[TPP反対 ふるさと危機キャンペーン 第5部 日本の針路 3] ジャーナリスト カレル・ヴァン・ウォルフレン氏 米国の制度強要 (04月12日)
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米国には、経済と軍事の両面で存在感を増している巨大な中国に対して包囲網を築きたいという考えがある。米国の軍事戦略の中に日本は身を置き、中国を封じ込めようとしている。環太平洋連携協定(TPP)は、こうした政治的な戦略の中に位置付けられる。
「中国が地下資源や領土、領海などで攻撃的だ」という意見があることは知っているが、逆に中国にしてみれば、米国と日本が一緒になって圧力をかけていると感じるだろう。米国の戦略にとらわれずに、中国との間で関係改善を図ることが日本にとって必要だと思う。
http://www.agrinews.co.jp/uploads/fckeditor/2012/04/12/uid001010_201204121404366b75cd4b.jpg 私は、自由貿易に対する共感を以前は確かに強く持っていた。知り合いの大学教官などからは「ウォルフレンさんはこちら(TPP推進)側の人じゃなかったのか」とよく聞かれる。だが、TPPは経済の話ではなく、自由貿易を目指すのが目的ではない。本質は、米国の企業に非常に有利な仕組みを押し付けようというもので、貿易を自由化しようというものとは異なる。極めて政治的で、不公平な協定だ。
「TPPに参加すれば自由貿易で全てがうまくいく」という宣伝がされているが、それは間違いだ。政府は何らかの形で自国の産業政策を行うのが望ましい。これには一種の保護政策も含まれる。第2次大戦後、日本経済などもそうして発展してきた。
TPPは、政府と外国企業の間の関係を大きく変えかねない。両国の経済政策や規制などについてこれまでは政府間で交渉してきたが、TPPでは政府と外国企業が直接渡り合うことができるようになる。政府はこれまでのように自国産業を育成しようとする政策をしにくくなる。投資家・国家訴訟(ISD)条項と呼ばれる制度を通じて外国企業は、「不当に競争を阻害された」として政府を直接訴えることができるからだ。
日本の政治家は訴訟を甘く見ているのではないか。「問題」があれば、米国から大勢の弁護士がバッタの群れのように海外に出掛けて「違反」を探し出し、訴えるだろう。米国では勝訴に持ち込み一定割合の報酬を得るため、弁護士が血眼になってあら探しをしている。日本にとって大きな災難が待ち構えている。
・景観守るため反対を
日本では多くのメディアが環太平洋連携協定(TPP)に賛成の立場だと聞いている。編集者が「貿易を拡大していく」というフレーズにひかれる気持ちは分からないでもない。しかし、本質は違うところにあることを知らない。一つはあまりにもTPPの登場が突然で、理解する時間がなかったのだろう。「韓国の成功に続け」みたいな議論があるが、実際には韓国は自由貿易協定(FTA)でひどい状態になってしまうと私は思う。
日本のジャーナリズムでは、農業や農村に関心が向けられていない。東京などの都市があまりにも大きく、ジャーナリストに限らず農村との距離がありすぎる。私はオランダのアムステルダムから車で30分のところに住んでいる。海面からマイナス4メートルの干拓農地だ。2軒先は酪農家で、牛が草をはむのが当たり前の景観だ。
TPPが日本の景観を壊すことを強く主張したらどうか。農業が食料安全保障に結び付いていると強調することは理にかなっている。同時に稲作が日本の田舎の景観を形作っている。だから農業が必要なのだと言えば、多くの人たちが賛同する。
仮にフランス政府が交渉したら「景観は私たちのものだ。この件で妥協はしない」と主張しておしまいになるはずだ。残念なのは、日本の農村は美しいのに農民がそれに気づいていないことだ。農村がなくなればカエルも蛍もいなくなってしまう。
私は、TPPへの参加の検討を表明した菅直人首相(当時)を、無名の時代から知っている。市民運動家出身で、普通の人や障害のある人たちのことを配慮できる政治家だと思う。以前、厚生大臣として薬害エイズ問題で成果を出した。しかし、財務大臣になると、パワフルな官僚らに丸め込まれてしまったのだ。
「TPPに参加して外部から農業を改革しよう」という議論にも賛成できない。農業は国にとって大切なものであり、それを外圧で変えてしまえというのは乱暴だ。東日本大震災で苦しんでいる農家が多くいる中で、問題が多いTPPによってこれ以上の負担を被災地に強いるようなことには反対だ。(
〈プロフィル〉 カレル・ヴァン・ウォルフレン
1941年、オランダ生まれ。ジャーナリスト、アムステルダム大学名誉教授。82、83年に日本外国特派員協会会長。89年発表の『日本/権力構造の謎』で注目される。近著に『日本を追い込む5つの罠』。
