プライマリーバランスとは財政収支のこと。一般家庭に於いては財政収支のバランスは必要であるが、国の財政となると違う。1960年代の高度経済成長の時期、東京五輪や大阪万博をきっかけに、大量の札を発行して公共事業を行った。高速道路、新幹線、ダムなどなどである。かくして輸送システムが発展することを見込んで、企業は自ら投資を行った。そして所得は倍増、国民の年収(一人あたりの名目GDP)は60万円@1960年から480万円@1990年に8倍となった。そして1990年にはGDP世界第三位となった。ところが、バブルがはじけて間もなく日本政府は財政緊縮を行うようになる。そして現在2021年までの経済成長は停止(実質GDPの成長停止)。これは世界の中で日本だけである。
日本の経済成長を停止させている要因
【1.公共事業削減】 40兆円から20兆円に抑えられ、200万人以上の労働者、技術者が姿を消した。つまりこれだけ多くの職を奪ったことになる。建築・土木・鉄鋼・橋梁事業が削減され、そして老朽化した橋、道路、護岸等々の補強が適正にされずに、多くの自然災害に苦しむこととなった。今なお数千カ所にも及ぶ補修が高速道路や河川護岸や山崩危険個所で必要とされているのに放置されたままである。2020年の台風10号・熊本災害では90kmに渡って球磨川沿いの道路、線路は寸断され、多くの民家が崩壊した。しかし今なお復旧工事は行われておらず、半年たっても放置状態である。
【2.美術館・博物館・公民館削減】 2009年鳩山内閣のときに、稼働率・効率が悪いという理由でことごとく見直しが行われた(事業仕分け)。そもそも多くの事業は効率を求めるものではなく、民度を高めるためのものである。蓮舫議員が旗振りをしながら実施している様子をみて、多くの国民はうなずいていたかもしれないが、実は多くの職場を奪いGDPの縮小(国力低下)に加担していたとも言える。橋本大阪府知事のとき、無駄な建物・設備はことごとく解体され、財政節約が叫ばれた。このようにして多くの国民の仕事が奪われた(GDP低下)のである
【3.国公立病院統合、保健所削減】 20年間で保健所は900ヵ所から500ヵ所まで削減された結果、その影響がコロナ禍で顕在化した。感染者ルートの追跡は不可能となり、重傷者のみの追跡で手一杯。これでは各種統計の判断には何の意味もない。児童虐待をフォローすべき福祉保健局は形だけで中身が伴っていないという現状。何より病院の統合によって効率的な経営を強いられた結果、コロナ禍に於いて、それらの欠点が顕在化した。平常時は問題ないが、2010年にインフルエンザが大流行した時には、病床数が不足して大騒ぎになったことを受けて対策を講じるように厚労省は各病院に通達を出したらしい。しかし効率化統合の流れの勢いが強く、何一つ解決されないままにコロナ禍に突入した。かくして病床数不足、看護師不足が叫ばれ、「急な対応を求められても無理!!」と日本医師会は主張していたが、とんでもない2010年から厚労省は改善を求めていたのである。こういったことは報道がまったくされないので、自分で調べるしかない。
【4.基礎技術研究部門】 基礎研究というものは、それがはたして有益をもたらすものなのか否かは当初はわからない。それを無駄!と判断して財政緊縮を行うのは後進国がすることであって、先進国がすることではない。2009年11月、次世代スーパーコンピューター開発に於いて、文部科学省や理化学研究所の担当者らが「世界一を取ることで夢を与えるのは、プロジェクトの目的の一つ」と説明したが、「仕分け人」の蓮舫参院議員が「世界一になる理由は何があるんでしょうか?」「2位じゃダメなんでしょうか?」と発言した。なんと愚かなことでしょうか。これでは、優秀な頭脳は欧米に流出してしまう。また将来何十年か経ったときには日本からの「ノーベル賞受賞者」は誰一人居なくなるというテイタラクになることを蓮舫議員はわかっていないのである。
また約40年近く前に「サンシャイン計画」というのがあった。これは太陽熱、地熱、風力などのエネルギー有効利用に関する研究開発計画である。オイルショックを契機に1974年に発足し、2000年に成果を上げずに終了した。これも緊縮財政政策の煽りをうけたためである。やがて東日本大震災で福島原発のメルトダウン事故によりすべての原発は稼働停止。再生エネルギーの利用が再び持ち上がっているが、2000年以降20年間のブランクは大きい。サンシャイン計画が継続されていれば随分と様子は変わっていたに違いない。
再生エネルギー
二酸化炭素の排出状況と脱炭素活動脱退
要点:3%の排出量の日本だけが(ドイツも)頑張って意味あるのか?
