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車止めピロー:旧館

  理阿弥の 題詠blog投稿 および 選歌・鑑賞など

完走された方々の「勝手に代表作」 3/3

2009年12月19日 | 八首選 - 題詠2009
後半の60人です。



星桔梗さん         いつまでも煮え切らないのは悪い癖賞味期限を定めましょうか
お気楽堂さん         なぜ首位がマイナスなのと言う声の足元見れば赤いピンヒール
yuntaさん         ぴかぴかの目玉の魚買うのだと秋刀魚見るたび母の声して
流水さん         背もたれて陽を浴びた壁の温もりが互いに伝わるやうな係わり
茶葉四葉さん         秋が去り冬を迎えるこのときに 答えなんかを出さなくていいのに
五十嵐きよみさん         天使への昇級試験を待つような肩甲骨が浜辺にならぶ
松原なぎさん         災いという字をひとつずつほどくいまは静かなあらゆる指が
emiさん         牛酪を焦がして今日の始まりがまったりとゆく外は雨です
たざわよしなおさん         脊椎の畝を幾つと数えおりパンフルートのための唇
湯山昌樹さん         豚まんからふわふわ昇る湯気を追いヨコハマを泳ぐ雲を見つけた
ぷよよんさん         ゆるやかな進行形である空にひこうき雲は長く尾を引く
桶田 沙美さん         撫でつなぎ愛を確かめあたしには世界の果ては君のゆびさき
田中ましろさん         河川敷沿いのベンチに残ってる夏の僕らが混ざった液体
花夢さん         ひっそりと職場のなかに湧いている気泡のことをあなたに話す
近藤かすみさん         職業欄に専業主婦と記すときふいに笑ひがこみあげて来つ
一夜さん         七輪で焼いてごらんと皺寄せて 港朝市秋刀魚売りし婆
ほたるさん         痩せていく猫の背中の鍵盤をなぞれば生命(いのち)のか細さ響く
岡本雅哉さん         市街地で育ったんだねやわらかくひとのあいだをすり抜けるきみ
はづき生さん         川川に戻りきたる鮭鮭の群れ背に背をあらひ瀬を上りゆく
O.F.さん         わたくしは人間の屑 鳩たちに食べられちゃいたいパン屑みたいに
ワンコ山田さん         隣室の満艦飾のベランダと同じ風受けわたしが渇く
穂ノ木芽央さん         クリックの果ての世界を知らざりき少年けふも鹿の肉裂く
田中彼方さん         洗礼者ヨハネの首を持つ
             サロメみたいに、
             シフォンケーキを君が。

