二本足の學者を目指して

賢を見ては齊しからん事を思ふ

【映畫「ロストケア」に關する私感乃至は覺書※加筆】

2023-03-31 13:02:34 | 映畫
【映畫「ロストケア」に關する私感乃至は覺書※加筆】

※以下、推敲などは施してゐない爲、非常に纏まりが惡い文章です。他人に讀んで貰ふと云ふよりも、みづからの覺書と云ふ要素が強いです。

去る令和5年3月27日(月)、映畫「ロストケア」を觀に、映畫館へ向かひました。餘談ではありますが、私、初めてムビチケと云ふものを使用しました。

然し、廣島市と云ふ地方都市の、正確には廣島市ではない市町村に於けるショッピングモールでのレイトショーですから、館内はほゞ貸切のやうな状態でした。

矢張り、映畫の魅力と云へば、映像であり、俳優さん、女優さんの美しさに據るものが大きいでせう……。若し、何らかのメッセージを屆けるなり、それなりの思想を世に問ふのであれば、小説でも、評論でも、論文でもいゝ訣です。

私のばあひ、最近、長澤まさみさんを目當に映畫館に通ふ事が結構あります。之は内田有紀さんにも同じ事を感ずるのですが、若かりし頃よりも、適度に年齡を重ねられた最近の長澤さんのはうが、格段に美しく見えます。評論家の白川司さんに據ると、アイドルの條件とは未成熟である事(白川司著「14歳からのアイドル論」青林堂)なのですが、長澤さんもデビュー當時はアイドルと稱される事があつたやうですが――個人的には、星泉としての長澤さんはアイドルとしての要素があつたと思ひます――、今では當然ながら、成熟した女優さんです。

とは云へ、さう云ふ事を私の拙い文章で述べても、女優さんの魅力に就いては一切傳はりません。之ばかりは、映畫を觀て頂くしかない事です――それも出來れば映畫館で……。

と云ふ訣で、私が自分なりに作品に就いて考へた事を、以下、何點か書いて見ようと思ひます。なほ、私は原作は讀んでゐませんし、映畫化に當つての制作陣の意圖と云ふやうなものは、自分の頭に仕入れてゐません。周邊の情報には成る可く依據せずに、實際にみづから、映畫を觀た際の感想を基にして、自分なりの考へを述べます。文藝評論に於けるテキスト論のやうな態度を採用しようと思ひます。

また、同作に就いての詳細な情報に就いては、同作の公式サイトやWikipedia等を參照されるといゝでせう。

「ロストケア」は、42人の要介護である老人を殺害した介護士である斯波宗典(演・松山ケンイチさん)と、檢事である大友秀美(演・長澤まさみさん)とが、己れの正義をかけて鬪ふと云ふ内容です。檢察官の在り方に就いて、實際の日本國に於ては、己れが描くストーリーに事實を從はせようとする傾向がある、とはよく批判される事です。が、今はさう云ふ實際の問題乃至傾向は措いて置きます。

人が人を裁くのではなく、法が人を裁くのだ、とはよく云はれる事です。それが法治國家である事の一條件です。人が人を裁くのであれば、それは人治國家であります。然し、之は化學の世界に於てさへ當嵌る事でありませうが、何かを人間が扱はうとすれば、必ず、主觀が入交じる、それが人間であります。それは、法を扱ふ人間も例外ではありません。

また、「ロストケア」では、檢事は登場しても、辯護士や裁判官は登場しません。檢察官が矛であれば、辯護士は楯であり、裁判官はバランス(天秤)でありませう。「42人の要介護である老人を殺害した介護士」なんて云ふ事件が起これば、實際の世界では必ず、人權辯護士と云ふ類の人間が登場して、マスコミが取上げさうなものですが、「ロストケア」では、そんな人間は登場しませんし、法廷だの、求刑だの、さう云ふ話迄は扱はれません。

介護士の正義と檢察官の正義とがぶつかるのですが、處でこの「正義」とは何でせうか……? とまあ、言及するまへに、同作では新約聖書の言葉が引用されます。實際の映畫に於ては、くだけた現代語譯なのですが、「舊新約聖書(文語譯)」では、以下のやうに記されてゐます――。

さらば凡て人に爲られんと思ふことは、人にも亦その如くせよ。これは律法なり、預言者なり。

――との事です。「律法」とは、クリスト教に於ける、倫理的道徳的な規範である、と解釋して差支へないでせう。詰り、之は、政治や國家にかゝはる法の領域ではなく、個人にかゝはる道徳的な領域です。

私は、以前、「絶對に就いてとConscienceに就いて」と云ふブログ記事(※A)にて、以下のやうな事を記してゐます――。

「Conscience」とは、手元の英英辭典(※1)には、以下のやうに定義されてゐる。「the part of your mind that tells you whether what you are doing is morally right or wrong」と。本來、道徳上の善惡とは、goodとevilであり、政治的法律的な正不正をrightとwrongとする。Conscienceの定義には、道徳的な正不正とある。因みに、wrongとはrightではないと云ふ事である。

