僕に初めて映画関係の活字原稿をまわしてくれたライターや編集者の先輩方は、毎年、テレビドラマのベストテンを持ち寄って集計していた。
当時はちょうどその10年分をまとめた、『テレビドラマ ベスト・テン10年史 1997-2006』(愛育社)という本を出すところだった。
ドラマ好きななかには、この本を書店に目に留めたことがある方、けっこういらっしゃるのではないかな?
ベストテン選びは出版の後も続いている。僕のようにボンヤリ見ているだけでもよいとのことで、親睦目的な点に甘えて途中より参加させてもらっている。
最近、締め切りを延ばしてもらい、ようやく2012年のテンを選び終えた。また、まとまったかたちの集計発表があるかもしれないので、順位通りの紹介は控えるが、ざざっとお話を。
(neoneo編集メンパーとしては、ホントはドキュメンタリー作品の個人ベストテンを先にやらないといけないところである。とやや反省しつつ)
候補に選んだ主なドラマは、以下の通りです。順不同。
【連続】
NHK 『はつ恋』、『負けて、勝つ 戦後を創った男・吉田茂』』、『実験刑事トトリ』
NHK-BS 『開拓者たち』、『そこをなんとか』
日本テレビ 『理想の息子』
テレビ朝日 『Wの悲劇』
TBS 『ATARU』
フジテレビ 『最後から二番目の恋』、『ハングリー!』、『ラッキーセブン』、『ストロベリーナイト』、『家族のうた』、『ゴーイングマイホーム』、『リッチマン、プアウーマン』、『TOKYOエアポート 東京空港管制保安部』
【単発】
NHK 『それからの海』、『とんび』、『キルトの家』
日本テレビ 『3.11その日、石巻で何が起きたのか 6枚の壁新聞』
テレビ朝日 『花の冠』、『アナザーフェイス刑事総務課・大友鉄』、『熱い空気』
TBS 『猫弁 死体の身代金』、『悪女について』、『イロドリヒムラ 第6話「脳内彼女」』
フジテレビ 『東野圭吾ミステリーズ 第1話「さよならコーチ」』、『積木くずし 最終章』
俳優については……、まず『最後から二番目の恋』の、中井貴一と小泉今日子。「ケンカするほど仲がいい」コメディロマンスは、大昔から常にテレビドラマの華。脚本家・岡田惠和は、そこを今いちばんよく分かっている。
男優は全体に、向井理(『ハングリー!』『サマーレスキュー天空の診療所』)、堤真一(『とんび』)、渡辺謙(『負けて、勝つ 戦後を創った男・吉田茂』)、阿部寛(『ゴーイングマイホーム』)といった主役級の人たちが、ちゃんと自分の魅力を見せたという安定感の印象。
『ラッキーセブン』では助演にまわった瑛太はもう、ワンランク超えた存在のひとになった。
ちょっと前までテレビに出ると、いい意味で異物感の濃かった新井浩文が、『開拓者たち』『キルトの家』『ゴーイングマイホーム』で、やはりいい意味で馴染んでいるのがおもしろい。
『ハングリー!』で見せた、稲垣吾郎のイジワルさはよかった。特に、片桐はいりをネチネチいじめて泣かせるところが。同じグループのあの御仁は、吾郎ちゃんの憎まれ芝居とは逆=クールをよそおって実は誰より熱いキャラ、のパターンしかやろうとしなくなって久しい。いかにももったいない。
テレビドラマの評価は映画とは少し違って、身近なレジャー/大衆娯楽としての楽しさをどこまでがんばってくれているかがけっこう大きい。(なので低視聴率云々がやたらと言われるけど、僕が選ぶのはCX=フジテレビが多くなる。) 脚本や企画の構造がいちばん気にはなるものの、主演女優がキラキラしていれぱ、それがなにより、と思うところもある。
なので、往年の『赤い』シリーズのケレンを堂々と再現してみせた『Wの悲劇』で、武井咲のおじょうさま振りを堪能し、このひとは眺めているだけでいいと思っていたのだが、『息もできない夏』のあとは、さすがに息切れした。長澤まさみも(長澤まさみなのに)、見ていられるものが今年は無かった。映画『モテキ』以前の、〈役柄に恵まれないクイーン〉に逆戻りしないかと、いらぬ心配をしてしまう。『高校入試』は、辛抱して見ていればだんだん面白くなるよと聞いてはいたが。
一方、元アイドル女優の不可逆な年齢の問題で、キャリアが踊り場のイメージにあるなか、ひそかに牙を研いでいる女優がいる。田中麗奈だ。
最近の田中麗奈の、エキセントリックな感情を奔出させる時のキレにはドキッとする。『東野圭吾ミステリーズ 第1話「さよならコーチ」』『家族貸します』があり、なんといっても『鶴瓶のスジナシ』9/4OAの回。鶴瓶のアドリブを次々とノータイムで返しながら、一気にストーリーを背景込みで作って逆に鶴瓶をやりこめていくあたりは、すさまじかった。ほとんどジョン・カサヴェテスの世界のおんなだった。