bubbles-gotoさん         みんなみんな既婚者になっていく夜だ 電気毛布の取説を読む
遠藤しなもんさん         春暖の候、わたくしはすれ違う人の好意に甘えています
かりやすさん         聖職者の瞳をもちて野良猫が仕事で凹むわれを迎へむ
やすまるさん         ああ世界にのはらはあって春ごとの朱色の花は伝播してゆけ
紫月雲さん         ひとひらの枯葉を連れて帰りくる貧しき人に電気は灯る
村木美月さん         調和してたまるかって言うように街のポストは今日も酔ってる
内田かおりさん         尾を振りて牛はただ立つ山際に落日の朱沁みて秋行く
今泉洋子さん         帰省せし子のまた去りゆくシャツの背に白きはやかに晩夏のひかり
TIARAさん         新雪を歩調合わせて歩く朝ひかる一つの楽器になれる
佐山みはるさん         佳きひとの住みたまへるかカーテンに風さわりゆく新しき家
HY さん         満開の藤棚仰ぎ観て思う仙女の天蓋この如くかと
ひぐらしひなつさん         花街に花なくかつて花たりしひとの曲がった影ゆくばかり
村本希理子さん         みみたぶをぬらす雨粒ふたつみつ逢ひたいひとのゐないしあはせ
千坂麻緒さん         いいやつを演じることに疲れたら藤井くんもう銃は捨てろよ
小林ちいさん         マイナスを持ち寄り二人寄り添えばゆっくりゼロになってく不思議
はせがわゆづさん         欠片からこぼれた命を受け止めて夜毎繰り返す獏の妊娠
keiさん         路線図は複雑すぎる夏痩せの人差し指に負担がかかる
みぎわさん         解毒剤もたずに恋は堕ちるべし泥濘ふかく身は汚すべし
ろくもじさん         警報をかき鳴らせギター、これからもやっぱりひとりで生きるのだから
月原真幸さん         既視感が押し寄せてくる夜だからイヤホンをする 点滴がわり
ME1さん         夕焼ける水の鏡に映る陽は満たされていた春の残像
星川郁乃さん         くちばしのない生きものであることの愉悦 わたしはやわらかな水
柚木 良さん         笑わせちゃいけないのだと怒られるとくに悲しくない人たちに
水風抱月さん         艶かなる黒髪編める母の指 耳朶を擽るかさつき愛し
香-キョウ-さん         艶やかな黒髪映える藤色の花びら連なる 簪揺れる
わらじ虫さん         言い訳とキスが上手になっていた赤の他人じゃないだけのひと
ぱんさん         ペットボトル入りでもいいや あたしたちソムリエナイフなしでも笑える
にいざき なんさん         職安の長椅子に座る君の手を握れば今すぐ連れ出すぜ僕
みち。さん         この街の壊死した場所になんとなくなんとなく埋めていくどんぐり
志井一さん         私にも居場所ができた ありがとう「格差社会」と名付けてくれて
帯一鐘信さん         ぽつぽつと穴のあいてる傘をさし悲しい歌が水玉になる
笹本奈緒さん         来なきゃいい夜中のバスを冬型の気圧配置の隅で待ってる
鯨井五香さん         片道でロンドンへ発つ秋晴れのそのジャケットはあなたに似合う
ほきいぬさん         あとはもう足首からめ眠るだけ ベッドの下には脱いだ役柄
里坂季夜さん         悩みなどないのでしょうと笑われて明日もこんなかんじでいこう
青山みのりさん         親殺しのニュースに息を詰めたあと子の焦点のゆらり揺れおり
久野はすみさん         そのときの一日前とはつゆ知らず朝をはじめる蓮でありたし