米中印で世界の50%以上のCO2を排出している → 米中印は2005年度以降 2030年までに以下のような削減目標を掲げた
結果 : 現在2025年(2005年から20年経過)米中印は、ほぼ削減貢献していない → 米大手金融機関は諦めた
【5.宇宙開発部門】 宇宙開発の分野では世界的に開発・打ち上げ縮小の機運が高まった。そしてアメリカではスペースシャトルの再利用というコンセプトで開発が実施されたが中途半端で終わっている(1981-2011)。やがて民間のSpace-X(CEOはイーロン・マスク)、Blue Origin(CEOはアマゾンのジェフ・ペゾス)が再利用ロケット開発に成功する。政府としての再利用ロケット開発は撤退に近い。日本に於いても同様の傾向はある。これらもロケット開発技術を阻む政策を日本政府は行っているのである。
【6.原子力発電所部門から見た日本の停滞】 電力の供給能力が国力を急激に拡大させることは、英国、米国が証明している事実である。米国で初めて発電所が完成したのは1882年。これによって2300億ドルだったGDPが30年後の1910年には6000億ドルに経済成長した。英国もしかりである。日本の場合は原発初号機は関西電力の高浜発電所(加圧軽水炉82.6MW)が1974年に運転開始、以降今までに54基が建設された。日本の高度成長期である1990年迄を間違いなく支えた。そしてこの時期に日本のGDPの伸びは8倍である。これは国民の所得が8倍になったという事と同じである。
最近では中国を見てみると分かりやすい。中国の原発初号機は1994年稼働の秦山原発(加圧軽水炉300MW)、この原発の着工は1985年で日本と同じ加圧軽水炉型PWRである。当時の首相は中曽根康弘、1972年の田中角栄による中国国交正常化を受けての建設である。当時の日本は原発の市場を中国、インドに求めていたのである。中国三門原発ではWH開発のAP1000(1000MW✖2基)、技術供与はMHI、2009年建設開始で2018年にこの巨大な原発が運転開始した。そして中国のGDPは1990年当時は50兆円にも満たなかった(日本の1/8)が、今現在2020年には1600兆円。これは日本のGDP550兆円の3倍、アメリカのGDP2200兆円に迫る勢いである。
30年前には人口だけが多い発展途上国と思っていた中国が今や日本を追い抜かして巨大な国力を持つ大国に発展した。日本の緊縮政策が中国という大国の遣りたい放題に対して何の対応も出来ずに指をくわえているだけの情けない国にしたとも言える。かくして自国の尖閣諸島問題では何も言えず、チベット・ウイグル・モンゴルなどの人種差別・虐殺問題での我関せず。GDP成長が30年間停滞するということは、世界へ向けての発言力もこれだけ無くなるということに他ならない。
75年前まで遡ろう。日本の製鉄技術は戦艦大和を製造するに至っていたが、中国はその技術は持っていなかった。戦後、新日鉄は技術供与の形でこれらの技術を無償で与えた。かくして中国には製鉄所ができ、鋼鉄の製造が可能となる。
【7.ガソリン税】 今まで特殊会計扱いで、使い道は道路の建設、補修が目的であった。しかし2009年法が改正されて道路特定財源制だったものが、一般財源化された。これによってガソリン税は、道路関連以外に使われるようになる。したがって道路の整備・拡張は中途半端な状態でストップしているのを目にしますが、これが原因である。ガソリン税であるから自動車の持ち主が税払う。車離れの都会人よりも、一家に複数台所有する田舎の人間が多くの税を払っている。しかしその使い道は都会人に還元されるという矛盾にあふれていて、ようやく問題視されるようになったが、解決には程遠い。
またガソリンの内訳は図のようになっている。問題点は以下(2023-8-30追記)
・消費税は本体価格に掛けるべきなのに、ガソリン税・石油税にも掛かっている
・ガソリン価格が3か月連続で160円/Litterを超える場合は暫定税率25円を廃止すべき(トリガー条項@2010設置法)
・2023-9-7から岸田内閣は10円程度の補助を行うと言うが実施内容が奇妙
筋を通して、問題視されている「二重課税」と「暫定税率」の廃止を行えばよい
2023-8月現在のガソリン価格平均は185円/Litter(本体価格は約111円)
ゆえにガソリン価格は111円x1.1+29+3=154円/Litter ⇒ 適正価格である
