トレインタッチ

徒然なる想いを31文字に添えて

伝言板 届かぬ想い 書き記す

2018-05-04 23:45:45 | 日記



     伝言板 届かぬ想い 書き記す
       13字詩の トレインタッチを











 しとしととよく降る雨だった
 ホームにすべり込んだ電車を降りると
 僕は しばらく近くのベンチに腰掛けて
 降りた乗客が階段を上って改札口へ
 通り過ぎるのを待っていた
 人影が少なくなったところで
 やっとのこと僕は階段を上り
 改札口を出て
 左側の伝言板のところへ行くのだった
 いつものようにそこには
 拾得物の連絡や待ち合わせの合図のような
 時間を連想させる暗号数字や
 省略化された場所の頭文字が
 昭和を醸し出すように描かれていた


 伝言板
 ほとんどと言っても良いスマホの時代に
 それが置いてある駅は珍しく
 かえってそれが創造の意欲を掻き立てるのだった
 伝言板が過去のものとしてでは無く
 立派にその役目を果たしている
 大概は落とし物の連絡やチョットしたイタズラ書き
 誰かが描いた微妙な絵が載せられていた


 いつもスペースが埋まってしまう事は無く
 空いた二行分は僕には十分だった
 恥ずかしさが先に立ち
 ささっと描いてすぐに立ち去った最初の頃より
 今は後ろを通り過ぎる人をやり過ごす程に
 気持ちは座って来た

 
 こんな事をしてどうなる訳でも無いのは解っている
 好きなら好きと直接言えばいいものを
 わざわざ小道具らしきものを使って
 そして何よりも
 彼女がこの詩を見やる事が有るのかどうか
 朝の忙しい時には素通りされ
 帰りにはもう黒板には消されて無くなってしまい
 元の木阿弥に

 それでもこんな事を続けるのは
 いつか叶うと信じた
 自分自身の夢物語の為だけなのかも知れない


 12時を過ぎると伝言板は消されていたが
 次の日もその次の日も
 消されないで残されていた
 どういう風の吹き回しか
 優しい駅員さんの粋な計らいなのか
 感謝しながら
 僕は帰りの電車に乗り込んだ
 
   初恋亭夢中 
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