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車止めピロー:旧館

  理阿弥の 題詠blog投稿 および 選歌・鑑賞など

岡本雅哉さんのうた

2009年11月26日 | 八首選 - 題詠2009
岡本雅哉さんの歌から8首。


003:助
ふり払う腕はつかんで欲しいのよ助けるのってそういうことよ

010:街
市街地で育ったんだねやわらかくひとのあいだをすり抜けるきみ

018:格差
格差とか感じません、って。あなたまだゲームに参加していないでしょ?

020:貧
貧しさがもう白くないiPodのイヤフォンコードにからみついてる

031:てっぺん
またすぐにしゃがんでしまうてっぺんをやさしくなでてほしがるわたし

043:係
「係員の指示に従ってください」(依頼の形の悲鳴その1)

061:ピンク
毒キノコみたいに彼女が身にまとうピンクハウスがふりまく胞子

084:河
氷河って流れないのに河なんだ(涙も流れないのに涙)



10番。
この方の百首で、私的ベスト。
相手の新たな一面を知った、ということをこんな切り口で書けるなんて。

18番。
格差を嘆いた歌は数あれど、嘆いている人を詠った歌はあまりなかった。

61番。
ここ十年くらいに出来たブランドや、バンド、タレント、
流行りものなどを詠みこんだ歌は、普段なら採らないと思うんだけど、
毒キノコ、胞子の喩えが抜群に上手くて、ツボりました。
いや~、あの胞子は確実にいろんなものを冒してるよね。
シニカルな視点が◎。

うまい、と呟きながら読んだ岡本雅哉さんの百首。
短歌の腕があるって、自分にとってこういう人のことなんだな、と再確認。
相聞歌なども、じめっとしてないところが好きです。

ほたるさんのうた

2009年11月25日 | 八首選 - 題詠2009
ほたるさんの歌から8首。


080:午後
溶けきった氷で二層になっている午後のカルピス薄まる母性

079:恥
恥ずかしい過去だけ舐める動物をペットショップで買い与えられ

071:痩
痩せていく猫の背中の鍵盤をなぞれば生命(いのち)のか細さ響く

062:坂
坂道で落としたリンゴ 手を離す赤い風船 あるいはあなた

055:式
ねじ巻き式オルゴールが鳴り終わるまで静かな静かなくちづけをして

041:越
越えられぬかなしい夜に抱いている灰色猫の残した重さ

028:透明
透明な傘のクラゲが寄り添って孤独分け合うマルキュー前で

009:ふわふわ
ふわふわの綿毛を飛ばすくちびるはほんの一瞬無防備になる



9番。
無防備になるのは、その唇か、こちらの心か。

62番。
取り返しのつかないこと、けして戻らないもの。そして人。
追いかけることでしか距離を縮められない悲しみ。

71番。
背中の鍵盤。
衰えた猫に触れたことがなくとも、その感触を読み手の掌に蘇らせる。
いつまでもそっと奏でてやりたくなるような、優しい歌。

一夜さんのうた

2009年11月24日 | 八首選 - 題詠2009
一夜さんの歌から8首。


099:戻 
「あの頃に戻りますか」と手を繋ぎ 五十路街道花散る丘も

068:秋刀魚
七輪で焼いてごらんと皺寄せて 港朝市秋刀魚売りし婆

066:角 
ひとことに角持つ女(ひと)の横顔が 紅葉の色に寂しく霞む

057:縁 
見上げれば澄んだ青空広がりて 縁切り寺の境内静む

038:→ 
黄昏の湾岸線の急カーブ →横目に交わす唇

021:くちばし 
くちばしで優しくつつくフリをして 心の奥の痛みついばむ

012:達 
棚の上鎮座まします達磨さま 他人(ひと)のあれこれ見ても見ぬフリ

004:ひだまり 
かれといるひだまりのよなやすらぎは お湯割り焼酎持つ手に似てる



68番。
このお題に七輪を詠みこんだ作品は、他にも多く見ましたが、
秋刀魚と七輪って、本当に相性がいいですね。

近藤かすみさんのうた

2009年11月24日 | 八首選 - 題詠2009
近藤かすみさんの歌から8首。


099:戻
今となれば堀川一条戻り橋水なき溝に枯葉あつまる

090:長
どなたかが剥いてくださつた甘栗を食みつつ長い手紙も書かず

086:符
改札を人より先に通りぬけ露払ひする切符いちまい

084:河
どこからが河なのだらう鉄橋を渡れば規則ただしくゆらぐ

072:瀬戸
五条坂の瀬戸物市のにぎはひに母の手強く握りなほしつ

048:逢
逢ふときを待ちつつ咲(ひら)く時計草そこだけゆつくり夏の暮れゆく

027:既
既婚者に恋する権利もうなくてときをり夫の自慢などする

022:職
職業欄に専業主婦と記すときふいに笑ひがこみあげて来つ



詠み慣れた方の歌は、言葉の扱いが巧みで丁寧で、
読むほうは余計な力が入らない。
定型の持つ力の大きさを再確認できる。
そんな近藤かすみさんの百首。

90番。
だれかがボトルに詰めた水を飲んで、必要ならメールを書いて、
買い物はワンクリックで家に届けてもらって。
この一首がいいのは、その中に価値判断を含んでいないから。
安易な社会批判は、やっぱり短歌にそぐわない。