(※1)「LONGMAN Active Study Dictionary 5thEDITION」

政治的領域に於ける法に纏はる正不正とは、可變である。法は(無論、憲法も含め)、不完全な人間が拵へるもので、改正されたり、改惡されたりするものだからである。きのふ、正だつた事が、けふ、不正になつたり、亦、その逆もあり得る。それゆゑ、事後法の禁止が定められてゐる。この可變である法の正不正と事後法の禁止に就いては、譬へば、ポルノの販賣や所持と云つた法的問題に就いて考へて見ると、より話が具體的にならう。一方で、道徳に纏はる善惡とは、不變である。松原も云ふやうに、どのやうな時代、どのやうな政治體制の國にあつても、譬へば、親殺しは、道徳的惡なのである。そして、道徳の領域とは、エリオットが云ふやうに、「政治に先行する領域」なのである。

(※A)

平成二十九年一月二十二日(日)絶對に就いてとConscienceに就いて(追記) - 二本足の學者を目指して

絶對に就いてとConscienceに就いて「松原正全集第二卷文學と政治主義」(圭書房)には「福田恆存の思ひ出」と云ふ文章がある。その中に、以下のやうな話がある。そこで、ニ...

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――以上です。

神が司る道徳の領域では、善=Good、惡=Evil

政治が司る正義の領域では、正=Right、不正=Wrong(Not Right)

神が司る道徳の領域に於ける善と惡とは上下の關係であり、この上下が逆轉する事はあり得ません。一方、政治が司る正不正の領域とは左右の關係であり、この左右の關係は、可變の状態です。非常に分り易い例を擧げれば、自民黨の憲法改正派に據る正義と野黨の護憲派に據る正義とは、兩立し得ない訣です。

斯波は、みづからが父親を介護し續けて、斯波も父も生活に困窮したすゑ、父親のまだらな意識が時に正常化した際、斯波は父に自分を殺めるように頼まれて、それを實行するのですが、幸か不幸か、その殺人は發覺せず……、さう云ふみづからの個人的な經驗と過去とを敷衍して、みづからと同じやうな状態にあると(斯波が思ふ)介護先の依頼人を「救ふ」爲、要介護である老人を殺めて行きます。

斯波が父に依頼されて父を殺めて了つた事に就いて、大友は法的な立場から考慮の餘地があると斯波に語るのであり、それは法にたづさはる者として當然の在り方と云へます。

處で、「救ひ」とは何でせうか……? 「ロストケア」でも語られてゐるやうに、國家の在り方、政治の在り方も、所詮は不完全である人間がつくるものですから、完全たり得ません。斯波も、惱んだすゑに生活保護を申請しましたが、その申請は受理されませんでした。成程、政治の在り方、國家の在り方が完全であれば、誰もが仕合せになれる筈です。少くとも不幸にはならない筈です。

福田恆存には、以下のやうな言葉があります――。

文學は――すくなくともその理想は、ぼくたちのうちの個人に對して、百匹のうちの失はれた一匹に對して、一服の阿片たる役割をはたすことにある。
(「一匹と九十九匹と」)

――之は、文學のみならず、本來、宗教や藝術全般に就いても當嵌る事です。今日では「推し」が、「一服の阿片たる役割をはた」してゐるとも云へませうか。人生に於て、辛い事から免れられる人はほゞ皆無でありますし、集團的な概念や制度である政治は、個人を餘す事なく「救ふ」事は不可能です。

頗る陳腐な云ひ方ではありますが、政治の埒外にある人に對する「救ひ」とは、斯波のやうに、實際に人を殺める事によつて、その人とその周邊の人々を、直面してゐる困難から「救ふ」事ではありません。もし、そのやうな人治國家的な在り方が採用されゝば、その國家は實際には(近代)國家とは云へない、無秩序な世界へと變貌して了ひます。

成程、政治や國家は、凡ての人達を政治的に救ひ得ない……。だからと云つて、法治國家と云ふ在り方を否定して了へば、政治的に助かる(救へる)筈の百匹のうちの九十九匹の生活さへもが危ふくなります。

斯波と云ふ人間は、宗典と云ふ名前が象徴してゐるやうに、新約聖書の言葉が引用されてゐる事が象徴してゐるやうに、恰もみづからが神に成り代はり、人々の生死に關して、「救ひ」を行へると考へて、實行した處に、彼の思ひ上がりや傲慢が看取出來ます。之また陳腐な云ひ方ではありますが、みづからが辛い經驗をしたからとて、政治的に救はれなかつたからとて、それが他者を殺めていゝと云ふ理由にはなり得ません。また、法治國家と云ふ最もベターなシステムを採用する以上(人間が行ふ政治にベストはあり得ません)、斯波のやうな犯罪は許してはならないのです。

