【 黒部五郎岳に至るなだらかな稜線-左から黒部五郎岳、笠ヶ岳、乗鞍(右端)の山々 】
【2013年9月22日】
【第2日目】
4:50起床-5:10朝食-6:20太郎平小屋出発-8:37神岡新道分岐点着
-8:50北俣岳着-9:50赤木岳着-(中俣乗越の手前で昼食をとる)-13:27黒部五郎の肩着
-13:45黒部五郎頂上着-(肩に戻らず、稜線コースを行く)-16:40黒部
五郎小舎着-18:00夕食-20:00就寝
今日の行程は、標高差500mのなだらかな稜線コースである。昨年は私の提案を多く入れ、穂高の“難コース”を回る計画を立てたが、結局悪天候もあって、『ジャンダルム』の上には立ったが、『奥又の池』からの『前穂北尾根の5・6のコル』越えもできず、『北穂東稜・北穂の池』もいけず『前穂北尾根の3峰』も踏めず、散々な結果に終わった。だから、今年はおとなしくYさんの提案に乗ることにした。
今年の山は、概して《女性的》である。なだらかで、転落しようにも滑落しそうな場所もない。敢えて言えば、今日行く『黒部五郎岳』と明日予定の『水晶岳』の頂上付近にちょっとした岩場があるだけだ。
17年前の『雲の平』は、なだらかな山並みの北俣岳方面には行かず、薬師沢から『上廊下』をたどり『高天原温泉』を目指した。何としても噂の”秘湯”に入ってみたかったのだ。柱が傾き屋根もいびつで、今にも倒壊しそうな『高天原山荘』からさらに歩いて20分ほどの所に温泉はあった。バラックで囲んだ小さな湯船に浸かり、早足で山小屋に戻ったものだ。せっかく汗を流しても登山靴を履いて小屋に戻る間にまた汗をかいてしまう。しかし、顔を洗うこともままならず、風呂など期待できない縦走中の身体には、やはり天国のような心地を与えてくれたのも確かだった。
今回、帰り道に寄ろうとも考えたが、どうしても時間が足りない。
【 朝焼けに浮かぶ水晶岳(黒岳)】
予定の計算では、今日のコースが5日間の内で最も歩行時間が長くなっている。早めに発とうと、5時前に起床する。外を見れば朝焼けの空がきれいだ。今日も天気は晴れのようだ。
建物の中に戻り朝食を済ませ、身支度を整える。朝、出発までにすることは決まっている。食事をして、トイレに行き用をすませ歯を磨く。顔を洗えれば顔を洗い、水がなければウェットティッシュでぬぐう。服を着替えソックスをはき、ザックに荷物をつめる。しかし、1つのことを忘れたり、パッキングの順番を間違えたりして、1度つめた物を再び取りだしたりして、同じ動作を繰り返す。6時には小屋を出ようと早く起きたはずなの、結局出発したのは6時半前になってしまった。いつももたもたしているのは私である。
【一人1枚の布団があたり、ゆったりと寝られた太郎平小屋の寝床】
【『さあ、出発』-太郎平小屋前で 】
6時15分過ぎ、ようやく出発。まず目指すは、『太郎山』。山とはいうものの、どこが頂上か分からない平坦な、丘のような頂である。『黒部五郎岳』を正面に見て、右手の道を行く。
【 まだ明けきれていない『黒部五郎岳』 】
しばらく行くと道が二股に分かれ、左手の水平な道をたどると薬師沢方面に至る。右手のなだらかな登り道をとる。
太郎平から『太郎山』、『北俣岳』への道は、登りといっても、ゆったりとした傾斜で、まさに《お散歩コース》である。背中に背負ったザック重さも忘れてルンルン気分で歩を進める。
【「太郎平小屋を振り返る-背後には薬師岳 】
【 薬師岳が違う姿を見せる-左肩には小さく剱岳が 】
雄大な景色に見とれながら、天上の散歩を満喫する。程なく、どこが頂上だか分からない『太郎山』を通り過ぎる。昔、童話の絵本でみた「うさぎと亀の競争」に出てきそうな、頂に向かってゆるやかな曲線をえがいてジグザグに伸びる道が続いている。1つの丘を越えると今度は、青空にそのままつながるような道がまっすぐ延びている。
【 真っ青な青空の下、まっすぐ延びる平坦な道 】