完走された方々の「勝手に代表作」 2/3

2009年12月19日 | 八首選 - 題詠2009
中盤の60人。


天鈿女聖さん         夕焼けに世界が全部飲み込まれなくなるようにできている午後
佐藤羽美さん         コンビニの蒸され過ぎたる饅頭を(午後はとっくに倦んでいる)割る
詩月めぐさん         よっちゃんとロンドン橋を歌ったら地下道だって怖くなかった
ぽたぽんさん         「もう既にタカシはいないものとして暮らせている」とうわずった声
萱野芙蓉さん         ささがねの蜘蛛の縁者である母の子なればわれに触るるなをのこ
ウクレレさん         北野坂しろいパラソルのぼりゆく右手は誰のために空いてる
原田 町さん         てっぺんがまだ閉じてない嬰児のひよめきに触る真幸くあれと
じゃみぃさん         小船乗り進水式のアルバイトゆらり揺られて油をすくう
Re:さん         折り紙の王冠頭に乗せた後きみを助けに乗り込む予定
間遠 浪さん         戻られたし昨夕戻られたし昭和 わたしは少女でありましたとさ
斗南まことさん         どうしても決められなくて初夏(はつなつ)の源平ウツギは風に揺られる
こすぎさん         君がいた布団の中にひだまりが隠れて 虎落笛 遠ざかる
酒井景二朗さん         悲しみの殘りは風に任せようと給水塔のてつぺんに立つ
振戸りくさん         砂浜を固めてとった右足の鋳型に海がそそがれている
虫武一俊さん         なんだっておれには広すぎて困る職歴欄とか街とか あと親
ちょろ玉さん         言い訳はしなくていいよ 好きだからあたしの鉛筆とったんでしょう
あみーさん         俺の気も知らず陽気な春の午後 川が美しくて飛び込みたい
おっ さん         縁側に誰も座りはしないのに全力で咲く母の向日葵
こゆりさん         待つ人があるふりをして買う秋刀魚そろそろ夜が寒くなります
蓮野 唯 さん         幕の内弁当にある練りわさび切なく待つ身の哀しみに似て
扱丈博さん         ルーベンスの絵画のようなUターン・ラッシュ・イマージュ・コラージュ全図
石畑由紀子さん         夜明けごと少女に戻る祖母の手を握るとりどりの名で呼ばれながら
春待さん         蛞蝓(なめくじ)に塩撒きながらホームレス蝸牛(かたつむり)に見え止まる指先
だやさん         向日葵の畑で君が絞めている首の中にも幾本の管
本田鈴雨さん         おのづから殻を破りて誕生すくちばしもてるもののあはれは
空山くも太郎さん         ゆっくりと歩いていこう 今僕ら坂の途中だって気づかぬぐらい
市川周さん         警備員照らす理科室ともだちがいるってどんな気分だろうか
都さん         午後一でお伺いいたしますと言う 落ち葉を踏んで今日も天気だ
わだたかしさん         落ち込んだ帰り道には転がれるくらいの坂があればいいのに
祢莉さん         煮くずれたりんごのようにめそめそとしてたい雨の木曜日には
睡蓮。 さん         今年また冬至が来るね思い出は一番長い夜に始まる
櫻井ひなたさん         大縄へ飛び込むように覚悟なら7月2日のあたしはしてた
只野ハルさん         中空の茎持つ植物茂るところフルートの故郷ならん
月下燕さん         雨のなか一度交わした口づけが冷たかったことフルートを吹く
都季さん         コカ・コーラの王冠はまだ宝物 王様にはもうなれないけれど
珠弾さん         四角(コーナー)先頭そのままそのままあ あらんかぎりの あらんかぎりを
キヨさん         浮気とか勝手にドラクエ進めたりとかしてないか今から調べる
磯野カヅオさん         オクターブ差のある声で「靴が鳴る」交互に歌ふ肩車かな
遥遥さん         早送りされる社会の中にいて花が散るのは春の夜の風
吉里さん         一日の朝の時間のひと時がキラキラすれば勝つ予感する
夢雪さん         夕焼けに染まった空に赤い羽根散り散りになる紅蓮の天使
富田林薫さん         坂の途中あるいは空を見上げたかった俯き加減の角度をかえる
暮夜 宴さん         藤棚のしたに零れたひかりだけあつめてあそぶ春のてのひら
青野ことりさん         いまごろはどこを旅しているのだろう 柔らかかったわたくしの肩
soraさん         竹林の日照雨(さばえ)の中に立ちてみるふと逢えさうな気がする午後は
Ni-Cdさん         寝台にマイナスふたつイコールにならないことはひしひしと 夜
駒沢直さん         いまはもう君の葬式出なくてもいいやと思う 一人梨剥く
久哲さん         手を繋ぐことで失う どの空もこんなに広いことがおかしい
桑原憂太郎さん         ひだまりの校庭に集ふ学級で生き抜くためにみんなでジャンプ
美木さん         この場所は縄文時代は海だった いつも不安は足元から来る
しおりさん         花飾り 編んで遊んだ思い出はしろつめくさの香りの中に
キャサリンさん         透明な羽たまわれば直ぐに発ち貴方の頬をじゃりじゃりなぜたい
七五三ひな         美容室鏡の中の吾に告ぐ「これより断髪式始めます」
寺田ゆたかさん         その角を曲がればわが家 庭の花世話するひとを幻に見る
南 葦太さん         眠れずに君が涙で悲しみを加水分解している夜更け
ことりさん         コンビニはさびしき魚礁仄白く発光すればウミユリが揺れる
葉月きららさん         坂道も立ちこぎをして登ってゆく早く会いたい会いたい君に
橘 みちよさん         病院よりもどり来てたつたそがれの踏切いまし遮断機おりく
さとさん         編んだ私も似合うかと尋ねて巻いたあなたも無敵でしたよね
村上はじめさん         目の前を尻尾の黒い猫が行くきっと笑顔だ足取り軽く

