あきらという名前の男の子がうみの近くに住んでいました。
あきら君のおじいさんはさかなつりの名人やて。
きょうはおじいさんとふたりでさかなつりにやって来たんやと。
おじいさんはあごにハリネズミみたいに髭をはやしとって、あきら君はその髭をごしごしするのがお気に入り。
太い腕とまっ黒く日焼けした顔、インド人みたい。
おじいさんは言いました。
「うみはでっけぇから、さかなもいっぱいつれよるぞ」
あきら君はさかなを見るのも食べるのも大好き。でもつりは初めて。
いそにつくとすぐにおじいさんは男の子のつりざおの用意をしてやりました。
えさをつけると、さおをふってポチャンとつり糸をたらしましす。
おじいさんもならんでつり糸をたらします。「さかなつりはしんぼうやかんな」
おじいさんは言いましたが、どっちのはりにもさかなはかかりませんでした。
うみがお日さまの光をうけてきらきらとかがやいていて、すげまぶしい。
男の子はうみを見ていて、なんだかうみが呼んでいるような気がして体を大きくのりだしました。
おだやかな波はそのうち大きくなってふたりを飲み込んでしまいました。
男の子はおずおずと目を開けてみました。まわりはまばゆいばかりのひかりに包まれています。
まぶしくて目を開けていられません。あわてて目をつむりました。
もう一度ゆっくりと目を開けてみるとさかながいっぱい泳いでいるのが見えました。
目の前には大きなりっぱなひげをもったさかながいました。
年寄りのさかなです。
ここはどこだろう。そう思っていると、
「ここは陸地から遠くはなれたうみの底。
人間たちがうみをよごすからもう陸地の近くには住めないんだよ。
うみから動物もにんげんもね、生まれたんだよ。さかなから進化していったんだよ。
そしてね人間もいつかうみに還る日がくるんだよ。 じゃあ、目をつむりなさい」
あきらくんは言われた通りに目をつむりました。
目を開けると病院のベッドに横になっていました。
「お前はうみにおちたんだよ」
「おじいちゃんはどうしたの?」
男の子は一生懸命、勉強しました。
あきら君は海が大好きで、いまではひとりでつりいとをたれにいきます。なくなったおじいさんといっしょでした。
さかなつりから帰るときは海に落ちているごみもいっしょにもって帰りました。
男の子はいつか立派な学者になりました
みんながうみにごみを捨てなくなるのに三年かかりました
みんなが自分からごみをひらうようになるのにもう五年かかりました
そしてうみが本当にきれいになったとき、賞をもらいました
「あきらおじいさんは海がだいすきだったものね」
「わしが死んだらわしの灰をうみにまいてくれ」
息をひきとるまえにたしかにそう言いました。
言われた通りにおじいさんの灰はうみに巻かれることになりました。
灰は手をはなれるとふわっと広がって散っていきました。
海面に落ちた灰の一つ一つは魚になるとセビレをきらきらさせてうみにの底に消えていきました。
きっとおじいさんはうみにかえっていったんだよ。
おわり
2000/12/29 19:20