伝言板 届かぬ想い 書き記す
13字詩の トレインタッチを
しとしととよく降る雨だった
ホームにすべり込んだ電車を降りると
僕は しばらく近くのベンチに腰掛けて
降りた乗客が階段を上って改札口へ
通り過ぎるのを待っていた
人影が少なくなったところで
やっとのこと僕は階段を上り
改札口を出て
左側の伝言板のところへ行くのだった
いつものようにそこには
拾得物の連絡や待ち合わせの合図のような
時間を連想させる暗号数字や
省略化された場所の頭文字が
昭和を醸し出すように描かれていた
伝言板
ほとんどと言っても良いスマホの時代に
それが置いてある駅は珍しく
かえってそれが創造の意欲を掻き立てるのだった
伝言板が過去のものとしてでは無く
立派にその役目を果たしている
大概は落とし物の連絡やチョットしたイタズラ書き
誰かが描いた微妙な絵が載せられていた
いつもスペースが埋まってしまう事は無く
空いた二行分は僕には十分だった
恥ずかしさが先に立ち
ささっと描いてすぐに立ち去った最初の頃より
今は後ろを通り過ぎる人をやり過ごす程に
気持ちは座って来た
こんな事をしてどうなる訳でも無いのは解っている
好きなら好きと直接言えばいいものを
わざわざ小道具らしきものを使って
そして何よりも
彼女がこの詩を見やる事が有るのかどうか
朝の忙しい時には素通りされ
帰りにはもう黒板には消されて無くなってしまい
元の木阿弥に
それでもこんな事を続けるのは
いつか叶うと信じた
自分自身の夢物語の為だけなのかも知れない
12時を過ぎると伝言板は消されていたが
次の日もその次の日も
消されないで残されていた
どういう風の吹き回しか
優しい駅員さんの粋な計らいなのか
感謝しながら
僕は帰りの電車に乗り込んだ
初恋亭夢中