27番。
権利が無い、という心の裏には、既に恋してしまったという事実が隠れていて、
なぜなら恋とは、意識したときには既に罹ってしまっているものだから。
その上でする「夫自慢」が、ゆかしく、おかしく、可愛い。

花夢さんのうた

2009年11月24日 | 八首選 - 題詠2009
花夢さんの歌から8首。


088:編
古本屋に平積みされた短編集も郷愁もいやなにおいだ

079:恥
破廉恥という語のリズムでステップを踏んで男と女が踊る

062:坂
ひとりぶん生きられるだけの買い物をして夕暮れの坂道をゆく

059:済
使用済ナプキンひとつ捨てながらおんなをもてあますこともある

049:ソムリエ
大袈裟なままごとみたいソムリエに似た葬儀屋が凜と佇む

022:職
ひっそりと職場のなかに湧いている気泡のことをあなたに話す

009:ふわふわ
ふわふわのオムライスからはなたれるこんなにもしあわせってひかり

001:笑
ひだまりで微笑みながら寝る猫がそれにしたってひどい毛並みで



88番。
郷愁は寂しすぎて、そして時には甘ったれの匂い。

22番。
気泡・・・なにかの予兆でしょうか。
おそらく作中主体を含め、数人だけが気付いているような、
それほどヒッソリしたもの。
「気泡」って、自分の語彙にはあっても歌作時にはなかなか思い浮かばない。

9番。
共感度150%。

花夢さんの歌は、静かで透明で・・・
それでいて何かに倦んでいるような、
少し悲しい空気を持っている。そんな百首でした。

田中ましろさんのうた

2009年11月24日 | 八首選 - 題詠2009
田中ましろさんの歌から8首。


097:断
男断ちしてるだけよと君は言う 乾いた冬がニヒヒと笑う

088:編
夜なべしてあなたが編んだマフラーで縛ったりして怒られている

084:河
河川敷沿いのベンチに残ってる夏の僕らが混ざった液体

062:坂
抱き合って芝生の坂を転がれば服を脱がせていいと思った

055:式
安全日 言いきる君が信じてるナントカ式を信じきれない

044:わさび
刺激物わさび:用法・用量を守ってお使いください、人には。

027:既
既視感のある感触と声ありて整形技術の進歩を思う

014:煮
燃えさかるベッドでふたり煮崩れて人であることさえ忘れてく



62番。
いいと思います!

27番。
ハッと気付いたときの驚き、あるいは恐ろしさ。
突然離れられないし・・・
うーん。これは怖い。

14番。
うだった感覚は天然の麻薬。

桶田 沙美さんのうた

2009年11月22日 | 八首選 - 題詠2009
桶田 沙美さんの歌から8首。


099:戻
もう二度と戻ることなどないのだと椿の花を渡されて知る

074:肩
君が泣くその肩に手をかけようとしてかけられぬ、友達として

053:妊娠
妊娠を気にせず身体重ね合う女を愛する女で良かった

037:藤
寝付けない真夏の夜に見た夢はセーラー服を着た藤岡弘、

036:意図
なぜ君がキスした意図を測りかねさよならなんて言ってしまったかな

032:世界
撫でつなぎ愛を確かめあたしには世界の果ては君のゆびさき

031:てっぺん
人間は食物連鎖のてっぺんに居ると教師に言われても、ねぇ

013:カタカナ
カタカナデアタシトアナタノナマエカキアイアイガサヲカクカデマヨウ



32番。
世界の果ては君のゆびさき!
その指先、そこからさらに先にはもう、どこへも行ける場所が無い。
なんという強烈で、切迫した宣言だろう。
愛は容赦なく世界を切り分ける。
愛を知る者は、果てを知り、
果てを知る者は、悲しみと覚悟を知る。