完走された方々の「勝手に代表作」 1/3

2009年12月19日 | 八首選 - 題詠2009
前半の60人の歌人の方々。


松木秀さん         日本語でみんながさけぶアンコールやや民謡のリズムを帯びて
jonnyさん         見せたくて見せたくなくて見せたくて半透明のビニール袋
鳥羽省三さん         カタカナで書けば<ステキナワタシ>だが鏡を見ても素敵な私
アンタレスさん         山路来て地を這う藤を起こし来ぬ支え無くとも藤は咲きおり
西中眞二郎さん         若き娘(こ)に引かれて午後の道を行く犬のふぐりの左右に揺れる
みずきさん         少年を眼に残したる警官の過ぎて短日あすは浅草
麦太朗さん         食卓塩の瓶のかたちは脳内の決められた場所に焼き付いている
船坂圭之介さん         影長く寄らしめて樹は蒼空へ 我執とは斯くゆるがざるもの
庭鳥さん         水気ない我の掌ふわふわの赤子の頬を躊躇いなでる
八朔さん         逢坂は爪先あがりわたくしの色づくものが喘いでのぼる
梅田啓子さん         梅のもやうの湯のみ茶碗に嫉妬したこんなに小さき茶碗もちし掌(て)に
森山あかりさん         話し終え靄がかかった夕暮れをやり過ごすためシチュー煮てみる
小早川忠義さん         太陽も何光年の彼方から星屑などと貶さるるらし
みつきさん         祝い膳朗らかなりしひとときの天ぷらのえび尾は赤くあり
じゅじゅ。さん         再会のシャルル・ド・ゴール空港のキスなら平気 恥ずかしくない
迦里迦さん         姑(かあ)さんの煮物の味などしらへんわ おあがりやすこのだいこの炊いたん
チッピッピさん         妊娠を夫へ何と告げようか メールの件名「パパへ」と入力
ジテンふみおさん         片笑みで佇むままの灯台もたまには発射すればいいのに
木下奏さん         コンビ二に出入りするとき鳴る音がむしょうに好きなのアナタが好きなの
柴田匡志さん         カタカナの用語が並ぶパンフレット テレビは二倍美しいらしい
穴井苑子さん         コンビニが明るい理由を何度でも聞かせてくれてよかったのにな
mintoさん         順路には迷ふことなく→(矢印)が使はれてをり言葉のかはりに
理阿弥         吾が胸をひとりで抱く態をして肩の後ろの寂し毛を抜く
マトイテイさん         空見上げ佇んでいる街角で涙は重力次第だと知る
はこべさん         亡きひとが過ぎにし春に我がやどに 植えし藤波今朝咲きにけり
行方祐美さん         ふっとりと茄子横たわる含め煮の大鉢のあり帰り来たれよ
陸王さん         肩触れることより明日の雪のこと話弾んで雨の日は好き
うたまろさん         返らないメールのアドレスそらんじる 雨降りの窓を眺めるように
伊藤夏人さん         後出しのジャンケンくらいで笑ったりするから君に油断できない
畠山拓郎さん         大雨で早月川に水が増すワゴンRも流されてゆく
ふみまろさん         帯広の妻に戻りしかの人の便りは来ずや馬鈴薯を買ふ
Yoshさん         Tシャツを取っ替え引っ替えするように 満足のない幸福さがし
佐藤紀子さん         母は母 その役割に引退も休暇もなくて太郎を思ふ
のびのびさん         どうしても越えられそうにない壁の前に絵筆を持って座ろう
羽うさぎさん         七夕の飾りを子供が見上げれば竹ざわめいて天に落ちゆく
フウさん         傾斜ある坂を上る地元人いつまで雲は続くのだろう
野州さん         何日ぶりだらうか髭を剃る朝は負ける選挙の投票に行く
龍庵さん         まだ遠い台風の位置聞くような気持ちで知った君の妊娠
ゆきさん         地にとどく長きしなひの藤の花娘心はときに重たし
ひいらぎさん         たんぽぽが咲いただけでも嬉しくて魔法使いじゃなくて良かった
新井蜜さん         球根を買って並べたヒヤシンス格差だなんて 紅い花房
KARI-RINGさん         母の編む味もそっけもないセーター 今着たいんだよ雨ばかり降る今
tafotsさん         思ったよりCD-ROMは割りにくく恨みが根深いみたいに力む
秋月あまねさん         斎場の人群の中の人となるいずくをみても既視の華やぎ
天野ねいさん         わさびとかからしがだめなおこさまのくちであなたのくちとふれあう
すいこさん         街灯の夜警白昼みる夢に昇るだろうか陽や星や月
こうめさん         我知らぬ世界はやさしい 妊娠を経てゆっくりとしゃべる友達
西野明日香さん         しなやかに落ちてゆく葉の一枚になりたく探す東南角部屋
中村成志さん         振り向かぬ(助けて)きみの体臭が(助けて)微妙に変わる(助けて)
七十路ばばさん         飛火野の藤の紫変わらねど疾く旅立ちぬ二人の友は
藻上旅人さん         冬眠から覚めた熊はまず気づく白雪姫ではなかった事を
EXYさん         金鯱(きんこ)型 海老をそり上げ 揚げてみる これぞ名付けて シャチホコフリャァ~♪
藤野唯さん         沈黙が大丈夫になり始めててふたりでまっすぐ夕焼けをみる
nnoteさん         アカシアの天ぷら揚がる春に病む君を連れ出すための口実
木下一さん         広場には君のパンティだけ落ちて みんながみんな誰かの子供
髭彦さん         鉢植ゑのすみれの花とわが職の共に終りて春の深まる
イマイさん         静電気指の先から放たれて冬の昼間をひとりにさせる
冥亭さん         肌黒きプレジデントの誕生はブルーノートが廃れたるのち
新田瑛さん         嘘をついたピノキオは鼻が伸びました わたしは豆を煮込んでいます
さかいたつろうさん         アラスカのコンビニにある最新号のジャンプはいつも先週号です

