Ambivalent Blog

e-Tetsuによる「アート」と「釣り」の生活誌

その売上は架空か? ITのコモディティ化と売上水増事件

2004-12-05 | ◆ビジネス
メディア・リンクス社による粉飾決算事件を契機とするIT業界における売上水増問題は、IT企業が自らの持つ付加価値を改めて問うものであると言える。メディア・リンクス社のケースは、売上増のために実態のないものを転売して最終的にメディア・リンクス社が再度買い取っているので、不正としては判りやすい。

難しいのは、付加価値を付与して他社、あるいは最終顧客へ納入する場合に、その付加価値をどう解釈するかという問題。また、果たしてIT企業側に価値を付加するという意識が明確にあるかという問題である。

商品は標準化が進むほど、流通が楽になり、転売もしやすい。その一方で、差別化が困難になるので、鞘を稼ぐのが難しくなる。ITも同様で、コモディティ化進展すると転売もしやすくなるが、同様に差別化が困難になる。つまり、付加価値を加えることが難しくなる。すると価値を付加する方法も、コモディティ化した部品そのものから、その応用や組み合わせなどへと変化する。

PCの場合、組み立てに利用するコンポーネントの標準化が進み、基本的な機能を満たす上での差別化が困難になる。結果、競争は機能から価格やサービスへ移行する。デルの差別化要素は機能そのものではなく、コモディティ化したコンポーネントを組み合わせる過程の効率性である。コンポーネントは標準化されているので、デルも専門特化した他の企業から仕入れるはずである。しかし、顧客はコンポーネントを自ら買ってデルに組み立てだけを頼むということはしない。コンポーネントが組み合わさった出来上がりのPCに対価を払うのである。

規模を拡大して、企業向けのシステム納入となると、そこにはハードウェア、パッケージ・ソフトウェア、カスタム開発など、いろいろな要素が混在する。例えば、あるIT企業がそのシステム・インテグレーションを請け負ったとすると、そこに含まれる納入物にはその企業が価値を大きく付加する部分とそうでもない部分が混在する。例えばハードウェアなどは、コモディティ化が最も進展しているから、顧客が直接購入してもそのIT企業から購入しても機能面での影響はない可能性が高い。しかし、顧客はハード、ソフトなど全体が組み合わさった状態のものを買うケースが多い。そして、顧客はそのIT企業に対し、その全体の組み合わせがうまく動くことの保障を求めるのである。

単体で見るとコモディティ化した部品の転売だが、全体で見ると付加価値を提供しているケースと、なんら価値を付加せずに部品を転売しているケースとの峻別は行われるべきであろう。一方、IT企業側も社外に対する売上がいかなる価値を付加しているのか、という意識を常に持つことが(当然であるが)求められる。これは、ソフトウェア側でのコモディティ化が今後進展する中では、なお更のことである。

日本におけるITサービス業の売上は約14兆円であるが、この数字は最終顧客が支払っている金額ではない。IT企業の申告する売上を合計したものであるから、転売が含まれているのである。この数字を付加価値のある金額へと絞り込んでいくことは、IT業界の健全な競争と成長のために必須であろう。

最新の画像もっと見る

1 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
見えざる価値 (ぴさ)
2004-12-06 18:54:43
メディア・リンクス社事件をきっかけに、会計士協会がIT業界全体への調査に乗り出すそうですが、プロダクトコンサルやアドバイザリーなど、結果としてプロダクトに残らない価値に対価を払っている場合が問題になるような気がします。



ただ、ITコンサルはこの付加価値がメシの種という場合も多いでしょうし・・・どうやって判断するか甚だ疑問です。
返信する

コメントを投稿