総天然色日記

映画、怪獣、プリパラなど好きなものについて色々書いていきます。

編集に携わった雑誌「文芸ラジオ第3号」が発売されました

2017-05-31 08:30:00 | その他

久しぶりの更新は、編集部みんなで一年間コツコツと作り続けてきた本の宣伝です。


今回は団体の広報誌やフリーペーパーではなく、文芸誌というジャンルの雑誌です。
しかも、全国発売です。
文芸ラジオ」という雑誌の第3号です。
以下、そもそも文芸ラジオとはどんな雑誌なのか、そして私はどこに携わっているのか、どのページがオススメなのか、など書いていきます。


1.文芸ラジオとは

今回で三冊目になる「文芸ラジオ」は、東北芸術工科大学 芸術学部文芸学科の教授と学生が有志メンバーで制作している文芸誌です。
今のところ年に一冊、5月発売というペースで刊行しており、文芸誌なので小説を中心にエッセイや評論といった文章、また著名人へのインタビューなどを中心に載せています。
小説はプロの作家さんは勿論、文芸学科の学生も執筆しています。
毎号だいたい同じくらいのページ数で、今回は全418ページです。

文芸誌という多くの人にはあまり馴染みのないジャンル、小説や文字だらけで418ページも...というと普段あまり小説を読まない人は敷居の高さを感じてしまうかもしれませんが、文芸ラジオにそういった心配はいりません。
より多くの方に手にとってもらえるよう、企画を考えて作っているので、きっと楽しんでいただけるはずです。

編集部では、教授陣と学生スタッフで毎週編集会議を行なっています。どんな特集を組むか、誰に執筆を依頼したいか、などをどんどんアイデアを出して話し合っています。
また作家さんへの依頼、原稿の管理などは学生スタッフが行っていて、学生執筆者の原稿はどういう方向性のストーリーで行くか、どうやったら更に面白くなるかなどといったことを教授を交えて打ち合わせたり...といったような編集者の仕事を責任を持ってやらせていただいています。
他にはインタビューの依頼や実際の取材なども先生方のご指導のもと、学生が行なっています。
私は文芸ラジオには前号の校正と最終確認の段階から参加していますが、企画の段階から本格的に携わったのは今回が初めてなのでとても思い入れがありますし、協力しあって面白い一冊を作ることができたので、多くの方に読んでいただきたいです。 


2.第3号内容解説

・表紙

今回の表紙はモデルの押切もえさん(と、学生スタッフの飼っている猫のサンちゃん)です。
押切さんは小説家としても活動されており、更に山形県にもご縁があるということで表紙になっていただきました。
去年の学校祭では押切さんに大学に来ていただき、作家・押切もえとしてのトークイベントを開きました。そのときの様子をインタビュー形式で載せています。
学祭で押切さんの実物を初めて見た時は、とにかく体が細くて顔が小さくて驚いたことを覚えています。

そして巻頭の押切さんの写真がどれもすごく可愛くて、個人的には超お気に入りのページです。
特に大学のグラウンドを背景に微笑む押切さんの表情がとても良くて、一枚の写真の中で独特な空気感が完成されています。
いくつになっても可愛くて綺麗でいる、って誰にでもできることではないと思うので、すごいなぁと感動してしまいました。

また、学科のブログに編集長の先生が表紙撮影時の裏話を書いているので、こちらも合わせてお読みください。
http://blog.tuad.ac.jp/tuad_bungei/archives/521

・特集「猫というメディア」

更に今回は「猫というメディア」という特集を組んでいます。
単に「猫」ではなく「猫というメディア」というテーマを設定したのは、今や単なるブームとは言えないほど多くの日本人にとって大きな存在となっている"猫"の、メディア性という部分に着目しようという意図があります。
この特集では、漫画「月詠」でネコミミブームを巻き起こした漫画家の有馬啓太郎先生をはじめとするイラストレーター・漫画家の方々による猫イラストや、猫スポットの取材、猫に関する評論や猫小説、猫漫画などあらゆる方向で"猫のメディア性"を取り上げています。
実のところ私は個人的には犬が圧倒的に好きなので、近年の猫ブームにはあまり乗れていないところがあるのですが、この企画はコンセプトがとても面白いですし、猫という存在の偉大さに改めて気づくことができました。