【8.消費税】 貧富の差関係なく購入品にかかる消費税、むかしで言えばこれは人頭税ともいえる極めて不合理な税制である。したがって導入当初は食品にかかる率は低く、贅沢品には高い税率という軽減税率を採用するとか、年商3000万円以下の小売店については消費税はとらない(益税)という条件で導入したが、その後すぐに撤廃。これは完全な詐欺と言える。生活必需品には消費税をかけないという「軽減税率」の適用はどこに行った?欧米の消費税は日本よりも高い・・・という理屈で諸費税率アップに反論しない国民も馬鹿である。
【9.M&A】 経営状態が悪いという理由で企業の合併、買収が大々的に繰り返された。色々な都市銀行は統合されて名前を変えた。現在、30年前から統廃合なしで名前を変えていない銀行はほとんどない。いや1件もないのではないだろうか。さて、これによって果たして経営状態は良くなったのか?といえば、まったく良くなっていない。逆に悪くなっている。中小企業の小回りがなくなり、熟練者が淘汰され、GDPはほとんど上昇していない。つまり国民の平均年収は上昇どころか、480万円から440万円まで下がり続けた(実質賃金は20%減)。商店で言えば、駅前の商店街はことごとく寂れた。大型量販店が安値で物販を行ったから、個人商店はたちうちできない。そして多くの商店は消え去ったのである。
【10.非正規社員の増加】 会社が効率よく存続するには資本投入(人、物、技術)が不可欠である。ところが国策として緊縮財政であるから先が見えない。つまり需要が伸びないとわかっているので企業は投資をしないのである。逆に非正規社員を雇用することによって、労務費(人件費)を削減することで赤字防止を考えるようになった。これでは技術者は育たない。2000年から20年間で非正規雇用者の数は2200万人、全体の40%近くに達した。非正規雇用者の平均年収は200万円程度だという。これでは以下の表の様に ①結婚できない ②子供はつくれない という悪循環に繋がっている。
【11.地方交付税削減】 1990-2020年の30年間で、地方交付税は22兆円から16兆円まで削減された。住民の為の支出ができずに公務員は非正規雇用にかわりコストカットが行われた。かくして益々東京一極集中時代が加速されることとなる。困った地方のために実施された政策が「ふるさと納税」。これは税収を競争して奪い合う制度であり、奪うことができなかった地方は自己責任で滅びても仕方ないという制度であり、これを導入したのは今の菅首相である。
【12.感染症研究費の投入削減】 シオノギ製薬の手代木社長に対して日経ビジネスが「国産ワクチン何故でてこない?」 と質問した@2021/3/30。日本は医療大国ではあるが、緊縮財政政策によって「コロナのように、いつ発生するかわからないものに研究費用はでなくなった」というのである。こういった研究は、民間企業努力では無理なのだから政府がお金をだすのがあたりまえ。
以上のように1990年からの30年間の間に、GDP、技術、色々な面で他国に追い抜かれ、このまま行けば日本は東南アジア諸国に抜かされることになるだろう。ではどうすれば良いのか?投資である。そのためには緊縮財政ではなく、公共投資、基礎研究投資を行うことに尽きる。ここでプライマリーバランス(財政収支)が崩れると御用学者はいうが、それは間違いであると感じた。なぜなら、これだけ赤字国債が増えて(積もり積もって1300兆円)いるのにデフォルト(財政破綻)は起きないし、金利も上がらない(上がるどころか下がりまくってほぼゼロ)。日本国は破綻すると言われて10年以上経つが、ギリシャやアルゼンチン、ソ連のように破綻はしていない。なぜなら自国通貨制であるからである。国はコロナ給付金を発行したように、資本投入のための金を発行すればよい。ハイパーインフレになる・・・という学者も居るが、需要が無いのに資本投入するわけではないので、インフレにはならない。インフレ率2%程度を目論みながら資本投入して景気回復を図ればよい。
需要が無い・・・という学者がいるらしい。彼らは馬鹿としか言いようがない。上述の1.項から5.項を見ただけでも需要の拡大はいくらでもできる。熊本水害でストップしている工事を行い、これと同じような道路、橋、高速道路、山崩れ防止工事、などなど数万カ所に及ぶ必要な工事だけ見ても需要は多い。欧米の様に美術館・博物館を充実させることでも需要は一気に増える。いくらでも投資先はある。
因みに、現在菅義偉首相は、竹中平蔵とともに中小企業潰しを行おうとしている。これはさらに激しいデフレ突入をすることを意味する。100円ショップが栄えるような日本ではだめなのである。
グローバリズム、個人主義では国民が被害者となる