お母さんと読む英語の絵本

読み聞かせにぴったりな英語絵本から、米国の子どもたちの世界をご紹介
子どもをバイリンガルに…とお考えのお母さんに

ハリウッド映画にみるアメリカの"母と子"

2010-03-15 | from Silicon Valley

写真:二人の”息子”に本を読んで聞かせるお母さん役のサンドラ・ブロック(映画「Blind Side」より)

今年のアカデミー賞は、主演女優賞も助演女優賞も"母親"役の女優さんの演技に授与されました。
主演女優賞に輝いたのはSandra Bullock(サンドラ・ブロック)で、映画『Blind Side(邦題:しあわせの隠れ場所)』でホームレスの黒人青年マイケルを後見人として引き取り育てる継母役を評価されての受賞です。一方、助演女優賞のMo'Nique(モニ―ク)は映画『Precious(邦題:プレシャス)』で主人公の少女プレシャスを徹底的に虐待する母親役を演じ、その演技を評価されての受賞でした。

サンドラの演じた"Blind Side"の継母リー・アンは、保守的なアメリカ中流家庭の、愛情あふれる、それだけに子どもにも学校にも口うるさい活動的な教育ママ。自分の子と同じようによその子の幸せもいつも気にかけている昔ながらの肝っ玉母さんを、彼女が「いかにも!」のリアリティで好演しています。

"Blind Side"にはもう一人の母親;主人公マイケルの生母が出てきます。アメリカ社会の最底辺で暮らし、麻薬漬け・アルコール漬けの暮らしで人格にも破綻をきたしており、父親のわからない12人以上の子どもを産みっぱなしにして、行政措置での入退院や刑務所への出入りを繰り返している女性です。「(マイケルの)父親が誰だったかもろくに憶えていない」くらいですから、出生届など出してもいません。そのためマイケルは戸籍もなく、自分の正確な姓もわからず、自らのアイデンティティ(存在証明)を明かす手立てすらなく生きることを余儀なくされたのです。"Blind Side"は実話に基づくノンフィクションです。

そんなマイケルの人生は、中流家庭で生まれ育ち、成功したビジネスマンと結婚している継母には想像もつかないものです。例えば、マイケルが使う部屋を用意するリー・アンにマイケルが語りかけます。
「これ、僕の?今まで一度も自分のなんて持ったことがないよ!」
「自分の部屋を持ったことがないの?」
「ううん、違う。自分のベッドを持ったことがないんだ」
リー・アンは涙をこらえるためにその場を外します。

一方、"Precious"に出演したモニ―クが演じたのは、主人公の黒人少女プレシャスの母親。もちろん血を分けた生母です。が、この母親は、ボーイフレンドを自分につなぎとめるために実の娘のプレシャスを小学生の時からそのボーイフレンドに凌辱させつづけています。そして一方では、娘への屈折した嫉妬から自らも娘を虐待し続けています。そのうえ娘が妊娠して(文字通り)台所で生み落とした子どもを自分の子として届け出て、働けない口実に使い、生活保護を受けるダシに利用する……滅茶苦茶な母親を、モニ―クはこれまた「いかにも!」リアルに演じています。

それにしても、この愛情のかけらもない暴力的な母親は何故娘に「Precious(貴重な、かわいいなどの意味)」なんていう名前をつけたのでしょう?

マイケルの未来への明るい見通しが示唆されて終わる"Blind Side"のハッピーエンディングと違い 、"Precious"は主人公への救いも希望も見出されないまま終わります。

「いいんです。あなたには私の問題は理解も解決もできません」というのが、プレシャスがソーシャルワーカーに向かって放つ最後のセリフ。泣きもせず、激しもせず、いっさいの感傷を排除した淡々とした口調でこう言ったあと、プレシャスは自分が生んだ子ども達を連れて、家を出ます。そうです、虐待され続けている”子ども"のプレシャスは、実はすでに"母親"でもある……という現実。しかも、プレシャスが連れている二人の子どもは、彼女を性的に虐待し続けた継父の子どもなのです。つまり、プレシャスは母親になることを選んだわけではなく、強いられて母親になっている……という現実。アメリカ的ハッピー・エンディングなど拒否する、アメリカ社会の現実が見えます。



コメント (1)
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