久野はすみさんのうた

2009年12月19日 | 八首選 - 題詠2009
久野はすみさんの歌から8首。


100:好
満開の木香薔薇の門をぬけたどりつけたら你好、世界

091:冬
冬枯れの庭に山茶花あるようにわが胸に咲くひとりのなまえ

072:瀬戸
瀬戸内に蜜柑の花の香りあれわれもわが子も消えてそののち

069:隅
玄関の隅にひとはち置いてあるアロエのような男と思う

057:縁
このたびもキレンゲショウマの群生は見つからぬまま 縁あらばまた

041:越
越境の凌霄花、いまきみのねむりのなかにつぎつぎひらく

032:世界
ジャカランダ、南の桜、いつの日か世界を覆い尽くすむらさき

002:一日
そのときの一日前とはつゆ知らず朝をはじめる蓮でありたし



この企画に参加するにあたって、様々な縛りを設けた方々がいました。
最後のランナー、久野はすみさんは「花しばり」。
百首を読むのが本当に楽しかった。そして羨ましい。
こんなふうに、草木を詠みこむ素養が自分にもあれば、
もっともっと歌の世界が広がるだろうに。
花は、匂いを連れてくる。色を連れてくる。手触りをつれてくる。
なによりも季節を連れてくる。花ことばというのもある。
その背景に多量の情報を包み持っていることを考えると、
ほんとうに短詩に適した素材なんだなぁと、そう思います。

なーんて、辞書とグーグル首っぴきでどんな花か調べてる
自分が言っても、説得力は無いですかね・・・。

2番。
「そのとき」とは、花ひらくとき、でしょうね。
開花する数日間のための、準備の一日。

69番。
地味で、陰が薄くて、ちょっとトゲトゲしてて、全然手がかからなくて、
だけど本当は役に立つ能力を秘めている、そんな男ですかね・・・。
でも一鉢あっても困らない、いや、頼られてると思いたい(笑)。

91番。
モノクロームの世界に、けして忘れえぬ赤。ぽつりと。

青山みのりさんのうた

2009年12月18日 | 八首選 - 題詠2009
青山みのりさんの歌から8首。


094:彼方
M78星雲の彼方より息を切らして子は帰宅せり

084:河
河岸までのばした腕がやわらかな影をともなう薄曇りなり

064:宮
竜宮へかえらぬままの亀を飼い今年もひとつまた年をとる

063:ゆらり
親殺しのニュースに息を詰めたあと子の焦点のゆらり揺れおり

051:言い訳
言い訳がうまくなったとおもいつつ子がオムレツを崩すをながむ

022:職
午前九時すずめの影を市役所の職員として道に数えぬ

012:達
達するをあこがれてなおあこがれて耀うすすき野原の向こう

001:笑
すこしおくれて話を継げばもくもくとしじみ食む子のかすか笑いぬ



短期間でこれらの作品を送り出した青山みのりさん。
詠みなれた方とお見受けしました。

94番。
ウルトラマンごっこに興じたのも遥か昔のこと・・・
今の子も変わらないんですねぇ。
仮面ライダーしかり、ドラえもんしかり。
これをジャパニーズ・スタンダードというのかもしれません。

