
「君、ちょっといいかね」
部活が終わって、帰ろうと思っていたところで話しかけられた。
振り向くと、帽子をかぶった背の低い男がいる。
新聞記者のようにも見える。
「いきなり呼び止めて悪いね。私はこういうものだ」
そういって名刺を渡す。
そこには、ヤクルトスワ○ーズ、スカウト、影山と書かれている。
「安仁屋なら、まだグラウンドにいるぜ」
「いや、新庄君、今日は君と話がしたいと思ってね」
俺に?
新庄は怪訝な顔をする。
「君はプロを目指しているかね」
「プロ?」
いきなりの問に思わず聞き返す新庄。
一緒に同じユニフォームを着て、甲子園を目指す。
それ以外、考えたこともなかった。
「いや…」
「そうか。ならば、今からでも考えてみるといい。
君のその恵まれた体、パワー、そしてそのスイング。君には光るものを感じるのだよ」
「………」
「まあ、いきなりこんなことを言われても困るかもしれない
甲子園に向けて頑張ってくれたまえ」
そう言って、グラウンドの方に向かって去っていった。
「プロ…俺が? まさか…」
「いいじゃないか、新庄。おまえの努力が認められたんだ」
振り向くと、いつの間にいたのか、川藤。
「どこからわいてきたんだ」
「まあ、そう言うな。悪いけど聞かしてもらったぞ。
いい話じゃないか。お前もそろそろ、夢について考える時期だ」
「俺の夢は、あいつらと甲子園に行くことだ」
スカウト影山は、グラウンドに向かっていた。
安仁屋に会いに行くためだ。
スカウトのノートに、ニコガクのページがある。
そこには、安仁屋、赤星、新庄、関川、御子柴、若菜の名前が書いてある。
影山は、新庄のことを考えていた。
(あれで、野球を始めて一年とちょっとか。天才というやつだな)
(だが、是非ともうちの球団に入って欲しいかというと、どうかな)
(プロは才能だけでのし上がれる世界ではない。
新庄君は、今はただの野球歴1年ちょっとの高校生だ)
(だが、5年後は、どうか。できれば、彼の5年後を見てみたいものだ。
それまで野球を続けてくれればいいのだが)