中越典子も同様で、『ラッキーセブン』第7話でゲスト出演したときは、花のように明るくかわいらしく、第8話以降で登場させないストーリーのほうがかえって不自然に感じられるほどだった。素直な演技ひとつで、豪華なレギュラー・キャスト陣をみごとに食っていた。だから余計に『実験刑事トトリ』第1話の、殺人場面で見せた夜叉の表情が怖い、こわい。こうして中越典子と名前を書くだけで、ときめきを覚えてしまう。要するに、ファンです。
などなど書きながら、2012年は、連続ドラマに、隅々まで好き=文句なく1位、は無かった。
2011年は、『それでも、生きてゆく』 (瑛太と満島ひかり)の、糸をピンと張ったような緊張感が、もう一度見たいと思えるかどうかは別として別格だった。2010年は、朝ドラ『ゲゲゲの女房』見たさに早起きの生活をした。2009年は、大野智(嵐)の『歌のおにいさん』がなにからなにまで相性ピッタリで、いまだにDVD BOXを買っちゃおうかと考えるほど。
残念だが、こういうのはめぐり合わせ。だから現在のテレビドラマは低調、と決めつけないようにしたい。映画にだって、邦洋どのメジャー会社も目玉作品の配給をそこに組めなかったため、興行が死んだようになる。そんな不幸なシーズンがたまにある。
ただ、単発では、2012年を代表するといえるものがあった。
日本テレビ 2012年3月6日放送
『3.11 その日、石巻で何が起きたのか 6枚の壁新聞』
http://www.ntv.co.jp/6mai/
津波で輪転機が水没し、電気も止まった。しかし、わかっている情報だけでも伝えよう、情報途絶のパニックだけはふせごう、と石巻日日新聞の記者たちが模造紙にマジックペンで記事を手書きし、町角に貼った。この話は、記憶に新しい方が多いと思う。
その数日間の、実質、再現ドラマだ。中村雅俊、柄本明、戸田恵子らが、再現ドラマのキャストであることに徹している。
被災直後の現地でおきたことを、ここまで克明に描写したドラマは、おそらく初めてだと思う。
実際の映像と、俳優のカットバック、あるいは被災地の光景と俳優の合成という、いかにも野暮ったい演出が、ここではヘソになっている。これは再現ドラマにしか過ぎない。しかし、愚直なかたちでストレートに再現することで、劇にしたほうが伝わりやすいもの(当時の不安、分刻みの混乱、絶望、寒さと空腹の実際、そして励ましあい)をより確かに伝えたいのだと、作り手が腹を括っている。美談仕立てのリードの部分だけをつかまえて鼻をつまむひとたちを怯まずに見据え、ゆっくり大きく振りかぶって、直球を投げている。
このドラマの制作には東映も加わっている。遥か昔の、やくざ映画実録路線~笠原和夫脚本の一連の戦争総括映画の根性、そのいくばくかが隔世遺伝していると僕は夢想的に思うのだ。
よくよく調べ、まず実際のエピソード通りにストーリーを組んでいるのは、全体から見て明らか。
例えば、市役所に取材に出向いている間に震災が起き、外に出られなくなった記者たちが、背丈まで水没した地下駐車場を歩きぬけることを決め、カメラを濡らさずに運ぶにはどうすればよいかと、知恵を出し合う場面。普通のドラマなら、かなり間延びしやすいやりとりなのに、ここでは非常下の試行錯誤としてかなり息詰まるものがある。ドキュメント・ドラマは、エモーションの出どころがフィクションとは違ってくるのだ。
そのうえで、要所で、人間味のある劇をエイッと組む。
記者たちが徹夜で書き、コンビニの壁に貼った模造紙の新聞。ところが無口な店員がやってきて、それを剥がしてしまう。(こんな時にそれはないだろ)と、記者たちは一瞬気色ばむのだが、店員は「こっちのほうがたくさんの人が見るから……」と、店の入り口に模造紙を貼り直すのだった。
そこまで、まさに実録タッチで押してきているから、ひとさじのなさけが、震えがくるほどに沁みる。『北の国から』の、捨てられたボロ靴を、純と蛍と一緒におまわりさんが探してくれる場面と同じぐらい、たまらない。
このドラマを、neoneoのサイトで紹介するタイミングを逸したことは、実は気になっていた。
ナマイキなようだが……、いや、完全にナマイキで言うが、質と、評判の薄さとの落差にオイオイ待てよと思い、「オレが誉めねば誰がやる」と、前のめりにならざるを得ない作品は、どうしても時折存在する。そういう不幸を、ひとつずつ減らしていくのが物書きとしての使命という気もしている。
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