The Theory of Everything
©Universal Pictures

キャスト: エディ・レッドメイン、フェリシティ・ジョーンズ他
監督: ジェームズ・マーシュ
上映時間: 123分
Rating: PG-13(MPAA)
公開日: 2015年1月1日全国ロードショー
配給会社: Universal Pictures

25年間の結婚生活のドラマ

25年間の結婚生活のドラマ
©Universal Pictures

 『The Theory of Everything』は今年のアカデミー賞に、作品賞、主演男・女優賞を始めとする5部門でノミネートされている。ゴールデン・グローブ賞でも4部門で候補に名を連ね、見事同じ英国出身の名優ベネディクト・カンバーバッチ(『The Imitation Game』)、デビット・オイェロウォ(『Selma』)や、ハリウッドスターのジェイク・ギレンホール(『Nightcrawler』)、スティーブ・カレル(『Foxcatcher』)を抑えて、本作のエディ・レッドメインが主演男優賞を獲得した。車椅子の天才理論物理学者スティーブン・ホーキングを演じての受賞ということから、ダニエル・デイ・ルイスの『マイ・レフト・フット』、ダスティン・ホフマンの『レインマン』などの例を挙げて、“身体や精神に障害を持った人を演じるのがアカデミー賞への近道だ”などと揶揄する人もいる。しかし、独特の肉体的動きを持った障害者をわざとらしくなく演じるのは相当な準備と演技力がなければできない。それを完璧にこなした時は確かに健常者を演じている時より“凄い!”という印象を与える。ちなみに障害者を演じてアカデミー賞を受賞したケースは全体の16%だそうだ。

 本作品は理論物理学者スティーブン・ホーキングの最初の妻ジェーン・ホーキング(フェリシティ・ジョーンズ)の自伝を基にしている。

 ケンブリッジ大学での出会いから始まり、不治の病に見舞われながらも3人の子供に恵まれ、強い絆で結ばれている夫婦。試練を乗り越え、積み重ねる選択が二人の人生を築き上げ、そしてまた崩れる原因ともなっていく、25年間の結婚生活のドラマだ。

 このラブ・ストーリーの基盤はあくまでも妻の献身で成り立っている。

ジェーン・ホーキングの自伝『Travelling to Infinity: My Life with Stephen』(2008)は、彼女がスティーブンと1995年に離婚した後に出版した『Music to Move the Stars: A Life with Stephen』(1999)を、ホーキング博士の二度目の結婚が終わった後に、彼の協力を得て大幅に書き直されたものだ。彼の側から見た夫婦関係も織り込まれたことでジェーンのストーリーがさらに深く感動的なものになっている。

 ケンブリッジ大学でコスモロジー(宇宙論)の学生だったホーキングはアート専攻のジェーン・ワイルドと恋に落ちるが、21歳の時にMND(運動ニューロン疾患)と診断される。余命2年と宣告されたことを知ったジェーンは限られた命だからこそ二人は結婚するべきだと主張する。2年のはずの命が5年に延び、それが10年となって、ホーキングは素晴らしい宇宙理論を発表し続ける。夫の研究が認められ稀有の頭脳と評判が高まる一方、ジェーンのキャリアは一歩も前進しない。人のために生きる人生とは何なのか?二人はやがて離婚を選ぶ。同じ年にホーキングは自分の看護に関わっていたエレイン・メイソンと再婚、そして離婚。ホーキング博士は現在73歳で健在だ。

色々なキャラクターを演じ分けられる多面性を持った俳優

色々なキャラクターを演じ分けられる多面性を持った俳優
©Universal Pictures

 「命あれば、そこには必ず希望がある」とのホーキングの名言には味わい深いものを感じる。彼を名演したレッドメインはアメリカでは一昨年に公開された『レ・ミゼラブル』のマリウス役で注目され、ハリウッドでは新人扱いだが、英国では既に28歳の時に舞台劇『RED』で栄誉あるオリビエ賞の助演男優賞を獲得した、演技派として邁進している若手だ。『RED』はブロードウェイでも公演されトニー賞も受賞している。危ない母と息子の関係を演じた『Savage Grace』(2007)の共演者ジュリアン・ムーアはレッドメインと共演した時の印象を「彼から滲み出る妖しさと気品に目を見張った」と言う。伝統的なハンサムではない彼は顔の良さが邪魔にならない、色々なキャラクターを演じ分けられる多面性を持った貴重な若手俳優だ。

 レッドメインは「スティーブン・ホーキングの役をどうしてもやりたかった」と言う。「ジェームズ・マーシュ監督と電話で話し、この役を自分ならどう演じるかを売り込んだ後、過去の作品を見てもらい、さらに監督とロンドンのパブで何時間も話した。ホーキング役をオファーされた瞬間の喜びは10秒以内で消え去り、数学が不得意な自分が実存する天才理論物理学者をいかに説得力を持って演じられるのかという不安が全身を駆け巡り、頭がクラクラした」と振り返る。

 ホーキング博士に関する本やドキュメンタリーを片っ端から網羅し、自分なりの博士像を徐々に創り上げていった。レッドメイン自身もケンブリッジ大学で学んだことから「何回かホーキング博士が車椅子で構内を移動している姿を見かけていた。彼の著書を読む度に20ページくらいで迷路に入り込んでしまった」と笑う。同じ障害を持ってる人たちに会い、筋肉が退化していく顔の表情、車椅子に座ったままの肉体的な特徴なども自分のものにした。すべての準備が整い、揺るぎないホーキング像が確立された撮影開始1週間前にいよいよ博士本人に面会に行った。極度の緊張から言葉が垂れ流し状態になり、最初の30分はただ止めどなく自分がリサーチしたことを本人に向かって喋り続けてしまったと言う。博士は黙ってニコニコと聞いていたが、レッドメインが「博士も僕も1月生まれでやぎ座です」と言うと、博士は音声コンピュターに何かを打ち込んだ。機械から出てきた言葉は「僕は宇宙論学者だが星占い師ではありません」だった。彼のユーモアのセンスにどれほど助けられたことかとレッドメインはその時を振り返る。人生は瞬間の積み重ね。一瞬一瞬を大事に生きることを彼から学んだそうだ。