そんな、楽園にいるかのような道を何の苦労もなくたどっていくと『北俣岳』の頂上に8時45分に到着する。
【北俣岳山頂】
『北俣岳』の山頂は至って穏やかだ。標識がなければ、これが頂上だとは思えないが、遮る物のない山頂からの見晴らしはいい。『薬師岳』はもちろん『水晶岳』も、このあとすぐに訪れる『黒部五郎岳』もはっきりとした視界の中だ。
【『北俣岳』山頂からのパノラマ 】
遙か遠くには、何と『槍ヶ岳』が望まれる。ここから『槍ヶ岳』が見えるんだ!と感激に浸る。その左奥には『常念岳』(それとも『大天井岳』?)が見える。槍より、『黒部五郎岳』を挟んで視線を右に移すと、穂高方面から見るのとはまったく山容の違う『笠ヶ岳』と『乗鞍』、さらに『御岳』まで整然と見渡せる。
しばし見とれながら、昨日こうした景色を見ないで戻っていった人は、《いったい何だったんだ》と思う。
【 槍ヶ岳遠望--- 】
【 ---笠ヶ岳、乗鞍岳、御岳 】
時間はまだ朝の9時である。20分ほどそこで写真を撮ったり、ビデオを回しながら景色を楽しんだ後、出発する。道は相変わらず平坦だ。
【ゆるやかな山並みとゆったりと延びる、赤木岳への道 】
【 赤木岳頂上標識 】
9:50、『赤木岳』着。赤木岳もどこが山頂か見過ごすような山である。さらにゆったりした道を進んでいくと、黒部五郎岳と笠ヶ岳がその姿かたちを変えながら近づいてくる。それまで平坦だったと思っていた道が、黒部五郎の手前で大きく落ち込んでいる。『中俣乗越』というところまでいったん下り、頂上までは、そこからまた350メートルほど登り返さければならない。少し早いが、朝食を5時過ぎにとったハラが《空腹》の信号を出していたので、昼飯タイムにする。持ってきたインスタントラーメンを食べようと開封したら、1年以上前に賞味期限の切れた物で、スープの粉が湿気を吸い、とても食べられる代物ではないので、缶詰を開けカロリーメイトを口にする。荷物を減らすため1つだけにしたカップヌードルがダメで、端で食べているYさんのラーメンが美味しそうだ。
腹ごしらえをしてエネルギーを補給したところで、いよいよ今日のハイライトである黒部五郎の登りにかかる。
【 黒部五郎岳の登りから北俣岳方面を振り返る 】
【 いよいよ黒部五郎への登りが始まる 】
上りかけてみれば、下から見上げたほどに急な登りではない。1時間もかからないで、午後1時半前に山頂を経由する『稜線ルート』と、左手の淵を回りカールの底に降りて進む『カールコース』の分岐点である《黒部五郎の肩》に到着する。
今、《山頂からすそに向かってスプーンで大きくえぐり取った》ような独特の山容を持つ『黒部五郎岳』の頂上直下に立っている。
【 肩から黒部五郎岳頂上を見上げる 】
【 肩から、黒部五郎カールを俯瞰する 】
正面には、太古の昔氷河によって削られたU字型のカールがまっすぐ下方に伸び、左手のきれいに削り残された稜線は一直線でやはりまっすぐ下方に伸びている。
一方、右手の頂上から鋭く切れ落ちる稜線は、より急勾配でしかも荒々しく、ところどころで切り込みが入っていて、本当に道がついているのか怪しくなってくる。
それまでにない荒々しい光景を見ながら、どちらのコースを取るべきか思案する。とはいっても、私の考えは、はじめから決まっていた。どちらも《一般ルート》で、安全面ではそんなに差がないと思われるので当然《稜線コース》を行くと思っていた。だいたい、見通しの利かないカールの迫を歩くなんて、始めから考えていなかった。でも、Yさんは違っていた。「下からカールの削った稜線を見上げるのもいいかも」という。《肩》から見る《稜線コース》は、いかにも《おどろおどろしく》、多少の恐怖心を煽ったが、「せっかく来たのだから」と理由にならない理由を言って、主張を通してもらった。
そして、《カールコース》を行くなら、ピストンするので置いていくはずのザックを担ぎ、頂上に向かう。頂上までは難なく着いた。