なほ、その斯波が、戰爭がさうであるやうに、國家や政治は、人が死ぬのを認めるのか、と云ふやうな意味合ひの事を語つたと記憶しますが(映畫は一度しか觀てゐないので、正確な臺詞の引用が出來ません)、有事法制が定められてゐる「普通の國家」では、戰場にて軍人が軍人を殺したとて、それが殺人罪に問はれる事はないのです。今の日本國は、その「普通の國家」ではない事が問題なのですが……。

因みに、昨日、映畫「シン・假面ライダー」を觀ましたが、此方も人間に據る人間の「救ひ」がThemeでしたね。「ロストケア」と「シン・假面ライダー」、アプローチの仕方や作風は異れども、「救ひ」と云ふ事に關する人間の傲慢と云ふ點では、非常に共通してゐました。

#ロストケア #シン仮面ライダー
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【映畫「THE LEGEND & BUTTERFLY」短感】

2023-03-16 20:21:07 | 映畫
【映畫「THE LEGEND & BUTTERFLY」短感】

ちやうど御晝の時間帶に「レジェンド&バタフライ」を觀に映畫舘へ行きました。

脚本を擔當された古沢良太さんは、「リーガル・ハイ」や「コンフィデンスマン」と云ふ現代物のコメディと云ふ印象が個人的には強いのですが、最近は大河ドラマ「どうする家康」や映畫「レジェンド&バタフライ」と云つた歴史物を書かれてゐますね。

「どうする家康」は東照大權現を相對化する狙ひがあり、パロディの要素が強いのですが、信長と歸蝶を主人公とヒロインに据ゑた「レジェンド&バタフライ」は、硬派な要素が強い、歴史を題材にした大人のラヴストーリーですね。

さう云ふ映畫のイメイジに、木村拓哉さん、綾瀬はるかさんが非常に合致してゐると感じました。企劃があり、兩人の配役が決まつたうへで、脚本家さんに話が行つたのではないか、なんて妄想して了ひます。

それにしても、Twitterでもどなたかがツヰートされてゐましたが、「さう來るかあ!」と云ふ後半に於ける御話の展開には驚きました。また、最も心醉する人間とは、ともすれば、心醉される人間にとつて、最も危險な存在となり得るのですね。この邊、ネタバレになる爲、詳述は出來ませんが……。

譬へば、三島由紀夫は、實際の天皇陛下を見てゐたのではなく、自分の中にある理想の天皇像のみを愛し、半ば、自慰行爲に陷り、實際の天皇陛下は理想的ではないとて、憎んでゐさへゐました。一人の人間として、明治天皇を慕ひ續けた乃木希典とは、全く違ふ訣です。

三島由紀夫にとつて、天皇陛下が人間である事は、認められない事だつた訣ですが、それは反道徳ではなく、没道徳な在り方であり、國を憂へる三島由紀夫の作品が、悉くポルノである證左なのです。

「人間」と云ふキーワードを「レジェンド&バタフライ」から見出して、私は以上のやうな事を考へました。が、ネタバレになる爲、之以上は書きません。

#レジェンドアンドバタフライ #木村拓哉 さん #綾瀬はるか さん #宮沢氷魚 さん #古沢良太 脚本

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【朝ドラヒロインの御相手】

2023-03-03 13:20:38 | 「舞いあがれ!」レヴュー
【朝ドラヒロインの御相手】

私も全ての朝ドラを觀てゐる訣ではありませんが、朝ドラを觀る際、注目される要素の一つは、ヒロインであるこの子は誰と結婚するのか、と云ふ事です。

一方、モデルがゐる朝ドラのばあひ、ドラマは夫婦ものとして展開されますね。「ゲゲゲの女房」、「エール」、「まんぷく」、「マッサン」邊がさうで、春からスタートする「らんまん」もさうです。

「舞いあがれ!」のヒロインである舞は、航空業界のサラブレッドである柏木とは結婚せず、お隣に住む幼馴染と結婚しました。然も、その前段階として、舞はパイロットになると云ふ世間的に華やかだと思はれ勝ちな夢を諦めてゐます。

「梅ちゃん先生」のヒロインは、エリート醫師とは結婚せず、隣に住む頗る庶民的な幼馴染と結婚しますから、「舞いあがれ!」と同じです。「ひよっこ」のヒロインは、(國家權力にたづさはる)警察官とも、製藥會社の御曹司とも結婚せず、見習ひの料理人と結婚します。NHKの重役とはエリートの側に立つ人達なのでせうが、彼等には、「かう云ふのが庶民には受けるだらう」と云ふ作品のイメイジがあるのではないでせうか。

成程、反國家だとか反エリートだとか、さう云ふ要素は團塊の世代以上の高齡者達には好まれさうですね。

一方、ヒロインが醫師と結ばれるものゝ、結婚迄は描かれなかつたのが「おかえりモネ」であり、同作は、その點、Typicalな朝ドラではなかつたと云へませう。
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