得て初めて、どのような要望をどのように出せばよいのかを知るよい機会といえよう。

なお、規制改革・民間開放推進会議が省庁の回答を迅速に公表していることは高く評価したいが、データが大変読みにくいので、その改善を期待したい。

統合と同化

2005年12月12日 | Weblog
7月の英国のテロ事件、そして11月のフランスの暴動によって、ヨーロッパの移民政策への関心が高まっている。

日本の新聞でも盛んに報道されたが、移民政策を論じる上でキーワードとなる「統合」と「同化」の混同が見られる。例えば、11月8日の日経新聞朝刊の記事「移民同化政策に限界(Q&A)」には、「Q:フランスの移民政策の特徴は。 A:フランス語を話し文化を受け入れフランス人になる『アンテグラシオン(同化)』を基本にしてきた。」とあるが、 "integration" は「同化」ではなく「統合」である。

こうした混乱は、日本では「統合」が政策用語として定着していないためであると思われる。ヨーロッパでは、移民政策を論じる上で「統合」は欠かせない。移民政策は外国人・移民の出入国を扱う出入国(immigration)政策と入国した外国人・移民の受け入れを推進する統合(integration)政策からなり、統合政策のアプローチとして同化主義と多文化主義がある。フランスは同化主義、英国は多文化主義といわれるが、実際には、教育や雇用、住宅など様々な分野の施策ごとに検討しなければ、あまり意味がないだろう。

文科省:国際教育

2005年12月05日 | Weblog
文部科学省が2004年8月に設置した「初等中等教育における国際教育推進検討会」が2005年8月に報告書「国際社会を生きる人材を育成するために」を提出している。

検討会設置の趣旨は以下のように示されている。「これまで海外子女教育、帰国・外国人児童生徒教育、国際理解教育といった、初等中等教育における国際教育は各分野毎に推進されてきており、各分野で養成された人材、蓄積されたアプローチなどは必ずしも有効活用されていなかった。また海外子女の現地校指向の高まりなど国際教育をめぐる情勢も変化してきている。このため、このような新たな情勢変化に対応した施策の充実を図るとともに、これら教育分野の有機的連携を図るなど、初等中等教育における国際教育の推進の在り方について総合的な観点から検討し、今後とるべき具体的な方策を打ち出す。」

私がこの報告書の中で特に評価したいのは、以下の三点である。

まず、これまで、国際理解教育と外国人児童生徒教育がまったく別個な教育活動として取り組まれることが多かったが、多文化共生の観点に立てば、両者を関連づけることが重要である。この報告書では両者を包摂して総合的に国際教育を推進しようといている点が重要である。

次に、文科省が新しい学習指導要領で推進してきた「国際理解教育」に対する批判的観点が含まれている点である。「英語活動を実施することがすなわち国際理解であるという考え方が広がっていたり、国際理解に関する活動が単なる体験や交流に終わってしまうなど、以前に比べ内容的に薄まっている、矮小化されている」といった指摘がなされている。

さらに、「国際関係や異文化を単に理解するだけでなく、国際社会の一員としての責任を自覚し、・・・個人が相互理解に基づく多文化共生という視点をもち、国家の枠組みを超えた国際社会の一員として自己を確立し、発信を行い、主体的に行動できる人材」が求められていると強調し、多文化共生の観点を明示している点である。

以上のような既存の「国際理解教育」への批判的観点に立っているためか、報告書全体で、これまでならば「国際理解教育」と言っていたところを「国際教育」と呼んで、「国際理解教育」は本文中、一度も使用されていない。

私は以前(「国際理解教育を超えて」2005年7月)にも述べたように、「国際理解教育」の使用する代わりに、多文化共生教育と地球市民教育を用いることを提案したい。