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米国には、経済と軍事の両面で存在感を増している巨大な中国に対して包囲網を築きたいという考えがある。米国の軍事戦略の中に日本は身を置き、中国を封じ込めようとしている。環太平洋連携協定(TPP)は、こうした政治的な戦略の中に位置付けられる。
「中国が地下資源や領土、領海などで攻撃的だ」という意見があることは知っているが、逆に中国にしてみれば、米国と日本が一緒になって圧力をかけていると感じるだろう。米国の戦略にとらわれずに、中国との間で関係改善を図ることが日本にとって必要だと思う。
http://www.agrinews.co.jp/uploads/fckeditor/2012/04/12/uid001010_201204121404366b75cd4b.jpg 私は、自由貿易に対する共感を以前は確かに強く持っていた。知り合いの大学教官などからは「ウォルフレンさんはこちら(TPP推進)側の人じゃなかったのか」とよく聞かれる。だが、TPPは経済の話ではなく、自由貿易を目指すのが目的ではない。本質は、米国の企業に非常に有利な仕組みを押し付けようというもので、貿易を自由化しようというものとは異なる。極めて政治的で、不公平な協定だ。
「TPPに参加すれば自由貿易で全てがうまくいく」という宣伝がされているが、それは間違いだ。政府は何らかの形で自国の産業政策を行うのが望ましい。これには一種の保護政策も含まれる。第2次大戦後、日本経済などもそうして発展してきた。
TPPは、政府と外国企業の間の関係を大きく変えかねない。両国の経済政策や規制などについてこれまでは政府間で交渉してきたが、TPPでは政府と外国企業が直接渡り合うことができるようになる。政府はこれまでのように自国産業を育成しようとする政策をしにくくなる。投資家・国家訴訟(ISD)条項と呼ばれる制度を通じて外国企業は、「不当に競争を阻害された」として政府を直接訴えることができるからだ。
日本の政治家は訴訟を甘く見ているのではないか。「問題」があれば、米国から大勢の弁護士がバッタの群れのように海外に出掛けて「違反」を探し出し、訴えるだろう。米国では勝訴に持ち込み一定割合の報酬を得るため、弁護士が血眼になってあら探しをしている。日本にとって大きな災難が待ち構えている。
・景観守るため反対を
日本では多くのメディアが環太平洋連携協定(TPP)に賛成の立場だと聞いている。編集者が「貿易を拡大していく」というフレーズにひかれる気持ちは分からないでもない。しかし、本質は違うところにあることを知らない。一つはあまりにもTPPの登場が突然で、理解する時間がなかったのだろう。「韓国の成功に続け」みたいな議論があるが、実際には韓国は自由貿易協定(FTA)でひどい状態になってしまうと私は思う。
日本のジャーナリズムでは、農業や農村に関心が向けられていない。東京などの都市があまりにも大きく、ジャーナリストに限らず農村との距離がありすぎる。私はオランダのアムステルダムから車で30分のところに住んでいる。海面からマイナス4メートルの干拓農地だ。2軒先は酪農家で、牛が草をはむのが当たり前の景観だ。
TPPが日本の景観を壊すことを強く主張したらどうか。農業が食料安全保障に結び付いていると強調することは理にかなっている。同時に稲作が日本の田舎の景観を形作っている。だから農業が必要なのだと言えば、多くの人たちが賛同する。
仮にフランス政府が交渉したら「景観は私たちのものだ。この件で妥協はしない」と主張しておしまいになるはずだ。残念なのは、日本の農村は美しいのに農民がそれに気づいていないことだ。農村がなくなればカエルも蛍もいなくなってしまう。
私は、TPPへの参加の検討を表明した菅直人首相(当時)を、無名の時代から知っている。市民運動家出身で、普通の人や障害のある人たちのことを配慮できる政治家だと思う。以前、厚生大臣として薬害エイズ問題で成果を出した。しかし、財務大臣になると、パワフルな官僚らに丸め込まれてしまったのだ。
「TPPに参加して外部から農業を改革しよう」という議論にも賛成できない。農業は国にとって大切なものであり、それを外圧で変えてしまえというのは乱暴だ。東日本大震災で苦しんでいる農家が多くいる中で、問題が多いTPPによってこれ以上の負担を被災地に強いるようなことには反対だ。(
〈プロフィル〉 カレル・ヴァン・ウォルフレン
1941年、オランダ生まれ。ジャーナリスト、アムステルダム大学名誉教授。82、83年に日本外国特派員協会会長。89年発表の『日本/権力構造の謎』で注目される。近著に『日本を追い込む5つの罠』。
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