私が教師になって2校目に勤務していたN中学校の頃の話である。
この中学校は、北海道の内陸にある典型的な過疎の町にある、生徒数は200名足らずの非常にのんびりとした中学校だった。ただし、のんびりとした、というのは10年経った今にして感じることで、当事者であった頃は、教師も子どもも決してのんびりとした気分で生活をしてはいなかったはずである。
さて、中学校ではどこでも、毎年、生徒会が編集する「学校文集」というのを発行する。「学校文集」には、各学級の紹介や、各委員会の報告や、学校行事などの思い出といったものが載っているのだが、このN中学校の文集には、コーナーのひとつに生徒によるランキングコーナーがあった。
これは、生徒会で、好きな芸能人とか、得意な教科とか、楽しかった学校行事とかを全校生徒にアンケートをとって、ベスト3を載せるというものだったのだが、そのなかに「好きな先生は?」というアンケート欄があった。
当時の私は学級担任を受け持っていたので、このアンケート用紙を学級の生徒に配りながら「お前たち、この欄には誰の名前を書いたらいいのか、わかっているだろうねえ」などと冗談を飛ばしていた。
生徒は「絶対書かねえ」「いや、やっぱり担任を書かないと、いろいろヤバイしょ」などと軽口を叩きながら、わいわい書いていた。
そんな中、前の席で、書けないで困っている様子の女子生徒がいた。
この女子生徒、中学3年生にしては、とても素直で真面目な生徒。アンケート用紙を前に、困っている様子がはっきりとわかる程の表情をしていた。
ははあ、この女子生徒が困っているのは、先ほどの私の冗談を真に受けてしまい、書きたくもない私の名前をここに書かないといけないからだろう、と私は察した。
ああ、さっきは、いらんことを言ってすまなかったね、担任に気を遣わなくてもいいんだよ、あなたの好きな先生の名前を書いていいんだからね、と、この女生徒に声をかけようとした時、この生徒が本当に困った口調で、となりの生徒に話しかけた。
「好きな先生いっぱいいるから、一人だけを書くことはできないよね」
これは、私には衝撃だった。全く、予想だにしない言葉だった。
そうなのかあ…。この生徒はこんなことを思っていたのか…。
こうしたことで困る生徒というのは、この町の風土によるものか、この生徒の個人的な資質によるものか、などと、どうでもいい分析をはじめて、私はこの生徒の前で勝手に狼狽していた。
そして、そんな生徒の前で教師然としている自分が、ものすごく恥ずかしくなった。
自分は教師として、生徒の前にいるべき人間じゃないんじゃあないかと思い始めたのが、多分、この時からだったと思う。
この中学校は、北海道の内陸にある典型的な過疎の町にある、生徒数は200名足らずの非常にのんびりとした中学校だった。ただし、のんびりとした、というのは10年経った今にして感じることで、当事者であった頃は、教師も子どもも決してのんびりとした気分で生活をしてはいなかったはずである。
さて、中学校ではどこでも、毎年、生徒会が編集する「学校文集」というのを発行する。「学校文集」には、各学級の紹介や、各委員会の報告や、学校行事などの思い出といったものが載っているのだが、このN中学校の文集には、コーナーのひとつに生徒によるランキングコーナーがあった。
これは、生徒会で、好きな芸能人とか、得意な教科とか、楽しかった学校行事とかを全校生徒にアンケートをとって、ベスト3を載せるというものだったのだが、そのなかに「好きな先生は?」というアンケート欄があった。
当時の私は学級担任を受け持っていたので、このアンケート用紙を学級の生徒に配りながら「お前たち、この欄には誰の名前を書いたらいいのか、わかっているだろうねえ」などと冗談を飛ばしていた。
生徒は「絶対書かねえ」「いや、やっぱり担任を書かないと、いろいろヤバイしょ」などと軽口を叩きながら、わいわい書いていた。
そんな中、前の席で、書けないで困っている様子の女子生徒がいた。
この女子生徒、中学3年生にしては、とても素直で真面目な生徒。アンケート用紙を前に、困っている様子がはっきりとわかる程の表情をしていた。
ははあ、この女子生徒が困っているのは、先ほどの私の冗談を真に受けてしまい、書きたくもない私の名前をここに書かないといけないからだろう、と私は察した。
ああ、さっきは、いらんことを言ってすまなかったね、担任に気を遣わなくてもいいんだよ、あなたの好きな先生の名前を書いていいんだからね、と、この女生徒に声をかけようとした時、この生徒が本当に困った口調で、となりの生徒に話しかけた。
「好きな先生いっぱいいるから、一人だけを書くことはできないよね」
これは、私には衝撃だった。全く、予想だにしない言葉だった。
そうなのかあ…。この生徒はこんなことを思っていたのか…。
こうしたことで困る生徒というのは、この町の風土によるものか、この生徒の個人的な資質によるものか、などと、どうでもいい分析をはじめて、私はこの生徒の前で勝手に狼狽していた。
そして、そんな生徒の前で教師然としている自分が、ものすごく恥ずかしくなった。
自分は教師として、生徒の前にいるべき人間じゃないんじゃあないかと思い始めたのが、多分、この時からだったと思う。