【 黒部五郎岳頂上にて 】
若干ガスがかかってきたが、ここもまた先ほどの『北俣岳』以上の絶景が広がっている。『鷲羽岳』や『祖父岳』は手が届きそうなすぐ目の前の距離である。カールの底のずっと下方には、今日の宿の『黒部五郎小舎』の赤い屋根が見える。
【黒部五郎岳山頂からカール下方の五郎小舎の赤い屋根を見る】
改めて頂上からカールコースを見れば、最初に向かい側の稜線をジグザグに一気にカールの底まで降りて後は平坦な道に見える。一気に降りた後は平らな道を進むだけでいいから、ずっとあっちのほうが楽だったかと思ったのは、そのあと危険な箇所はなかったものの、ガラガラの大きな石の重なった歩きづらい急勾配の道を下っているときだった。
【 「稜線コース」から「カールコース」を見る 】
午後1時半に頂上に到着し、2時前に山頂を出発する。コースは《肩》から見た切れ落ちた岩の裏側につけられており、見た目ほど危なっかしいところはなかった。しかし、下っていくにつれ、崖の切れ目から見える、《カールコース》の平坦そうな道が、どんなに恨めしく思えたか。
高度をだいぶ下げたと思っても、《カールコース》の道はいつまでたっても、はるか下に見える。小屋に着くためには、まだあれだけ下らねばならないと思うと、疲れが増してくる。1時間下ってもまだカールの底ははるか下方に見える。ひざが笑い出す。Yさんはだいぶ先を進んでいるはずだ。この分だと4時を回ってしまうかと思う。
【 稜線コースを下る 】
最後の急な段差の岩の道を降り抜け、ようやく勾配のゆるくなった森の道に入り、木々の間から小屋の赤い屋根を認めたのは、すっかり4時を回っていた。ようやくの思いで小屋に16:40着。
【ようやく『黒部五郎小舎』に到着】
夕食は2順目の6時から。それまでの1時間ほど、今来た道を振り返りながら、外のテーブルに腰かけビールとウィスキーで体を慰める。
【 「ああ、疲れた!」 】
『2013年秋の山行』【第2日目】-太郎平から北俣岳をへて黒部五郎へ
【2013年9月22日】
【第2日目】
4:50起床-5:10朝食-6:20太郎平小屋出発-8:37神岡新道分岐点着
-8:50北俣岳着-9:50赤木岳着-(中俣乗越の手前で昼食をとる)-13:27黒部五郎の肩着
-13:45黒部五郎頂上着-(肩に戻らず、稜線コースを行く)-16:40黒部
五郎小舎着-18:00夕食-20:00就寝
今日の行程は、標高差500mのなだらかな稜線コースである。昨年は私の提案を多く入れ、穂高の“難コース”を回る計画を立てたが、結局悪天候もあって、『ジャンダルム』の上には立ったが、『奥又の池』からの『前穂北尾根の5・6のコル』越えもできず、『北穂東稜・北穂の池』もいけず『前穂北尾根の3峰』も踏めず、散々な結果に終わった。だから、今年はおとなしくYさんの提案に乗ることにした。
今年の山は、概して《女性的》である。なだらかで、転落しようにも滑落しそうな場所もない。敢えて言えば、今日行く『黒部五郎岳』と明日予定の『水晶岳』の頂上付近にちょっとした岩場があるだけだ。
17年前の『雲の平』は、なだらかな山並みの北俣岳方面には行かず、薬師沢から『上廊下』をたどり『高天原温泉』を目指した。何としても噂の”秘湯”に入ってみたかったのだ。柱が傾き屋根もいびつで、今にも倒壊しそうな『高天原山荘』からさらに歩いて20分ほどの所に温泉はあった。バラックで囲んだ小さな湯船に浸かり、早足で山小屋に戻ったものだ。せっかく汗を流しても登山靴を履いて小屋に戻る間にまた汗をかいてしまう。しかし、顔を洗うこともままならず、風呂など期待できない縦走中の身体には、やはり天国のような心地を与えてくれたのも確かだった。
今回、帰り道に寄ろうとも考えたが、どうしても時間が足りない。
【 朝焼けに浮かぶ水晶岳(黒岳)】
予定の計算では、今日のコースが5日間の内で最も歩行時間が長くなっている。早めに発とうと、5時前に起床する。外を見れば朝焼けの空がきれいだ。今日も天気は晴れのようだ。