63番。
この子はきっと思春期ですね。
気にしすぎかもしれない。気のせいかもしれない。
なんか変な反応を見せちゃったかな、という過剰な意識が、
どんどんとぎこちなさの連鎖反応を生んで。

里坂季夜さんのうた

2009年12月18日 | 八首選 - 題詠2009
里坂季夜さんの歌から8首。


085:クリスマス
厳かにクリスマスケーキを切り分ける昭和の父の右手の記憶

081:早
いつもより4時間早い快速に懐かしい顔 声はかけない

068:秋刀魚
ぎんいろの陽射しちいさな虹になる秋刀魚の腹にしゃぼんの泡に

051:言い訳
うつくしい言い訳ひとつおもいつく使ってみたい踏みはずそうか

043:係
生まれつき苦情係の道訊かれ顔らしいのでそれを愉しむ

040:すみれ
砂に蒔くすみれの種はたちまちに見えなくなって残暑夕暮れ

020:貧
悪いのは想像力の貧困であの子じゃないってやさしい詭弁

001:笑
悩みなどないのでしょうと笑われて明日もこんなかんじでいこう



1番。
悩みが無いわけじゃないけれど、そう見えないくらいがいっか。
ちょっとだけ前向き、プチポジティブ。
短歌で詠まれるポジ:ネガって、3:7くらいでしょうかね。
内省的な詩形では、みんなネガティブなことを呟くのが大好き。
でもやっぱりこういう前向きな歌は気持ちいい。
43番もプチポジティブ。

68番。
たしかに、魚って虹色に光って見えますね。
歌で読むまで、言語として意識に上ってこないことってたくさんある。
こういう風に細部を掬い取って詠めるか、というのも私の今後の課題。

ほきいぬさんのうた

2009年12月18日 | 八首選 - 題詠2009
ほきいぬさんの歌から8首。


016:Uターン 
もしかして Uターンするさくらみち 君の残り香 風にまぎれて

017:解     
これからどうなってくんだろう解法を探し続けてまたサクラサク

019:ノート   
おしゃべりに夢中な君の机から滑るノートがスローモーション

022:職     
どんなにか待ち遠しくても職場では普通の人でいられる技術

034:序     
手遅れとならないように急くこころ それでも順序を守って僕は

048:逢     
つるつるの小石みつける 逢いたくて夏の坂道立ち漕いでゆく

054:首     
あとはもう足首からめ眠るだけ ベッドの下には脱いだ役柄

074:肩     
僕たちの時間が終わるその前に肩を引き寄せすごく十秒



34番。
最近の若いやつは、真面目だなぁ、と散々言われ、
また後輩を見ても同じように感じたことを思い出しました。
ルールを額面どおりに守り、破天荒なことはなかなか出来ない。
平和すぎる世の中を生きてきたからでしょうかね。
型破りな世代が出てくるような、そんな予感のある昨今でもありますが。

鯨井五香さんのうた

2009年12月17日 | 八首選 - 題詠2009
鯨井五香さんの歌から8首。


068:秋刀魚
靴下の脚をそろえてちんまりと秋刀魚の瞳をのぞく我が猫

056:アドレス
港区のアドレス誇るマンションのチラシに芋の皮は降りつつ

050:災
冷える手でくるみの殻を割りながら祈りぬ(きみの災いよ去れ)