ぷよよんさんのうた

2009年11月22日 | 八首選 - 題詠2009
ぷよよんさんの歌から8首。


090:長
ゆるやかな進行形である空にひこうき雲は長く尾を引く

082:源
きみと行く分水嶺の源流のその先にある確かな孤独

079:恥
一点の恥骨にかかる重心をそのままにして無花果を剥く

049:ソムリエ
軽々とソムリエナイフ使う手が占領する夜は仔犬になろう

039:広
目的はカラダだけだと割り切れば広がりゆく海 夏はもうすぐ

037:藤
藤の香をたどってきみを閉じ込める棚から流るるむらさきの檻

011:嫉妬
底冷えの朝の冷水シャワーでもさめえぬたぎり これかよ嫉妬

002:一日
一日のきみのことばを追いかけてバターになって溶けちゃうあたし



90番。
飛行機雲って、時間の経過がほとんど静止画に
ちかい形で姿を留めてるんですよね。
ゆるやかな進行形、とは言いえて妙。
かたちを崩して消え去るまでの、はてしもないような時間。

2番。
言ったこと、言わなかったこと、言ってほしいことが、
ぐるぐるぐるぐるぐるぐる・・・
ことばの尻尾を追いかけて、飽くことを知らず。

湯山昌樹さんのうた

2009年11月22日 | 八首選 - 題詠2009
湯山昌樹さんの歌から8首。


086:符
ウインドゥの八分音符のブローチを贈るあてなく視線をそらす

070:CD
かさ高なCDなれど作り手の心が見える そのかさ高に

061:ピンク
ピンク色の芸人テレビで活躍す 替えは何枚あるのだろうか

052:縄
あの時に適当な縄があったなら今は生きてはいないと思う

047:警
一度だけ警察の部屋に入りたり 教え子亡くせしあの夕方に

035:ロンドン
ロンドンに行くことなくて生徒らにかの地の風物教える 辛し

013:カタカナ
できる限りカタカナ言葉を使わない「こどもニュース」を見習わんとす

009:ふわふわ
豚まんからふわふわ昇る湯気を追いヨコハマを泳ぐ雲を見つけた



教育現場からが主な、湯山昌樹さんの百首。

9番。
近景→遠景。かわいらしい、映像的な一首。

たざわよしなおさんのうた

2009年11月22日 | 八首選 - 題詠2009
たざわよしなおさんの歌から8首。


067:フルート
脊椎の畝を幾つと数えおりパンフルートのための唇

064:宮
精神科病院の空は無為かな かつて宮大工でありしひと

061:ピンク
夜の更けたスーパーに残るモノとか我も裏返したらピンク色

048:逢
青嵐吹けば旅路の支度して逢へば添ひ寝の向き思ひ出す

039:広
上野広小路の午前二時の吐瀉物を踏む寸前に抱かれる

027:既
既に知る性感帯も左手の指輪外して触れて下さい

023:シャツ
もう終はりと思ふならLサイズのシヤツは箪笥から捨ててしまへば

022:職
仏蘭西の映画を想ふ職人の二の腕 庭の花梨失せし日



たざわよしなおさんの百首は、淡々としている。
日々、おりにふれ胸の中にある小石をコツッ、コツッと
置いていっている、そんな感じを受けた。
たまに添えてある写真のせいかもしれない。
簡単に心情を吐露する歌より、もっと誠実な、そんな淡々とした暦程。

67番。
牧神のイメージとの重層的な響き合い。うつくしい。

48番。
永遠のさすらい。

39番。
結句に驚き。ここに「抱かれる」を持ってこられるとは・・・!

