東葛人的視点

ITを中心にインダストリーをウォッチ

ブランド考---IBMのPC事業売却で私が驚いた事

2004-12-09 11:12:28 | ITビジネス
 全世界をあっと言わせた米IBMのPC事業の売却。私が特に驚いたのは、売却先の中国レノボグループに5年間の「IBM」ブランドの使用権を与えたことである。中国に「IBM」ブランドの巨大な橋頭堡が築けるとはいえ、他社に、しかも新興企業にブランドの使用を許すとはIBMも思いきったことをしたものだと思った。

 言うまでもなく、ブランドのマネジメントは企業にとって最重要課題だ。強いブランド力は、競合他社に対する戦略的優位を生み出す。だからこそ、多くの企業がブランド力向上に血道を挙げている。今回のディールでは、その大事なブランドを貸そうというのである。こうしたブランド貸しには、ブランド毀損という大きなリスクがある。例えば日本で二束三文の自転車が、欧州の有名自動車メーカーのブランドを付けて売られており、このメーカーのブランド毀損に大きく貢献している。

 だから私は最初、IBMのブランド貸しに驚いたのだ。しかし、よくよく考えてみれば、ブランドの高度活用としてすごい一手なのかもしれない。まず、PCは完璧にコモディティであり、企業が使うスペックのものは、誰が作ろうが、誰が売ろうが、ハード的には何の違いもない。「IBM」ブランドの価値向上に何の貢献もしない代わりに、PCというハード・レベルでは他社にブランド貸ししても、ブランド毀損のリスクは小さいわけだ。

 しかもIBMは、「IBM」ブランドのPCの保守サービスを提供し続けるという。サービスこそユーザーにとっての付加価値だが、このサービスという目に見えない価値は「IBM」ブランドの付いたPCにひも付けされた明示的な形で提供され続ける。既存の市場だけでなく、巨大な中国市場で「IBM」ブランドの付いたPCが普及するに従い、サービスを付加価値とする「IBM」ブランドも急速に広まっていく。それはIBMの事業の本丸、基幹系システムでのソフト・サービス事業に絶大な貢献をする露払いになるだろう。

 ちょっと抽象的に書きすぎたが、このディールはブランドの観点から見ても、IBMには美味しい選択のようだ。しかしそれにしても、欧米と中国という「グローバル三国志」の構図がはっきりしてくる中で、IBMが打った布石はすごいというしかない。日本企業でもトヨタ、日産、ソニー、ホンダのようにこうした大立ち回りを演じることができる企業はあるが、IT分野では・・・。いかん、いかん、いつもの繰り言になるので、このへんで止めておこう。