043:係
とろろんとあかるい桃に頬よせて摩擦係数たしかめている

035:ロンドン
片道でロンドンへ発つ秋晴れのそのジャケットはあなたに似合う

025:氷
昼下がりバケツのイワシ飲み込んで踏みしめている氷河の記憶

022:職
閑職の机の日なたほのぼのとあんぱんのくずあたためており

007:ランチ
はつなつのランチタイムのタイ料理空芯菜を清く噛む友



35番。
戻らぬ決意の人を見送る図、でしょうか。
そのジャケットはあなたに似合う。
最良のはなむけに聞こえます。

25番。
故郷を想うペンギンの哀歌、と読みました。
彼らにはこんなに寒い冬が快適なのかもしれないですね。

図らずも8首中7首、食べ物が詠まれた歌を選ぶこととなりました。
食は生活と密接に結びついている分、
確実な手触りを読み手に届ける役目を果たすのだと思います。

笹本奈緒さんのうた

2009年12月17日 | 八首選 - 題詠2009
笹本奈緒さんの歌から8首。


088:編
ちょっと糸お借りしますというような指の動きだ かぎ針編みは

084:河
仙台が大好きすぎて焼き芋を包むのだって河北新報

076:住
住み分けがよくできていて午後からは選択科目ごとに友だち

037:藤
歯を見せて笑う重役 どの顔も山藤章二の似顔絵のよう

026:コンビニ
街にすら追い越されてく コンビニになる前何の店だったっけ

023:シャツ
あの夏が空へ帰るよ 04年ツアーTシャツ干すたびにまた

015:型
来なきゃいい夜中のバスを冬型の気圧配置の隅で待ってる

014:煮
日に焼けた孫とその子を煮たような祖父と素揚げをしたような父



14番。
受け継がれるDNAの系譜。脈々と。
きっと一枚の写真の中の。

15番。
誰かの到着を待つバスなのか、
自分がどこかへ行くためのバスなのか。
気圧配置という大きな単語によって、
「待つ」という寂しい行為が、より際立っていると思います。

37番。
瞬間的にその顔が浮かぶ。
山藤章二おそるべし。

帯一鐘信さんのうた

2009年12月16日 | 八首選 - 題詠2009
帯一鐘信さんの歌から8首。


087:気分
気分なら十分あるが立ち上がる気持ちは足りず遠吠えの犬

076:住
この星に住む者として明日を待つ夜空を屋根に誰もが眠る

047:警
物干しで風に吹かれる春先のウルトラ警備隊の制服

032:世界
中心と果て以外でも世界ではステキなことがあるはずなんだ

029:くしゃくしゃ
運の無い手相のようにくしゃくしゃに折り曲げたなら笑う漱石

010:街
地図にないさみしい場所が旅人の一編の詩で街へと変る

007:ランチ
スーツ姿でランチタイムにビール飲みスケベではない人生なんて

006:水玉
ぽつぽつと穴のあいてる傘をさし悲しい歌が水玉になる



32番。
流行への皮肉。
自分が世界の果てにいたり、あるいは中心にいる、そんなふうに考えるのは
とっても気持ちのいいナルシシズムですもんね。
 それにしても、あのタイトルには驚きましたよねぇ。
 臆面も無く「孫引き」するとは・・・


47番。
活躍の裏には必ず、地味な生活もあり。

 制服の胸の徽章がプリントにあちらこちらの予算削減

志井一さんのうた

2009年12月16日 | 八首選 - 題詠2009
志井一さんの歌から8首。


071:痩
一度でも痩せると元に戻すのがむずかしいのは祖父の体重

063:ゆらり
ユー・ロール・イットを略して「ゆらり」とか無理に解釈してみてもよし

053:妊娠
この次に会えたときには君はもう妊娠してるような気がする

046:常識
残酷な描写を含む 常識をわきまえているホラー映画は

045:幕
画面から消せないことは素晴らしい VHSの確かな字幕

018:格差
私にも居場所ができた ありがとう「格差社会」と名付けてくれて

009:ふわふわ
「ふわふわ」と「ぷりぷり」だけは言えなくて「卵とエビのカレーください」

002:一日
誰からも連絡のない一日になるところだったよお母さん



63番。
これ面白いなぁ。
なんか、何度も「ユゥルゥオリッ」って繰り返してしまう(笑)