また、この特集は「猫」というとても身近で、親しみやすい存在がテーマです。そして短編小説やエッセイ、評論といった文芸誌のメインコンテンツがバランス良く収録されているので、「文芸ラジオってどんな本なのかわからないからいまいち興味が湧かない」「なんとなく難しそう」と感じている方にもオススメです。

文芸ラジオは今回から漫画を掲載しているのですが、雨下さんの作品「ネコ・ホーダイ」は近未来要素も入れたので後述の22世紀特集もカバーしていると本人が冗談半分で語っていました。



個人的には猫よりも主人公の男の子が可愛くて好きです。 


・特集「僕らのいなくなった世界 〜22世紀を考える〜」

この特集は、今回私がスタッフとして働く上でメインで携わらせていただきました。
タイトルの通り、22世紀という未来がテーマの特集です。インタビューや22世紀をテーマにしたエッセイ、SF短編小説や漫画が掲載されています。
この特集ではインタビューが3本あるのですが、22世紀というテーマでインタビューをするとその人がどんな価値観をもって生きているのか、どんなことを考えているのかといったことがわかり、面白いのではないかということでインタビュー主体の特集となりました。
テーマについての詳しい解説や裏話も含め、公式ブログでの解説がとてもわかりやすいです。
http://blog.tuad.ac.jp/tuad_bungei/archives/523

インタビューは漫画家の米代恭さん、作家の中沢健さん、建築家の竹内昌義さんの三名です。
私は米代恭さん、中沢健さんに取材させていただきました。

米代恭(よねしろきょう)さんは現在、月刊!スピリッツで漫画「あげくの果てのカノン」を連載されています。単行本は現在3巻まで刊行されており、私もお気に入りの作品です。



ものすごく簡単に内容を説明すると、巨大不明生物の襲来が日常となってしまった東京で繰り広げられる、人間関係と恋愛のストーリーです。
個人的にこの作品でとても面白いと感じているポイントは、巨大生物との戦闘で身体を怪我した戦闘員は、腕がなくなっても頭がスッパリ切れてしまっても、「修繕」すればまた元どおりになるという設定です。しかし、「修繕」するたびにほくろなど外側の小さい部分から、食・異性などの"好み"や性格といったその人の内面まで少しずつ変わってしまいます。
この設定によりSF要素と恋愛要素がうまく絡み合っており、「修繕」によってどんどん変わっていく個人をどこまで愛することができるのか、そもそも見た目がその人でも、どんどん変えられてしまうならその人を定義づけるものはどこにあるのか...ということをとても考えさせられます。

また、この作品はよく「不倫×SF」と紹介されることがありますが、私はこの作品の根幹やメインテーマは不倫という行為・関係性ではなく、「個人を定義するものは何か」「変わること・変わらないこと」という人間が個として存在する上での本質を丁寧に描いたものだと解釈しています。
そのため不倫を肯定するような内容や、昼ドラ的に不倫のスリルを楽しむような展開の作品ではありません。
また、紹介文などで主人公が「メンヘラ女子」と表現されることがありますが、主人公の言動は全て「とにかく先輩が好き」という、恋が始まったときからずっと変わらない感情の延長のもと起こっていることで、先輩や奥さんの迷惑になってはいけない、調子に乗ってしまったら自分は罰を受ける...といった描写からもわかるように、最初から自分主体で絶対に先輩を手に入れたい!と考えている訳ではありません。
そのためよく記号的に表現されるようなメンヘラ女子とは違うのではないかと思います。

公式サイトで第一話を無料で読むことができますので、読んだことのない方はこちらも合わせてご覧ください。
→あげくの果てのカノン 公式サイト

「あげくの果てのカノン」が近未来を舞台にしたSF漫画で、22世紀特集の内容とも合うのではないかとの考えで、今回は米代さんに取材をお願いしました。
インタビューでは、社会にコミットできないマイノリティという存在について、またこれからの時代に生きていくために重要なものは何か、社会における女性の立ち位置...など、米代さんの作品でも描かれている「個人」というテーマにとても沿った内容の興味深いお話をたくさん伺うことができました。
また、「ゴジラ」「ガタカ」「逃げ恥」「コンビニ人間」など、誰でも一つくらいは目にしたことがあるのでは?という色々な作品の名前も登場するので、楽しんでお読みいただけると思います。

