Are you Wimpy?

次々と心に浮かぶ景色と音。
そこからは絶対に逃げられないんだ。

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巡り逢いの妙巡り逢いの妙⑥ 自動車を買い換えるタイミング 後編

2021年01月18日 | 日記
 ご機嫌な彼らはバイクのエンジンを激しく吹かして騒音を立てながら「だったら俺たちに付いてくればいいよ」と親切にも私の車を先導するような体制を取り始めたのだ。改造されたオートバイの排気音は殊の外耳障りな上、暴走族御用達のラッパのようなホーンも鳴り響き、隊列を組んで先導する彼らの後を走る私の車は、端から見たらまるで族の一味か、もしかしたらグループの元締めの様に思われたに違いない。その時は「今警察がきたら大変だ」とか、あるいは早く警察が来てくれないものかと思いながらハラハラとして過ごした。5分くらい深夜の街中では大迷惑であろう騒音を撒き散らしながら一緒に走って、国道まで来るとおよそ15台ほどのバイクは快音を上げて去って行った。

 私は真の意味で解放され4時近くなって帰宅することができた。心身共に疲弊しきった私はフラフラと部屋に入って着の身着のまま眠ってしまった。

 災難はそれだけではなかった。神様の悪戯は翌日にも私を苦しめることになるのである。

 翌日は午後1時に私が任されている鹿島教室への出勤だったから11時近くまで眠って前日の悪夢の様な時間の事などは冗談交じりに両親に話して楽しませ、正午過ぎにゆっくりと自宅を出た。
 愛車のGX71の右サイドには例の2人が蹴飛ばした時についたと思われる大きな凹みが3カ所ほどあったが、まさか修理代を請求する勇気も持てず、車両保険にも入っていたからいずれ保険会社に相談することにして、先ずは命拾いしたことを自分1人で祝おうとコンビニエンスストアに缶コーヒーを買いに寄った時、目の前の光景にまた厭な予感が走った。
 駐車スペースにバックで入れようと切り返した時、コンビニの左奥の方にバイクがたくさん並んでいて、駐車場にしゃがみ込んだ柄の悪い連中の姿が目に入ってギョっとした。
 そのまま出庫して逃げても良かったのだが、子供の頃見た「Mad Max」という映画の中で関わりのない車が逃げたのを追いかける暴走族のシーンがあったから、ここは逆に知らぬ振りをして買い物を済ませて自然に立ち去ろうと判断したのだが・・・、ソレが誤りだと気付くのは降車してすぐのことだった。
 私がドアをロックしていると、しゃがんでダベっていた連中が急に立ち上がって私の方へ集まってきた。そして、「嗚呼、しまった」と思うが早いか、彼らが「先生!」と呼びかけてくる。
 昨夜は暗闇で彼らの顔はよく見えなかったが、彼らは自分たちが取り押さえた銀色のGX71と背広姿の私の事をすぐに認識できたのだろう。夏の日差しの下で見る彼らは、どう見ても「暴走族」といった風体だったし、中にはTシャツの袖下にタトゥが見え隠れしている者や、眉毛がない坊主頭の者がいたりして、その迫力といったら筆舌に余りある程だった。しかし、私のことを「先生」と慕ってくる眼差しには凶暴さは皆無で、従順な温かい気持ちに溢れているのが感じられた。

 「先生、これから仕事かい?」
 「ああ、コーヒーでも買っていこうかと思ってね。みんなもどう?」
 「いいよ、先生。俺たち帰るところだから」

 そんな風に談笑しながら数人が私と一緒に入店してレジまで付いてきた。彼らのリラックスした様子に、先程までの緊張も解けたが、レジで缶コーヒーを出して支払おうとした時の店員の声と手が震えているのを見て、別の意味の緊張が私を支配した。

 「昨夜と同じだな」

 きっと私は、周囲の人達からは暴走族の元締めか、彼らを“飼っている”地元の暴力団の構成員に見えたのかもしれない。いや、やはり他県ナンバーだし、もしかすると何かのトラブルの予兆かと思っているかもしれない。私は弁解したい気持ちで一杯だったが、やはりその場はやり過ごして、彼らに親しげに別れを告げた後クラクションで挨拶して立ち去った。

 私は免許を取得して以来大切にしていた愛車の修理を断念して、その週末には中古車屋に急いだ。水戸ナンバーの取得ということを名目に、ベージュのGX81クレスタに買い替えたのである。以来、彼らとは遭遇していない。


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