18番。
これは結構根深い問題を秘めてますね。
こういう風に考えることによって、図らずも安住してしまう、
ということがあるんだろうなぁ。

9番。
ふわふわ卵とぷりぷりエビのカレー。
思い切って言ってみたら、今度は「卵とエビのカレーですねー」
なんて返されたりしてね。

みち。さんのうた

2009年12月15日 | 八首選 - 題詠2009
みち。さんの歌から8首。


010:街
この街の壊死した場所になんとなくなんとなく埋めていくどんぐり

019:ノート
自由という名前のノートを差し出され何もかけずに罫線をひく

021:くちばし
くちばしがあるんだろうね 重ねればこころがとても傷むふたりは

023:シャツ
もう君の匂いのしないTシャツを誰にも知られず着つづけている

035:ロンドン
落ちるたびつよくなるならそれもいい ロンドン橋を口ずさむ夏

054:首
首のないマネキンならぶ 渋谷ではめずらしく星のある夜なのに

062:坂
息きらし坂をのぼったその先がながい階段みたいな愛撫

066:角
本能は削ぎ落とされていくもので柵の中には角のない鹿



詩は、理屈ではなく感性だと教えてくれる「みち。」さんの歌。
事物の表面的なつながりだけをこねくり回した歌にはない、誰も見たことの無い色の光。
それを見せてくれるのが、天性の詩人のうたなのでしょう。
それが後天的に身につくものであってほしい、というのが、
理に落ちがちな私の願いなのですが・・・

いちばんのお気に入りは10番。

にいざき なんさんのうた

2009年12月15日 | 八首選 - 題詠2009
にいざき なんさんの歌から8首。


095:卓
吉沢のババアがタバコをくゆらせて卓球センター夜を迎える

087:気分
hi-lite気分で汚す君の肺最低な言葉含んだキスで

071:痩
おまえには届かないであろうから痩せた便箋食べなよポスト

022:職
職安の長椅子に座る君の手を握れば今すぐ連れ出すぜ僕

020:貧
貧しきは美しきかな言う母は金歯で卑しくマカロンを食む

019:ノート
五線譜をノートに使う君が好きさ、国語のエチュード丸文字でファ!

018:格差
隠された値札を探す二人きり互いの格差は思いの丈のみ

017:解
「解熱剤買ってきて」と背に受けて玄関前の靴紐は厳しく



ギラ、ギラ、と時折ナイフのような煌き。
にいざき なんさんの百首。

ぱんさんのうた

2009年12月15日 | 八首選 - 題詠2009
ぱんさんの歌から8首。


094:彼方
二回だけ見た。晴れと、雨だった。もう、彼方のきみの住んでない空。

071:痩
若いうち一度くらいは痩せている私を見たい ミネストローネ

062:坂
実家への坂を登れば思い出す あぁ、このまちは星がきれいだ

054:首
肩よりも髪を短くした春の露わに心細い首すじ

049:ソムリエ
ペットボトル入りでもいいや あたしたちソムリエナイフなしでも笑える

039:広
地下鉄の車内広告 社会には限りがあると信じてた頃

021:くちばし
くちばしで鋏んで離さずにいたら、なにかは違っていたかな、とかも。

016:Uターン
勝ち組の苦しみなのかUターンラッシュは今もテレビの向こう



16番。
真に真の「勝ち組」とされる人たちは、
GWに限らず休みを取れるんでしょうね。

21番。
諦めが早かった、と後悔するひとは多いような気がする。
自分を含め・・・

49番。
タイムリーでもあり、お題の取り込み方がとってもスマート。
いいです。

わらじ虫さんのうた

2009年12月11日 | 八首選 - 題詠2009
わらじ虫さんの歌から8首。


098:電気
少年が電気仕掛けの能面のように夜道で覗く液晶

074:肩
肩幅で君をみつける特技とか養いながら5限目物理

061:ピンク
選ばれる女になりたかったろう嫁(30)が毛嫌うピンク

058:魔法
魔法なら一瞬だけど僕たちがかけた五年も悪くなかった

054:首
さよならは自分のために言う言葉 首から上が笑えればいい

051:言い訳
言い訳とキスが上手になっていた赤の他人じゃないだけのひと

011:嫉妬
堂々と嫉妬のできる性格を羨みながら食べる干し柿

001:笑
「幸せも暴力」なんて僕がいう度に笑ってほしいひとたち



51番。
赤の他人じゃないだけのひと。
ああもう、このフレーズだけで私はこの一首を一生忘れないだろう。

1番。
なにか、自分でも否定して欲しいような、真理を突いた言葉を言ったとき、
困惑顔をしないで欲しい、ってことかな。
対象が複数形のところに、人とのつながりを希求する強さが出てる気がする。