楽善な日々

新社会人となった楽と、大学生善、おとん、そしておかんの日々を綴ります。新しい街に引っ越して、新しいスタートを切りました。

黒スーツ楽の奮闘記

2022年06月06日 | 2022年日記
黒いスーツをパシッと着こなして、てきぱき歩いて出かけていく楽。
そんな楽を見えなくなるまで見送る日々も、残すところあと少し。

エントリーシートを上手にまとめる人をES職人などと呼ぶらしい。エントリーシートを書くたび、楽はどんどんES職人になっていった。得意のイラストを駆使して、なんだか芸術作品のようなものまで作っていて、思わず記念に写真を撮ってしまったほどだ。楽の手書きエントリーシートを見ていたら、保育園時代の楽を思い出した。

広い広い板張りの広間に、体に不釣り合いなほど大きな紙を広げて、思いのままに絵を描いていく裸足の保育園児たち。その中でもひと際ガタイの大きな楽が、背中を丸めて紙に向き合っている。楽は絵を描くのが大好きな子だった。書いているのは棒人間なのだけど、そこには物語が展開していて、見どころ満載の楽しい絵を描いた。棒人間たちが楽しそうに船に乗っていて、空には表情豊かな鳥たち、水の中にはまたまたにっこにこ笑った魚たち、太陽も雲も元気で、「わいわいがやがや」声が聞こえてきそう。紙の上は、いつのまにか、多くの棒人間や動物たちで埋め尽くされている。森の中の絵もあった。りんごの木がたくさん植わっていて、リンゴが地面にごろごろと。棒人間たちが輪になって踊っていて、なんだか収穫を祝っているような。空にはいつも太陽がにっこりしている。そんな絵を楽は何枚も何枚も描いてきた。私はそれらを捨てられず、今も押し入れにしまってある。

楽の手書きエントリーシートには、その頃の絵のような雰囲気があった。心に広い世界が広がっていて、伝えたいことがたくさんあって、それが心の外にあふれて、絵や文字になって出てきたような雰囲気が。エントリーシートからも「わいわいがやがや」声が聞こえてきそうだった。三つ子の魂百まで。

初めての面接は緊張しすぎて、うまく行かなかったね。自宅からのリモート面接だったけど、自分の部屋と居間を落ち着きなく行ったり来たりしていた楽が、今となっては懐かしい。あっけなく終わってしまった面接に、ちょっと不安そうな楽の顔。おかんの心はぎゅっとなった。がんばれ、楽!!

緊張の面接の後、あれよあれよと怒涛のように面接が続いていった。
「なんだか手ごたえがなかったかも」
「ドンマイ!!」
「疲れた・・」
「がんばったからゆっくり休み~!!」
「最終まで残った!!」
「えー!!!すごーい!!」
最終まで残った時、一番うれしそうだったのは、おとんだったかな。
「楽のどこが良いのやら」なんて言いつつ、ほっほっほと笑っていた。

ありがたいことに数社から内定を貰えた。
背中を丸めてにぎやかな絵を描いていた楽が、黒いスーツを着て駆け回り、親とか先生以外の人から認めてもらって、「ぜひ一緒に働きたい」なんて言ってもらえるなんて。
おとんとおかんは、うれしくてうれしくて、なんだか自然に
ほっほっほと笑ってしまうのだよ。
楽のがんばりに、心からすごいなと感心してしまうのだよ。

楽の就職活動はあと少し。最後まで走り切ってね。
頑張り屋さんの楽を、おとんとおかんは最後まで応援するよ。
黒スーツの楽さん、おとんとおかんにこんなに沢山の感動をくれて、
ありがとう。

6月6日 おかん