「ヤザワだったらこう言うね!そんな時は…」
と、悩みを語る友人に向かって熱く語り出す中年男。そうか、そうだよね…とそれに同調する友人。
彼らは矢沢永吉の人生哲学を信奉、というか完全に血肉化していて、自分の生活の中で判断を迫られた時「もし矢沢だったらここでどう考え、どうふるまうか」が全ての基準になっているのだ。言わば「矢沢という倫理」に基づいて生きているのである。
爆笑した。「年をとって今なお矢沢に心酔する、若い頃からの矢沢ファン」をテーマにしたTV番組を、妻と観ていた時のこと。
妻には、矢沢をはじめ猪木、勝新、マイケル・ジャクソン…と、いわゆるスターの中でも何というか、ある種の極端な人種を偏愛するところがあった。矢沢ファンを笑ったと言っても、決して馬鹿にしているわけではなく「いい!この人たち最高!」と、むしろ盛り上がっていた。
僕は物心ついてからけっこうな年齢になるまで、自分で計画を立て、自分で実行し、仕事でも遊びでも全てを自分で思う通りにコントロールしていく、そんな生き方を目指してきた。
けれども妻に出会って、自分が変わったのを自覚した。
『100万回生きたねこ』という絵本に、何度生まれ変わっても「俺が中心!」と高飛車だったけれど、1匹の雌猫に会ってからは俺が俺がと言わなくなる雄猫が出てくる。あんな感じだ。
妻の、シニカルさとファニーさを兼ね備えた独特な視点は、それまでの僕になかったものだった。それは時として、彼女が偏愛するスターたちのように、いささか極端な場合もあったが。また、重度の音楽マニアであった彼女の、音に対するジャッジにも納得させられるものがあった。
僕はしぜんと、何をするにも彼女の意見を頼りにするようになった。時には、一度書いた曲を「悪くはないけど、最高じゃあないよね…」と意見されて、一から書き直した事もある。
妻は4年前の今日、突然この世を去った。
僕は生活に没頭した。とにかく目の前の幼い息子をどうしたらいいか。それだけがテーマだった。逆に言えば、息子がいてくれたからこそ、支えを失っても生きのびてこれたのかもしれない。
大学や音楽制作の仕事は、最小限に絞って続けた。ブログは閉鎖し、連載原稿も中断させてもらった。文章を書く気にはなれなかった。
"ブラックベルベッツ"の演奏活動は続けた。演奏している間は何も考えず、音楽に没頭して自由になれることに、救いを感じた。
時間がたって少しずつ、再び文章を書いたり自分の音を作ったりし始めた。止まっていた時計がゆっくりと動き出すように。
けれどもそれは、かつてのように「よし!俺が!」と自分から動き出したわけではなく、周りの人々に動かされたり、新しい人との出会いから、自然にそうなっていったような気がする。あらためて感謝だ。
昨年は、とりわけ多くのプロジェクトが動き出した。いろんなところで「解凍」という表現をさせていただいたが、まさに、動き出した時計が実際の時間を超えて高速で回転し始めたようだった。いや実際は、自分の意志でそのように動いたに違いないのだが。
作詞家"蒼井紅茶"としての妻と共作した楽曲も演奏した。彼女が「これはいいね」と評価してくれたまま、タイミングを失って世に出せないでいた『舞踏組曲』も、ようやく発表できた。
昨年から始めたムードコア・プロジェクトなどは、ブラジル音楽やフュージョンを偏愛した彼女なら絶対楽しんでくれるはずという自信がある。助川さんのギターと僕のシンセサイザーでギンガやルイス・エサを演奏する場面などは、一体どんなコメントをくれただろう。あるいは案外、辛辣な批評かもしれないが。
いや実際、今でも僕は何か迷った時、妻だったら何て言ってくれるかな?と反射的に考えてしまうのである。まさに、あの番組の矢沢ファンたちのように。
できればもう一度でいいから、彼女の声でそれを聞きたいなと、しみじみ思う。
2012年1月18日
ヲノ先生がどのようなお気持ちでこのブログを書かれたことかと想い、涙が溢れます。
先生、息子さんと共に歩み続けて下さい。陰ながらエールを送り続けます。
もしかしたら、この白いねこも
「一匹の雄猫に出会って、初めて本当の愛というものを感じたのかも知れないな」と。
そんなことを思いました。
この4年間の苦しい日々も大切な時間だったと思います。
ヲノさんの音楽にまた新たな時間が流れるよう、期待しております。
サトル君の文章を読んでいると、奥さんの顔とかしゃべり口調が思い出されました。
私も妻に合うまでは、ただの高飛車な嫌なヤツだったんですよ。ある意味あまり今も変わらないかもしれませんが\--;
ただサトル君と違うのは、私は中身も無く虚栄を身に纏っただけの生きる屍だったという事です。妻に合い、亡くなった義父に助けてもらうまでは。
いろいろ書きたいけど、私の稚拙な文章力ではお恥ずかしいばかりですので、またにしたいと思います。
私に出来ることは、SEED SHIPを頑張って維持して、サトル君が好きに使って頂ければと思っております。
きっとこの場所は彼女も気に入ってもらえるはずです。なんかそう思います。
サトル君
また良い音楽と人と空間を紡いでいきましょう。
3月もよろしくお願いします。
楽しみにしております。
土屋友人