建物の中に戻り朝食を済ませ、身支度を整える。朝、出発までにすることは決まっている。食事をして、トイレに行き用をすませ歯を磨く。顔を洗えれば顔を洗い、水がなければウェットティッシュでぬぐう。服を着替えソックスをはき、ザックに荷物をつめる。しかし、1つのことを忘れたり、パッキングの順番を間違えたりして、1度つめた物を再び取りだしたりして、同じ動作を繰り返す。6時には小屋を出ようと早く起きたはずなの、結局出発したのは6時半前になってしまった。いつももたもたしているのは私である。
【一人1枚の布団があたり、ゆったりと寝られた太郎平小屋の寝床】
【『さあ、出発』-太郎平小屋前で 】
6時15分過ぎ、ようやく出発。まず目指すは、『太郎山』。山とはいうものの、どこが頂上か分からない平坦な、丘のような頂である。『黒部五郎岳』を正面に見て、右手の道を行く。
【 まだ明けきれていない『黒部五郎岳』 】
しばらく行くと道が二股に分かれ、左手の水平な道をたどると薬師沢方面に至る。右手のなだらかな登り道をとる。
太郎平から『太郎山』、『北俣岳』への道は、登りといっても、ゆったりとした傾斜で、まさに《お散歩コース》である。背中に背負ったザック重さも忘れてルンルン気分で歩を進める。
【「太郎平小屋を振り返る-背後には薬師岳 】
【 薬師岳が違う姿を見せる-左肩には小さく剱岳が 】
雄大な景色に見とれながら、天上の散歩を満喫する。程なく、どこが頂上だか分からない『太郎山』を通り過ぎる。昔、童話の絵本でみた「うさぎと亀の競争」に出てきそうな、頂に向かってゆるやかな曲線をえがいてジグザグに伸びる道が続いている。1つの丘を越えると今度は、青空にそのままつながるような道がまっすぐ延びている。
【 真っ青な青空の下、まっすぐ延びる平坦な道 】
そんな、楽園にいるかのような道を何の苦労もなくたどっていくと『北俣岳』の頂上に8時45分に到着する。
【北俣岳山頂】
『北俣岳』の山頂は至って穏やかだ。標識がなければ、これが頂上だとは思えないが、遮る物のない山頂からの見晴らしはいい。『薬師岳』はもちろん『水晶岳』も、このあとすぐに訪れる『黒部五郎岳』もはっきりとした視界の中だ。
【『北俣岳』山頂からのパノラマ 】
遙か遠くには、何と『槍ヶ岳』が望まれる。ここから『槍ヶ岳』が見えるんだ!と感激に浸る。その左奥には『常念岳』(それとも『大天井岳』?)が見える。槍より、『黒部五郎岳』を挟んで視線を右に移すと、穂高方面から見るのとはまったく山容の違う『笠ヶ岳』と『乗鞍』、さらに『御岳』まで整然と見渡せる。
しばし見とれながら、昨日こうした景色を見ないで戻っていった人は、《いったい何だったんだ》と思う。
【 槍ヶ岳遠望--- 】
【 ---笠ヶ岳、乗鞍岳、御岳 】
時間はまだ朝の9時である。20分ほどそこで写真を撮ったり、ビデオを回しながら景色を楽しんだ後、出発する。道は相変わらず平坦だ。
【ゆるやかな山並みとゆったりと延びる、赤木岳への道 】
【 赤木岳頂上標識 】
9:50、『赤木岳』着。赤木岳もどこが山頂か見過ごすような山である。さらにゆったりした道を進んでいくと、黒部五郎岳と笠ヶ岳がその姿かたちを変えながら近づいてくる。それまで平坦だったと思っていた道が、黒部五郎の手前で大きく落ち込んでいる。『中俣乗越』というところまでいったん下り、頂上までは、そこからまた350メートルほど登り返さければならない。少し早いが、朝食を5時過ぎにとったハラが《空腹》の信号を出していたので、昼飯タイムにする。持ってきたインスタントラーメンを食べようと開封したら、1年以上前に賞味期限の切れた物で、スープの粉が湿気を吸い、とても食べられる代物ではないので、缶詰を開けカロリーメイトを口にする。荷物を減らすため1つだけにしたカップヌードルがダメで、端で食べているYさんのラーメンが美味しそうだ。
