日本人の日序章 第10回
作 (1980年作品)飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所
http://www.yamada-kikaku.com/
■二〇五四年 三月 地球某所
「花田さん、君がそこにいるのはわかっている。我々と話をしても
損にはならんと思うが」
情報ラインに急に割り込んできた金髪の男は言う。
ここは日本人に
よる日本抹殺組織への対抗組織『サムライノクニSK』の本部だった。
「君は何者だ」
「私はINS情報ネットワーク=サービスのブキャナンだ」
「情報ネットワークだと。情報マフィアだな」
「そういう輩もいるがね」
「そのマフィアが花田さんに何の用があるというんだ」
「君、いいから、花田さんを出したまえ、君たち、日本人にとって
悪くはない話だよ」
しばらく、モニタールームは、どう処置するかでもめていたが、
花田万頭があらわれた。
「私か花田だ。ブキャナン君。が情報ネットワークサー・ビスはラド
クリフ=グループと協力して働いているのではないかね」
「花田さん、あなたの考えはウェットすぎる。我々、INS情報マフィア
はそんなウェットな民族意識など持ちあわせてはいない。あるのは
ただ、ビジネスのみだ。つまり我々のサービスに対して。どう評価
し、クライアントがどれだけペイしてくれるかどうかだ。だから我
々はクライアントのニーズでどうにでも動く」
「つまり、我々日本人が今度はクライアントのわけだな」
「そういうことだ」
「しかし、ブキャナン君、御存じの通り、我々には払うべき金はな
い」
「金がない。それはわかっている。しかし、君たちの国には二千年
にわたる文化があるだろう」
花田は少し顔色を変えた。
「君達は、つまり、日本の国宝をわたせというわけか」
「国宝というのは日本の国家が存在して始めて存在する言葉だ。現在の君
らには国と呼べる代物はないだろう」
「そう、確かに、我々、日本人には、国土と呼べる場所はなくなっ
てしまった」
「が、君たち、莫大な国宝・重要文化財というものを隠したはずだ。
それを渡してもらおう」
「その代償に、我々に何を与えてくれるというのかね」
「JVOの動向だよ。君らに有利になる情報だ」
■二〇五二年 三月 ドイツ ラインバッッハ
男は数時間も前からその研究所を観察している。今日で一週間目
だった。
研究所から最後の研究員が出ていった後、男は、静かに研究所の
中へはいる。警告ベルもカットされている。研究所にはもうヒルケ
ナー博士しか残っていない。
ドアを開け、君は誰だというヒルケナー博士の言葉が発せられるや
否や、男は衝撃銃を射つ。外傷はまったく残らない。
男はヒルケナ
ーの様子を調べた後、研究施設の各所に小型の爆弾をしかける。す
べての機器に仕掛け終ったあと、男は自分以外の人間がいる事に気
づく。
爆発がおこり、研究所は猛火に包まれる。
「き、君達は、天使、かね」
ヒルケナーの前に柄の悪そうな天使が2人立っていた。しかしな
がらその天使は白い衣装を着ているわけではなく、普通のスーツを
着ている。頭には金色のワッカが浮んでいる。ヘブンズだ。
「天使だって、ヒルケナー博士、確かにあなたにとっちや俺達は天
使かもしれんな」
太った方の天使ファットが言った。
「どういうわけかね。私は気を失しなっていたらしいのだが」
ヒルケナー博士はユダヤ人独特の鼻に、フレームめがねを持ち上
げながら言った。
「お前さんのお抱え主、ラインハルトのためにあんたは本当に天国
へ行くところだったんだ。まわりを見てみろよ」
サングラスをかけたもう一人の男スレンダーが言った。スレンダ
ーの言う通り、ヒルケナー博士の研究所は燃えあかっている。近く
にある丘にヒルケナーは横たわっていた。
「ラインハルトが信じられん」
「信じられんも何も、実際、あんたも殺されるところだったんだぜ」
ファットが炎に包まれている研究所を指で示して言う。
「あの中に、『クーラー』の奴が一人ころかっているさ」
「クーラー、何だ、それは」
「ラドクリフグループに直属する処理グループさ」
「処理?」
「つまり、ダーティ=ワーク、殺し、暗殺、爆破、その他諸々さ」
「しかし、ラインハルトは、私のプラン=イェローを認めてくれた」
「そいつが今は重荷になっているわけだ」
ヒルケナーはじっくりと二人の顔を見ている。
一体、君達は何者なんだ」
「我々かい」二人の天使はにやりと笑う。
「俺達はヘブンズだ」二人の声はハモつている。
「ヘブンズだと、すると、INS情報ネットワークサービスの人間か」
「そういう事だ。さあ、博士、我々と一緒に来てもらおう」
「どこへだね」
消防車や。警察の車がやってきて、人々が叫んでいる。
「我々の天国へね」フアットが言った。
二人のヘブンズは近くに止めてあったワゴンにヒルケナー博士を
乗せて、いずことなく走り去った。
日本人の日序章 第10回
作 (1980年作品)飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所
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ご注意 まだインターネットと携帯電話が普及する前の作品です。