総天然色日記

映画、怪獣、プリパラなど好きなものについて色々書いていきます。

「成田亨 美術/特撮/怪獣」青森県立美術館に行って来た。

2015-06-08 04:18:44 | 特撮
◆成田亨(なりた とおる)とは

 青森県立美術館で5/31まで開催していました、成田亨展を見てきました。
http://www.aomori-museum.jp/ja/exhibition/67/

 成田亨(1929〜2002)とは、
ウルトラQ〜セブン、マイティジャック、突撃!ヒューマン!!、円盤戦争バンキッドといった特撮作品で、キャラクター等のデザインを手がけたことで有名な方です。
「館長庵野秀明 特撮博物館」で、ウルトラマンの油彩やマイティジャックのロゴのデザイン画を見た方も多いと思います。
http://www.ntv.co.jp/tokusatsu/
(現在は熊本市現代美術館で最後の巡回展を開催中です。6/28(日)まで)

◆この展示の目的

 しかし、成田さんは同時に美術家でもあり、生前沢山の絵画や彫刻を制作し、展示活動を行っていました。
というか本当は美術家としての活動のほうが成田さんの生涯においてずっと長く、特撮、特にウルトラ関係の仕事は実はほんの数年のことだったのです。
 ところが、やはりあの有名な「ウルトラマン」のデザイナーである、ということのインパクトはとても強く、またそのデザインが魅力的なものであるばかりに、世間的には「ウルトラの成田」という印象のほうが強かったようです(多分今もそうです)。
 元々芸術家をずっと目指してきた成田さんにとって、このギャップはとても苦しかったそうで、書籍などでもたびたびこのことについて触れられています。

 今回の展示は、その成田氏の回顧展として、
「怪獣デザイナーとしてではなく、”美術家・成田亨”の作品を沢山の人に見てもらおう」
というコンセプトで企画されたそうです。


 今回ミュージアムショップで買ったのは、
辞書のように分厚い成田亨作品集、ポストカード、ドキュメントブックです。
成田亨作品集は、未公開作品も含め今回の展示のほとんどの作品を収録しています。
Amazonでも購入できますが、美術館で購入した場合のみ、突撃!!ヒューマン!の「ヒューマンサイン」が付いてきます。これが本当に嬉しかった!
 そして展示作品が主役である「成田亨作品集」に対し、「ドキュメントブック」は今回の展示そのものが主役です。
展示の雰囲気が伝わるような構成で、作品集とは別にこのような冊子を販売している展示は初めて見ました。
このようなことからも、関係者の方々が今回の展示コンセプトをとても大事にされていることが伝わってきます。

◆展示の感想

今回は学芸員の方によるギャラリートークに参加できたので、そこで聞いたお話も交えつつ。

 入口には、「ウルトラセブン」に登場したポインターのレプリカがありました。
こういうときに家からソフビ持ってきて一緒に撮ったら楽しいのに、いつも忘れてしまう...。

各展示室の中でも、特に印象に残ったものを紹介していきます。

・初期作品 1950-60年代

 武蔵美時代の作品。この時代の作品はほとんど残っておらず、どれも貴重なものばかりです。
若い学生のために作品が売れない、また、彫刻作品はものすごく大きいものばかりのため、保管ができなかったそうで。
今回展示作品のうちのひとつ「巽の丸」(彫刻)も、ずっと野ざらしで残っていたそうです。
 成田さんの作品は、作品集や特撮博物館などで見たことがあるのですが、特にデザイン画でよく見られる、独特の線がとても好きで、
初期作品にもその線がしっかりと現れているのを見ることができたのが嬉しかったです。
 学芸員の方の解説によると、成田さんの彫刻はバランスの崩れたポーズのものが多く見られますが、それは「人間のもつ不安定さ」を表現していて、それが後の怪獣デザインにも反映されているそうです。
確かに、ジャミラの逆三角形のシルエットや、ツタがぐちゃぐちゃに絡まったようなワイアール星人などのデザインは、そのような見方もできるかもしれません。

・ウルトラ 1965-1967年

 まず印象的だったのが、今回はウルトラ関係のデザイン画(これがまたすごい量)はすべてひとつの部屋にまとめて、しかも順路でいうと4番目くらい?結構後のほうにありました。
その理由は、先程触れたように、今回のコンセプトが「美術家・成田亨の展示」であり、今回は「ウルトラ以外の成田」が主役だからです。
ここで展示されたデザイン画は、今後青森県立美術館の常設展でまた見ることができるそうです。
 また、面白かったのが、怪獣や宇宙人の元ネタの写真が丁寧に解説されていたこと。有名なのだと、甲冑+カミキリムシ→ゼットンとか。恐竜の骨→シーボーズとか。

