<アンソロの参加作品サンプルUP>
「仮想夢想」 公瑾×花 全年齢向け パラレルアンソロジーに参加させていただく作品のサンプルをUPします。
全年齢なのできわどくはありません。たぶん(笑)
タイトルは『斎姫 幻想婚』です。
なお、ブログにUPするにあたり、見やすいように体裁を変えてます。
また当然パラレルなので、苦手な方はお気を付けください。(自己責任でお願いします)
では、続きからどうぞ。
『斎姫 幻想婚』
日嗣の帝のおわす都は、今日も何事もなく賑わい、華やいでいる。
その大路から一本東側に入った通りは東一路と呼ばれ権門勢家、つまり威勢を誇る少数の大貴族たちの広大な邸が並んでいた。
その中でも本日特に賑やかなのは、椿の名と家紋を持つ椿筆頭家だった。
表門には大きな篝火が焚かれ、灯籠が幾つも灯されている。邸内からは、風雅な楽の音が外へと流れていた。
今宵は右府という高い位にある椿の当主主催による管弦の宴が催されていたのだ。
盛大な宴で、主だった大貴族が多く招かれていた。
が、その宴の賑わいを遠くに聞きながら、ため息を吐くのはこの椿の当主の二の姫花だった。
胸元で切り替える淡い乳白色の下衣、白と緋色の胸高に結ばれた重ね帯、濃い紅色の染めも鮮やかな中衣、その上に透ける刺繍が可憐な上衣、更に紗の淡い表衣とほぼ貴族の姫としての完全礼装をさせられてげんなりと扇を揺らした。
「どうやって逃げ出そう」
***********
手灯籠が動き周り、俄かに邸の方が騒がしくなったのを感じる。
「うそ。もうばれちゃったの?」
花は長い衣装の裾を持つと、足早になって裏庭に近い場所へ抜けようとしたが、そこにも灯りが揺れているのが見える。
仕方なく人気のない場所に足を向ければ、茉莉花の絡まる東屋から琵琶の音が一つだけ夜のしんとした空気を震わせて響き渡った。
「琵琶……」
花の小さな呟きに呼応するように、爪弾くような音色が零れ落ちる。曲にもなってないのに、花はその澄んで哀切な音色に呼ばれるように歩を進めた。
月光が明るい東屋の下、その人は胡坐をかいた膝の上に琵琶をのせて、撥で軽く絃を鳴らしている。
灰銀色に輝く髪、伏せられた影を落とすような長い睫毛、藍色の装束と鈍色の帯、重ねは鮮やかな紫苑で、風雅で趣味のよい装いだった。
気配を感じていないのか、視線が花の方を向くことはない。
「いらっしゃったか?」
「まだです」
「殿様はお怒りだ」
切れ切れにそんな声が耳に入り、花は思わず身を竦めた。
「こちらへいらっしゃい。逃げているのでしょう?」
不意に響きの良い深く冷涼な声がかけられた。
「え?」
「匿って差し上げますよ」
面が上げられ、花はその雅な貴族の装束の男の白皙の美貌に驚いた。
青灰色の涼やかな双眸、繊細で秀麗な美貌は完璧で女性的と言っていいほどなのに、その雰囲気は静かながらに強く男性として確立されている。
「でも……」
「早くなさらないと拙いのではありませんか?」
言う傍から、庭を近付いてくる複数の気配を感じて花は足早に東屋に近付いた。
「私の背中にお隠れなさい」
「すいません」
それ以外言いようがなくて、花は外套の胸元を握りしめて男の背に隠れた。
<後書き>
冒頭と公瑾と花ちゃんの出会いの部分です。
えっと、まあ三国志ではない、でもどこにもない、でもかつてあったようなどこかの世界でのお話。
元斎姫の花ちゃんと貴公子公瑾さんの恋物語。
皆さんに楽しんでいただければ嬉しいです。
「仮想夢想」 公瑾×花 全年齢向け パラレルアンソロジーに参加させていただく作品のサンプルをUPします。
全年齢なのできわどくはありません。たぶん(笑)
タイトルは『斎姫 幻想婚』です。
なお、ブログにUPするにあたり、見やすいように体裁を変えてます。
また当然パラレルなので、苦手な方はお気を付けください。(自己責任でお願いします)
では、続きからどうぞ。
『斎姫 幻想婚』
日嗣の帝のおわす都は、今日も何事もなく賑わい、華やいでいる。
その大路から一本東側に入った通りは東一路と呼ばれ権門勢家、つまり威勢を誇る少数の大貴族たちの広大な邸が並んでいた。
その中でも本日特に賑やかなのは、椿の名と家紋を持つ椿筆頭家だった。
表門には大きな篝火が焚かれ、灯籠が幾つも灯されている。邸内からは、風雅な楽の音が外へと流れていた。
今宵は右府という高い位にある椿の当主主催による管弦の宴が催されていたのだ。
盛大な宴で、主だった大貴族が多く招かれていた。
が、その宴の賑わいを遠くに聞きながら、ため息を吐くのはこの椿の当主の二の姫花だった。
胸元で切り替える淡い乳白色の下衣、白と緋色の胸高に結ばれた重ね帯、濃い紅色の染めも鮮やかな中衣、その上に透ける刺繍が可憐な上衣、更に紗の淡い表衣とほぼ貴族の姫としての完全礼装をさせられてげんなりと扇を揺らした。
「どうやって逃げ出そう」
***********
手灯籠が動き周り、俄かに邸の方が騒がしくなったのを感じる。
「うそ。もうばれちゃったの?」
花は長い衣装の裾を持つと、足早になって裏庭に近い場所へ抜けようとしたが、そこにも灯りが揺れているのが見える。
仕方なく人気のない場所に足を向ければ、茉莉花の絡まる東屋から琵琶の音が一つだけ夜のしんとした空気を震わせて響き渡った。
「琵琶……」
花の小さな呟きに呼応するように、爪弾くような音色が零れ落ちる。曲にもなってないのに、花はその澄んで哀切な音色に呼ばれるように歩を進めた。
月光が明るい東屋の下、その人は胡坐をかいた膝の上に琵琶をのせて、撥で軽く絃を鳴らしている。
灰銀色に輝く髪、伏せられた影を落とすような長い睫毛、藍色の装束と鈍色の帯、重ねは鮮やかな紫苑で、風雅で趣味のよい装いだった。
気配を感じていないのか、視線が花の方を向くことはない。
「いらっしゃったか?」
「まだです」
「殿様はお怒りだ」
切れ切れにそんな声が耳に入り、花は思わず身を竦めた。
「こちらへいらっしゃい。逃げているのでしょう?」
不意に響きの良い深く冷涼な声がかけられた。
「え?」
「匿って差し上げますよ」
面が上げられ、花はその雅な貴族の装束の男の白皙の美貌に驚いた。
青灰色の涼やかな双眸、繊細で秀麗な美貌は完璧で女性的と言っていいほどなのに、その雰囲気は静かながらに強く男性として確立されている。
「でも……」
「早くなさらないと拙いのではありませんか?」
言う傍から、庭を近付いてくる複数の気配を感じて花は足早に東屋に近付いた。
「私の背中にお隠れなさい」
「すいません」
それ以外言いようがなくて、花は外套の胸元を握りしめて男の背に隠れた。
<後書き>
冒頭と公瑾と花ちゃんの出会いの部分です。
えっと、まあ三国志ではない、でもどこにもない、でもかつてあったようなどこかの世界でのお話。
元斎姫の花ちゃんと貴公子公瑾さんの恋物語。
皆さんに楽しんでいただければ嬉しいです。