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■ロボサムライ駆ける■第三章 霊能師(1)

2005年09月06日 | SF小説と歴史小説
■ロボサムライ駆ける■
作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所
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■第三章 霊能師

   (1)
 落合レイモン、現存する霊能師の中では、最高クラスといわれている。彼の霊治療をうけるための人々で、屋敷の前に列ができていた。
 彼の屋敷、いや御殿と言った方がいいだろう。そこには桂離宮をまねた豪奢な造りの日本家屋と、古来の神宮建築をベースにしたあたらしい神宮建築である。
 その二つの建物を左右に配した山水画を思わせる日本庭園が広がっていた。この建物及び敷地は、すべて東日本の政財界の大物からの寄付金によってなりたっているといわれている。
 下手をすると、徳川公の東京城よりも金がかかっているのではないかと、噂されていた。その門前に主水は立っていた。
 特別な出入り口から、主水は座敷に通される。
「お待ちください、主水殿。レイモン様は薬浴の時間なのじゃ。しばらくお待ちいただきたい」
 レイモンの使い番のものが答えた。
「薬浴と申しますと」
「わからぬか。レイモン様は、種々の薬を混ぜた、プールの中で泳いでおられるのじゃ。そうすれば体の節々から薬が体に回り、気持ちがよいと申されてのう」
「それは毎日でござりますか」
「いや、毎日三回じゃ」
 やがて、主水の前に、くずれかけた巨体を揺さぶるように、四十才くらいの男が現れる。ブヨブヨの体からは湯気が上がっていた。強烈な薬の匂いが主水の鼻に届いていた。成分は主水に分析できないくらいに多い。薄い浴衣着に羽織りを着ていて、体がすいてみえる。目や鼻はあるかないかくらいだ。未熟児だったといううわさもある落合レイモンだった。そのため、顔の表情がとても読み取りにくい。 背後には敏捷そうな若い男が一人。その男は二〇才くらいで、総髪できれいな錦羽織りをきていた。こちらは書き上げたように目鼻だちがはつきりしている。少し暗いが美男子の類いに入るだろう。一九〇センチはあるだろう。
「ロボザムライ、早乙女主水めにございます。今度、徳川公より、落合レイモン様上京の旅に随行せよと命があり、ご挨拶にあがりました。以後お見知りおきを」
 主水は丁寧に挨拶をする。
「ほほう、貴公が、今東京エリアで噂のロボザムライ主水か。力強い味方を、公もつけてくれたものじゃ。おお、そうじゃ、紹介しておこう。これは俺の小姓、夜叉丸じゃ。以後よろしく頼むぞ」
 落合レイモンはその体に拘わらず甲高い女性のような声だった。
 レイモンは体を動かすたび、じゃりじゃりと音がする。主水がよく見ると、何十本ものコードがレイモンの背中に張り付いている。「レイモン様、失礼とは存じますが、そのコードは一体」
「ああ、これかの」
 レイモンは気軽にその質問に答えようとした。
「無礼者め。レイモンさまを何と心得おる」 夜叉丸が表情を激変して怒り、背中の鉾を抜こうとする。
「よいよい、夜叉丸。わざわざ徳川公が遣わしてくれた護衛ロボットじゃ。すべてをお教えしておかねばのう、主水」
 ゆったりとレイモンは言う。
「ははっ、できますれば」
「私の体は、常時薬を注入しておかねばならぬのよ。大義じゃがのう」
 言いながら、レイモンは薄い羽織りを脱ぐ。何と二人分の大きさと思っていたレイモンの体は、半分にも満たぬ。残りはいろいろな液胞が組合わされた水槽が幾重にも重なって、レイモンの背中に張り付いていた。
「さて、主水」
 レイモンは、霊能師の特徴である頭の真ん中のこぶを、主水の方に近づけ、右手を差し出していた。
「手を貸してたもれ」
 レイモンはくぐもって言った。
「何をおっしゃいます。おそれおおうございます」
