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明確な売上計上基準がない!IT企業の会計監査の厳格化は来期以降になる

2005-03-16 16:23:30 | ITビジネス
 日本公認会計士協会がIT企業の監査を05年3月期から厳格化する方針を打ち出したが、05年3月期決算に限って言えば“ゆるい”厳格化にとどまりそうだ。というのも、日本の会計基準では収益の認識基準が明確でないため、今問題になっているスルー取引など「異常な商社的取引」でも、個々の会計士が監査を担当する企業に「総額を売上計上するのはやめて、純額(手数料のみ)を計上せよ」と言えないからだ。

 日本公認会計士協会では、昨年12月に立ち上げた「IT業界における特殊な取引検討プロジェクトチーム」で、ITサービス業界の会計環境に関する洗い出しと論点整理を行ってきた。その検討結果が、今回の公表した「情報サービス産業における監査上の諸問題について」だそうだ。

 これを読むと、会計士の問題意識が「異常な商社的取引」に加え、ソフト開発での検収、特に分割検収の不明朗さに向かっていることが分かる。まず「異常な商社的取引」については、帳簿上通過するだけのスルー取引や、複数の同業者を経由して商品が起点となった企業に戻ってくるUターン取引、互いに商品を販売し合うクロス取引を上げた。これらを粉飾決算の温床として問題視しているようだ。

 ただし、スルー取引などが禁止されているわけではない。しかも、計上する売上は総額なのか、手数料のみという純額なのかの判断基準になる売上の計上基準は日本の会計基準には存在しない。与信補完のために間に入る取引もスルー取引の一形態で、TISはこれを総額から純額の売上計上に切り替え、通期売上予想を減額修正した。しかし、他のシステム・インテグレータには「取引に介在する明確な理由があるのだから、総額計上でも構わない」との意見もある。

 会計士も現時点では「総額だ」「いや純額だ」と言う基準がないので、監査する企業の処理方法をとやかくは言えない。このため、米国会計基準を参考にするという方針だそうだが、日本の会計基準でない以上、言葉通り“参考”でしかない。

 一方、ソフト開発の会計処理も、考えてみれば大きな問題だ。この報告書でも個々の企業やプロジェクトの検収基準が実態に合っていないケースがあるとした上で、分割検収という業界慣行が取引の実態をさらに見えにくくしているとしている。

 確かに、期をまたぐプロジェクトで前期に分割検収し、売上も利益も計上していたのに、期が変わった途端、大失敗プロジェクトに変ぼうし、経営の屋台骨を揺るがし、株価の暴落を招くのは由々しき事態だ。また、分割検収せずに仕掛品として資産計上した場合も、その資産の劣化(失敗プロジェクト化)を会計的に認識しないというのも問題だろう。

 現場の問題とはいえ、放置すれば株主や投資家に対する背信行為になる。もし前期にすでに問題が発生しており、それを隠していたとするならば、株主や投資家サイドからすれば詐欺行為に等しいだろう。

 ただ、この件でも報告書では、やはり日本の会計基準では収益の認識時点に関する基準がなく、監査レベルでは地道にユーザー企業からの検収書などをチェックするしかなく、それ以上のことは無理との認識を示している。

 全体的に会計士の“逃げ”を感じる内容だが、言っていることはもっともである。日本公認会計士協会は、日本の会計基準を作っている企業会計基準委員会に、具体的な収益の認識基準、つまり総額・純額表示の区分、収益の認識時点などに関する基準を作るように要請しているという。

 ITサービス会社の決算は今期はともかく、来期からはその基準に基づいて処理することになる。ITサービス会社としても、少なくとも上場企業なら受け身に対応するのではなく、より“保守的な”方向で自社の会計基準を見直してマーケットから信頼される企業を目指すべきだろう。