腹ごしらえをしてエネルギーを補給したところで、いよいよ今日のハイライトである黒部五郎の登りにかかる。
【 黒部五郎岳の登りから北俣岳方面を振り返る 】
【 いよいよ黒部五郎への登りが始まる 】
上りかけてみれば、下から見上げたほどに急な登りではない。1時間もかからないで、午後1時半前に山頂を経由する『稜線ルート』と、左手の淵を回りカールの底に降りて進む『カールコース』の分岐点である《黒部五郎の肩》に到着する。
今、《山頂からすそに向かってスプーンで大きくえぐり取った》ような独特の山容を持つ『黒部五郎岳』の頂上直下に立っている。
【 肩から黒部五郎岳頂上を見上げる 】
【 肩から、黒部五郎カールを俯瞰する 】
正面には、太古の昔氷河によって削られたU字型のカールがまっすぐ下方に伸び、左手のきれいに削り残された稜線は一直線でやはりまっすぐ下方に伸びている。
一方、右手の頂上から鋭く切れ落ちる稜線は、より急勾配でしかも荒々しく、ところどころで切り込みが入っていて、本当に道がついているのか怪しくなってくる。
それまでにない荒々しい光景を見ながら、どちらのコースを取るべきか思案する。とはいっても、私の考えは、はじめから決まっていた。どちらも《一般ルート》で、安全面ではそんなに差がないと思われるので当然《稜線コース》を行くと思っていた。だいたい、見通しの利かないカールの迫を歩くなんて、始めから考えていなかった。でも、Yさんは違っていた。「下からカールの削った稜線を見上げるのもいいかも」という。《肩》から見る《稜線コース》は、いかにも《おどろおどろしく》、多少の恐怖心を煽ったが、「せっかく来たのだから」と理由にならない理由を言って、主張を通してもらった。
そして、《カールコース》を行くなら、ピストンするので置いていくはずのザックを担ぎ、頂上に向かう。頂上までは難なく着いた。
【 黒部五郎岳頂上にて 】
若干ガスがかかってきたが、ここもまた先ほどの『北俣岳』以上の絶景が広がっている。『鷲羽岳』や『祖父岳』は手が届きそうなすぐ目の前の距離である。カールの底のずっと下方には、今日の宿の『黒部五郎小舎』の赤い屋根が見える。
【黒部五郎岳山頂からカール下方の五郎小舎の赤い屋根を見る】
改めて頂上からカールコースを見れば、最初に向かい側の稜線をジグザグに一気にカールの底まで降りて後は平坦な道に見える。一気に降りた後は平らな道を進むだけでいいから、ずっとあっちのほうが楽だったかと思ったのは、そのあと危険な箇所はなかったものの、ガラガラの大きな石の重なった歩きづらい急勾配の道を下っているときだった。
【 「稜線コース」から「カールコース」を見る 】
午後1時半に頂上に到着し、2時前に山頂を出発する。コースは《肩》から見た切れ落ちた岩の裏側につけられており、見た目ほど危なっかしいところはなかった。しかし、下っていくにつれ、崖の切れ目から見える、《カールコース》の平坦そうな道が、どんなに恨めしく思えたか。
高度をだいぶ下げたと思っても、《カールコース》の道はいつまでたっても、はるか下に見える。小屋に着くためには、まだあれだけ下らねばならないと思うと、疲れが増してくる。1時間下ってもまだカールの底ははるか下方に見える。ひざが笑い出す。Yさんはだいぶ先を進んでいるはずだ。この分だと4時を回ってしまうかと思う。
【 稜線コースを下る 】
最後の急な段差の岩の道を降り抜け、ようやく勾配のゆるくなった森の道に入り、木々の間から小屋の赤い屋根を認めたのは、すっかり4時を回っていた。ようやくの思いで小屋に16:40着。
【ようやく『黒部五郎小舎』に到着】
夕食は2順目の6時から。それまでの1時間ほど、今来た道を振り返りながら、外のテーブルに腰かけビールとウィスキーで体を慰める。
【 「ああ、疲れた!」 】
『2013年秋の山行』【第2日目】-太郎平から北俣岳をへて黒部五郎へ