 こいつは、ホモかと主水は思った。いやなこったと思った。
「手を貸せともうしておるのじゃ、はようせい」
 レイモンはいらだっていた。
 レイモンの方に、主水の右手が勝手に動いていく。
「うわっ、どうしたことだ。手が…」
レイモンの手に主水の右手がくっついてはなれない。
「何をなさいます、レイモン様」
 恐るべき力が主水の腕に加わってくる。電流が二人の間に流れている。
「さすがロボザムライ、記憶が電磁処理だけに読み取りやすいわ。ふふん」主水の持つ電脳情報が手を通じて流れていく。
「お、おやめください」
 あがらう主水。が、手を離すことはできない。
 主水の体にレイモンの体から発せられた電流が走っていた。微弱ではあるが、主水の体のメインコンピューターが出力低下を起こしている。自らの命令のまま、動かないのだ。 ロボザムライの頭脳記憶の中に、レイモンの何かが侵入してきた。ロボの記憶データは膨大過ぎる。レイモンのそれは必要な情報を、主水の記憶の森から奪い取るようであった。「くくっ、徳川公もくせ者よな」
 一瞬、空白が主水の頭を襲う。レイモンの前に倒れている主水に、
「気を失いよったか、この機械人形。やくたいもない。わしの護衛としては、どのようなものかのう、夜叉丸」
「レイモン様、こやつはやはり力仕事に」
 夜叉丸が尋ねた。
「そうじゃな、へんに情報を与えると我々の仕事の邪魔をするやもしれん」
「ところで、御前、また、お薬の時間でござる」
 夜叉丸がいった。夜叉丸はレイモンの薬飲のタイムテーブルを持っているのだ。後ろには薬品が詰まった収納庫が控えている。前の主水より、薬の方が大事だった。
「うーむ、この時間はどの薬じゃったかの」 金庫の棚の薬をかき回すレイモンであった。ふと、夜叉丸の方を振り返り、
「よいか、夜叉丸。やつがれの薬、忘れず西日本に持って行くのだぞ。薬は生命の源じゃからのう」
 レイモンの最大の関心事は、薬である。
「承知しております。で、御前。この主水なるロボットの処置は」
「主に任せる。とりあえず帰してやれ。気を失ったことなど、忘れておるであろう。そう電脳の処理はしてある」
「ふっふっふっ」
 軽く含み笑いをするレイモンであった。
    ◆
 何とか旗本公国マンションにたどり着いた主水は、確かに、落合レイモンの家での事を忘れていた。
「旦那、どうでしたい。お上の御用は」
 家にはすでに、鉄が上がりこんでいた。
「うむ、ご壮健であられた。しかし、鉄、おまえも良く宅にくるのう。まったく」
「よろしいじゃござんせんか。姐さんもよろこんでいることですし」
「どなたが喜んでいるんですか、鉄さん、あなた……」
「へい、何でござんしょ」
「感情のラインが、いかれているのじゃないのかしら。一度ドクターにチェックしてもらいなさいませ」
「そりゃ、姐さん。ないですよ。私がいるおかげで、早乙女家にいつも笑顔がたえないってものでしょ。ねえ旦那」
「旦那じゃねえや。用がすんだら早く帰れ」「そう、邪険にしちゃ、いけあせんぜ。そいでお上の御用向は」
「しばらく、東京を留守にいたす」
「どこかにご出張ですか」
「西日本に下向いたす」
「西日本ですって、そりゃ大変だ。旦那、まさかロボット奴隷になりにいくんじゃ」
「ばかもの、なぜわざわざ私が奴隷にならねばならんのだ」
「いや、どれいでもすきにしてとか」
「鉄。ばかもの。貴様が奴隷になれい」
「でも、あなた、京都では、足毛布博士にお会いになるのでございましょう」マリアが話しの話題を変えた。
「その足毛布博士よな……」
 いいながらマンションから東京の風景をみる主水であった。どうしょうかなと思い悩んでいるのである。生みの親である足毛布博士の顔が夜空に浮かんだ。
「ちちうえ……」思わず叫んでいた。なぜちちうえという言葉が口から飛びだしたのか。主水は自分でも不思議に思った。
(続く)
■ロボサムライ駆ける■
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