取材させていただいた感想としては、米代さんはとにかくなんでもすごく考えて考えて自分にとっての答えを見つけていて、何事にも自分なりにしっかりと向き合っている方なんだな、と思いました。こう言ったらむしろ失礼かもしれませんが、好きな作品を描いている方がとても賢くて、しっかり考えて作品を描いているということがわかって嬉しかったです。
一旦取材がひと段落してからも、「さっき○○のくだりについて考えたんですけど...」と改めて意見を話してくださったので、とても濃くて楽しい、実りある時間を過ごすことができました。
また、マイノリティ側の考えや個としての存在、こういった社会であってほしいといった価値観が自分と近い部分があってとても嬉しかったですし、自信にもつながりました。

二人目のインタビュー、中沢健(なかざわたけし)さんについては、当ブログでも過去に記事を二件ほど書いていて、どちらも中沢さんご本人にTwitterで紹介いただいたことがあります。

作家、UMA研究家、歩く雑誌、動く待ち合わせ場所の中沢健さんに感銘を受けた話 - 総天然色日記
きょうドラマ放送開始!小説「初恋芸人」を読んで感じたこと - 総天然色日記



中沢さんは物心ついた時から怪獣が大好きで、近年では円谷プロ作品などで脚本を書かれていたり、UMAやオカルトといった未知の存在にも詳しく、そちらの方面での活動も積極的にされているので、22世紀という未知の時代についての面白いお話も伺えるのではないか...との考えで取材を依頼させていただきました。
そして何より、中沢健さんという見た目も活動も大変面白い方をもっと多くの人に知って欲しいという気持ちがありました。山形という地方にある芸術大学の学生にとって中沢さんのような個性的な方の存在を知ることは刺激になるはずですし、「歩く雑誌」という表現方法を自分で思いついて実行されているという常識にとらわれない考え方、とにかく表現活動を行いたいという姿勢は、クリエイティブな活動を行う上で学ぶものはとても多いと思います。
読者だけではなく、編集部のメンバーにもぜひ知って欲しいと強く思っていたので、企画会議で中沢さんの名前を挙げて採用されたときは嬉しかったです。

中沢さんとは元々、特撮・怪獣好きという趣味のつながりで何度か交流したこともあったのですが、今回は取材という形でお話を伺ったので、趣味の話ではなかなか気づくことのない面白い価値観を沢山知ることができました。

インタビューでは、まず中沢さんは「死というものがなくなって欲しい。生きたい人はずっと生きられる世界になって欲しい」と語っています。
最近肉親を亡くしたばかりの私にとって(取材時はまだ元気だったのですが)、校正時に改めてこの記事を読んでとても考えさせられました。

さらにこのページでは、中沢さんの著書「初恋芸人」「平成特撮世代」の紹介文を書かせていただきました。
米代さんの「あげくの果てのカノン」「おとこのことおんなのこ」の紹介文は文芸ラジオ編集長であり研究者の玉井建也先生が書いているのですが、先生の紹介文はさすがプロの文章で、短い文字数で信じられないほど本質に触れて掘り下げています。
最初はこれと並べられて恥ずかしくない文章なんて書けるわけないだろ...と、実はとてもプレッシャーに感じていてすごく苦しんでいましたが、なんとか書き上げることができました。
「初恋芸人」は人間関係における価値観の部分で、「平成特撮世代」は好きなものへの向き合い方という面でそれぞれ共感できて、ある意味救われたと言っても過言ではない二冊なので、紹介文を書かせていただけてありがたいです。

また、中沢さんのブログでも文芸ラジオを紹介いただいています。ありがとうございます!
25日発売「文芸ラジオ3号」に、中沢健のインタビュー記事が掲載されます。 - 歩く雑誌・月刊中沢健のブログ

「22世紀特集」では他にも小説やエッセイ、漫画など面白い読み物が沢山あります。少しでも近未来やSFなど興味があれば楽しめる特集ですので、ぜひご覧ください。



ゴトウトシキさんの漫画「一億総○○社会」は絵柄がとにかく好きです。


・黒木あるじの怪談教室

このコーナー、実は前号から引き続きで今回は第二弾となっています。
芸工大文芸学科講師であり、怪談小説家の黒木あるじ先生をお招きして怪談を書くコツを座談会形式で教えてくださるという内容です。 

