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古今東西のアートのお話をしよう

生きるとは、自分の物語をつくること




河合隼雄(1928〜2007)

『京都大学名誉教授、元文化庁長官。専門は分析心理学、臨床心理学、日本文化。 兵庫県多紀郡篠山町出身。日本人として初めてユング研究所にてユング派分析家の資格を取得し、日本における分析心理学の普及・実践に貢献した。』参照元ウェキペディア



小川洋子(1962〜)

この本のなかで、刺さった部分は、ユング派の分析医である河合隼雄氏と作家で金光教の信者でもある小川洋子氏が語る心身論

『小川 「真実の直線はどこにあるか。 それはここにしかない」と言って、博士が自分の胸に手を当てるところ。
河合 無限の直線は線分と1対1で対応するんですね。部分は全体と等しくな る、これが無限の定義です。だからこの線分の話が、僕は好きで、この話から、 人間の心と体のことを言うんです。線を引いて、ここからここまでが人間とする。心は1から2で、体は2から3とすると、その間が無限にあるし分けることもできない。
小川 ああ、2・00000・・・・。
河合 そうそう。分けられないものを分けてしまうと、何か大事なものを飛ば してしまうことになる。その一番大事なものが魂だ、というのが僕の魂の定義なんです。
小川 数学を使うと非常に良く分かりますね。
河合 お医者さんに、魂とは何ですか、と言われて、僕はよくこれを言いますよ。分けられないものを明確に分けた途端に消えるものを魂というと。善と悪とかでもそうです。だから、魂の観点からものを見るというのは、そういう区別を全部、一遍、ご破算にして見ることなんです。 障害のある人とない人、男女、そういう区別を全部消して見る。
小川 魂というのは、文学で説明しようとしても壮大な取り組みになりますけれど、数字を使えば美しく説明できるのが面白いですね。
河合  だけど心理学の世界では、魂と言う言葉を出したら、アウトです。』とユング派の河合隼雄氏が語っている。
もとよりユングの学説は仏教の影響があり、日本人である河合隼雄氏が仏教を享受しているのは自然な流れですね。


浄土真宗の開祖親鸞の言葉を編んだという「歎異抄」を説く、金子大榮氏の解題は、河合隼雄氏の思想に影響を与えているように思える。


身と心とは分かつことができない。それであるから、心のない身は物を感ずることができず、身のない心は理を知ることができない。けれども一応これを分けて言えば、心は分別して道理を知り、身は行動して事実を感覚する。心は天地を包むものではあるが、天地に行われる事象を感受するものは身である。したがって、心に受け入れられる道理は、事実としてこの身に行われるものでなけれならない。
我らは現実に不安と苦悩の裡にあって、それを逃れようとしている。知識と道徳とは、そのために用意されている。しかし、知識は身命の保持をなしうるも生死の不安を除くことはできない。道徳はいかに規定して見ても、自を善とし他を悪とする執情をどうすることもできない。そのためいよいよ煩悩を増長し罪悪を重ねることとなる。
「歎異抄」岩波文庫 解題 金子大栄より


『金子 大榮(かねこ だいえい 1881〜1976)

日本の明治~昭和期に活躍した真宗大谷派僧侶、仏教思想家。前近代における仏教・浄土真宗の伝統的な教学・信仰を、広範な学識と深い自己省察にもとづく信仰とによって受け止め直し、近代思想界・信仰界に開放した。』参照元 ウィキペディア




小川洋子は、「二人のルート―少し長すぎるあとがき」でこう書いている。

いくら自然科学が発達して、人間の死について論理的な説明ができるようになったとしても、私の死、私の親しい人の死については何の解決にもならな い。「なぜ死んだのか」と問われ、「出血多量です」と答えても無意味なのであ る。その恐怖や悲しみを受け入れるために、物語が必要になってくる。 死に続く無の中の有を思い描くこと、つまり物語ることによってようやく、死の存在と折り合いをつけられる。物語を持つことによって初めて人間は、身体と 精神、外界と内界、意識と無意識を結びつけ、自分を一つに統合できる。 人間 は表層の悩みによって、深層世界に落ち込んでいる悩みを感じないようにして 生きている。表面的な部分は理性によって強化できるが、内面の深いところに ある混沌は論理的な言語では表現できない。それを表出させ、表層の意識とつ なげて心を一つの全体とし、更に他人ともつながってゆく、そのために必要な混沌が物語である。物語に託せば、言葉にできない混沌を言葉にする、という不 条理が可能になる。生きるとは、自分にふさわしい、自分の物語を作り上げて ゆくことに他ならない。


小川洋子氏の小説はまさに、この内面の深いところに ある混沌を描き出す物語だろう。

密やかな結晶」は最もよく小川洋子氏の思想を表していると思う。





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