・未発表怪獣 1984-87年頃

 今回が世界初公開の未発表怪獣のデザイン画。
ウルトラシリーズのように、着ぐるみによる立体化を前提としたデザインでないため、より自由な発想で生まれたのであろうデザインがとても多いのが印象的でした。
 また、今回この沢山の「未発表怪獣」で、私は久々に怪獣というものを見て「怖い」という感想を持ちました。
多分、まだ特撮に目覚めていなかった小学生の時、劇場版ハム太郎の割引券か何かに一緒にレイアウトされていたGMKの白目ゴジラを見て
「怖い!絶対に見たくない!」
と思ったとき以来です。さすがに今回は当時ほど怖いとは思いませんでしたが、
デザイン画をひとつひとつ見ていくうちに、なんだか自分の心の中に、わくわくとか関心とかとは明らかに違う、ざわざわっとした感覚があることに気がついて、
「あ、自分今、怪獣見て怖いって思ってるんだ」
と気付きました。
多分それは、先程触れた「立体化を前提としない自由なデザイン」、つまり
「中に人が入るからどうしても体型はこうなってしまう」
といったような制約がない上で描かれたために、すっかり「着ぐるみ怪獣」に慣れた頭で見ると、その自分の中の既成概念をいくつも超えたところにあるデザインはとても新しく未知なもので、
「怪獣は怖い存在なんだ」
という感覚を思い出させてくれたのです。

・マヤラー/Uジン 実現しなかった企画案1 1970-80年代
・MU/ネクスト 実現しなかった企画案2 1989年+1990年代


 映像作品として実現することのなかった企画案たち。
いずれも子ども向けヒーローものの作品ですが、
中でも「マヤラー」「Uジン」は完全に成田さんが自主的に考え、企画書を作り、TV局にオファーしたそうですが、実現には至りませんでした。
 この話を聞いて、成田さんはとても自分の仕事に対して真面目に取り組んでいて、
自分にしかできないことをよく分かっていて、視聴者である子ども達のことを真剣に考えていた人なのだと思いました。
 「MU」は特撮ではなくなんとTVアニメで、もし実現すれば成田亨初のアニメになったという幻の作品です。
私はこの「成田デザインのアニメ化」という点がとても良いなと思いました。
完全な想像ですが、恐らくアニメだと、実写である特撮よりも、よりデザイン画の再現度の高いものが見られると思ったからです。
 というのも、以前から成田さんのデザイン画を作品集などで見ていて感じたのが、
「TVに出ている着ぐるみと雰囲気がなんだか違うな」
ということです。
中に人が入るために体型の制約や視界・呼吸・可動範囲の関係でどうしてもデザイン画と変更せざるを得なかったり、技術的に立体化するのはあれが限界だったとか、色々理由はあると思います。
実際、初代ウルトラマンは元々視界がほぼゼロなことが本番直前に判明し、成田さんがとても悔しがりながら現場でウルトラマンのマスクに目の穴をあけたという話は有名です。
なので、もしウルトラQやマン・セブンがデザイン画再現度100%の造形物で撮影されたら、今の印象とは全く違うものなっていたのではないのかな、と思うのです。

・突撃!!ヒューマン! 1972年
・円盤戦争バンキッド 1976年


 どちらも、成田さんによる円谷プロ以外の特撮番組の仕事で、かつ、どちらも映像ソフトが残されていないために、現在視聴が不可能な作品です。
(OPや本編の一部(音無し)はインターネットのどこかで見れたり見れなかったりします)
 これら二つは成田さんの仕事にも関わらず映像を見る手段がなく、現在では資料も少ないために、とても残念な気持ちでいたのですが、
今回の展示で貴重なイラストやデザイン画を沢山見ることができたので、感動ものでした。
ヒューマンに至っては、当時応援に使われていたグッズ「ヒューマンサイン」を手に入れることができたし...!
 その「ヒューマン」は、毎週全国各地でヒーローショーを生中継し、週末に再編集版を放送するという、恐らく前例がなく、今でもなかなか聞かない特徴的な番組なのです。
他のヒーローものと違い、スタジオでの撮影を行わないために、以前から成田さんが使いたがっていた、ステンレスを使ってマスクを制作することができたそうです。
作品集に載せられている文章で成田さんはこう語っています。
『ヒューマンが客席の後ろから飛んできて、舞台へ立ったとき、
ピカピカと輝いた姿を見た感動は今でも忘れません。』
(1987年)

そのヒューマンマスクは、たった一つしか現存していないそうで、その一つを今回の展示で、目の前で見ることができたのがとても嬉しかったです。
 また、「バンキッド」に登場する敵の宇宙人「ブキミ星人」のデザインは、成田さんはセブンの宇宙人よりも気に入っていたそうです。
ここに展示されていた「六つの目を持つ女王とバルタンの末裔」という水彩画が本当に美しくて、一目惚れしてポストカードを買いました。