授業で学生が書いた怪奇小説をもとに黒木先生がリライトしたものを一緒に掲載し、それぞれの違いや怖いと感じるポイント、小説としての面白さなどについて先生の解説と共に語り合っています。
今回は「非幽霊」というテーマで、幽霊の登場しない怪談だけを集めて語り合いました。

このコーナーでは私も発言者として参加しています。

似顔絵は「猫というメディア」特集で漫画「ネコ・ホーダイ」を描いた雨下さんに描いていただきました。すごく美人に描いてもらって恐縮です。あとプロフィールのガメラ3以外は武器人間とマタンゴにすればよかったと後で思いました。

ホラー映画や怪奇小説、心霊番組など怖い話が好きな人はもちろん、小説や脚本など面白いシナリオを書いてみたい人、また友達を怖がらせたい人、もしくは怖いものは苦手だけど仕組みを知って克服したい人も楽しめるのではないでしょうか。

・小説

特集内外で今回も沢山小説が載っていますが、この中で私は三本担当しています。
荒川匠「偽りのトニー・バートンと」(特集「22世紀を考える」内)
藤田遥平「邪悪なる眠り」
川村萌華「いろづく白」 

三名とも学科の卒業生もしくは同級生で、執筆時は全員在学中だったので大学内で何度か打ち合わせをしました。どの作品も違ったカラーで楽しかったです。

中でもおすすめなのは藤田遥平さんの作品です。
著者の実体験をもとにした怪奇小説風味のお話ですが、どこまでが実体験なのかはご想像にお任せします。
また、この作品はぜひ「黒木あるじの怪談教室」の後にお読みください。怪奇小説だからというのはもちろんなのですが、真の理由は小説の3行目でわかるはずです。

この作品の特徴の一つは個性的なヒロインの存在ですが、打ち合わせでは主に、このヒロインをどれだけ魅力的に描くかということに力を入れていた記憶があります。
藤田さんはゼミの先輩で、担当教員もゼミの先生だったので本当に楽しくおしゃべりのような感じで打ち合わせをしていました。

「22世紀」特集内でSF小説を書いてくださった荒川さんは、前号に引き続きの担当です。前号では最終確認でしか携われなかったのですが、今回は初稿から担当することができました。
前号掲載の「Carly」も個人的にお気に入りなので、こちらもぜひ。

川村さんは今回が文芸ラジオ初掲載、全国誌デビュー作です。
タイトルの印象通りの柔らかくてあたたかい雰囲気の恋愛小説です。優しい世界観の表現がとても好きです。  

3.まとめ

以上が文芸ラジオ第3号についての紹介と裏話でした。 
他にも評論特集「有川浩対西尾維新」やイベント講演録「創作・人工知能・SF -なぜ『書けないのではない、書かないだけだ』になるのか-」など、面白いコンテンツが盛り沢山です。
人工知能の講演では、機動戦士ガンダムTHE ORIGINの設定考証などをされている作家の高島雄哉さんと、デジタルゲームの人工知能開発者の三宅陽一郎さんをお招きしています。

さらに文芸ラジオでは毎回、新人賞の募集をしています。未発表の小説もしくは評論であればどなたでも応募できます。
今回は第二回新人賞の選評と受賞作を掲載しています。
文章を書くのが好きな方、全国誌デビューしたい方はチャンスなのでこの機会に応募してみてはいかがでしょうか。 

文芸ラジオ第3号は全国の書店と通販サイトで購入できます。

文芸ラジオ 3 - 紀伊國屋書店ウェブストア

文芸ラジオ3号 - amazon

amazonは在庫が切れても数日以内に補充してもらえるので、在庫切れの際は申し訳ありませんが少しだけお待ちください。
もしくはお近くの本屋さんに注文すれば入荷してもらえると思います。 

私は今年で四年生になるので、文芸ラジオに本格的に携わるのは今回が最初で最後ですが、一年間企画を立てたり取材をしたり...とメンバーと協力して本を作り上げたのは忘れられない思い出になりました。 
本当に面白い一冊が完成したのでもっと多くの方に読んでいただきたいですし、今回の売り上げや評判によって次号以降の方向性も変わっていくと思います。
私は来年度以降この編集部から離れてしまいますが、次の代のメンバーにもより面白いものを楽しんで作ってもらってずっと続いてほしいです。
ですので、この記事を読んで気になった方には3号を読んでいただきたいです。
そして、是非感想をSNSやブログに書いてください。 
よろしくお願い致します! 


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