ものずき烏の無味乾燥?文

ブログ発想 LP/LD/CD コレクション作業 進行中。ジャズばっかしじゃないかと言われたら身も蓋もない。

飯嶋和一:汝ふたたび故郷に帰れず(リバイバル版)

2005-09-11 | 書籍 の 紹介
 『雷電本紀』で驚かされ、『始祖鳥記』で感心した、時代考証の綿密な飯嶋和一氏のデビュー作を探し求めました。リバイバル版とのことで『汝ふたたび故郷へ帰れず』と『スピリチュアル・ペイン』、『プロミスト・ランド』の3作の編成になっています。

汝ふたたび故郷へ帰れず
 時代小説の作家と思っていたのですが、ボクシング小説です。考証の綿密さはボクシングについても同じようになされています。プロ・スポーツでボクシングの置かれた環境について、切実に書かれています。
 主人公のボクサー新田駿一も、一旦はボクシングを離れますが、離島に帰省し再起を図ります。その再起戦の結果は...( → あえて書きません )
新田駿一と雷電為右衛門とでイメージがダブります。新田は、リゾート開発や地上げで疲弊した民衆の希望。雷電は飢饉で疲弊した民衆の希望。そしてどちらも格闘技。
デビュー作の新田駿一を、『雷電本紀』の雷電為右衛門に結びつけるのは、わたしの読了の順序からみて、当然の成り行きなのでしょうね。違うところは時代の設定なのですが、なんか筋立てが同じと受け取りました。
スピリチュアル・ペイン
 前作と違って、わたしにはこの作品についての予備知識がなかった。軍用供出馬の話である。不肖の息子が、父親が子供の時分に軍に徴用された農耕馬の思い出に浸る。
『雷電本紀』以降の作品は、何についての小説か、表題で窺えるのですが、秀作らしいタイトルの付け方である。
プロミスト・ランド
 マタギの話。これもタイトルからは類推できません。時代設定としては現代ですので、マタギの残党という事になります。主人公ともう一人の人物で、環境保護で捕獲が禁止されている冬眠明けの熊を仕留めるのですが、この後、このマタギの行く末は...

 一編づつ読んで、読後感に浸りながら、このブログ文をポロポロと少しづつ書いているのですが、『汝ふたたび故郷へ帰れず』を読み終わって6日ほど経ちますが、ふと、わたしの貧しい読書体験で、シリトーの『長距離ランナーの孤独』と同じ世界ではないのかと気が付きました。感受性の高い青年期の読書でしたから、いまだに覚えているのですが、主人公の希望を見出せないまま、スポーツに打ち込む世界です。作者もわたしと同年代。きっと『汝ふたたび故郷へ帰れず』は『長距離ランナーの孤独』の影響を受けて作品にしたようですね。このリバイバル版として出版したこの書籍は、作者が時代小説を手がける前の、純文学に入りそうな秀作集ということになりそうです。
 次は、『神無き月十番目の夜』(文庫)を購入しましたので、じっくりと読んでみたいと思います。
汝ふたたび故郷へ帰れず(リバイバル版)』 飯嶋和一  
                                     集英社 2000/11/10
2005/09/11 ものずき烏

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