emiさんのうた

2009年11月21日 | 八首選 - 題詠2009
emiさんの歌から8首。


069:隅
今年もまた隅田の花火咲きましたと老いゆく母は小さな声で

039:広
日曜の朝に広がる青空を指さして見たどこまでが青

030:牛
牛酪を焦がして今日の始まりがまったりとゆく外は雨です

026:コンビニ
買い忘れの卵ありますと書かれてコンビニの横で生きるよろず屋

021:くちばし
啐啄の機を待ち望み母鳥は赤きくちばし柔らかく打つ

005:調
路線図を調べる人はその先にある悲しみにまだ気づけない

004:ひだまり
ひだまりで笑う少女のスカートが揺れて春の日さよならと言う

002:一日
足音の主を探して一日を終わらせてゆく少女は悲し



21番。
幼少のころかっていた十姉妹のことを思い出しました。
薄桃色のくちばしをしていた。
彼女も子を生すことを望んでいたんだろうか。

5番。
全ての人は、未来に向けて
無防備な設計図を掲げて。

4番。
ぴたり、と決まった一首。
一幅の絵、一瞬の記憶。

松原なぎさんのうた

2009年11月20日 | 八首選 - 題詠2009
松原なぎさんの歌から8首。


098:電気
同情に泣くのは負けだやさしみの電気毛布で獅子舞いしやる

086:符
また胸が大きくなったわたしたち知らない街の切符をひろう

082:源
ハモニカがなけりゃ電源タップでも吹いたらいいよ天かけるうた

050:災
災いという字をひとつずつほどくいまは静かなあらゆる指が

045:幕
幕がひくようにしずかに海、満ちる背中合わせのふたりの中で

037:藤
藤棚のような腋窩をもつ人のあたえるへヴンもしくは、触れる

017:解
補助線として透明なあなたの瞳 椎骨ひとつずつ解かれる

010:街
あの街に虹がさすのを待っているわたしひたすらタンバリンうつ 



82番。
おきらくごくらく、前向きな。

50番。
「災」が握った拳に見えてきた。
指を解き終わったときに待っているのは何。

45番。
海はやがて荒れることもあり。

五十嵐きよみさんのうた

2009年11月20日 | 八首選 - 題詠2009
五十嵐きよみさんの歌から8首。


099:戻
羅紗紙がやぶれた本を強引に箱に戻して終える少女期

083:憂鬱
憂鬱とつぶやいたあとの唇のかたちでいるから慰めにきて

074:肩
天使への昇級試験を待つような肩甲骨が浜辺にならぶ

069:隅
水入れを飽かず眺めた隅々に絵筆の青が行き渡るまで

053:妊娠
妊娠はあした見る夢 海からの風に翻弄されるパーカー

028:透明
透明にしておくという約束の父とのあいだに秘密がきざす

026:コンビニ
〒や卍はあるのにコンビニの記号が地図にまだないなんて

011:嫉妬
ラジオから古いシャンソン恋しさや嫉妬を鳥になぞらえながら



題詠blogを企画してくださっている、五十嵐きよみさんの百首。
仏の小説を下敷きにされたとのこと(サガンかな?)。

99番。
ラシャ紙が象徴しているのは、ある種の処女性、
ナイーヴさでしょうね。大人には理解できない、
幼きものたちが神経質なまでに大切にしていることたち。
そして突然、ほんとうにある日とつぜんに、
それらと訣別することになる。
夢の世界に別れを告げ、次の一秒から老成してゆく。
もう振り返らないし、振り返ったとしても、
その視線には必ず懐かしさを伴っているでしょう。

「強引に箱に戻す」ことが出来なければ・・・夢見る少女のまま。

茶葉四葉さんのうた

2009年11月20日 | 八首選 - 題詠2009
茶葉四葉さんの歌から8首。


097:断
ふり注ぐきみの笑顔を断って 決めねばならぬことひとつある

095:卓
あたたかき朝日のさした食卓に用意できない君だけの席

091:冬
秋が去り冬を迎えるこのときに 答えなんかを出さなくていいのに

074:肩
ばっさりと肩まで届いた髪切られ あぁいつだって前の方が好き

064:宮
数日で数十年がすぎてゆく竜宮城に すくわれていよ

057:縁
縦長のそこだけやぶって縁のない写真の肩に手だけは、だれだッ

037:藤
その藤の一房長かろうが短かろうが語れぬものは語らぬが良い

014:煮
もともとが叶わぬ仕組み添えぬ訳、煮え切らないと自分で言うな



57番。
なんかいろいろな場面が思い浮かぶ、面白い歌ですね。
恋愛の修羅場かもしれないし、
犯人探しのサスペンスかもしれない。
肩に手だけって、心霊写真的な怖さもある。
大物政治家と肩を組む、闇のフィクサーだったりして・・・

97番。
その「ひとつのこと」を決めさせないために、
笑顔を降り注いでるんですよね。
最後のひとことだけは、どうしても言わないで。
なにも言わずにこのまま、このままでいましょうと。

流水さんのうた

2009年11月19日 | 八首選 - 題詠2009
流水さんの歌から8首。


097:断
遮断機の向こう側にはもう既に顔も忘れた夏たちがいる

092:夕焼け
夕焼けの踏切待ちで二人して轢かれ続ける影を見ていた

071:痩
地下鉄を出れば雨に叩かれる東京タワーも痩せて独りだ

070:CD
B面を捨てて久しいCDに哀しい歌が唄えるものか

066:角
紙マッチ擦(す)って月日を燃やす夜少し残した角瓶空ける

065:選挙
街頭の総選挙前の演説を聴くでもなしに犬繋がれている

043:係
背もたれて陽を浴びた壁の温もりが互いに伝わるやうな係わり

002:一日
愚直とは淋しい形 佇ちすくむ郵便ポストの一日千秋



70番。
レコードがメディアとして普及してたのって、半世紀と少しなんですよね。
長いと見るか短いと見るかはそれぞれでしょうけど、
それを少しでも楽しめたのは、幸せだったのかもしれないなぁ。
スプレー吹いて、埃をとって、針を落として。
裏返したB面から聞こえるのは、懐かしいノイズと滅びのエレジー。

66番。
灰になっていく、写真や手紙。未練を残さないための儀式。
その夜だけは、思い出に酔ってもいい。


語るべきこと、そうでないこと。
それらのバランスがとても心地いい流水さんの短歌。
見習いたいけど、こればっかりはセンスか・・・。