・1970-90年代の絵画・彫刻

 私が以前から「美術家成田亨の作品」として知っていて、作品そのものも題名もとても好きな
「翼を持った人間の化石」という、FRP製の巨大な彫刻の実物を初めて見ることができました。
しかしこの作品が
「科学と経済によって縛られた人間に対する警告」
を表現したものだというのは初めて知りました。
確かに、「翼」と言いながらも無数の直線やビスのような形など、とても無機質な表現が多いことが分かります。
また「翼を持った人間」という、一見夢や希望を連想するようなポジティブな印象と、
幻想的な印象を持つ言葉が「化石」という「死」や「過去のもの」を連想させる言葉と同居しているタイトルであり、とても現実を直視したテーマであることが印象的です。
 また成田さんは、武蔵野美術学校(現・武蔵野美術大学)の彫刻科出身ですが、元々は戦争画がきっかけで絵描きを目指し、西洋画科で油彩を学んでいて、在学中に転科しました。
その理由は、当時の西洋画科で学んだ平面的なデッサンは満足のいくものではなく、
「地面から立ち上がるような、構造的な」デッサンを求めたためです。
 そのために成田さんは、彫刻だけでなく、絵画も沢山制作していました。
成田さんの絵画はどれも、そこに描かれているものがとても生き生きしているのが分かります。
 成田さんは
「写真よりも絵画のほうが感情を伝えられる」
と考え、
「人々の感情を感化するものが描きたい」
と思っていたそうです。
その精神は作品を見れば伝わってきました。

◆まとめ

 今回の展示でギャラリートークを聞くまで、ずっと私は「ウルトラの成田」としての展示だと思っていましたし、
いち特撮ファンとしてウルトラマンのTシャツを着てバルタン星人のバッグを持って青森まで行きました。
しかしそれは全くの勘違いだった上、成田さんが生前悩んでいた
「自分を美術家ではなくウルトラの成田と思っている人」にモロに当てはまっていたので、展示のコンセプトを知った瞬間、
大好きなはずの作家のことをきちんと知らなかった恥ずかしさや申し訳なさでいっぱいになりました。
そんな特撮でコテコテの自分が今回の展示を見て、きちんとコンセプトを理解して帰ることができたので、青森まで来て本当に良かったと心から思います。
 そして、成田さんが生前そのような悩みをもっていたという話を聞いて思い出したのが、
初代ウルトラマンやケムール人のスーツアクター、ウルトラセブンのアマギ隊員役として有名な
俳優の古谷敏さんです。
俳優である古谷さんにとって、顔の見えないウルトラマン役は当時とても悔しかったそうです。
まだ「TV特撮」というジャンルができたての当時は、手探りで進めていたために、似たような悩みを持つ人は意外と多かったのではないでしょうか。
また、2014年に公開された「イン・ザ・ヒーロー」という映画でも古谷さんに近い悩みを持つ人が出てきますし、
もしかしたら今でも、デザイナーやスーツアクター、俳優、監督、脚本家の方でも、もっと言うと特撮以外の業界でも
自分の本当にやりたいことと現状のギャップに苦しんでいる人は多いのかもしれません。
なので、例えば今回でいう特撮・ウルトラのように、とても好きなジャンルや作品のある人は、それに関わっている人の仕事を調べてみると、意外な発見があるかもしれません。

 今回の展示は終わってしまいましたが、丁寧な解説付きで展示作品を鑑賞できる「成田亨作品集」はAmazonで5400円で購入できます。
また、全国の図書館にも置いてあるので、興味のある人は是非探して、読んでみてください。
→日本最大の図書館検索 カーリル

追記記事を書きました(2015/6/9)



2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
去年の夏に見ました (さすらい日乗)
2015-06-20 08:35:02
去年の夏の8月に「スキヤキ・ミーツ・ザ・ワールド」を富山県南砺市に行った時、富山市でやっているのを偶然に地元の新聞で知って見に行きました。
全国を回っているのですね。

やはり、成田亨は凄いと思いましたね。
彼の本で読みましたが、ウルトラマンは弥勒菩薩なのだそうです。
返信する
Unknown ()
2015-06-26 01:48:17
さすらい日乗さん
コメントありがとうございます。

富山・福岡・青森の三カ所で行ったようです。
確かウルトラマンの口元は、アルカイックスマイルをモチーフとされているのですよね。
「月光仮面」の川内康範先生の考えといい、ヒーロー作品と仏教は意外と結びつきが多いのかもしれません。
返信する

コメントを投稿