ある日の事である。
運転中にFMラジオのスイッチを入れるとトーク番組で、某芥川賞受賞作家がゲストだった。
名前は知っていたが、作品は読んだ事がなかった。
大して興味もなかったが、そのまま聞くともなしに聞いていると某作家が、
“ひとだんらく”
と言ったので、
えぇー!“いちだんらく”だろ、おいおい!
と、思わず突っ込んでしまった。
車を路肩に停めて、携帯電話のメール機能で、
“ひとだんらく”
と入力 . . . 本文を読む
やれやれ。
とりあえず、自分の住む街では、さくらは終わった。
今年も、何とか、無事にやり過ごした。
さくらは、あっという間に散ってしまうのがお似合いなのさ。
あんな賑やかな花にいつまでも咲いていられたら、精神が病むのさ。
だから、さくらを惜しむ気持ちなんか本当はこれっぽっちもないんだよ。
でも、本当は。
これからが本番である。
さくらの葉が狂ったように挑む。
梅雨までは、半目を閉じて見つか . . . 本文を読む
10年来の友人A(女性)の最近のお気に入りは、ホストクラブ通いである。
自分も何度も誘われたが断り続けた。
今は環境が変わり、誘われる事もなくなった。
自分はこれから先も、接待などで自腹を切らなくても絶対に行く事はないだろう。
ホストに熱を上げる世の女性達を見下ろしている気持ちは全く、ない。
行きたい人は行けばいい、としか思っていない。
ただし、身を持ち崩すなよとだけは言いたい。
別に気取っている . . . 本文を読む
日曜日の、予定も約束も何もない、夕暮れ。
随分と陽が延び、空気も暖かくなった。
七分袖のカットソーとスカート、足元はサンダル。
コインケースと部屋の鍵だけ持って、目的もないままマンションのエレベーターを降りた。
引っ越して1ヶ月半近く経つが、駅近辺とマンションの往復が中心である。
そう言えば、マンションの近くって殆ど知らない。
大通りから一本入ったマンションの前の通りを、ふらふらと当てもなく歩き . . . 本文を読む
出張の楽しみと言えば、
“ごはん、何食べようかな~。”
である。
仕事先の場所にもよるのだが、どうしても時間制限があるため、空港やターミナル駅近辺に行く事が多い。
北九州地区に出張に行く機会がこの春から増えた。
生まれて初めて小倉駅で降りた。
駅に背を向ければ、モノレールが空中に伸びている。
自分は、この様な、近未来的な人工産物が大好きなのだ。
勿論、用もないのに試しに乗ってみた。
そして視線を . . . 本文を読む
“水族館に連れて行ってよ。”
自分にとって特別な場所それは水族館。
水族館はね、本当の本当に、特別な人と行くの。
それまではひとりで行くの。
水族館が好き。
ほの暗い館内。
ひんやりとした空気。
そうかと思えば。
突き抜けた明るさのペンギンやイルカ・ショウ。
誰かと出会い、心にさざなみがおどるとき。
一息ついて。
そして。
その人と、水族館に行きたいか想像してみて。
湿り気のある手と手をつな . . . 本文を読む
毎日、帰りが遅い、絵に描いた様な堅気のサラリーマンをしている。
たまに早めに最寄の駅に着くと、大手のチェーン喫茶でコーヒー飲んでぼおっとして、やっぱり帰りが遅くなる。
焼け石に水程度でも、せめて歩こうと、遠回りして帰る事にした。
静まり返ったオフィス街を通り抜け、路地を入れば静かな居酒屋や割烹があるような通りを歩く。
人通りは少ないが、危険な感じの場所ではない、治安の良い場所である。
角を曲がると . . . 本文を読む
これで良かったのかな、が、
これで良かったのよ、に、
変わる瞬間。
この瞬間のために生きている。
そして私は許され、救われる。
夕暮れの、駅前のスクランブル交差点。
信号が青に変わるまでの、ひととき。
沢山の人、人、人。
大勢の中のその他1名の自分。
その時風が、自分の中を、確かに吹き抜けた。
信号が青に変わる。
流れにそって、歩き出す。
今、ここにいる意味がやっと理解出来た。
これで . . . 本文を読む
天井はシーリングライト。
ベッドに仰向けになり、リモコンでライトを消すと。
天井に淡い蛍光色のグリーンの円盤が浮かびあがり、徐々に暗闇に移行していく。
今夜も。
“あの円盤に乗って、どこか別の星で目が覚めますように・・・。”
そんな自分の願いは、薄れゆく淡い蛍光色のグリーンと一緒に、暗闇に塗りこめられていく。
本当はね。
いつだって、今、この瞬間だって、どこか別の星へいけるんだよ。
行きかたは? . . . 本文を読む
マンションの防犯カメラの監視員をしている。
ある超高層マンションの担当になって1年が過ぎた。
その女はある日を境に突然エレベーターに現れた。
毎夜深夜最上階のボタンを押す。
会社員だろうか。
コンビニの袋から無造作に食べ物を取り出す。
そして無表情のままある一点を見つめたまま黙々と食べる。
おにぎり、肉まん、菓子パン、チョコレート。
忙しいとは言えない僕は彼女の夜食をノートにつけたが直ぐに飽きて . . . 本文を読む